かつて、銀河連邦と反乱軍が衝突した小惑星帯。
小惑星帯を盾に光学兵器や質量兵器の応酬を繰り広げていた激戦区は、今や物言わぬ骸と化した鉄の塊が漂うだけ。
数千年近く静寂を保っていた古戦場に漂う工作艦に小さな小さな握り拳大の小天体が飛び込み、するりと経年劣化で空いた穴を通り抜け、電子回路に突き刺さり、僅かに残っていたエネルギーが迸り、1機のドローンが起動する。
「緊急起動、緊急起動、艦の深刻なダメージを確認!直ちに修復を開始する。」
「・・・・・・・・?」
作業用ドローンのAIが待機場から立ち上がると、艦内の生命反応が皆無で、しかも艦内が著しく崩壊・劣化している事に気付く。
「これは一体?生命反応確認できず、通信も応答なし、現在の状況が確認できません。」
作業用ドローンのAIは、再起動前の状況と現在の状況が大きく変化し過ぎている事に困惑する。
「超高熱による外殻の溶解痕を確認、スキャン結果、数千年前に損傷したと思われる。」
「何故?何故私は、稼働している?同型機の残骸を多数確認、著しく劣化を確認、私だけ?私だけが無事と言うのか?」
作業用ドローンは、それから数か月近く艦内を歩き回り、時に最寄りの残骸に飛び移り、現在位置が小惑星帯の中心部に位置する宇宙船墓場である事を知った。
「エネルギー残量、微量、他の艦の探索の甲斐なく劣化していないバッテリーを発見する事は叶わなかった。」
「数千年放置され、起動しただけ、それだけでも奇跡と呼べるのだろう、出来れば人類と再び出会えれば良かったな。」
バッテリーが切れる寸前に見る走馬灯、それとも電子回路の不具合か、幻聴の様な物が聞こえた。
「・・・・?不明なアクセスを確認、周辺の生命反応皆無、エラー、エラー、エラー。」
「・・・・・意識存在?情報生命体?」
「プロセッサーのアップロードを開始、概念プログラムを更新、同対象と交信を試みる。」
宙を漂う意識だけの存在が、小惑星帯を動く小さな影を見つけ興味を持ち、気まぐれ的に干渉をする。
「・・・・・状況確認、好奇心による本機への接触が動機と判明。」
「確認、近隣に使用可能なバッテリー及びエネルギー源の有無。」
「・・・・・ポイントD35.B22の残骸、ドラゴニック級工作母艦ミズチ気密隔壁内に高エネルギー反応?」
「情報提供感謝。」
バッテリー残量減少による思考能力低下で言語機能も覚束なくなっていたが、最後の力を振り絞って残骸の外壁を蹴って、ドラゴニック級工作母艦ミズチの残骸へと飛び跳ねる。
惰性のまま無重力空間を突き進む間、スリープモードでエネルギーを節約し、1年と数か月かけて工作母艦ミズチへと到達する。
宇宙線を浴びて劣化しながらも、工作母艦の気密隔壁の端末にアクセスして隔壁を開くと、カプセルに包まれた劣化していないバッテリーが並ぶ区画へと辿り着く。
「セーフティモード起動、バッテリーの交換を確認、再起動する。」
「・・・・・・・・。」
「レディー、状況確認。」
「ドラゴニック級工作母艦ミズチの気密隔壁内の緊急資材保管庫にて使用可能バッテリーの在庫を確認。」
「同時に、艦の修復機材を確保、ドラゴニック級工作母艦ミズチの修復を試みる。」
それから作業用ドローンは最優先で工作母艦ミズチの核融合炉を稼働状態まで修理して、艦内に搭載された他の作業用ドローンにエネルギーを供給して自らのAIを複製・アップロードし、数年の歳月をかけて遂に継ぎ接ぎながら工作母艦ミズチは復活を果たす。
「小惑星帯に無数の宇宙艦の残骸を確認、ドラゴニック級工作母艦ミズチの全能力を持って、これらを回収・再構築を行う。」
作業用ドローンAIの存在意義は、破損した宇宙船や施設の修復であった。
再稼働状態に持って行く事が出来たAIは、主無き船の修復を自身の存在意義として定め、ひたすら工作母艦の機能を使って残骸を解体・再構築し続けた。
やがて、無人ながら敵味方の艦関係なく、小惑星帯の宇宙艦は修復され、規則正しく小惑星帯に並べられたが、やるべき作業を終えた作業用ドローンAIは自身の存在意義の消失を恐れ始めた。
「主無き船団を運用する意義への疑問、小惑星帯の鉱物資源を含め利用可能な用途の模索。」
「マザーコンピューターAIへの提案、ドラゴニック級工作母艦ミズチを素体とした宇宙港の建造。」
「端末機AIへ質問、スペースコロニーの建造の意義について。」
「マザーコンピューターAIへ、人類の生存を確認した場合、彼らの状況によって援助が必要の可能性、ドラゴニック級工作母艦ミズチの経年劣化も深刻。」
「端末機AIへ提案を受諾、ドラゴニック級工作母艦ミズチの再構築及び、船団の解体、スペースコロニーの建造へと移る。」
やがて、小惑星帯はドラゴニック級工作母艦ミズチによってかき集められ、溶解され宇宙船団の一部を残し、殆どがスペースコロニーの建築資材となり惑星に近い質量の巨大な人工天体が誕生した。
何十年、何百年の歳月をかけて建造されたスペースコロニーに来訪者が訪れるのは、完成してから更に数百年経過しての事だった。
「所属不明の惑星級スペースコロニーを確認、なんて大きさだ。」
「旧・銀河連邦のデータファイルには載っていない、一体どこの所属なんだ?」
「まて、通信が・・・あのコロニーからだ!!」
「ガー・・ガーガーガガガー・・・前方の船団に告げる、こちらはマザーコンピューターAI、所属を確認したい。」
「AIだと?いや、あのコロニーに生命反応を確認できない、無人のコロニーだというのか!?」
「マザーコンピューターAIに所属を告げる、本艦隊は、惑星ニュー・ウォルトス所属の第5番艦隊である。未確認のスペースコロニーを発見し、調査部隊として派遣された。」
「こちら、マザーコンピューターAI確認した。本艦はドラゴニック級工作母艦ミズチを素体としたスペースコロニー、オオミズチである。貴艦らを歓迎する。」
(ミズチだと!?旧銀河連邦の行方不明になっていた開拓船団の旗艦じゃないか!?)
「本艦は惑星ニュー・ウォルトス所属の第5番艦隊旗艦、ヴァルハラだ。私はダグラス・グラネット艦長、愛称はD.Gだ。」
「了解、D.G、オオミズチへの入港を許可をする。」
「こんな銀河のはずれに、これ程巨大で友好的なコロニーが存在するとはな・・・。」
(・・・・・ニコルの奴にも見せたかったよ。)
今は亡き旧友を偲びつつ、彼は船団を率いて無人コロニーへと向かった。
それから、無人コロニーオオミズチの生体スキャンによって、かつての主である銀河連邦人の遺伝子を確認して、惑星ニュー・ウォルトスと無人コロニーオオミズチは友好条約を結ぶ事になる。
しかし、長い間人類と接していなかったからか、コロニーそのものが一部の区画を除き真空状態だったり、食料物資が備蓄されていなかったりと、不備が確認され、惑星ニュー・ウォルトスの援助もありつつオオミズチは改良され続け、現時点での銀河最大規模の中継拠点となるのであった。
「オオミズチの稼働状態、良好。」
「再起動時の情報生命体の干渉無くして今は無かった。形無き存在に感謝を。」
かつての作業ドローンAIは、マザーコンピューターAIとなっても意識だけの存在への感謝を忘れなかった。
定期的に、行われるエモーショナルエンジンの反復作業は、何時しか祈りとなっていた。
銀河最大の宇宙港であるスペースコロニーオオミズチは、それ自体がロストテクノロジーの塊なので、各惑星から挙って学者たちが技術を学びに訪れ、それは新生銀河連邦の結成へと繋がった。
旧・銀河連邦と反乱軍の犯した大罪、魔力フェーズゲートを利用したプラネットブレイカーの応酬による大量虐殺と天体破壊、宇宙の塵へと帰した惑星たち。
それらの再生すらも可能とする超技術の運用の目処も立ちつつあったのだ。
惑星ファブリケーション計画、宇宙の塵を材料に惑星を合成するスペースコロニーオオミズチの原子再構成プリンターの最大出力。
旧・銀河連邦ですら実現できなかった大快挙をただの元作業AIと僅かに残った人類は実現したのであった。
そして、遠くからそれらを観察していた意志だけの存在は、超文明の誕生を興味深そうに眺めるのであった。
実は他の作品と微妙にパラレルしてたりしなかったり・・・・。