ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマンの小説を書いていると

ピーマンが集まってくる現象

これをピーマンの法則と言います。


※なぜか時期が終わりだと言うのにピーマンをすんごい頂いております。(40個程度)
 食わねば。


春の青空、芽吹きの春

 ダートレースは実に強敵であった。コースそのものも慣れないもので辛いものがあったが、それとは別に、最後に追い込んできたあの馬。『3』の番号を背負った馬は目を見張る勢いで加速をしながら私を追い越そうとしていた。だが、私だって三冠馬の実力馬なのだ。最後は、私の新たな武器、足の回転を上げてダッシュ!で突き放して勝利を何とか収めた。

 

 そして、ゴールした直後。気づけば、汗こそはかいていたが、息はほとんど上がっていなかった。1600メートルを本気で走り抜けたレースの、つまり体力を消費しているはずのゴールの直後でもあるにも関わらずだ。

 菊花賞の3000メートルの最後のスパートだけで息が切れていた頃に比べれば、更にスタミナと心肺機能は伸びたと言っても良いだろう。

 

 クールダウンも終わりコースを後にする際、掲示板をちらりと横目で見た。『12』。私の番号が一番上に燦然と輝いていた。そして、タイムであろうか。『1:34.4』という数字も見て取れた。これが速いのかどうかは正直判らない。ただまぁ、ダート初挑戦であるわけだし、そんなに速いタイムではないはずだ。

 

 そしてグレード1よりは少々規模が小さい、とはいっては失礼ではあるが、式典に出席をして、いつものように厩舎へと戻っていた。

 

 今日のバケツピーマンは2杯。まぁ及第点であろう。G1ではないわけであるし。とはいえ、ピーマン以上に今日は実りのあるレースであった。

 

 まず、やはり彼の戦術は正しいのだと再認識した。マジ?と疑問に思っても、しっかり手綱を感じて走った方がいいのである。今回だって先に行け!という手綱の信号に合わせた結果、ゴールまで難なく逃げられたのだ。私自身が考えるよりは戦術に間違いはない。断言しても良い。ただ、考える事はやめない。どうやればこれから私自身が速くなれるのか、そのヒントは自ら感じて、そして吸収していかなければならないのだ。

 そして、今回のラストスパート。実戦で使用して確信した。やはり思った通りであるが、ダートの場合は脚の回転を上げたほうが加速が利く。これは私の考えが正しかったようだ。これからもこの方向性でもって、ダートの走り方を鍛えていこうと思う。ただ、おそらくは芝でもこの回転を上げる走法というのは、何かしらに使えそうでもあるので、芝のコースの練習の時は意識していけばもっと速くなれるはずである。

 

 で、何よりも大きな実りは、私の身体能力の再確認が出来たことであろう。

 

 スタミナ、パワー、スピード。私自身が思っていたものよりも、相当高くまとまっている。私自身で8割だ、と思っていた体の動かし方は、クラシック三冠前の感覚のまま止まっていたと思い知らされた。

 

 今回のレースで実感した。実際、有馬記念の時の私は力の5割も使っていなかったと思う。

 

 もっといけ、もっと行けと、もっと行けるはずだと、最初から繰り出された手綱に応えるように加速した結果、私の想定していた8割を超えても、10割を超えても、まだ私の力は余裕があったのである。だからこそ、最終の直線で追いついてきた『3』すらも、加速してブッチギリに出来たのだ。

 

 ただ、今回のレースでは、私の底は私自身でも知る事は出来なかった。1600メートルは、短すぎたのだ。

 …できれば、今日の感覚を忘れないうちに、芝でもダートでも良いので、長距離のレースなどを走りたいなと、強く思う。

 

 

 ダートのレースから数日後。牧場に戻った私は、いつものように坂路をすっ飛ばしていたのだが、最近見ることが出来なかったあの葦毛のお馬さんが坂路に顔を見せていた。何度か並走をしているが、やはりこのお馬さん、速いし強い。

 私が有馬記念でこの葦毛の馬に先着できたのは、明らかに彼の手綱さばきのお陰であろう。ただ、かといって卑屈にはならない。以前はこの葦毛に置いていかれたこともあったが、今ではそう、並走が出来ているのだ。確実に進歩である。

 更に、顔見知りをもう1馬見つけた。仮面を被っていなかったので判らなかったが、有馬と菊花を一緒に走った仮面のお馬さんである。

 

『あれ、お久しぶりじゃんー』

 

 とニュアンスを感じたので。

 

『青い奴食う?』

 

 と挨拶代わりにニュアンスを伝えたのだが。

 

『いらなーい』

 

 とそっぽを向かれてしまった。非常に悲しい。…そういえばピーマン同志だけは未だにこの牧場で見たことがない。どこか別の場所で鍛錬を行っているのだろうか?

 ちなみにではあるが、仮面のお馬さんも実力はかなり上がっている。レースだと私が速かったはずなのだが、私が気持ちよくすっ飛ばしている坂路に、さりげなく付いてくるのだ。これはなかなか、私の周りも実力をつけているようである。油断している暇はないというものだ。

 

 そんなこんなで、日々日々、坂路をすっ飛ばし、プールで潜水し、芝でスパートの練習で歩幅を広げて、ダートでは回転を上げで走り抜ける。そんな日々を過ごしていた中で、お、こいつはやるなぁというお馬さんに出会った。

 

 今日も今日とて坂路10往復、と気持ちよくすっ飛ばしていたのであるが、なんとそんな私に、見たこともない馬が付いてきたのである。ぱっと見た所、私よりも少し若そうな馬である。4往復程度で坂路のコースを離れてしまったが、なかなかすごい馬が出て来たのだな、と感心していた。

 

 そして驚くことに、数日後の坂路にもこのお馬さんはいたのである。

 

 しかも明らかに私を意識している走りだ。私にぴったりとくっついて離れやしない。しかも4往復だったそれが5往復に増えていた。いやはや、これはなかなか期待の星ではないだろうか。

 もしかすると、今年、クラシックを走るお馬さんなのかもしれないな、と思いながらも負けるわけにはいかないので気合を入れて走って走って走りまくった。

 

 そんなこんなで、ダートレースから明けた日々は、馬と、人のお陰で非常に充実した日々を過ごさせて頂いている。葦毛の馬、仮面の馬、そして若い馬。そう、鍛錬とはいえ抜きつ抜かれつであるため、刺激が多いのである。次は俺が先着だ、いや俺が。そういう闘争心も鍛えられて、実にやりがいがある鍛錬の日々であると言えよう。

 

 そして夜になれば、ピーマンと野菜をしっかりと食って、イメトレをして瞑想をして寝る。なんと充実している日々であろうか。

 あ、ただ、ししとうはやめてほしいものだ。この間、ダートレースの褒美なのか、オーナーから箱で頂いたものを食っていたのだが、何個か辛いのが紛れ込んでいたのだ。幸いにしてピーマンも一緒に食っていたので、ピーマンで辛みが中和出来たのでよかったが、ししとうしか無かった場合は辛みのショックで一日ふさぎ込む自信がある。どうも馬の口に辛みは合わないらしい。

 …加熱調理で焼いて塩やめんつゆで食う分には辛みも美味いんだがなぁ。ああー、食いたいッ!でも食えないので仕方がない。

 

 それにしても少しずつではあるが、木々は芽吹きはじめ、青くなり始めている。今年も無事に春を迎えられそうだ。

 

 

「あいつの調子は最近どうだ?」

「絶好調ですよ。ダートの後は特にもう、ぐんぐんと成長していってます。ついに坂路10往復を熟せるようになりましたよ!」

「やっぱり規格外の化け物だな…。無理をさせているわけじゃないんだよな?」

「ええ。むしろ抑えなければ11本目行こうとしますからね。それに馬房に戻ればすぐに飯を食いますよ」

「なら安心だ…っと、そういえば最近入った注目株の話、知ってるか?」

「ああ!もちろんです!なんていったってあいつと何度か並走してますからね」

「ほー。で、並走している感じ、注目株の実力はどうなんだ?」

「驚きですよ。スピードは3歳で既にあいつと同じぐらいです。スタミナこそ劣っていますが、鍛錬次第で伸びると思いますよ」

「なるほど。じゃあ、クラシックレースの今年の本命、っていうのも強ち嘘じゃないか」

「ええ、そう思います」

「ま、どちらにしろあいつと当たるのは早くても有馬記念あたりかな」

「ええ。凱旋門帰りの有馬記念で当たるでしょうね。たらればの話ですけど、もしかすると三冠馬対決!なんていうことになるかもしれません」

「それは夢のある話だな」

「…あ、そうだ。夢のある話って言えば、一つあるんですけど、興味あります?」

「お?なんだなんだ、そんな言い方されたら気になるだろう」

「実はですね、ダートのレースの結果を見て、凱旋門の後に…」

 

 

 

「ねー、ゴルシー」

「あ?んだテイオー。って、この時間に制服たぁ珍しいじゃねーか。練習は?」

「んー…それがさぁ、最近、付きまとわれててねー。ちょっと今日は様子見ー」

「ほーう?やっぱ無敗の三冠ウマ娘、ダートG1覇者は人気だよなー。羨ましいぜ」

「もー、おちゃらけないでよー。こっちは坂路に毎日付いてこられちゃっててちょっと参ってるんだからさー!」

「悪い悪い。で、その無敗の三冠ウマ娘を参らせてるウマ娘は誰なんだー?」

「んーとね、ミホノブルボンっていう娘」

「ミホノブルボンって…確か、今年の三冠ウマ娘候補じゃなかったか?」

「そう、その子なんだよ!というか、あっちのトレーナーも『トウカイテイオーに食らいついていかなければ三冠ウマ娘など程遠い!』とか熱血指導しててさぁ!やりにくいったらありゃしない!」

「あっははは!そりゃあ災難だな!…で、だ。テイオー」

「ゴルシったらもー他人事だと思って…どうしたの?」

 

 ゴールドシップはトウカイテイオーの背中を指差した。と、同時に凛とした声がテイオーの耳に届く。

 

「ここに居ましたか、テイオーさん。さぁ、今日も坂路練習です。ご指導ご鞭撻をお願いします」

 

 声と共に、万力の様な力で肩を掴まれたトウカイテイオー。

 

「げぇ!?ブルボン!?って力強っ!?イッダダダ!引っ張んないでー!自分で行く、行くからぁ!」

「そう私とマスターに伝え、更に姿を消してから既に10分と40秒経過。スケジュール上、これ以上は待てません」

「…テイオー。旅は道連れ世は情け、って言うだろう?」

「ゴルシー!?わっけわかんないよー!?」

 

 そして、ずるずると引きずられていくテイオーを見ながら、ゴールドシップは一人詰将棋を始めるのであった。

 

「お、そう言えば、お前はついていかなくていいのかー?」

 

 パチン、と路盤に駒が置かれる。と、同時に、1つの影がテイオーとミホノブルボンの後を追いかけるように、消えた。

 

「伸るか反るか。ま、お楽しみってところだな」

 

 ゴールドシップの見つめる先。路盤には、『成り金』の駒が置かれていた。

 


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