その星は原始生命が発生して間もない惑星であった。
海水は金属を多く含み、大気の酸素は薄く、地球型惑星でありながら生物が生命活動をするには過酷な環境であった。
水源に富むその星は、ある星間文明が目をつけて膨大な量のナノマシンを投入し分子構成を変化させ、別の惑星から持ち込んだ藻類などの微生物や海洋生物を水質操作した海に放った。
投下したナノマシンや藻類などの働きにより、とりあえず最低限呼吸可能な酸素濃度になった惑星に降り立った異星人たちは、人工土壌に遺伝子操作をして環境適応力を高めた作物を育て、シェルター型の拠点でテラフォーミングを続けた。
しかし、調査が進むにつれて思ったよりも資源が少なく、テラフォーミングも上手くいかなかったので、最低限採算が合う量の鉱物資源を採掘した後に開拓惑星を廃星として放棄し、この星は宇宙の片隅に忘れ去られていった。
しかし、星間文明が時の流れで消滅した後にも廃星となった惑星のナノマシンと微生物は進化を続け、ついに知的生命体と呼べる生物が誕生するのであった。
始まりこそ人工的なモノであったが、それは間違いなく大自然の営みそのもので、当初デザインされた惑星環境とは全く違う自然と形成された世界であった。
金属を含む海水はナノマシンの働きやプレートの移動などで除去され、酸素濃度は開拓可能な地球型惑星に近いものとなり、元々この星に生息していた原始生命と異星微生物とナノマシンが複雑に入り混じり進化していった生物群は例を見ないほど多様性に満ちていた。
そして、海洋生物が陸地に進出を開始した頃、異星人たちが遺伝子操作を加え作物として植えられていた植物群と遭遇することになる。
それはこの星の原初生命や異星の藻類とは全く別系統の植物であったが、長い永い時が経ち自然と調和していった。
元々陸地に作物として植えられていた植物は当然ながら栄養に富み、多くの生物の主食となったが、知的生命体が発生した後もかつての植民者の様に作物として育てられることとなった。
原始的な文明はやがて科学技術を発展させ、遺伝子工学の学問が生まれた黎明期の頃、明らかに遺伝子構造が他の植物と違うグループが発見されるのであった。
「これは・・・一体どういうことだ?我々が主要な作物として育てている特定種だけ明らかの他の植物と遺伝子と構造が違う!?」
「古代の地層から類似した形状の植物の化石が発見されております。しかし、海洋植物から進化したにしては時期があまりにも早すぎる」
「まるで、最初から陸地に適応していたかのようだ。この植物群の起源が未だに発見できていないこととなにか関係があるのか?」
作業机には各地から集められた植物のサンプルが並べられており、遺伝子解析がされていた。
どこか少しクラシックな装置から鑽孔テープが吐き出されて行くが、紛れもなくこの文明の最先端機器である。
「まだこの世界は未知の部分が多い、調べ甲斐があるが大変なものだ」
「・・・?なにか喋ったかね?」
「いえ、私は何も・・・ん?何か聞こえる?」
宇宙を漂う意思だけの存在は、生物学が発展途上のこの惑星の研究者に興味本位で干渉し、交流を試みた。
「何だこれは、まさかテレパシーの類か?」
「音で聞こえているわけではない!?頭の中に直接!」
「こ・・こんな事が、君は一体何者かね!?」
「・・・自分でも良く分からない?なんとも奇妙な」
博士と助手はなにもない虚空に視線を彷徨わせる。
「幽霊かなにか知らないが、一体何が目的で我々に干渉したのかね?」
「え?南東の山の地下になにかあるって?ざ・・・座標はどこなんだい!?」
「む・・・正確な座標は・・・なるほど、BのFの・・・あの山か!」
「随分と深いところまで掘らなければならないみたいですね。資金足りますかね?」
「声が聞こえなくなった・・・君と私に声が脳内に響いていたと言うことは幻覚と言うわけでもなさそうだな」
「テレパシー現象だけでもすごい発見ですよ」
「超常の現象だけでも興味深いが、そんな力を使ってまで未知の存在が我々に座標を伝えに来たのだ。ただならぬ何かが埋もれているのだろう」
それから、研究室の研究者は今まで貯蓄していた資金をかき集めてなんとか指定の座標を採掘するのであった。
分厚い地層に阻まれて作業は難航したが、丁度伝えられた深度まで掘り進めると、未知の材質で作られた人工の構造物の様なものが出土するのであった。
「な・・・なんだこれは!?」
「こんな地層に人工物が・・・と、とにかく観測機器で調べなくては!」
「慎重に掘り出せよ?今まさに人類史に残る世紀の大発見かもしれない!!」
形なき意思だけの存在が研究員たちに伝えたものは、かつてこの星に降り立って開拓を断念した異星人たちの居住シェルターであった。
元々極めて堅牢で不活性な材質の建材で作られていたが、分厚い地層に埋もれて外気が触れることなく保存が保たれたため、経過した年月からは想像もつかないほど原型が残されていたのである。
あまりにも古く、しかしその構造はあり得ない程先進的で未知の技術で作り出されたそれは、それだけでも革新的な技術を得るきっかけになったが、採掘が進むにつれて顕になった施設の中でとんでもない物を発見する。
「ば、馬鹿な。何億年も前の地層に埋もれていた遺跡に、生きた種子があるだと!?」
冷蔵よりも遥かに保存性のある時間凍結パッケージに収められたそれは、開封と同時にその機能を停止し、かつて異星人が人工土壌に植えていた遺伝子操作作物の種子そのものであった。
現在の惑星の主要作物の原種とも言えるそれは、この惑星に適応進化する前の原初の姿を残しており、成長した姿と発掘される化石の姿が酷似しており、原始生命が生まれたであろう時代に高度な文明がこの星に存在した確かな証拠であった。
学会は騒然とし、今までの常識を覆す発見から実力行使してでも存在を隠蔽しようとした勢力が出るほど混沌とし、学者たちの決死の抵抗の末に遺跡は守られることとなった。
世界中の科学者は、各地の山々を掘り返しては異星文明の遺跡を発掘し遺物を回収しては研究所に持ち込み、一つの仮説に至った。
「元々育てやすい種類の作物であったが、あまりにも幅広い気候に対応しすぎている」
「それどころか、他の植物よりも世代交代による適応力が高いし、品種改良も容易だ。まるで最初からその様にデザインされていたような・・・・」
「まさか、いや、そんなまさか・・・・」
「星外植物なのでは?」
原始生命の発生と同時期に建築されたであろう施設から発掘された植物の種子と、現在の作物の種子の遺伝子同定が行われ、パターンが共通する部分が多く、古代遺跡から発見された植物こそが現在の作物の祖先である事がほぼ確定するのであった。
意思だけの存在が干渉したテレパシー現象もあって、今も宇宙人がこの星を監視しているという憶測が世界中に広まり一時的にパニックなったが、かの存在はその混乱を含めて興味深そうに眺めるのであった。
世紀の大発見から様々な分野で議論が進み、技術的な進歩もあったがこの星の人々は自分たちよりも上位の存在を感じ、特に宇宙分野の技術開発を推し進めるのであった。
開拓断念惑星
元々原初生命が誕生したばかりの活発な惑星であったが、星間文明が開拓とテラフォーミングを進め、比較的若い惑星にも関わらず生物の進化が段飛ばしで進められた。
しかし、半端に開拓されて放棄されたので惑星の機械化は進まず、現在は地層に埋もれた遺跡が僅かに残るだけである。
惑星開発に使われたナノマシンは、特異な反応を起こす酵素の一種と認識されており、人工物とは認知されていない。
形なき意志だけの存在の干渉によって発見されることとなった古代遺跡からは、時間凍結されたナノマシンアンプルが残されており、酵素と思われていた物質の正体が判明する秒読み段階である。
初期に発見された遺跡は作物の種子保管庫であり、時間凍結パッケージから発見された植物の種子が現在の植物と共通の遺伝子を持っていたことで世界を揺るがす騒ぎとなる。
この惑星を開拓した星間文明は既に滅び去っているが、来たるべき異星人来訪に備えて急速に宇宙開拓分野に研究資金が投入されることになる。
思いついたアイディアは鮮度があるうちに書くべしです。