天ぷらにして、蕎麦ゆでて、冷たいめんつゆぶっかけて冷やしピーマン蕎麦。
あとは刻んで浅漬けの素で美味しく頂きました。
夜は半分に切ったピーマンを氷水で冷やしておりまして
タレの焼き鳥を買ってきておりますので
挟んで食う次第です。
つまり、ピーマンイズワンダフル!
『8』の馬は強かった。実に強かった。
有馬記念の最終直線。最後の100メートルであのお馬さんと大接戦になったわけである。本当に横一線でゴールを駆け抜けた私とそのお馬さんであったが、結局決着は判定に持ち込まれたようで、私の上の彼も、そしてあの馬に乗っていた騎手も、どちらもガッツポーズをとっていなかったのだ。
ただ、結果として。私は今回、式典などには呼ばれずに、他の『1』や『5』や『16』と一緒に厩舎でのんびりと食事をとっている。私の場合はピーマンをバケツで頂いていることから、どうやら私は負けたらしいことが判った。
ただ、負けたとはいえピーマン入りのバケツは2個。健闘したね、という感じであろうか。
うーん、しかし初めて負けてしまったなぁ。いつも表彰されているのが最近では当たり前だったので、少し寂しいと思うと同時に、のんびりピーマンを食えるというのもまた乙だなぁと思うわけである。
それに今回、確かに全力を出した、出したのだが。最後伸びきれなかった感がある。原因は恐らく、『8』を気にしすぎたせいで、彼の手綱を意図的に無視したせいであろう。確かに4コーナー抜ける前から反応して加速していれば、今回も勝てたかもしれない。
うーむ。やはり私自身にレース展開を読む能力は無いらしい。よりいっそう自覚できた事は収穫であろう。より一層彼を信じて走れるよう、彼との鍛錬に打ち込まねばなるまい。
まぁ、とはいえ目の前のピーマンを美味しく頂こう。隣のピーマン同志もバケツ2杯。そういえばピーマン同志はどうやら5着である。掲示板にしっかり残っているあたり、実力は確かであるらしい。そして目の前の厩舎の葦毛のお馬さんは4着。左の厩舎に居る仮面のお馬さんは3着ときている。そして私が2着だ。
いやはや、実力馬がそろっているなぁ、なんて思っていた昨日の私に伝えたい。
本当の実力者は別にいたんだぞ、って。
■
負けた有馬記念。その翌日に私は牧場へと戻ってきていた。そして戻った矢先、私の上に乗っていた彼から、手ずからピーマンを頂いて、顔を撫でられた。
―次こそは勝とうな―
そう言わんばかりの優しい撫で方であり、お顔も笑顔であった。もちろんですともと鼻息を荒げてすり寄れば、満足したような笑みを浮かべてくれた。もっと絆を深めたいものである。他にも、オーナーからもピーマンを頂いたり、また取材陣が来て写真を撮影していったり、鍛錬を行なったりと、なかなかに充実した日々を送っていた。
ただ、有馬記念の後で年末ということもあり、鍛錬の内容は少し軽めに抑えられている。坂路も4往復程度であるし、潜水は行わないようにと手綱をしっかりと曳かれている。私的には少し物足りないのであるが、人間の数が少ないので致し方ない。年末とだけあって、人間も休みが多いのだろう。
気づけば厩舎には鏡餅と正月飾りが飾られている。なんというか、馬になってからというもの、日々鍛錬鍛錬で年末を楽しむことはしなかったと思う。
ただ、今はクラシックの三冠を獲ったし、有馬記念も負けたとはいえ僅差で2位。十分に活躍しているからか、私はどうやら気持ちに余裕が出来て来たらしい。
聞き耳を立ててみればクリスマスソングや正月の歌のメロディが聞こえてくる。言葉は判らぬとも、音程ぐらいは判るものだ。
ま、鍛錬そのものが少なく、時間は余っているのだ。のんびりと私も厩舎で年末を過ごすとしよう。幸いにしてピーマンは尽きないのだ。しかし、鏡餅…餅かぁ。ピーマンと餅を組み合わると、案外と旨いことはあまり知られていない。ピーマンの肉詰めの要領で、中に餅を入れて焼くのだ。餅の食感とピーマンの食感で、なかなかうまい料理になるのである。
ただまぁ、肉詰めと同じで手間がかかるため、餅単体で食う方が多かった。ただ、今この馬となってしまっては、食う事は叶わない。というか、この口で餅を食ったら多分大変な事件になりそうだ。あ、でも、すあまとか、ああいう餅っぽいモノなら食えるかもしれないが、用意はしてくれないであろう。
いやぁ、しかし、あの『8』はやっぱり強かったなぁ。最後、あの葦毛のお馬さんの横から出てきた瞬間、やられた!と思ったほどに。伝わって来るニュアンスも本気であった。なんというか、このレースにすべてをかけて、意地でも勝ってやると言う気持ちを感じたほどである。
私には今の所、そういう気持ちが無いとは言えないが、かといって全力を懸けれるのか、というと今の私ではまず無理だと思う。私もいずれ、そのようなレースを迎える日が来るのであろうか。――まぁ、来年の有馬記念はリベンジのために、そういうレースにはなりそうである。
しかし、全てを懸けて勝ちに行く、最初からそう考えられるレースはあるだろうか。
天皇賞?宝塚記念?それともまた別のレース?思い浮かべてみても、確かに勝ちたいが、全てを懸けるかと言われると、難しい話である。残念ながら私は長く生きたいのであるから、怪我は避けたいのだ。全てを懸けて全力で走るという行為は、怪我のリスクがかなり大きいと思っている。ただ、その生き残る目標を達成するためには、ある程度勝たねばならないので、なかなか一筋縄ではいかないものだ。
いろいろ考えながらも、もっしゃもっしゃとピーマンを摘まむ。うーん、苦みが実に頭をクリアにしてくれる。ピーマンは実に素晴らしい食べ物であると改めて認識することが出来た。
そんなクリアになった頭で、ピーマンをもっしゃもっしゃもっしゃとしていると、ふと、ああ、このレースならすべてを懸けても良いだろうというレースの名前が浮かんできた。多くの名馬が挑み、しかし未だ勝てていない。しかし、日本の競馬が挑み続ける。そんなレースがあるのだ。
その名は『Prix de l'Arc de Triomphe』。日本語で言えば、『凱旋門賞』。パリのロンシャン競馬場で行われるレースである。
あのディープインパクトですら優勝は出来なかった。過去にチャレンジしたエルコンドルパサーも2位。三冠馬オルフェーヴルですら2位。そう。日本最強と言われた馬達がことごとく跳ね返されたレース。それが凱旋門賞なのである。
もし、このレースに出れるのであれば、それこそ、全力を以て勝負をしたい。そう強く思うのである。
とはいっても、普通は出れるものではないのだが。
凱旋門賞に出るとなれば、海外遠征のお金も必要であるし、海外の芝で活躍できるのか、体調が万全に出来るのか。そういう運も必要になるのである。
まぁ、体調と移動に関しては、私は中に人が入っているので全く問題ないと言い切れる。飛行機移動でも船でも、きっと楽しめる自信がある。ただ、問題はやはり資金面であろう。私のオーナーが果たしてその決断をしてくれるのであろうか。
まぁ、いろいろ考えても仕方がない事である。結局凱旋門賞に出れるかなんていうのは、私の力ではどうにもならないわけだ。結局オーナーの声一つなのだ。
ということで、ひとまずは目の前の鍛錬をしっかりと行って、次のレースを勝つ。これを目標に頑張っていこうじゃないか。
そう。せっかく負けたのだ。負けを生かさなければ勿体ないというものである。
これから彼との絆を深めるのも当然であるが、しかし負けた理由をしっかりと見直そう。私の敗因。それは何だったのであろうか。そりゃあ『8』の末脚がものすごかったのは確かである。だが、私の末脚だって、最後競い合えたのだから負けてはいなかったはずだ。
飛び出すタイミングもあった。これは先の彼との絆をしっかり深めていくしかあるまい。私もしっかりと彼を信じなければならない。これは私の精神的な弱さのせいでもあるから、瞑想でしっかりと精神を鍛え続けよう。
他は何もなかったか?というとそうではない。末脚が、つまりはトップスピードがあの『8』と同じだったからこそ、競い合ったのだ。
となると、やはりパワー!とスピード!を上げなければなるまい。とはいえ、現状でも体の出来はなかなかいいものだ。坂路でしっかりと筋肉を増やし、プールで筋肉の柔軟と心肺機能を鍛えている。これ以上鍛錬を厳しくしても果たして効果はあるのだろうか?何かもっと別の原因もあるような…無いような…。さてさて、どうしたものか。
うーん…あとはやはり、『8』のような勝ちたい!という気持ちか?やっぱり。
堂々巡りである。いや、今日は考えることはやめよう。ピーマンを美味しく頂くことに、全力で取り組もうとしよう。
■
「初めて負けちまいましたわ…ダイユウサクかぁ、全くのノーマークでした」
「写真判定の末、ハナ差で3センチだったか。いや、油断するなと俺も言ったけど、まさかダイユウサクとはなぁ」
「ええ。来るなら本命でマックイーン、あとはレオダーバンかナイスネイチャかと思ってましたよ」
「あ、でもダイユウサク陣営の調教師は勝利を確信していたらしいな。見たか?あのバリバリに決めたスーツ姿」
「見ました見ました。噂によると夢で手前の馬が勝つ姿を見たらしいですよ」
「はー…そういうのも馬鹿には出来ないもんだな」
「本当です。あ、そうそう、今回あいつには残念賞ってことで、ピーマンをバケツ2杯やってます」
「まぁ、順当か。僅差とは言え負けだが、ただの負けっていうには得たものも大きい」
「メジロマックイーンには先着してますしね。それに、鞍上との折り合いの課題も見えてきました」
「4コーナーで明らかに鞍上の手綱に反応しなかったよな、あいつ」
「ええ。ダイユウサクが内を抜ける直前に鞭を入れられてようやく、でしたからね。これからもやり甲斐がありますよ」
「はは。ま、頑張れよ。しかしだ。あいつの調教内容だったら、この有馬記念だって、もっと圧倒的な勝利を見せて良いはずなんだがな…」
「それは確かに思います。デビューよりも筋肉量増えてますし、スタミナも上がってます。長距離をもっと圧倒的に走れる体に仕上げた、と信じているんですが…」
「…謎だな」
「謎ですね。ま、それもこれから研究していかなきゃいけません」
「…なぁ、一つ提案があるんだが」
「提案?」
「あいつ、間違いなく筋肉が付いているんだろう?」
「ええ。間違いなく。並大抵の馬よりもパワーはありますよ」
「荒唐無稽かもしれないが…ダートで一度で走らせてみる、というのはどうだろう」
■
ゴールの後、わたくしは項垂れておりました。期待された有マ記念。ふたを開けてみれば、なんとか掲示板には残ったものの4着という有様だったのですから。
「やーいやーい。マックイーン!ピーマンをバ鹿にしたからだーい!」
「テイオー、そこらへんにしてあげなって」
「そうだよテイオー。マックイーンだって頑張ったんだから」
「いや、ダイサンゲン先輩、勝った貴女が言うと、その言葉はマックイーンに追い打ちです」
「え?そう?」
結果はダイサンゲンさんとトウカイテイオーが写真判定の末でダイサンゲンさんが勝利。
『これはびっくり!ダイサンゲンが有マを獲ったー!三冠ウマ娘テイオー破れたー!』
とアナウンスが流れたときには、全員が驚いたものでした。
「それにしても、先輩、やっぱり速かったよー。全く、土をつけてくれちゃってさー!」
「ふふふ。テイオーがいくら三冠ウマ娘っていっても、キャリアは私に味方しているもの。舐めてもらっちゃ困るよ。…でも、私のすべてを出した末脚に迫って来るなんて、やっぱり違うなぁ。だってテイオー、君、全力だったけど、まだ余力、あったよね?」
「ん。んー…。正確にはちょっとスパートが遅くなっちゃって。余力を余らせちゃった感じだよ。いやぁ、ボクの経験の甘さが我ながら出たかなぁって」
「あはは。そっか。――どうだった?私の末脚」
「――すっごい速かった!悔しいけど、負けを認めるよ!先輩!次は負けないよー?」
「ありがとう。…メジロマックイーンもありがとう。全力で来てくれて」
彼女はそう言うと、私に手を差し出してきました。いつまでも項垂れているわけにも参りません。顔を上げて、笑みを作りながらその手を握り返しました。
「…当然ですわ。全く、それにテイオーもナイスネイチャさんリオナタールさんも、皆速すぎです。次の…次の天皇賞ではわたくしが必ず一着を取って見せます」
「あはは…。判ったよマックイーン。私も、次の天皇賞、必ず走るから」
彼女は苦笑しながらも、そう言ってくださいました。
「おお。マックイーンったら早速の宣戦布告。怖っ。怖いから私は先にライブの準備、行ってくるねー」
「あ、ボクもー!マックイーンはしっかり観客席から応援しててよねー?」
「当たり前です。…それはそうとしてダイサンゲンさん。本当におめでとうございます。抜かれる瞬間に、気迫が伝わってきました。素晴らしい走りでした」
「マックイーンもありがとうね。じゃあ私もライブの準備を…」
「ダイサンゲンさんはまずウイナーズ・サークルでしょう?勝者の責務として、しっかり、そのお姿を観客の目に焼き付けさせてきてくださいまし」