知的生命体が発生し文明が発展すると同時にその過程で彼らが背負う業、それが環境汚染である。
ある星では生存圏の喪失を恐れ引き返せるところで踏みとどまり緩やかに発展をし、そしてある星では誰も止めることなく自然環境が汚染され尽くされてしまった。
その星はかつての有力者達が自分の人生のうちに世界が汚染され尽くすことは無いと後に続く者達を切り捨てて開発を進め、その結果小さな箱庭程度の生存圏のみを残し惑星全てを汚染し尽くし衰退の道を辿る事となった。
青く美しかった惑星は黒ずみヘドロにまみれ、分解不可能な毒素が大地を汚染した。
しかしすべての生物が死に絶えたわけではない、おぞましい異形と化して汚染された環境に適応し、僅かな糧を得てその日その日の生を繋いでいた。
箱庭に押し込まれた知的生命体達と汚染環境に生息する変異生物達、双方とも少しずつ近づいてくる終焉に恐怖し、少しでも長く生きれるように存在できるように互いに食みあい命のやり取りを続けていた。
一つの惑星の一つの結末、文字通り星の数ほど似たような事例はあるが、今回は少しばかり状況は異なっていた。
「ここもそろそろ限界かな?まさか老朽化で外壁に穴が開いて居住区画が猛毒ガスで壊滅してしまうなんて」
ボロボロになった外套を身にまとった少女が壁を伝いながら弱弱しく通路を歩いて行く
「先月もコロニーが一つ異形に飲み込まれてしまった。どんどん人類の生存圏が無くなって行く」
「どうして先人達は清浄な環境を汚し、この星をこの様な姿にしてしまったのだろう?」
少女は通路の端に捨てられていた幾何学的な置物を拾い上げため息をつく
「神様、だったかな?確か古代の人々は目に見えないけれど万能の力を持つ偉大な存在を崇めて繁栄を謳歌していたって話だけど、もしそんな存在が実在したとしたら…」
少女は首を横に振り拾い上げた置物を乱雑に背後に放り投げる。
「でもそんな凄い存在が居たとしたら、それならこんな現状を許していないし人類の愚かな過ちを止めていたはず」
「資料で見た本来の世界はとても奇麗だった。一度で良いから青い空と言うものを見て見たかったな」
・・・・・・・・・・・・・・?
少女は、外套のフードを外すと周囲を見渡し首をかしげる。
「え?誰かいるの?」
「気のせいじゃない!あなたは一体何者なの!?」
「肉体は存在しない?でも意識だけはある?そんな馬鹿な」
懐からおもむろに光線銃を取り出し警戒する少女
「どんな仕掛けか知らないけど姿を現さないならこちらにも考えがあるわ!」
「見つけたらその眉間を撃ち抜いてやるんだから!」
しかし、どれだけ周囲を確認しても生物の気配は感じず耳が痛くなるほどの静寂しかなかった。
「音で聞こえている訳じゃない、頭に直接!うぅっ」
「何なのよあなた!おとぎ話の神様か悪魔とかいう奴じゃないでしょうね!?」
「青い空を見たいだって!?ええそうよ!あなたが本当に神様だというのなら万能の力とやらで猛毒の大気を晴らしてみなさいよ!」
「……え?伝手ならある?あなた頭が狂っているの?出来るものならやってみなさいよ!」
「数か月生き残ればいいの?ふん、言われなくともあがくだけあがいてやるわ、残り数週間の命だろうと無理やり生き抜いてやるんだから!」
こめかみを抑えて蹲ると、再びフードを被り直し近くの壁にもたれかかる。
「……幻聴でも聞こえてきたのかな?あはは、狂っていたのは私のほうだったか」
「光線銃なんて使っていたら生命維持装置のバッテリーがさらに減っちゃうわ」
「お腹すいたな」
少女の呟きは廃墟の薄闇に吸いこまれてゆく。
それから数か月後、紫色の毒素に覆われ薄暗い空を無数の流れ星が降り注いだ。
大気を切り裂き空気摩擦で赤熱しながら天から降ってきたそれは、深々と大地や海底に突き刺さるとまばゆく光を放ちながら周辺の物質を再構築してゆく。
「こんな所に穴場があったとはな」
その頃、黒みがかった灰色の惑星の衛星軌道上に大陸と見まごう規模の宇宙船が浮かんでいた。
「プラネットブレイカーで消滅した惑星の残骸に隠れて今まで発見できていなかったが、こんな近くに未確認惑星があるとは、それも文明の痕跡がある惑星が」
「しかし酷い有様だな、こういった事例は珍しくもないが、さてはてどんな原住民が居たのやら」
惑星破壊兵器の応酬で一度滅びた銀河連邦の生き残りが集まり再結成された新生銀河連邦が未知の天体を発見し、高出力の3Dプリンターを搭載した開拓船団を派遣したのだ。
「!まだ稼働している施設がある?まさか、この星の原住民がまだ生存しているというのか?」
開拓船団の旗艦の長距離スキャナーで惑星の大まかな情報を集めていると、首都があったと思われるエリアの一角がまだ稼働しており、無数の生命反応を確認した。
「機械惑星のマザーコンピューターが行き成りこの惑星を見つけてテラフォーミング機材を持たせたと思ったら、原住民が生きている汚染惑星との接触か、あながちあの耄碌AIの言う事も嘘じゃないのかもな」
「全艦に告ぐ!この惑星に知的生命体が存在する可能性あり!新生銀河連邦惑星保護法により未確認文明の保護及び接触を行う!」
汚染された惑星に降り注いだ矢じり状のポッドは、大量の大気や海水を吸いこみ再構築した上で放出していた。
開拓船団のデータリンクで収集された惑星の大気データから汚染される前の大気の組成をシミュレートし、分子どころか原子単位で組みなおし大気を浄化してゆく。
海が汚染されてヘドロの海となってしまった?
大地が分解不能な毒素で汚染されてしまった?
大気が薄紫色の毒素に覆われて日が差さなくなってしまった?
汚染環境に適応するために生物が異形化してしまった?
なるほど、そうなってしまってはその惑星はもはや手遅れで、どんな処置も受け付けないだろう。
だが、しかし、それは宇宙塵や星間ガスから天体を合成してしまう様な超文明からすれば取るに足らない事であった。
元素置換3Dプリンター、それは高度な科学力や生体工学、魔法力学すら応用して生み出された夢の願望機。
強固に結びつき変化しなくなってしまった毒素も、原子単位で分解され他の原子と強制的に再結合され全く違う分子へと変化されてしまう。
それはアルミナを莫大な電力で電気分解するのではなく魔法力学を用いて低コストでアルミと不純物を概念的に分けてしまう力業でもあった。
腐り果て干からびた樹木は、僅かに残る遺伝子情報から予測される本来の物質組成を読み取られ投下ポッド内部で培養され種子が形成される。
投下ポッドの周辺はエナジーフィールドで区切られて浄化の効力や影響を限定し、惑星に与える変化の経過観察と本格浄化作業に向けた計画の修正を行っている。
そして、ある程度惑星のデータが集まったころ、特殊な投下ポッドが原住民が生活していると思われるエリアに投下された。
「うぷっ、まっず」
赤茶色に錆び付いた色の甲殻類を仕留め、不気味に蠢く筋繊維を甲殻から剥がしてかぶりつく少女
「食料プラントで下処理されている時も錆臭かったけど、これじゃ鉄格子をかじったほうがまだマシだわ」
「何でこの区画はガラスなんて脆い素材で覆われているんだろう?薄暗い空なんて見ても楽しくなんかないのに」
「あ、流れ星?こんな空でも見えることあるんだ」
生気のない目で無感動に光の尾を引く流れ星を見つめる少女
「死ぬまでに珍しいものが見れたことだし、もう良いかもね私」
「酷い味だけど異形を仕留めることができたし、コロニーに持ち帰るか、毒を盛っている様なものだけどね」
「え?」
不意にガラスの通路が眩い閃光に包まれると、耳を劈く音と共に強烈な振動が発生し、少女は通路の床に打ち付けられる。
「ひぎぃ!あがっ!ぐううぅぅっ!?」
少女は何があったのかと、上体を起こしてあたりを見回すが、あることに気づき顔を青ざめさせる。
「うそっ!通路に亀裂が!今の装備じゃ汚染大気に耐えられない!」
特殊なガラスで作られているとはいえ、凄まじい衝撃で亀裂が走り今にも割れそうになっている通路に少女は怯え、この場から退避しようとするが体が思うように動かない。
「腰が抜け、うそでしょ?こんな、こんな所で終わりなの?」
ガラガラガラ ビキビキ ピシパキ
「や、やああぁ!いやだ!助けて!」
ガシャアアアアアァァァン!
「死にたくない!死にたくないよぉぉ!!」
ガラス通路のガラス部分は粉々に砕け散り鉄筋部分を残し崩壊し、少女は外套を深くかぶり身を守る。
降り注いだ瓦礫は少女の周りに降り注ぐが何故か直撃せず、大きな塊に潰されることは無かったが、外殻を失ったことで容赦なく外気が侵入し有毒な大気が少女を生きたまま腐敗させる……そのはずであった。
「ひっひっ、ひぁっ、いや!」
「?」
身をかがめていた少女はこれから身に起こる運命を呪い死を覚悟していたが、体に何も変化が起こらず、恐る恐る顔を上げる。
「え、なに、これ」
少女が見たものは、とっくの昔に滅びて久しいコロニー跡地に突き刺さる巨大な三角形の物体であった。
よく見ると三角形の物体を中心に光の波が押し寄せており、光がなぞるごとに灰色がかった廃墟は白色になり、既に薄れ切っていた紫色の大気の色味がさらに無くなって行く。
「あふっ、ひゃっ、なにこの光?」
光の波紋は少女のいる場所にも到達しており、光の波が少女の体に当たるごとに罅割れ薄く出血していた皮膚は化膿していたり炎症している部分含めて収まり、青紫がかった灰色の皮膚は肌色へと変化してゆく。
「私、体が…え?何が起こっているというの?」
「あっ」
所々まだ薄紫色の大気に覆われているが、部分的に雲が晴れており、そこから一条の光が差し込んでいた。
「青い…空……」
遺伝的に傷つき元から短命だった少女を含めたコロニーの住人達は細胞ごと修復され、汚染物質がしみ込んだコンクリートは汚れが落ちて本来の色味を取り戻していた。
「雲?いや、神様なの?」
少女は雲の切れ目から覗く青空の果てに、白い影を見た気がした。
その日、その惑星は転換点を迎えた。
無計画に掘り返され鉱毒に汚染され、産業廃棄物を海に垂れ流し、容赦なく大気を汚染し続け愚かな文明に汚染され尽くされていた惑星は、かなり強引な手段で強制的に浄化されてしまったのだ。
ある水準から逸脱した超文明は、万物が資源足りうるのである。
鉱山や小惑星帯から鉱物を掘るだの宇宙植物を伐採するだの、そんな単純な事ではない、ただ物質、それだけで資源足りうるのだ。
自然環境豊かな資源惑星ならそれに越したことではないのだが、たかが汚染惑星なんてことは無い、かの超文明にとっては汚染されてようともただの資源惑星なのである。
それから暫くして本格的に浄化作業が進められ、半年も経たずにその惑星は完全浄化され、浄化の過程で分離された重金属類やその他元素は単離化された上で回収され開拓船団によって母星へと運ばれた。
環境の激変で異形化した生物たちは絶滅しそうになっていたが、遺伝的修復によって本来の姿を取り戻し、多少巨大化したままの個体も居たが世代を重ねるごとに元に戻っていった。
僅かながら汚染にさらされていた原住民たちも例外ではなく変異しており、彼ら含めて元の姿に戻り、新たに生まれ変わったこの星で再起する事になる。
別の天体から訪れた来訪者の力を借りて………。
新生銀河連邦開拓団
元素再構成3Dプリンター設備を搭載した大型母艦を旗艦とした艦隊で編成されており、砕け散った惑星の残骸や小惑星帯をかき集めて天体を合成することも出来る。
今回は元となる環境データも原型を残しており、多少変異していてもサンプルは回収できたので、正常な状態の惑星の正確なシミュレートも簡単であった。
汚染されたとはいえ、惑星全体の構成元素はそのまま残っており、元の形も完全に近い形で予測も出来る、ならば物質組成を元に戻せばよいだけである。
岩石の塊をかき集めて惑星を作るよりも遥かに楽だった。
放置しておけば年内にでも絶滅していたであろう知的生命体は遺伝的治療と除染がされ、新生銀河連邦の保護を受ける事となる。
終末世界の文明
汚染が進みつつある時代に、贅を尽くし一生を終えた先任者に無責任に汚染された世界を引き継がされた哀れな当時の有力者が死に物狂いで資材をかき集め大規模な生産プラントを含めた環境シェルターを構築して、人類存続の為にコロニーを複数建造した。
まだ汚染が比較的マシだった時代はコロニー同士での交流があったが、大気汚染が深刻化した結果、通路や乗り物も腐食し始め外界の移動が困難になり、それが原因で紛争が起きたり外殻が破壊されたことによるコロニーの全滅が起こり、人類は風前の灯火と化していた。
最後のコロニーが崩壊秒読みだったが、異星人の介入により惑星環境が強制的に書き換えられ、短命だった肉体も遺伝子ごと治療された。
余談だが、ある少女が下水道で仕留めた甲殻類も物質再構成され持ち帰った肉が高級食材のごとく改変されていたので生まれて初めて味わう美味に少女含めた住人たちは歓喜することになる。
マザーコンピューターAI
あるスペースコロニーの、マザーコンピューターに搭載されているAIが夢のお告げなる物を見て、座標が表示され未知の天体の発見に繋がった。
旧銀河連邦の遺物であるため、未解明な部分も多く、スペースコロニーの研究者たちは老朽化による故障を疑ったが、夢のお告げとやらは的中し未知の天体を発見して度肝を抜いたという。
その実態は、形なき意思だけの存在が過去に干渉したAIに汚染惑星の座標を伝えただけなのだが、旧銀河連邦の解析ができていない超技術と勘違いを生むことになる。
色々な悩みが増えて鈍ってましたが、エンジンスターターで回転数を上げていきますよ!