ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマンの肉詰め(へたとって肉詰めて焼く)

チンジャオロース

ピーマンの浅漬け

ピーマンのめんつゆ漬け(まな板の上で手でピーマンを潰して、焼いて、めんつゆに漬けておく)


などを作って、恵比須様、麒麟様、朝日様で一杯やっておりましたら飛んでおりました。やべぇ!

皆様も、ピーマンで晩酌などお勧めいたします。


坂路キチ

「お世話になります」

「あ、どうも。お世話になります」

「本日から、よろしくお願いいたします」

「…しかし本気ですか?うちのテイオーの坂路に付いてくるっていうのは」

「はい。坂路の鬼。そう呼ばれている馬に少しでも肖りたく」

「…お勧めはしませんよ?こいつ、規格外ですからね」

「承知の上です」

 

 

 今日も今日とて坂路ですっ飛ばしているわけであるが、例の若いお馬さんもずうっと毎日のように引っ付いてきていた。よくもまぁ、飽きもせずについて来るものである。ただ、やはり一日の長ということで、私の方が断然スタミナは多い。

 だからであろう、若いお馬さんはどう頑張っても私の半分で坂路をやめてしまっていた。息も絶え絶えといった感じである。

 

『お前速い』

 

 とニュアンスを受け取ったので。

 

『ピーマンを食っているからね』

 

 と答えておいた。まぁ、しっかり食って寝る。これが一番の秘訣、なのかもしれない。しかしこのお馬さんもピーマンはダメなのであろうなぁ…。本当に、ピーマン同志と旨さを語らいながら一緒にピーマンを食らいたいものである。さて、とはいえ若いお馬さんがいなくなっていても、私の坂路はまだまだ続くわけである。何せ今日はまだ8往復目だ。最低あと2回は行かねば気が済まない。

 ただ、最近では10回を超えて来ると無理やり終了させられるのが少し悩みだ。個人的にはもう2~3本行けるのである。

 そう。お馬さんの体であるとはいえ、やはり鍛錬は出来るだけはした方がいいと思うのだ。ただ、手綱を握られてしまえば従わざるを得ないというものだ。それに、私が気づかないだけでかなり無理な鍛錬をしてしまっているかもしれない。故に、手綱にはしっかりと従っているわけである。

 

 さて、それはそうと、前回のダートレースから1か月ぐらいは経った。季節は完全に春となり、牧場内の桜も満開である。

 

 昨年であれば、もうそろそろ皐月賞が行われた時期である。ということは、あの若いお馬さんも、見込み違いでなければそろそろレースの時期であるということだ。おそらく、私にずーっと付いてきているということは、皐月賞への鍛錬ではないかと勝手に思っている。いやぁ、昨年が既に懐かしい。あの頃は今考えれば、何も考えていなかった。なんかグレード1のレースで走れるわー!ぐらいなお気楽な馬であった。今は真面目なのか?と聞かれると、まぁ今でもお気楽であることは変わっていない。

 

 ただ、三冠馬の責任はあるだろうと感じてはいる。

 

 ゼッケンも変わり、明らかに調教内容も良いモノに変化しているし、オーナーや彼が会いに来たり、取材を受ける頻度が明らかに上がっているのだ。これでレースなんかで凡走をしてみればどんな批判をうけるかたまったもんではない。それに、私が批判を受ければ、あのピーマン同志や仮面のお馬さんなんかも、一緒に評価が下がってしまう可能性だってある。

『あの三冠馬は世代が弱いのだ』

 なーんて書かれた日にはこの世の終わりかとも思ってしまうであろう。幸いにして人間の言葉が判らないのが救いであろうか。ただ、取材の頻度や人の行き来などでなんとなくは察せてしまうだろうなぁ。

 

 ま、とはいえ今からそんなに卑屈になる事はないとも思う。三冠馬であることは変わりないし、ダートのレースも勝てたのだ。…あれ?芝とダートで勝ってる馬って珍しいような気もする。たしか私の知る限りでは、クロフネやタイキシャトル、アグネスデジタルらへんしか思い出せない。まぁそもそも競馬の知識は薄いので、名前を知らないだけという可能性もある。

 

 まぁ、ただ、冷静に思い返してみれば、『無敗の三冠馬でダートまで走って勝った馬』というのは記憶にないので、私自身の正体というのは完全に闇に包まれた気がしないでもない。潔く諦めよう。

 

 さてさて、考えるのはこれまでにしてと。坂路も終わったことであるし、次はプールである。まずは4分の息止めを3セットから始めよう。

 

 もっしゃもっしゃとピーマンを食らう。自分のことながら、厩舎でのいつもの光景である。最近は我ながら飯の食う量が増えつつあり、バケツ2杯のピーマンがデフォになりつつあるので、食事に少しだけ時間がかかってしまっている。

 ま、とはいえ、急いで食うとあんまり胃腸に良いような気はしない、特に私は馬なので、消化も考えるとしっかり歯ですり潰してから食わねばならないと思うわけである。その方がピーマンの苦さと旨味を感じ取れるので一石二鳥だ。

 

 に、しても毎回思うのだが、ピーマンの加工食品、特に肉詰めが恋しいというものだ。正直二足歩行時代には、あんなもの…といっては失礼だが、食おうと思えば毎日でも食えたものなのに、馬になれば肉を食う事すら難しいという始末である。

 おそらく、獲得した賞金だけで言えば億を超えるであろうし、二足歩行時代の収入を大きく超える。肉ぐらい余裕で食えるお金を稼いでいると言える。ただ…馬である私には全く、一切関係のない…いや、関係はあるな。ピーマンが増えている。まぁ、及第点としておこう。

 

 あと、最近ではニンジンも食えるようになった。案外あの甘味が癖になってきている。甘味、苦み、甘味、苦み、甘味、苦み。このコラボレーションは止められない止まらない。

 

 色々言ったが、もっしゃもっしゃとただひたすらに飯を食う時間というのは実に幸福なものである。そう。飯というものは、多いか少ないか、旨いか不味いかしか本質としては無いものなのだ。『金額』や『質』なんて結局付随品なのである。その点、旨いピーマンを腹いっぱい食えている私は実に、ひたすらに幸運だと思うのだ。

 

 

 鍛錬とピーマンの日々を過ごしていた頃、あの若いお馬さんが車に乗せられている姿を目撃した。ああ、ついに彼もレースかぁと思いつつ、幸運をお祈りしておいた。

 

 私の様に怪我無く、しかし、しっかり走るんだぞ、と。

 

 さて、とりあえず今日も鍛錬である。坂路をすっ飛ばすぞ、と気合を入れていたのであるが、何と今日は4本程度で坂路を切り上げられてしまった。これは事件である。

 なぜであろうか、もしかして私の気づかないところで、私の脚に何か異常が…?と首を傾げつつ、手綱に従って歩いていると、取材陣の方々の目の前に連れていかれていた。カシャカシャとフィルムカメラの切られる音に、なるほど、これのために鍛錬を切り上げたのか、と納得した。

 

 まぁ、去年の三冠馬であるし、それに、なんとなく最近オーナーの顔を出す頻度が増えているので、何かしらのレースが近いんだろうなとそう思っていた。思っていたのだが。

 

 そして、ちらっと見えてしまった記者の手帳。そこに書かれていた文字、アルファベットのような文字を見た瞬間、少し体に衝撃が走ったのである。

 

 見えた文字、それは、『Triomphe』である。私が知る限り、その単語は『Prix de l'Arc de Triomphe』しかないのだ。そう、あの凱旋門賞である。もしかして私が出るのか…!?とも一瞬思ったのだが、冷静になってみれば、そもそも去年の話を書き留めているのかもしれないし、また別の意味かもしれない。それに、今の年代、1990年前半という事を加味すると、チャレンジした馬や陣営というのは居なかったと思う。エルコンドルパサーの2000年ごろまで待たねばなるまい。少しだけ、本当に少しだけ興奮してしまった私が恥ずかしい。

 

 ちらりと他の記者やこちら側の人々が持っているものを盗み見しながら、次のレースは何であろうと予想を立てる。…とはいえ、さっきの様なアルファベットの文字も数字もあまり書かれていない。都合よくはいかないものだ。

 そう思いながら、なるべく写真を撮られやすいようにじっとしていると、ある記者から、こちらの人間に丸まった紙が手渡された。

 

 その紙を人間が広げると、そこに写されていたのは、あの大きな葦毛のお馬さんと、おそらくは私であった。ほー…よくできた、つまりこれはポスターであろうか。

 ポスターをのぞき込むように顔を動かしてみると、人間がそれに気づいて、ポスターをこちらに差し出してくれた。なるほどなるほど、やはりこれは葦毛のお馬さんと、脚の毛の色と鬣のおしゃれ感が間違いなく私である。

 

 レース名は…やはり判らない。ただ、日付は…4.26か。ということは時期的にそろそろであろうか。やはり、オーナーがやってくる頻度はレースに近くなるほど多くなるわけだ。

 で、あと読み取れるものは………。お、4桁の数字が書いてある。多分だけどもこれで距離が判るじゃないか。なになに?3200か。

 4月開催で、距離3200メートル…。3200メートルと言うと、かなり、というか最長クラスのレースである。しかもグレード1というおまけつきであるから…。

 

 あぁ、天皇賞の春だ。今回のレース。多分間違いないであろう。

 

 いやしかし3200メートルか…今までの中で最長である。しかもあの葦毛のお馬さんも出るっぽい。ということは、かなり苦戦を強いられるであろう。あとは予想であるが、あの私を有馬記念で差し切ったお馬さん、ピーマン同志、仮面のお馬さんあたりは集結しそうである。若手のお馬さんはまぁ、来ないであろう。あのお馬さんの若さからして皐月賞であろうし。

 

 ともあれ実力馬が集まる天皇賞になりそうである。となれば、こんなところで撮影などしている時間などは無いのであるが、まぁ、三冠馬としての責任であろう。今日の所は鍛錬は勘弁しておこう。

 

 

「いやー…ミホノブルボン、すごいですわ」

「ほう?そんなにか?」

「ええ。もう5本は余裕で付いてきます。あれは皐月、獲れますね」

「なるほどなぁ、なかなかいい馬だ。ま、あいつにゃ敵わんよ」

「あいつ、今日も10本いってましたしねぇ。坂路。昨日久しぶりに他の馬を観たんですが、あいつのせいで感覚がくるってます。坂路3本が少ない…って思ってしまいました」

「ははは、ま、仕方ないだろう。ああ、そういえば、天皇賞のポスター、見たぞ」

「ああ!ご覧になりました!?いやぁ、手前の馬がポスターになると嬉しいもんですね」

「メジロマックイーンとトウカイテイオーの対決が前面に押し出されているなんてな。本当、出世したなぁ、あいつ」

「ええ。本当に。何か感じるものがあったのか、あいつも嬉しそうでしたよ」

「ん?嬉しそうでしたよ…?」

「ええ。興味津々にポスターを覗いていたもんで、目の前に差し出したら鼻息を荒くしてましてね」

「…あいつってもしかして、ポスターに映る自分の姿が判ってたりしてな」

「まさか。言ってもあいつ、馬ですよ?」

 

 

「ううぅー…ピーマン…食べなきゃダメかなぁ…苦いの苦手…」

「あれぇ?ライスシャワーじゃん。どうしたの?こんなところで」

「ひぇっ!?…あ、タンホイザさん。いえ、その、ピーマン、食べなきゃダメかなって…」

「…はい?なんでピーマン…?テイオーじゃあるまいし」

「その、最近並走をしてもらってる、リオナタールさんがよく食べていて…少しでも近づきたいなって」

「あー…ピーマン連合No2ねぇ…。まぁ、無理はしないでねー?」

 

 

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