ピーマンをみじん切りにして
一緒に食べております。
細かいピーマンの食感と、しらすの旨味が案外とマッチするものです。
あと材料一緒で、ピーマンとシラスの掻き揚げもまた美味です。
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『さあ今年のフェブラリーハンデキャップですが、G3、しかもダートレースの観客のそれではありません。やはり注目の三冠馬トウカイテイオーが出走するからでしょうか。有馬記念で惜しくも2着に敗れた後、古馬になってから初めて選んだレースはまさかのダート重賞レース。否が応でも注目の的であります』
『いやぁ、まさかまさかのトウカイテイオーがダートに出走とは思いませんでした。天皇賞への参加も表明しているだけに、どのようなレース運びをするのかが非常に楽しみです』
『調教師曰く、ダートへの適応は十分とのことでしたが、果たして芝の様な伸びを見せることが出来るのか。注目です』
『鞍上が「今日は面白いものを見せられると思います」と言っていたのも気になりますね』
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さて、年明けからしばらく経った頃。冬の寒さが和らぎ、梅の花が咲き始めて春の陽気が差し込んできた日に、私は車に揺られてレース場へと旅立った。
ちなみに今回のレース場は、ダービーで走り抜けた府中競馬場である。道中で見えた梅林の満開の梅の花はなかなか良いモノであったなぁ、などと思いながらも、まずは休憩の一夜を迎えて、のんびりとピーマンと野菜を食いながら明日行われるであろうレースの事を考えていた。
おそらく月は2月。梅の花が満開であったから、中旬から末ぐらいであろうと思われる。そのさなかで、東京の府中競馬場で行われるレース…。うーん、全く思い当たらないのでこれまた困っている。
特に三冠馬のような馬が出る有名なレースなどあったであろうか?これがもう少し暖かくて、京都競馬場であれば天皇賞などが思い浮かぶのだが、よりによって府中競馬場である。天皇賞などの前哨戦である可能性も捨てきれないが、前哨戦となると大体は目標のレースと同じ競馬場で行われるものではないであろうか?…いや、もしかすると私の知識が無いだけで、実は府中競馬場でも前哨戦のレースが行われる可能性もあるわけか。
そう考えながら、厩舎から顔を出して周りをよく観察し、見た顔が居ないか確認をしていたのだが、そうは問屋が卸さぬようで、まったく知らない馬ばかりであった。ピーマン同志も、仮面の馬も、あの葦毛の巨体もどこにも居ない。なんというか、知らない馬しかいない、というのも実に寂しいものである。ということで、お近づきの印に隣のお馬さんにピーマンを差し出してみたのだが、ものの見事に『ペッ』と吐き出されてしまった。
全く、ピーマンの味が判るお馬さんがなかなか現れないのは本当に残念な事である。
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『各馬ゲートイン完了。G3、フェブラリーハンデキャップ、今スタートしました。ややばらついたスタートになりましたが、さぁ注目のトウカイテイオーは好スタート。内から好スタートのキョウエイスワットするするっと上がっていきます。おっと?これはどうしたことだ、トウカイテイオーがキョウエイスワットを交わして先頭に立った!?ベンケイ、ビックファイトも続いていくが、トウカイテイオーが後続との差をグングンと広げて既に3馬身。これは掛かってしまったか!』
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レース当日。いつものように馬具を付けてパドックをぐるぐると周っている。さて、自分の番号チェックと人気チェックの時間である。今回の私の番号は『12』、隣の数字は『10.5』である。そうか、『10.5』か。今回の馬達の中では5~6番目の人気である。
これは、正直に言おう。ショックである。
今までなんだかんだでトップクラスの人気であったので、ここにきてこの人気の低下は凹む。やはり、先の有馬記念の2着が影響しているのだろうか。でも、あれはかなり僅差の2着だったはずなので、そんなに影響はないと高を括っていたのだが…。人間の評価とはなかなか厳しいものである。
とはいえ凹んだことはとりあえず置いておこう。次に確認するのはレースの距離。1600メートル。レースの名前は読めないが、その後ろには『G3』の文字が躍っていた。
距離は全然問題ない。1600メートルであれば、余裕で走り切れる距離である。そしてグレードも3ときているので、結構大きなレースであるらしい。ただ、もちろんG1のレースよりは格が下である。それが証拠に、今までのレースと…あれ?パドックの人出が少ないなーと感じて居たのだが、徐々に徐々に増えて今ではG1レースと同じぐらいの人出になっている。
もしかすると、一番人気の馬は相当有名馬なのかもしれない。何せ去年無敗で三冠を獲った私よりも人気なのだ。…決して嫉妬などはしていない。決して寂しいとは思っていない。
ともあれ一番人気は、と、『1』番で、『5.0』と。はて?思ったよりも数字が小さくない。ということは一頭が大人気、と言うわけでもないらしい。2番人気を探してみれば、『6』で『5.4』であった。なるほど、この2頭が人気なわけだ。
よし、とりあえずこの2頭。『1』と『6』は最終直線で抜こう。嫉妬などはしていないが絶対に抜いてやると心に誓った。最近は鍛錬でダートを走っていたのだ。我ながら、ラストスパートにより磨きが掛かっている自信がある。
絶対にぶっちぎろう、そう心に決めたとき、止まれの合図と共に、私に乗る彼がこちらへと歩いてきたのだが、しかし、いつもと少しだけ風貌が違った。というのも、ゴーグルが少し大型になっているのだ。
なぜだろうと思いつつも彼を背中に乗せて、いざコースに出てみた時に、そのゴーグルの理由が嫌でも判ったのである。
寒空に佇む芝。どこまでも広がる芝のコースには入らなかったのだ。そう。いつも走っている芝コースではなく、どこまでも茶色の地面が続くダートコースに立たされていたのである。
なるほど、だから彼のゴーグルが対砂用に大型なモノになっていたのだなと。最近ダートの練習をさせられていたのだなと、色々納得した。
人気が低い理由も良く分かった。そりゃあ、ダートを一回も走ってない馬だもん。三冠馬でもそりゃあ『本当に走るの?』って私でも思う。
何はともあれ、ここまで来たなら腹を決めるしかあるまい。いつものストレッチ…と思ったのだが、砂に足を取られてなんとも上手くストレッチが出来ない。一応、パドックでもストレッチを行っていたので最低限は行っているものの、少々不安である。まぁ、いつもの方法でストレッチが出来ないのならば、ストレッチの方法を変えればいいだけである。
跳ねるようにしていたストレッチを、脚を地面につけてから伸ばすように、尻までぐっぐっと沈めるように。見てくれは悪いが、結構いい感じに関節が解されてきた。
ということで、ここからはウォーミングアップだ。砂を蹴り上げながら軽く走りつつ、しっかりとパフォーマンスを出せるように体の各部分を温めていく。少し汗をかいたところで、スタートのゲートへと向かった。
そして、G3とはいえ重賞レースであるので、良い馬がそろっているのだろう。ゲートインは比較的スムーズに行われていた。有馬記念の『12』のようにゲートインを嫌がる馬は居ない。
スタートの直前にふと思う。1600メートルでグレード3のダートのレースって何があったっけな…と。
しかし、私の記憶からついぞレースの名前が何一つ出ないまま、私は彼の指示の下、スタートを切ったのである。
初のダートレースであるが、スタートは上々。ほぼ先頭と同じ位置で飛び出すことが出来た。私は少々外側なので、このまま後ろに下がってスパートを待つのみかと思いながら、彼の指示を待っていた。
だが何と、その彼の最初の指示は、スタート直後から『行け』であった。
え!?と思いつつ、前回の有馬記念の件もあったので、私は歩幅を少し広げて力を足に込める。が、それでも彼は手綱を扱き『もっとだ、もっと前だ』と私に伝えてきていた。
それはもう、最終直線のスパートのようにである。まだスタート直後なんだがな、と疑問に思いつつも彼の手綱にはしっかりと従い、気づいてみれば馬群の先頭で、本気の走りをしてしまっていた。これではスタミナが持たないと思うんだがなぁと少し足を緩めると、改めて『もっといけ、もっといけ』と手綱が伝えて来る。仕方ない、やってやるかと腹を決め、本気の走りのトップスピードに達した頃には。
後ろのお馬さんはもうどこにも見えなかった。
そして、気づいたのだが、案外私の息も上がってない。カーブを1つ抜け、2つ抜け。まだスタミナは残っている。息もそんなに苦しくない。
そりゃあそうか。あんだけ坂をすっ飛ばして、あんだけ水に潜っているんだ。1600メートルなんて、時間にすれば2分もない。
4分もの間、泳ぎながら息を止められる私にとって、2分の間だけ本気で走ることは、きっと、間違いなく、去年の有馬記念の最終直線よりは短いものであると、彼に気づかされた。
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『3コーナーと4コーナーの中間を迎えて未だにトウカイテイオー先頭、ペースが衰えません。さぁ他の馬はどうだ、キョウエイスワットが2番手で追いかける。外にはトウカイテイオーと同じくダートが初めてのビックファイトも上がってきています。だがしかしまだトウカイテイオーとの差は6馬身開いたまま4コーナーに差し掛かります。
これはトウカイテイオースタミナが持つのでしょうか!?鞍上手綱は動いていない!内をついてマンジュデンカブトもやってきているがトウカイテイオーが粘りに粘る!ラシアンゴールド一気に突っ込んできた!ナリタハヤブサが4番手から突っ込んでくる!先頭はこの4頭の争いだ!だがトウカイテイオー粘る!トウカイテイオーまだ粘る!トウカイテイオーかラシアンゴールドか!?トウカイテイオー脚色は衰えない!トウカイテイオーだ!トウカイテイオー先着!!』
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「いやぁ…まさかダートであんな走りをするとは…」
「俺もびっくりだよ。しかも逃げも逃げだ。『面白いものをお見せできるかもしれません』だっけか?レース前の鞍上のコメント」
「ええ。いやぁ、本当に面白いものを見せてくれましたね」
「よくよく考えれば、坂路を10本近く走っても崩れないスタミナと、プールで4分も息を連続で何度も止めながら泳ぐ強い心肺機能。ま、1600程度ならトップスピードを最初から最後まで維持するのは容易だったのかもしれないな。あいつは今まで差し馬か先行馬と、俺たちが勝手に思い込んでいただけなのかもな」
「はい。レースを見て頭を殴られた感じでしたよ。血統から見れば明らかに逃げではないですし、どうしてもあいつの親のレースの記憶がありましたから」
「しかし、これで証明されたわけだ。ダートを走れるだけのパワーはあると」
「ええ。しかも1600メートルではありましたけど、最初から最後までスピードを上げて走り切るスタミナもあった、ということですしね」
「そう言えばお前はレース直後にあいつを診たんだろ?息の上がり具合とかはどうだった?」
「汗は確かに多く流れていました。けど、息は戻っていましたね。夜になったらピーマンをまた良い音立てながら食ってたのでスタミナはまだ有り余ってると思います」
「本当あいつは規格外も良い所だな」
「本当にそう思いますよ。ああ、それで、今回のレースを見てなんですが。天皇賞春は「やらかそう」かと、オーナーと鞍上と話し合ってます」
「…ははぁん?容易じゃないと思うが、まぁ、やってやれないことはなさそうか」
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ある昼の事。メジロマックイーンは雑誌を片手に、トレセン学園のカフェで椅子に座りながら、のんきにピーマンを咥えている一人のウマ娘の下へ歩み寄っていた。
「テイオー!貴女、とんでもない事をされましたね!?」
バシン、と雑誌をテーブルに叩きつけながら、マックイーンは大声を出した。それを受けたウマ娘は、咥えているピーマンをもっしゃもっしゃと嚥下し、それからマックイーンへと顔を向けた。
「藪から棒にどうしたのさ?マックイーン」
「見ましたわよ、フェブラリーステークス。あ、貴女!砂のG1をいきなりぶっつけで勝つなんて!」
顔をテイオーに近づけながら言葉を続けるマックイーン。その剣幕にテイオーは苦笑いを浮かべていた。
「あー…あはは。自分でもちょっとびっくりしちゃってるよー。今でもちょっと落ち着かない感じがするんだ」
「しかも貴女!大逃げではないですか!?いつもの追い込みの脚はどうなさったのですか!?」
「あ、うーん…トレーナーと相談してね?パワーとスタミナは十分あるから、逃げてやってみるかって。本気でも1600なら走れるだろうからって言われて…」
あまりのマックイーンの勢いに言葉を選びつつ、慎重に答えていくテイオー。
「そもそもなぜダートを…!?」
だが、このマックイーンの質問にだけは、はっきりと答え始めた。
「あ、それはカイチョーの提案。有マ記念でボク負けたでしょ?」
「ええ。…去年の有マ記念はあまりいい思い出はございませんが…」
思わずマックイーンの眉間に皺が寄る。
「まぁまぁ。それで、普段の練習量ならまず負けるはずは無いと思うんだがって前置きされて」
「それはまた会長さんから信頼されてますわね」
「えへへ。ま、ただ、それでも負けたのは気持ちの面もあるだろうけど、鍛えた体が使えてないんじゃないか、って話になってさ。一度、体の使い方が全く違うダートを走ってみろって」
「なるほど。それでダートのレースに出たわけですか」
「うん!」
「でも、それならば、あくまで練習にダートを取り入れればよかったのではないですか?天皇賞も近いですのに」
「ん-…それは」
テイオーが答えようとしたその瞬間、メジロマックイーンの背中から、落ち着いた、しかし威厳のある声が落ちてきた。
「それはレースで得るものが大きいからだよ。メジロマックイーン。そしておめでとう、テイオー」
声の方向に向いてみれば、そこには生徒会長、シンボリルドルフその人が、笑顔を浮かべながら立っていた。思わずマックイーンとテイオーの耳がピンと伸びる。
「会長さん!?」
「あ、ルドルフさん!ありがとうございます!」
「やぁ。ああ、そうだ。テイオー。君のトレーナーに今回のレース勝利のお祝いを預けておいた。取りに行くと良い」
「え!?本当ですか!判りました!今すぐ行ってきます!」
テイオーはルドルフの言葉を受けると、すぐさま駆けだしてしまった。残ったのは、シンボリルドルフとメジロマックイーンだけである。
「ふふ。…さて。メジロマックイーン。君はなぜテイオーがダートに出たのか、不思議で不思議で仕方が無さそうだね」
多少気まずさを感じていたマックイーンであるが、どうやら、自分の疑問に答えるためにテイオーを外させたのだという事に、正しく気づいた。ならばと、マックイーンは腹を決め、改めて疑問を投げた。
「え、ええ。…天皇賞も控えていると言うのに、どうして芝ではなくダートに、と思ってしまいまして」
「それは、彼女の可能性のためさ」
「可能性?」
「テイオーのライバルの君であるなら、知っているんじゃないのかい?目標はロンシャンだ、と」
マックイーンは目を見開いた。と、同時に、手で口を隠す。
「…ええ、存じております。宝塚を最後に海を渡ると」
「知っているとは思うが、私も一度は海外に出ようと挑戦した事がある。まぁ、結局は怪我でご破算だったがね。まぁそれはいい」
思い出話をしているシンボリルドルフは、どこか遠くを見ていた。その表情の意味はメジロマックイーンには判らない。
「つまりはだ。私が感じた海外の芝。日本で近いモノが日本のダートレース場だった、という話、ただそれだけなんだ」
そう言ってルドルフは頷く。
「なるほど…。しかし、それでもやはり、ダートを体験させるというだけなのならば、練習だけでよろしかったのではないでしょうか」
「足場を体験する、という事ならばそれでもよかった。だが、やはりレースでの駆け引きや、前走で荒れた馬場、天候、気持ちの問題といった、レースでしか体験出来ない事もある。それは君も良くわかっているだろう?メジロマックイーン」
マックイーンは小さく頷いた。
「確かにそういう事なのであれば納得です。ですが、会長さんの一言がきっかけで、テイオーはまた一つ強くなりました。全く、ただでさえ有マ記念で負けているというのに、これでは追いつくのも一苦労です」
メジロマックイーンは視線を床に落とし、ため息を吐いた。それを見たシンボリルドルフは、少し口角を引き上げ、悪戯めいた笑みをマックイーンに向けた。
「――おや、メジロマックイーンはトウカイテイオーよりも弱いと言うのかい?」
その舐めたような台詞に、マックイーンは思わずルドルフの顔を睨んでしまっていた。が、そのルドルフの笑顔の表情を見るや否や、苦笑を浮かべて言葉を返していた。
「もう。会長さん。冗談がきついですよ?でも、確かに私は彼女の後塵を拝しています。――が、ただし、今は、とだけ申しておきます。天皇賞のその日、私がセンターで、彼女がバックダンサーです。楽しみになさっていてくださいまし」
「ああ、もちろん、良いレースを期待しているよ」