千景万色たゆたう惑星達   作:蟹アンテナ

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開拓移民惑星

そこは自然の調和した美しい星であった。

しかし、そこに本来知的生命体は誕生しておらず、荒々しくも美しい食物連鎖が繰り広げられていた。

ある日、大気を切り裂き巨大な金属塊が空から降ってきて、その中から知的生命体が現れるまでは・・・・。

 

「あぁ、ついに私も焼きが回ったか、人里離れた森の奥で幻聴が聞こえるとは・・・。」

 

「何?意識だけの存在?情報生命体と言う者か?空想の産物かと思っていたが。」

 

何処かやつれた顔をした女性に意志を持つ存在が干渉する。

 

「成程?私の生い立ちが気になると?まぁ見ての通り真っ当な人間ではない、所謂強化人間と言う奴だよ。」

 

「人里の文明レベルが鉄器が最先端技術なのが気になるか?この星域はやり直しの最中なんだよ。」

 

「かつて存在した銀河連邦が崩壊して以来、我々の同胞は絶滅危惧種と化してしまった。」

 

「元々の人類の総人口は7兆人も居たのだ、それが現在約200億人程度とポータブルデバイスは叩き出している。」

 

「何?億単位で絶滅危惧種はおかしいだって?このだだっ広い銀河に疎らに200億人が居住可能惑星に点在しているだけだぞ、かく言う私もあの戦争で死に損なったパイロットの生き残りさ。」

 

木の葉や木の枝を括り付けたネットで偽装されていた金属塊を片手で何度か叩く女性。

 

「転移装置を利用したプラネットブレイカー突撃自爆巡洋艦の主要拠点攻撃によって居住可能惑星の大半が破壊され、人類の殆どが死滅してしまった。超時空ジャンプ技術なんてものに手を出した結果このざまさ。」

 

「私は英雄的な活躍をした軍人たちの遺伝子を組み合わせて製造されたクローン兵と言う奴でね、本来は人間と言うよりも軍の備品と言う者だった。」

 

「ワープアウト中の民間人の避難誘導をしている所、プラネットブレイカーの爆風に煽られて私の機体は未知の天体に飛ばされてな、そこで旧宇宙開拓時代の移民船の墜落した地点を発見したのだ。」

 

「AI制御された無人宇宙船から冷凍保存された生殖細胞を人間になるまで培養して、人類の生存可能な惑星にゼロから人類を再出発させる古い発想の移民船だった様でな、殆ど原始人に近い状態だったよ。」

 

「彼らに出会ってから暫くはそれなりに充実していたよ、元から遺伝子調整の施されていない真人間を守るようにプログラムされた私にとっても彼らに技術と文化を教えるのは相性が良かったからね。」

 

ネットで覆われた金属塊、宇宙戦闘機を手で軽くなぞると、地面に腰を下ろして宇宙戦闘機を背もたれにする女性。

 

「もしかしたら、それが誤りだったのかもしれんがな。」

 

何処か憂鬱そうに片手で額を抑えた後、髪を搔き分ける。

 

「特殊装甲で保護されているとは言え、強烈な宇宙線の飛び交う宇宙での活動を想定されているので、我々クローン兵は不死化処置が施されていたのだ。年を取らない人間が同じ場所に生活をしていれば当然浮いた存在となるだろう?」

 

「欲が出てしまったのだろうな、軍の備品に過ぎない私が、特権階級たる真人間と同じ人生が送れると期待してしまったのだ。」

 

「何千年生きたかは分からない、私も何度か家庭をもって子供を産んだことがあってな、不死身とまでは行かないが私の血を引く子孫は彼らからすると非常に長命だった。」

 

「国を興した子も居た、不死の肉体を狙われて意味のない人体実験をされて殺された子も居た、そして私自身の身も・・・・。」

 

「私の体にインプラントされたナノマシン生成プラントがその不死性の根源だ、子孫にもナノマシンは受け継がれて行くが、老化や世代交代で劣化が進み、やがて機能しなくなる。」

 

「事実、私やあの子たちの血液で応急処置を施した者達は、少なくとも百年以上は若さを保っていたな、まぁナノマシンが劣化した途端徐々に十数年かけて老衰していったが。」

 

「私の血族は争いを産む、私とて体内の機械が機能停止すればいずれ死ぬ、永遠の命なんぞ存在しないのだ。」

 

「何千年あるいは万年に届くのか、私は長く生き過ぎた、正直疲れたよ。」

 

「む?何千年も生きている割には精神的に幼いだって?ふふ、そう見えるか?確かに生まれは普通の人間とは違うし歪みがあるのは認める所だな。」

 

「それでも小娘呼ばわりされる謂われはないよ、あまりこの老婆をからかわんでくれ。」

 

自嘲するように笑う女性を横に、突如宇宙戦闘機から警報が鳴り響く。

 

「む、こんな辺鄙な森に人間が?っ!それなりに重装備だな、嗅ぎつけられたか?」

 

「十数年と言う短い間だったが、住み慣れた仮設住居を捨てるのは惜しいな。ふむ、場所を変える必要があるな、全く魔導狙撃杖なんて持ち出しおって。」

 

「SSS.ソウルストレージシステム起動、いたずらに連中の技術に影響を与えそうな物品は回収してしまおう。」

 

生体デバイスを起動して亜空間に住居に置かれている家具や装置などを無造作に放り込むと、身一つのまま宇宙戦闘機に乗り込む。

 

「悪しき魔女を抹殺せよ!神から奪った不死の血を我らが王に取り戻せ!!」

 

金属鎧に身を包んだ集団が森の木々を掻き分けながら彼女の元へと集まって来る。

 

「ああ、成程な。ふん、そう言う事か下らん。」

 

「まぁこの通り、面倒くさい状況になってしまってな、情報生命体君よ、君との会話もこれでお開きさ。」

 

「人間同士という訳では無かったが久しぶりに話の分かる奴と会話が出来て良かったよ、君の様な存在に出会えたのならばこの宇宙もまだまだ可能性がある様だな。」

 

けたたましい音を響かせながら宇宙戦闘機は浮かび上がり、そのまま音よりも速く空の彼方へと飛び去って行った。

 

「さらばだ脆弱なる我が裔達よ、今代であの森で私に出会う事も無いだろう。」

 

「久しぶりに聖域、海原の女王号へと里帰りしてみようかね。AIがいい加減耄碌してなければ良いが・・・・。」

 

 

 

宇宙を漂う意思だけの存在は、壮絶かつ多くの者達が経験しないであろう、数奇な人生に好奇心を抱きつつも、一歩離れた視点で彼らを見守っていた。

かの者は時にその星全体に、あるいは特定個人に気の向くままに干渉する。

肉体が存在しない故に触れる事の出来ないもどかしさを感じながら・・・・・。

 

 

 

 

 

 

開拓移民惑星

所謂地球型惑星に分類する惑星で、コールドスリープや超時空ジャンプ技術が開発される前に設計され当時最先端の技術で建造された無人宇宙移民船がある時、空から飛来した。

不時着した後、人類の製造プラントがAI制御で活動を開始し、そこから製造された人類が各地に広がって行き、知的生命体の母星となった。

旧・銀河連邦の宇宙パイロットの生き残りが遅れて不時着する事で、文明レベルが大分進んだ様だ。

現在は、不時着した宇宙移民船は神の住まう土地として崇められ、電子ロックされた扉の上から石材で囲うなどされ内部への侵入が困難になっている。


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