ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

10 / 74
ピーマンとチーズの相性もまたいいわけで、餃子風に皮に包むと酒が止まらなくなります。


※10月4日にワクワクチンンチンワクチンンチン2回目をぶち込んでおりますので、2~3日の間は副反応で更新が鈍くなります。


天高く馬燃ゆる秋

 

 暑い夏。鍛錬の日々を牧場で過ごした私は、我ながらパワーアップを果たしたと思う。坂路は遂に8往復を超え、潜水時間も4分に迫る勢いだ。パワーもスタミナも夏前とは一味も二味も違う。

 それはこの鉢植えピーマンも同じで、夏の日差しを受けて非常にジューシーで、青臭く、旨味も一味も二味も違うわけだ。

 

 なお、夏の間は週一でビールと豆とピーマンのルーティーンが止まらなかったことをお知らせしておこう。実に旨かった。いやはや、馬になってからも晩酌セットみたいなものを楽しめるとは思わなかった。ただ、アルコールは感じ取れなかったのが少し残念ではある。個人的な好みは恵比須様だ。

 

 それはそうとして、夏はあっという間に過ぎ、今の時期は秋。季節の流れは実に早い。それと同時に、馬達の流れもかなりなものがあった。しばらく一緒に併せ馬をしていた馬は既にどこにもおらず、新しい馬が私の並走相手になっているし、となりの厩舎の馬も入れ替わっている。坂路で一緒だった馬も今ではほとんどこの牧場にはいない。果たして彼らはどこに行ってしまったのであろうか。

 牧場を移動しただけならばいいが、まぁ、そうはいかないのが馬の世界というのもよくわかっている。

 私なんかはレースで無敗であるからして、まず手厚い保証付きで世話されることは確約されていると思うが、全く勝てない馬は、オーナーから手放される可能性も大きいわけだ。流石にサラブレッドを食用にはしないだろうが、それでもレースの世界からは遠のいてしまうだろう。

 ま、どっかの牧場で観光馬として余生を楽しむのもいいかもしれないが、それでも私は今を全力で走り抜けようとは思う。

 

 それにしても秋か。馬となってしまった今ではアレだが、マツタケやさつま芋、カツオやサンマ…実に食べたいものである。あ、ただ、もちろんピーマンも忘れちゃいけない。

 

 この時期のピーマンはやはり生が一番である。だが、やはり肉詰めもいいし、細切りで炒めてもいいし、チンジャオロースもいい。あとは輪切りピーマンに、チーズを下に敷いてフライパンでチーズがカリッカリになるまで炒めてピザ風にするのも良い。餃子の皮にチーズと一緒に入れて焼くのもまた酒のお供になるわけであるし。

 シンプルにナスと揚げてめんつゆ揚げびたしもまた最高であるし、浅漬けの素で大根、昆布あたりと一緒に漬け込むのもまた乙である。

 

 いかん、よだれが出てきた。

 

 ま、料理はやはり叶わぬわけなので、目の前のピーマンの鉢植えを楽しもう。葉を傷つけないように実を食うのも慣れたものである。

 

 

 日々訓練とピーマンの日々を過ごしていた私であるが、秋も深まってきた頃に私の目の前に車がやってきた。つまり、しばらくぶりのレースである。

 確かに数日前からオーナーやら彼やら、おじさんやらがやたらと厩舎に来ていたので、そろそろまたレース、しかもグレード1のレースでもあるんじゃないのか、と思っていたが、見事に当たりである。

 ちなみに今回は、明らかに大きなカメラを持った人もいたので、何かの取材もあったのかもしれない。が、私は普段通りに過ごしていたので、あんまり気にはとめなかった。

 ピーマン食ってる様を写真にやたらと収められた気もするが、まぁ、好きなだけ撮ってくれという気持ちだ。

 

 さて、それはそうとして、今回私が車で連れてこられたのは、久しぶりの『京都競馬場』である。

 

 関東の府中や中山と同じぐらいの規模があるなぁ…と土を踏みしめながら思うわけであるが、私にとっては不要な時間である。まずは厩舎で休憩タイムである。暇な時間なのでピーマンをもっしゃもっしゃと食っていると、隣の厩舎に一頭のお馬さんが入ってきていた。どうやら、あちらさんは相当お疲れのご様子。

 なるほど、普通の馬はこうなるのかーと隣を覗いていたところ、あちらも私に気づいたようで、気だるそうにこちらを見ていた。

 

『お前には負けない』

 

 開口一番、ニュアンスがこんな感じである。よくよく見れば、このお馬さん、日本ダービーで私のすぐ後にゴールしたお馬さんじゃあないか。まぁ、俗にいうライバルである。もちろん負ける気はないので

 

『俺が一番さ』

 

 とニュアンスで返しておくと、なんと不満そうに此方に歩いてくるじゃありませんか。ま、とはいえ私はピーマンタイムであるので、もっしゃもっしゃとピーマンを貪っていたわけなのだが。

 

『…それ旨いの?』

 

 と、興味津々でこちらを見ているお馬さん。いや、どうだろう。ピーマンは牧場の馬達には非常に不評だった。すぐに吐き出されていたし。まぁ、興味があるなら食ってみなさいと、一つ、お馬さんに差し出しておく。するとお馬さんは私から受け取ったピーマンを、もっしゃもっしゃとやり始めた。

 

『…なにこれ苦…苦…苦…』

 

 やはりそうなりますか。あれだったら吐き出してもいいんですよ?とニュアンスで伝えると

 

『いや、待って。…苦…旨…?旨い…?』

 

 気づけばお馬さんは疑問を浮かべながらピーマンを一つ食い切ってしまっていた。そして、こちらに顔を向けて鼻息を荒げている。ええと、もう一ついります? 的な感じでピーマンを一つ差し出してみると、今度は食い気味でピーマンを奪われてしまった。

 

『あ、これ、旨い』

 

 もっしゃもっしゃ。まさにその勢いでお馬さんはピーマンをぺろりと食ってしまった。それならばと、私の厩舎にひっかけてあるバケツのうち一つを彼に差し出してやった。そう、ピーマン一杯なバケツである。彼はそれを受け取り、なんと厩舎の中に引っ込んでしまった。

 ただ、その厩舎の中で『もっしゃもっしゃ』と聞こえるので、大層お気に召したようである。

 

 つまりこれは、ピーマン仲間、ゲットである。いやはや、味の分かる馬というのもやはりいる所には居るのだ。それにしても隣の厩舎に入ったという事は、私と同じレースを走るという事であろうか?ピーマン友として、正々堂々勝負をしたいものである。 

 

 

 迎えたレース当日。パドックに出てみれば、グレード1の予想通り、今までに無いような大歓声で迎え入れられた。私の隣の厩舎にいた馬も、ぐるぐるとパドックを回っていた。やはり同じレースを走るライバルであったらしい。ま、今ではピーマン仲間である。そんな彼は『18』を背負っていた。大外になっていたのか。他の馬のこととはいえ、スタートをうまく切ってほしいものだ。

 

 さて、今回の私の番号は、『2』である。その横の数字は『1.7』だ。2番目の人気の馬は『8』の『3.6』であるから、やはり今回も私が一番人気であるらしい。これはやる気が出るというものである。

 

 距離は…3000メートルって長くない!?前に走った日本ダービーが2400だったからか、余計に長く感じてしまうのは仕方がないとしても、それでも3000メートルか。まぁ、2400を本気で走ってもそれほどバテなかったので、個人的にではあるが、距離的には行けるんじゃないかと思う。

 ただ、最後のスパートが出来るほどの体力が残っているかは我ながら不安ではある。それに、今回は気になっている他の馬もいるわけだし、なかなか一筋縄では行かなそうだ。

 

 いや、それにしても歓声が凄いな。今まで走ったレースの中で、一番人も多いのではないだろうか。本当に、観客席を見ていると実に異様な興奮具合であることが判る。しかも、何か私に向かって声を上げているような人もいる。

 

 それにしても秋のこの時期に3000メートルでグレード1レース。そしてこの盛り上がりと来ている。天皇賞かなぁとも思ったが、私は日本ダービーで勝った馬だし、そして日本ダービーで見た馬が何頭かいる。となれば、このレースは恐らく天皇賞ではなく、あれしかあるまい。

 

 菊花賞である。

 

 競馬に疎い私でも、知っていることがある。それは、皐月賞、ダービー、菊花賞を取った馬が「三冠馬」と呼ばれることだ。と考えた所で、一つ私は重大なことに気が付いてしまった。

 

 さて、では冷静に整理してみよう。私は、春に名前が判らない2000メートルのG1を勝利している。

 そして、夏前には日本ダービーらしい2400メートルのG1を、勝利している。

 更に今、秋のこの時期に、何か判らないがおそらく菊花賞であろう3000メートルのレースを走ろうとしている。更に更に深く思い出してみれば、最初のレース。勝った時に彼が、一本指を立てていた。そして次のダービー。二本指を立てていた。

 …これさ、もしかしなくても、最初のレースって皐月賞じゃない?さらに言うと、彼の立てた指も一着!という意味ではないのではないか?

 つまり、『1着!』の一本ではなくて、『一冠目』の一本指だったんじゃないだろうか。ダービーの二本指も『二冠目!』という意味だったのであろう。だから、観客席から爆発の様な歓声が生まれたんではないだろうか。

 

 そう考えると、この会場の異様な盛り上がりようは納得がいく。つまりこのレースは。

 

 私が皐月、ダービー、菊花賞を、『三冠』を取る最終戦ということではないだろうか?

 

 …そう思うとめちゃくちゃ緊張してきた気がする。しかもよくよく考えれば私、負けてないわけで、『無敗の三冠馬』の誕生を、ここの観客が見に来ているとすれば…牧場や厩舎で写真をとられたり、カメラを回されたりした理由に説明がつくというものである。

 

 え、ということは私、やっぱりシンボリルドルフに転生した感じ?私が知る限り、無敗三冠って、シンボリルドルフかディープインパクトぐらいしかいないぞ!?となると…やっぱり時代的にシンボリルドルフ…!?

 

 うわー…うわー…!?それはものすごいプレッシャーである。そうか、私多分シンボリルドルフあたりに転生したのかー。そりゃあこの体は練習すればするほど速くなって体力もつくわけだ。

 

 まずい、すごい緊張してきた。だって、ここで負けてしまっては日本競馬史が変わってしまう。シンボリルドルフの戦績は実はそんなに知らないのが幸いであるけれど、それでも負けずに三冠を獲った事実というのは変わらないので、ここで負けるわけには絶対にいかない。だって、歴史を変えてしまっては、後に出て来るトウカイテイオーが産まれてこない可能性だってある。あのトウカイテイオーとビワハヤヒデの対決は絶対に歴史から消してはいけないと思う。

 

 ええい、こうなったら今回は全力で行こう。

 

 とはいえ、やることはやっておかなければならない。彼が来るまでに、足首を伸ばして、関節を緩めておく。全力で走るにしても、怪我だけは避けなくてはならないのである。

 

 

 コースに出てからのいつものルーティーン、ストレッチを終えてからウォーミングアップは変えはしない。だが、今回、スタート位置がいつもと違うので少々戸惑っていた。普段であれば観客席の前のストレッチにゲートがあるのだが、今回は逆のバックストレッチにゲートがある。なるほど、3,000メートルだと、距離を稼ぐ意味合いでゲートの位置が違うわけだ。

 となると、カーブの数がいつもと違う事をしっかりと覚えておかなければ。普段最初に回るのを第一、第二、そしてストレッチのあとに曲がるのを第三、第四として…そう考えると、第一、第二カーブは一回しか通らないので良いとしよう。ただ、第三、第四カーブは2回通る事になる。つまり今回は6つのカーブを越えてゴールがあるということである。

 よし、心は燃やし、頭は冷静にいこう。カーブの数を間違ってスパート、なんてカッコ悪いからね。

 

 そうしているうちに、全18馬のゲートインが完了し、旗が振られて、束の間ゲートが開かれた。

 

 今回は私は『2』である。内側の距離の短い所を走るわけで、つまりそこまでスタートは気にしなくて良いのだが、それでも我ながらいいスタートが切れたと思う。しかも隣の『1』が一気に下がっていったので、コースは非常に取りやすい。ただ、我ながら初の内側スタートなので、残念ながらコース取りが全く分からないのだ。私の上の彼にお任せするしかあるまい。

 1つめ、2つ目のカーブを抜けて、私の順位は前から3つ、4つ目という位置でホームストレッチへと入ることが出来た。しかし、今回のレースは今までのどのレースに比べてもゆっくり目である。やはり3000メートルという距離は今までとかなり違うものであるらしい。明らかに皆慎重である。

 そして3つ目のコーナーに差し掛かろうという時に、外から『18番』の馬が私の隣に並んできた。他の馬達も徐々に徐々にポジションを確保していく。なるほど、いよいよ勝負時が近いという事であろう。

 私の上の彼からも、『少し外に行け』と手綱から伝わってきていた。丁度3つ目のカーブに差し掛かり、馬群がばらけたタイミングで、少し加速しつつ体を外に持ち出す。

 4つ目のコーナーを抜けてバックストレッチに入った時には、私の順位は5~6番目という位置である。少し順位を下げたものの、いつもの、前に何もいない大外で待機である。ただ、気になるのは私を見るように『18』と『5』『9』『10』あたりの馬が動きを見せていることだ。マークされていると言っても良いだろう。特に『18』は私に明らかにぴったりマークである。まぁ、いいだろう。付いてこれるなら付いてこい。

 

 バックストレッチが終わりを迎え、5つ目のコーナーに入る。その頃には馬群が明らかに団子になり始めていた。どの馬もここから勝利を狙える位置であろう。だが今回は私はまだ動かない。普段であればここから大外を回り始めるのであるが、まだ距離がある。彼もそう思っているのか、手綱が動かない。

 6つ目のコーナーに入ったところで、手綱が緩められ、扱かれた。

 

―行くぞ―

―おうよ―

 

 今回は最初から本気で行くとしよう。フォームを変えない範囲で、最大の歩幅に切り替える。スピードをトップまでじわりじわりと加速しつつ、大外を回る。

 

 そしてホームストレッチ、最終直線に入る頃には、先頭と横一線…いや、4頭横一線で直線を走っていた。あの『18』が先陣を切って加速している。私はといえば、それを少し後ろで見ているような形だ。いやはや、6つ目のコーナーからは本気で走っていたが、やはりグレード1の菊花賞に出るような馬達である。いったんは並んだ、と思ったが、直線でじわりじわりと差を付けられつつある。彼らをちらりと横目で見てみれば、蹴り足が芝を抉り、息が荒い。彼らはまさに、本気の全力で走っている。

 

『俺の方が速い、俺の方が速いんだよ!今度こそ勝つ!』

『いや、こいつには俺が勝つ!いつまでも後ろに居られるか!』

 

 そういう気持ちも伝わって来る。はは、私はなんて幸せ者か。馬となった今でも、こう、私と肩を並べようとする好敵手がいるのだ。なんと張り合いのある事か。

 

 私の本気をもってしても、差が開くなんて。ああ、強い。君達の方が今、速いだろう。

 

『なら今度は俺に勝たせろ』

『なら今度は俺が一番だ』

 

 良い気合だ。だからこそ!私の、全力を見せる甲斐があるというものだ!

 

『いつから俺が、全力で、走っていると勘違いしていた!』

 

 そう鼻息を荒げて、②のポールを確認する。そう、残り200メートル。私が本気の全力で走れる距離にやってきたのだ。すかさず手綱を噛み、彼に合図を出す。と、同時に彼からも一発鞭が入った。

 

―やるぞ!相棒!―

 

 そう私が彼に伝え。

 

―やれ!相棒!―

 

 彼も私にそう伝えた。

 

 一心同体。寸分狂わず私たちは同時に前を向いた。

 

 足を振り上げる。土を抉るように芝を蹴る。捌かれる手綱を感じながら、一瞬でトップスピードに乗れるように蹴り足のギアを上げて、歩幅をさらに大きくし、そして、芝の上を飛ぶように!坂で鍛えたパワーと、プールで鍛えたスタミナには絶対の自信があるのだ。

 

 さぁ刮目しろ!これが、私の、全力だ!

 

 

『さぁ一番人気トウカイテイオー。第3コーナーを過ぎたあたりでじわじわと上がってまいりました。それをマークするようにレオダーバンとナイスネイチャが追いかける。第4コーナーにかかりましてシャコーグレイド、イブキマイカグラも上がってまいりましたが大外を回ってきたトウカイテイオーが早めに上がってきたイブキマイカグラに並ぶように先頭に並ぶ!直線を向いて先頭は横一線!トウカイテイオー、イブキマイカグラ。レオダーバン、ナイスネイチャ!トウカイテイオー伸びが苦しいか!?ナイスネイチャとレオダーバンが伸びる伸びる追いかけるようにイブキマイカグラも負けじと伸びる、シャコーグレイドも内から来た、さぁレオダーバンかナイスネイチャかイブキマイカグラかそれともシャコーグレイドか!

 

―残り200メートル、レオダーバン!レオダーバンだ!レオダーバン…いや!?ここでトウカイテイオーが外から再び伸びる!先頭を行くレオダーバンに並ぶ…並ばない!?突き抜けた突き抜けた!トウカイテイオー突き抜けた!凄まじい末脚!凄まじい末脚!凄まじい末脚だ!しかしレオダーバンも負けじと追いすがる!ナイスネイチャは厳しい!フジヤマケンザンも粘るがやはり…!

 

 トウカイテイオー!トウカイテイオーが今1着でゴール!シンボリルドルフ以来!無敗の三冠達成!しかも親子達成は日本競馬史上初の快挙だー!!!2着は最後に伸びを見せたレオダーバン!』

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。