ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマンの時期が少しづつ遠ざかりつつありますが、とはいえまだまだ露地ピーマンはスーパーなどに置かれております。

 さて、ということで今回お勧めしたいのは此方。

 ピーマンの肉詰め天ぷら!

 ピーマンの苦みと、天ぷらのさくさく、そしてお肉のジューシーが合わさってごはんが進む一品です!中のお肉は鶏ならさっぱり、豚なら濃厚、牛ならジューシーとなりますので、各々でお好きなお肉をピーマンに詰めると色々楽しめます!

 マイタケなどの茸を一緒に肉に挟むのも、時期ですので、乙です。


菊花の冠、生え変わりの冬

 菊花賞のゴールへと、全力でもって先頭を維持したまま飛び込んだ私は、クールダウンをしながら観客席へと意識を向けていた。何せゴールした瞬間爆発とも言える歓声が私を襲ったのだ。正直に言えば、驚いてしまった。そして、私の上の彼は何度も、何度もガッツポーズを繰り返しそして、ガッツポーズと交互に私の首を何度も何度も彼は叩いていた。

 

―よくやった!よくやった!よくやってくれた!―

 

 そんな気持ちが直に伝わって来る。私としても、ありがとうを伝えたいところであったのだが、生憎こちらは全力でレースを走ったわけで、まだまだ息が荒く、整えるまではそうも言っていられない。ただ、彼の喜びようは見てて気持ちが良いものである。

 

 さ、まぁそれはそれとしてだ。まずはこの勝利を喜ぼうじゃないか。勝利の余韻でもって、コースを一周しながらクールダウンを行う。そして、ホームストレッチに戻ってみれば、更に大きな歓声が私と彼を迎えていた。人の言葉は判らないが、おそらくはコールが起こっているような歓声だ。表すのであれば、〇〇〇ー!〇〇〇ー!といった感じ。いやぁ、彼の名前だとは思うのだが、コールを受けると心地よいものだ。

 それに応えるように彼も腕を天にあげて、『三本指』を突き上げた。

 すると、更に観客席が爆発した。彼は更に腕を振り上げ、更にコールが起こる。いやぁ、実に壮観である。そして、この三本指で、やはりかと私は確信した。

 

 『三冠馬』

 

 それを確実に意味しているのだ。つまり、やはり、私は無敗の三冠馬である。十中八九、私の名前はシンボリルドルフであろう。

 いやしかし、そう考えると余計に勝ててよかった。これで歴史は変わらないということである。多分。トウカイテイオーがきっと無事に生まれて、ビワハヤヒデとレースをして、奇跡の復活!と言うあのレースがきっと行われるはずだ。ただ、ルドルフと名前が判ったとはいえ、三冠を獲ったという事以外知らないので、この後のレース、何が待ち構えているのかは全く判らない。

 

 いやー、でもそれはそれとして他の馬も強かった。特にあの『18』番を背負ったピーマンの同志に『5』を背負った覆面の馬。最後の最後は冷や冷やしたものだ。本気の走りでは彼らに追いつけず、ならばと全力を出して引きはがしにかかったのにも関わらず、鬼の末脚とはよく言ったもので、私の全力に一瞬ではあるが負けず劣らずの加速をしてみせた。彼らとはまた、次のレースで出会いたいものである。

 

 どこかのレースで再び相まみえる時があれば、私のもっと大きくなった姿を見せたいと思う。

 

 入念におめかしをされて、豪華な写真撮影が行われて、そしていつもより長い人間たちの挨拶が行われた。今までよりも明らかに豪華な式典であった。改めて彼が私に跨り、改めて三本の指を立てたときのカッコよさと言ったら、素晴らしいモノであった。終始皆笑顔だったことは生涯忘れることはないであろう。

 

 そんな一日を終えて厩舎に戻ってみれば、既にピーマンがバケツ一杯用意されていた。微睡みながらも、もっしゃもっしゃとそれを食っていると、隣に例の18番のピーマン同志が戻ってきた。流石に草臥れているようで、こちらが飯を食っている様を見て。

 

『お前よく食えるなぁ』

 

 とあきれているニュアンスが伝わって来る。仕方ないじゃない。好きなんだもの。食うかい?とピーマンを差し出してみたのだが。

 

『明日貰う』

 

 と、目を瞑って眠りこけてしまった。それであれば、ピーマン同志のために数個残して食うとしよう。明日は牧場へ戻る日なので、朝にはピーマンはそんなに頂けないのだ。

 

 そしてふと、全く別の事を思い出した。私、自分の事をシンボリルドルフかと思っていたのだが、『自分の名前の最後には確実に伸ばし棒が入っている』という事実をすっかり忘れていたのである。三冠の興奮に、すっかり考えが飛んでしまっていた。

 年代的なものを考えるとミスターシービー…という言葉も浮かんだが、確かシービーは無敗ではなかったはずである。が、可能性として、私が頑張りすぎた結果無敗の三冠馬ミスターシービーになった可能性もあるのではないか、と思い至った。いや、そんなことあるのか?というかそれをやっていた場合、これまた競馬の歴史を変えてしまったのでは…?…と、いろいろ悩んでも私が『無敗で三冠の馬』であることに変わりはない。

 うーむ、確証は持てないが、ともかくとして、あの伝説級のお馬さんたちのどれか、になってしまったという可能性が捨てきれないということだ。となるとやはり、我思う故に我有り、とは言うものの、我ながらこうも勝てている自分の名前が気になるわけである。もちろん、人の言葉が理解できるわけではないので今のところは自分の名前を知る事は、難しい。

 

 ま、とはいえ、考えても判らないものは判らないのだ。悩みすぎても仕方がないと割り切ろう。

 

 ひとまずは眼前の、今日の勝利を喜ぼう。三冠馬ともなればレースその後の生活も安泰であるはずなのだ。喜ばしい事である。そして、目の前のピーマンを美味しく頂こう。なに、きっと、そのうちに自分の正体は判るはずだ。

 

 

 牧場に戻ってからの日々は、これまたいつも通りの日々であった。ちなみに、レース場からの別れ際に、『18』のお馬さんにピーマンをあげたときには、彼がピーマンを旨い旨いと喜んで食っていた光景が思い出される。ただ、あちらさんを世話している人間から、首を傾げられたのもまた忘れられない光景である。

 

 さて、ただ、いつも通りとはいっても一つだけ決定的に変わったことがある。

 

 私の上に乗っていた彼が、完全に私から降りたのだ。時々姿を見ることがあっても、私に乗るのはあのおじさんである。やはり、以前からこのおじさんと彼が交互に私に乗っていた理由は、彼が私から降りるという事だったのであろう。ただ、追い切ったり坂を登ったり、その手綱さばきは実に見事なものだと思うと同時に、非常に走りやすさを感じている。

 

 まぁ、顔を知らないわけではない。これからまた、彼と同じぐらい信頼を築けばいいのだ。

 

 首を叩かれ、私は坂路へと足を向ける。ふむ、いいだろう。付き合ってもらおうじゃないか。今日は目標8往復。菊花賞では全力ではなかったとはいえ、『18』のピーマン同志に一度は抜かれてしまったのだ。うかうかなどしていられない。どんどん鍛えて、パワーを付けなければならないと感じている。

 

 それに、菊花賞が終わったら必然的に来るレースがある事を知っている。

 

 それは、馬と馬好き達の祭典。一年の競馬の総決済。暮の中山に名馬が集うあのレース!

 

 その名も『有馬記念』である。

 

 あの『18』も、追いこんできた『5』の馬だって、それに私よりも経験豊富な名馬達だってきっと走るあのレースが、来るのだ。

 

 私の名前が何かなんて事は関係ない。三冠の私は怪我さえしなければ、絶対にあのレースに出ることになるであろう。その時のためにも手は抜けない。全力で、しかし怪我をしないように、しっかりと鍛錬をしていこうと思う。

 

 ただ、その直前に外国産の馬も来るジャパンカップもあったはずなので、なんにしても気が抜けないという奴である。

 

 さて、そんな事を考えていたら、坂路のスタート位置についていた。おじさん…いや、彼の手綱の合図を待つ。あの馬がこちらを過ぎたら、おそらく合図が来るであろう。

 

 3,2,1,…ほら来た!

 

―行くぞ、相棒―

―よろしく!相棒!―

 

 私は鼻息を荒げつつ、勢いよくスタートを切ったのである。

 

 

 三冠を獲った菊花賞からしばらくたったころ。木々の葉は色付きから落葉に変わり、肌で季節の移ろいを感じていた。

 

 私の新しい騎手である彼とも、息の合うスタートやスパートが決められるようになってきていて、我ながら進歩を感じる日々である。のだが。

 

 私にとっては一番いやな時期が来たのである。そう。毛の生え替わりである。冬毛から夏毛に変わった時に比べればいくらかはマシだが、なんにせよ痒い。

 

 ということで、ピーマンを食らいつつも、厩舎内の壁に痒い部分を擦り付けてなんとか痒みを抑えようとするものの、どうしても痒いのである。

 生え変わりに気づいた人間も、日々鉄のギザギザでブラッシングをしてくれている。この時期、本当にあのギザギザは最高の癒しであると断言できる。まさに、日々のお手入れのおかげで、ほっとしてピーマンを食えるというものである。

 

 そういえばピーマンと言えば、あのオーナーらしき人も私に直にピーマンを差し入れに来てくれていた。しかも、箱で一つという大量な量をである。美味しく頂いていたら笑顔を浮かべてくださったので、こちらとしても満足というものだ。その時に首を叩かれて、「よろしくな」と言われた気がしたので、鼻息でしっかりと答えておいた。

 

 それにしても、この落葉の時期に、レース場へと移動する車が来ないという事は、ジャパンカップについては私はまだ走らないという事なのであろうか?まぁ、年末の有馬記念までしっかり鍛錬を積みたいとは思っていたので、有難い事である。

 

 

「三冠、おめでとう。見事な手綱捌きだったよ」

「ありがとうございます。最後に良い手土産が出来ましたよ」

「それは良かった。それにしても、本当に良い馬だね。トウカイテイオーは」

「はい。最後の最後も、しっかりと走ってくれました。悔いはありません」

「そうか。さて、じゃあ、そんな馬をダメにしないよう、今度は私がしっかりと導かないとね」

「よろしくお願いします」

「任されたよ。…さて、ルドルフの子、どこまで伸びるのか、楽しみだ」

 

 

「やりました!やりましたよアイツ!無敗の帝王ですよ!」

「やったなぁ!皇帝以来の快挙だ!しかも無敗だぞ無敗!」

「そうですよ、本当に!やりましたよ!」

「おめでとう、本当におめでとう!さあ、さてと、じゃあ早速祝杯だ。ほれ」

「おお、これはありがとうございます…って、なんです?これ」

「ピーマンの酒だ。あいつの祝杯には最高だろ?」

「そんな酒あるんですね。じゃあ、せっかくなんで頂きますよ」

「おう。じゃあ、あいつの無敗三冠馬を祝して…!」

 

「「乾杯!」」

 

「なるほど、これは…」

「かなりピーマンの味がしますね」

「さて、それはそうとして、今後はどうするんだ?皇帝に肖ってジャパンカップにでも挑むか?」

「いえ、有馬まで休ませるつもりです。なんせ今回はあいつ、本気の全力で走ってましたからね」

「ああー。見事な末脚だったな。一度はダメかと思ったのにさ」

「ええ。鞍上の鞭で加速した瞬間、思わずガッツポーズをしてしまいましたよ」

「ま、有馬まで休ませるってのは順当だろう。で、その後は?」

「んー…悩んではいますが、実は、オーナーと話していて…やってみたいことはありますよ」

「ほう?言ってみろ」

「来年の秋になるとは思うんですがね。あいつに、ロンシャンの、パリのピーマンを食わせてやりたいと。そうオーナーと話しているんです」

「…はははは!そいつはいいな!あいつなら喜んで食うだろう。なんせあいつは、無類のピーマン好きだからな!」

「そう思いますよね!」

 

「そういやお前。調子こいてレオダーバン陣営に何か言ったか?」

「いえ?特に何も。どうされたんですか?」

「いや、それが。『お宅のトウカイテイオーが食べてるピーマン、どうやって調達されてます?』って聞かれてな」

「…へ?」

 

「あ、テイオー。菊花賞おめでとー。いやー、やっぱあんた速いわ」

「ありがとう!へっへー。ボクってばやっぱり強かったでしょ?」

「本当よ。最後、リオナタールと一緒にあんたを抜いたって思ったのにさ。最終兵器をしっかりと隠してたなー?」

「えっへへ。能ある鷹は爪を隠すって言うじゃーん」

「全く、あんたは本当にすごいウマ娘だよ。テイオー」

「あはは。ありがとう!」

 

「で、時にテイオー。その手に持っているタッパーは何ですかね?」

「あ、そうだそうだ!リオナタール知らない?」

「リオナタール?さっきまで一緒に切株の所に居たよ」

「あっりがとう!実はコレ渡す約束しててさ。あ、ネイチャも1つ食べる?」

「え?…ってこれ、ピーマンの肉詰めじゃん!?私はパスでいいかなーアハハ」

「そっかー。美味しいのになぁ」

「それを美味しいっていうのはウマ娘多しって言ってもあんたぐらいだって。でも、なんでピーマンの肉詰めをリオナタールに?」

「んーとね、菊花賞の後、リオナタールにお願いされたんだ。『あんたの食ってるもん私にも食わせろ』って。怖い顔で言うから断り切れなくって」

「あー、なるほどね。…やっぱ私も1つ貰っておくわ、テイオー」

「どうぞどうぞ!テイオー特製ピーマンの肉詰め!美味しいよぉ」

 


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