千景万色たゆたう惑星達   作:蟹アンテナ

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肉塊惑星

その星は、かつてあらゆる動植物が調和していた美しい星であった。

しかし、何時からか知的生命体が誕生し、地表は石で覆われ、木々は切り倒され、大陸の殆どは彼らによって開拓され、大規模な集落が形成された。

 

数十億を軽く超える個体数に増えた知的生命体たちは、互いに争い、時に双方に多大な命が失われるほどの衝突が起こる事もあった。

そして、彼らの倫理観から見ても禁忌とされる攻撃方法が、ある文明によって行われ、それは完全にその知的生命体の制御から離れ、惑星全体を蹂躙した後にその星の在り方そのものを変えてしまった。

 

その物質は生物の体内に入りこみ、その設計図を書き換えて異形の生命体へと変貌させる性質を持っていた。

自身では増える事が出来ず、他の生物の細胞を借りてやっと自分の複製を作り出す事が出来るこの物質は、正確には生物とは言えない物であった。

 

それをある文明が、金属の筒に詰め込み惑星の成層圏で炸裂させ、惑星中に拡散させたのだ。

 

次々と知的生命体に取り付いてはその設計図を書き換えて、異形の存在、この星の知的生命体の言う化け物と呼ぶ存在に変異させ、遂には一人残らず異形へと作り変えてしまった。

かつて、青かった海は、赤く脈動し、部分的に緑色に覆われていた大地は、緑の代わりに肉塊が覆う事となった。

 

この星の生態系は丸ごとすべて書き換えられてしまい、意志を持たず、攻撃本能に偏った生命体の跋扈する魔の星となってしまったが、皮肉にも、変異を促進し自身も変異し続ける物質の影響で、長い永い時間をかけて再び世界は知性を作り出した。

 

「あぁ、我々以外に意志を持つ者が存在するとはね。」

 

肉塊の表面に無数の産毛が生えた様な生物が筋肉質の触手をうねらせて宙を仰ぐ。

 

「旅の者よ、我らが明確な意思を持ち、文字すら操る事に疑問をお持ちかな?」

 

粘液が爆ぜる様な、獣の唸り声の様な響きが肉塊から放たれ、空気が震える。

 

「かつてのこの大地の支配者がどの様な姿をしていたかは知った事では無いが、少なくとも彼らが残したものは数万年経った今でも健在な様だね。」

 

ぐちぃ、びちびちと、粘膜を赤茶色に泡立たせながらも呻き声をあげる。

 

「ウィルスと彼らは呼んでいた様だな、我らにとって世界を満たす水と変わらぬ物体だが、彼らにとって種そのものを滅ぼす毒だった様だ。」

 

「我々は彼らの直接的な子孫では無いが、彼らの子孫が滅びたかと言えばそうでもない、しかし、恐らく元の姿とは似ても似つかぬ食い意地の張った獣に落ちぶれてしまっているがね。」

 

「む?何故数万年経ったと分かるのかって?先も言った様に、遺物が残されていたからだよ。」

 

「方法は不明だが、沢山の情報を小さな加工物に押し込む技術もあった様だが、彼らは敢えて自然石に彼らの言葉と彼らの知識、そして歴史を刻み込んだ。」

 

「かの種族たちは己の存在の消滅を目前にして、かつて自分たちが存在した証だけでも残す為になりふり構わず、いや、やけくそ気味により優れた情報圧縮技術を捨て不変の象徴足る石にその痕跡を刻んだのだ。」

 

粘液をまき散らす肉塊は、興奮したかのように触手を宙に振りまわり、肉塊に覆われていない岩石をべちべちと打ち付ける。

 

「そして、我らが現れ、その石と出会った。」

 

「ある意味では彼らの忘れ形見であり、そして直系の子孫では無い我らであるが、その意思は、その遺志は、今も受け継がれているのだ。」

 

すっかり擦り切れてしまっているが、辛うじて文字と判別できるものが岩石に刻まれており、無数の触手がその表面を撫でまわしている。

 

「とは言っても、彼らの文字は正確に翻訳出来てはいないのだがね、発音方法もあっているのかどうかすら分からない、ただし、その法則性はある程度解明されている。」

 

突如、肉塊は奇声を上げながら形状の違う触手を上部に掲げ、赤黒い粘液を先端から吹き出し、びちゃびちゃと飛沫を上げる。

 

「お主に肉体があればこの世界を満たす物を分け合って同胞に迎えるのだがなぁ、いっひっひっひ、残念残念。」

 

赤黒い粘液のかかった岩場は、徐々に小さな粒々した腫瘍の様な肉塊に覆われて、きぃきぃ鳴き声を上げる。

 

「我らは他者と融合してその知識を共有する事が出来る、その能力こそが、かつての支配者と同じく他の生物から抜きんでた力を持てる所以でもある。」

 

「だから、本当に前文明が知識を残してくれて助かったのだよ、ただ生きるだけの一生を送るだけだった我らに、自分達という存在を見つめ直す生き方を、哲学を教えてくれたのも彼らの遺物のお陰だ。」

 

「お主は知っているのだろう?かつてこの星を支配していた者達を、そして我らと同じく接触したのだろう?」

 

「どうか、我らの知らぬ古き世界の事を教えておくれ、満たすものがまだ世界に広がっていない頃の、本来の姿を語っておくれ。」

 

振り回していた触手を体内に収納した肉塊は、うぞうぞともがきながら体を変形させて垂直に伸びながら体を起こす。

 

「しかし、繋がる事で知識を共有できるとは言え、世界同時に語り掛けられては混乱してしまうな、ほれ見ろ、発信源を探すために徘徊を始めた獣たちが他者とぶつかり、世界中で捕食合戦が始まってしまったでは無いか、どう収拾をつけるつもりかな?」

 

「いいや、それも一興か、どの道かつての支配者が滅びた後我らが生まれた様に、世界は容赦なく我らの後に続く新たな知性を粘土の様にこねあげて作り出すだろう。」

 

「この世界の外、天を満たすキラキラと光るもの、あれらのどれかに命が生まれる世界があるのだろう?命その物が生まれる確率がどれだけ低かろうと、無限の試行回数があればそれは必然となる。」

 

「我としては、異界の地の者達に世界を満たすもの、ウィルスを埋め込み同化するのが楽しみであるのだがな、そんな互いに交流できる日が来れば良いのだが。」

 

「?何故そんな微妙そうな感情を放つのだ?」

 

 

宇宙を漂うかの者は、興味本位で意思を持つ者に干渉する。

無数の言語、無数の意思伝達方法を持つ生物たちに接触するが、時々悪意無く同化と言う手段を取る知性体も存在するのだ。

形なき意思は、時折、自分が肉体を持たない事を幸運だと感じる事もあるのであった。

 

 

 

肉塊惑星その1

 

かつては高度な文明を築いていた地球型惑星であったが、ある文明が開発したウィルス兵器が炸裂し、世界規模のバイオハザードが発生し、絶滅した。

知性を失い獣に変異しつつある自らの肉体に恐怖を感じつつ、かつて自分たちが存在したのだと、その証を永遠に残す為に理性が続く限り風化のし難い硬い自然石に刻み込んだ一派が存在した。

そしてついに、変化した世界の生態系に還った彼らとその子孫は知性を持たない獣として現代の世界を生きて行く。

現在この星を支配している知的生命体は元が何の生物なのかすら分からないが、瞬時に肉体を変異させて任意に筋組織や脳組織を形成できる不定形の生命体である。

生殖細胞由来の遺伝子を他種族に打ち込む事で、融合させ同族に変異させてしまう能力を持つほか、同族やその変異生物の知識や記憶を共有する能力がある。

そのお陰でやろうと思えば直ぐにでも青銅器時代相当の文明を築く事も可能だが、あえてその種の生物としての生き方を選択し、食物連鎖に組み込まれた生活を送る。

 

 

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