ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマン。それは最高のモノ。

赤でも緑でも、大きくても小さくても、いびつでも、キレイでも。

ピーマンは、どんな形であれ皆一様に美しく美味しいピーマンなのだと、そう思うのです。





※10月9日~10日は更新無しです(露地ピーマン収穫&家庭菜園手入れのため)


それぞれの暮

誰も私を見ていないだろう。

誰も私を気にかけていないだろう。

世の中、帝王に名優に獅子に素晴らしい才能の話ばっかりだ。

だけど…ようやく掴んだこのチャンスなんだ。

 

 

 寒空の中で、練習の日々を相も変わらず続けていた私であるが、ついに私の目の前に車がやってきた。そう。レースへの移動車である。数日前から代わる代わるにオーナーや彼や世話をしている人間が私の下に訪れていたので、大きなレースがあることは肌で感じていたが、ついに来たか、という感じである。

 私を乗せた移動車は、迷うことなく中山競馬場へと入り、私はその土をしっかりと踏んでいた。季節は更に移ろい、あの青かった芝が茶色になり、更には移動中に見えた商店街の店頭には正月飾りが売られていて、いよいよ冬が深く、そして年末になったんだなぁと、肌で感じられた。

 

 もっしゃもっしゃ。ということで、私は休憩にあてがわれた暮の中山競馬場の厩舎で、のんびりとピーマンを食らっている。静かな厩舎であるが、私の心は燃えている。

 

 暮の中山のレース。となれば有馬記念しかあり得まい。ついにこの時がやってきたか、という感じである。

 

 右隣の厩舎にはあの菊花のピーマン同志がいる。いやぁ、なんという事であろう。彼も怪我をせずに現役を続けていたのだ。更には有馬記念に同志が来ているということは恐らく、同志もグレード1を取るぐらいに強くなったのであろう。これは、本番では寝首を搔かれないようにしなければと気合が入る。

 

 そして、正面の厩舎にいるのは葦毛のあのお馬さんだ。このお馬さんも有馬記念に出るのであろう。やはり、あのお馬さんは実力馬であったらしい。結局坂路鍛錬であのお馬さんに勝つことは出来なかった。無論、あれから私も進化しているので、負けるつもりは毛頭無い。

 

 左隣を見てみれば、今度は普段は緑と赤の仮面をかぶったお馬さんが飯を食っていた。菊花でピーマン同志と一緒に私を抜いたお馬さんである。このお馬さんも怪我なく、そして実力をしっかりつけてこの場に居るという事であろう。油断できないお馬さんだ。

 なお、先ほどピーマンを一つ差し出してみた所。

『まっず…』

 とのニュアンスを頂きました。ただ、『ペッ』とはされなかったので、少し嬉しい。

 

 しかし私の周りの厩舎を見るだけでも、明らかな実力馬の集まりである。これはいよいよ、有馬記念への期待が高まると言うものだ。実に楽しみである。

 

 ただし、最近では三冠だ、連勝だと浮ついてしまって、初心を忘れていたので改めて思い出して、自分に言い聞かせる。

 

『どんなレースでも、勝ちに行く。しかしながら実力の8割以上は出さない。長く現役を続ける譲れない一つの決まり』

 

 そう、この有馬記念。勝つことが目標ではあるが、怪我をすることは目標ではない。重きは現役続行である。何せ私は、馬としてはきっと若いのである。あの大きな葦毛のお馬さんからも「若造」と呼ばれたわけであるし、彼らの胸を借りるつもりで、長く走り続けられるように体を労り、しかし勝てるようにゴールまでしっかりと走り抜けよう。

 

 そうだ。今日負けたとしても、明日走り続ければ、勝てるようになるかもしれない。

 明日負けたとしても、明後日も走り続ければ、勝てるようになるかもしれないのだ。

 

 

 決意を新たにした翌日。私は装備品をしっかりとつけられて、パドックで相も変わらずグルグルと回っている。

 さて、掲示板をチェックしていこう。私の番号は『17』である。その横の数字は『2.3』である。結構上の人気であるが、今回は一番人気ではない。というのも、今回の一番人気のお馬さんは『1』で『1.9』であるからだ。しかもそのお馬さんは、あの大きな葦毛のお馬さんである。なるほど、大きな葦毛のお馬さんは世間からの評判も高いらしい。これは胸の借り甲斐があるというものだ。坂路で並走したお礼はしっかりと返さなければなるまい。

 そしてピーマン同志は『16』で『4.2』で私に続く三番人気だ。そして、仮面のお馬さんは『5』で『7.8』で更に続く4番人気。なるほど、厩舎で私の周りにいたお馬さんは、全馬優秀なお馬さんであるらしい。

 

『今度も俺が勝つ。坂のあの若造には負けん』

『あいつに今度こそ土を付ける』

『あいつらまとめて抜いてやる。私が今度こそ一番だ』

 

 と、三者三様にニュアンスが伝わってきた。ただ、若造とか、あいつとか、明らかに私の事を意識している事も一緒に伝わって来ている。いやはや…燃えるじゃないか。私だってパワーとスタミナを出来るだけ鍛錬し、鍛え上げたのだ。脚周りの筋肉は一回り大きくなっているし、心肺機能だって上がっている。

 

『先頭は俺だよ』

 

 そう鼻息を荒くすれば、明らかに馬達が殺気立った。おお、やぶへびである。

 

 しかし今回は17頭のレースである。私は大外からのスタートであるので、いつものようにスタートは失敗できない。ただ、彼の手綱さばきであれば心配はないであろう。戦略としては、最初こそ後方に控えて、そして中盤で先頭周辺に、最後に本気でゴールを目指す、という具合だと思う。ここまで来たら小細工は不要であろう。私が一番強い走り方で、彼も私を走らせてくれるはずだ。

 

 ―と今日のレースの事を考えていたら、唐突に背中がぶるりと震え、寒気が走った。

 

 掲示板から目を外して、その寒気の大本を探してみれば、一頭の馬へと無意識に視線が向いた。

 

『勝つ。俺が勝つ。何があろうが勝つ。俺が一番である』

 

 この馬から感じるのは絶対の自信。誰かに勝つ、ではなく、「俺が一番だ」という確信。ゼッケンは『8』をつけている。

 

 掲示板に目を戻してみれば、『8』の横に並ぶ数字は『152.6』である。…人気薄の馬であるが、あの気迫は人気に合ったそれじゃあない。気迫だけで言えば、人気上位の私たちを凌ぐほどだと、間違いなく言える。

 …なるほど、人気なんていうものは本当に、ただの指標の一つに過ぎないものである。あのお馬さん、もしかすると、もしかするかもしれない。年末には魔物が潜む、なんてよく言ったものである。

 

 止まれの合図と共に、私の下に彼が来る。今までの相棒とは違う、明らかに手練れな雰囲気を醸し出す彼が、私の首を3度叩き、そして私の上に跨る。

 

 そして改めて首を2回叩かれた。

 

―頼むぞ―

―任せんしゃい―

 

 鼻息を荒げて、手綱を曳かれていざ芝のコースへと歩みを進める。いつものように、脚を縮めて伸ばし、縮めて伸ばし、肩や尻の筋肉が緩むように、ジャンプするようにストレッチ。そしてその勢いのままで芝を駆けだす。と、同時に、爆発するような歓声が私の耳に入ってきた。

 

 ちらりと観客席を確認してみれば、今までの皐月、ダービー、菊花とはまた違う、所狭しと人間が詰まっている観客席がそこにはあった。

 

 一頭一頭がウォーミングアップで走り出すたびに爆発する歓声、声援とも言っていいだろう。やはり暮の中山、有馬記念。少しの事でも盛り上がりが凄い。

 

 歓声をBGMにコースを周って、スタートへと向かう。

 

 すると最初にゲートインをしたのは、あの大きな葦毛のお馬さんであった。やはり私より年上ということだけあって、非常に落ち着いている。そこから順番にゲートインをしていき、残りは私と『12』のお馬さんだけになったのであるが、何やらゲートイン直前で揉めているようである。

 

『狭いとこ入りたくなーい!』

 

 …ふむ。この伝わって来るニュアンスからするに、私と同年代だと思う。なるほど、若くて元気があるわけだ。ただ、なるべく大人しくしてゲートに入ってくれた方がありがたい。私が手持ち無沙汰になってしまっている。ま、別に少し待つだけだから問題はないのであるが。

 

『引っ張るなー!?』

 

 おおー…騎手が『12』の尻尾を引っ張って、更に周りの人間が押し競まんじゅうでようやくゲートイン完了である。なかなか気性難である感じだな、あのお馬さん。

 

 さて、私は別に気性難でもなんでもないので、すっと17番のスタートのゲートへと収まった。右を見れば、ピーマン同志がいるのでちょっと安心する。

 

 そして、人間が旗を振った。いよいよ、暮の中山、有馬記念のスタートの時間だ。

 

「調教は上手く行ってるか?」

「ええ、坂路にプール。日々進化していってますよ」

「メジロには坂路で負けていたと聞いたが」

「最初のうちは、ですね。最近では抜きつ抜かれつ。いい相手です」

「噂ではレオダーバン陣営、ナイスネイチャ陣営も良い仕上がりと言う話だ」

「ええ、それも聞いていますが…ま、順当に行けばテイオーが勝つと信じてます」

「そうか。ただ、舐めてかかるなよ。人気薄だろうがJRAが認めた、確かな実力を持つ競走馬なんだからな」

「もちろんですよ」

 

「テイオー。有マ記念、楽しみですわね」

「んー…?うーん、ボクはちょっと楽しくないなぁ」

「え?どうしたんですの?普段であれば、マックイーンには負けないよ!とか言ってくるでしょうに」

「いやー…三冠ウマ娘としてのプレッシャーがね。勝てるかなぁって。あはは」

「まぁ。もう私に負けるおつもりですの?やっぱり、ピーマンを食べてるウマ娘はダメですのね」

「…なにおう!?そんなこと言うマックイーンには絶対に負けないからね!?ピーマンは最高なんだよ!?」

「ふふ。それでこそテイオーです。せっかくの私達の初めての対決なんですもの。腑抜けていてもらっては困ります」

「あはは、ありがとう。マックイーン。ちょっと気が楽になったよ」

 

 あははと、マックイーンとテイオーは笑い合う。が、ふとテイオーが笑みを潜めて、鋭い目でマックイーンを見た。

 

「そういえばマックイーン。有マ記念、どんでん返しがあるかもよ」

「どんでん返し、ですの?」

「うん。有マ記念に出る、ボク以外の16人の最近のレースを見ていたんだけどさ。ちょっと気になる娘がいてねー」

「テイオーが気になる…それは誰ですの?」

「ダイサンゲン先輩」

「ダイサンゲン?確かに出走リストの中にはいましたが…。注目すべき点はあまり見られませんでしたよ?」

「うん。ボクもそう思ってたんだけどさ、直近の走りを動画で見たんだけど、末脚、すごいキレてるよ」

「そうですのね。もしかして、テイオーは彼女が勝利を掴むかもしれないと、そう思っているのですか?」

「もしかしたらってね。過去のレース映像を見ても、ダイサンゲン、今が一番ノってるってボクは思うよ」

「そうでしたの。テイオーがそこまで気を付けているのなら、本当なのでしょうね」

「うん。多分ね。それにさ、マックイーン。人気が低いからって舐めちゃいけないよ」

「承知しております。何せ、世間一般からの人気がないというだけであって、有マ記念に出場を許されているのです。

 

 ――URAが認めた、確かな運と実力を持つウマ娘の一人なのですから」

 

 

『全てをかけて皆の度肝を抜いてやろう。嗚呼、夢の…暮の有馬が楽しみだ!』




ユメヲカケルのは、全ての馬、ウマ娘。

速くても、遅くても、大きくても、小さくても。

鹿毛でも黒鹿毛でも青鹿毛でも青毛でも栗毛でも栃栗毛でも芦毛でも白毛でも。

冠を持っていようと持っていまいとも。

馬は、ウマ娘は、どんな姿であれ、どんな走り方であれ、ゴールに向かうその姿は、実に、美しい存在だと思うのです。
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