ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマンのめんつゆ和えが最近のブームになっております。

生ピーマンを手で軽く潰して。

ヘタとか種は取らずに油に潜らせ。

ショウガ、かつぶし、めんつゆで作ったタレを絡ませて少し置くだけで

ご飯ビールにめっちゃ合うピーマンの出来上がりです。2~3日冷蔵庫に入れて味を落ち着かせても美味でございます。



露地栽培の時期が終わっても、ピーマンイズワンダフル!!!


1992 / トゥインクルシリーズ 天皇賞(春)

 桜が散り始めた季節に、私は車に乗せられて競馬場の土の上に立った。

 

 何度目かの京都競馬場である。

 

 手綱を曳かれて厩舎に行くさなか、あの私と葦毛のお馬さんが写っているポスターを何度も見た。やはり、大注目のレースらしい。

 厩舎でピーマンをもっしゃもっしゃとやっていると、隣の厩舎にもピーマンのバケツが2個、引っかけられた。もしや?と思ってそちらを見てみると、顔を出したのはやはり、ピーマン同志であった。

 

『旨い。旨い。旨い。…あれ。久しぶり』

 

 同志からはそんなニュアンスを感じ取りながら、私ももっしゃもっしゃとピーマンを食らう。同志ももっしゃもっしゃと食らう。うむ。ピーマン仲間がいるというのは実に素晴らしいものである。

 そして周りを見回してみれば、葦毛のお馬さん、有馬のお馬さんなども厩舎に収まっていた。なんという実力馬の祭典であろうか。

 ただ、今回、あの仮面のお馬さんは見ることが出来なかった。うーん、まぁ、居ないというのなら仕方がないであろう。怪我などしてなければいいのだが。

 

 そして翌日、ついにレース本番を迎えるわけであるが、装備をつけてパドックに出てみれば、もうそれは割れんばかりの大喝采であった。掲示板をちらりと見れば『3200』と『G1』という文字が躍っている。

 

 やはりこのレースは天皇賞(春)で間違いないであろう。3200メートルか。菊花賞より200メートル長い。スタミナは持つだろうが、果たして勝ち切れるかどうかは不安が残る。あの葦毛の馬も強いであろう。しばらく会わなかったピーマン同志の体もかなりデカくなって、艶が出ていた。こちらも強敵である。あの有馬の馬だって、目はギラギラと輝いていた。いやはや…とはいえ、私も坂路鍛錬を増やし、水泳鍛錬も強度を強めている。負けてはいないと信じたい。

 

 ま、難しい事を考えるのは止めにしよう。結局私に出来る事は、体を十全に使い、彼に従って、しっかりと芝を駆け抜けるのみである。

 

 

『さあやってきましたメジロマックイーンです。馬体重は495キロ。+4キロです。ご存じ昨年の天皇賞馬。長距離では無類の強さを誇っています』

『今回勝てば史上初の天皇賞春連覇となりますね。馬体の張りも良いので、期待十分です』

『今回はトウカイテイオーとの対決にも注目が集まっています』

『ええ。どちらが勝つのか、非常に楽しみなレースです』

 

―――

 

『さて今回一番人気。大注目の14番、トウカイテイオーです。馬体重は495キロ。+5キロです。前回のフェブラリーハンデの大逃げは見事でした。まさかのダートの重賞を勝っての天皇賞に殴り込みです』

『まさか芝もダートもいける馬だとは思っていませんでした。それに今回は加えて体重増です。トモが分厚くなっています。また仕上げてきましたね』

『噂では坂路訓練を並の倍熟していると聞きますが』

『ええ。よく壊れないものだと感心します』

『おっとここでいつものステップを踏み始めた。どうやら調子も良いようです』

『巷ではテイオーステップなどと呼ばれているようですね。有馬記念は残念でしたが、この天皇賞春ではぜひ勝ってもらいたい一頭です』

 

『次は3番人気、15番レオダーバンです。馬体重は508キロ。+10キロです。昨年のクラシックではトウカイテイオーに迫るものの勝ち星がありませんでした。ジャパンカップではマックイーンに先着こそしましたが、未だにG1未勝利』

『実力は確かなものを持っているのですが、いかんせん相手が強いですね。ただ、今回は距離が菊花賞より伸びた3200メートルです。あの末脚が決まればもしかするかもしれません』

『前走は産経大阪杯。見事に一着を飾っております。今度こそG1のタイトルを獲れるのか注目です』

『関東からの長距離移動でどうかと思いましたが、馬体重が10キロ増えています。更に十分に落ち着いていますので、可能性は十分にあると思いまよ』

 

 

 さてさて、恒例の番号チェックの時間だ。

 

 今回、私の番号は、と…『14』で、その隣の数字が『1.7』である。なるほど、比較的大外になったようだ。ただ、有馬記念で勝てなかった割には一番人気に推して頂いている。頑張らねばなるまい。

 葦毛のお馬さんは『5』で『2.5』で、私に続いての2番人気である。とはいえ、坂路では本当に速い馬だと感じているので、実際人気はあてにならないであろう。

 有馬の馬は『2』で『46』となっている。あんまり人気が無いようだ。しかし、気合のノリは有馬記念と同じように感じている。要注意としておこう。

 同志は『15』で『3.2』となっている。3番人気である。これまた有馬の時と同じでお隣のゲートであるからして、同志と私は相性がいいのであろうか?まぁ、なんとなく寂しくないので良いとしよう。

 他に気になる馬と言えば『3』『7』『8』であるが、葦毛の馬、有馬の馬、同志のノリよりは少し大人しい感じ。注意は必要だがそれほど注目する必要はないかもしれない。

 ただ、油断は出来まい。なにせグレード1、3200メートル。天皇賞(春)を走ろうという実力馬達しかいないのだ。気合を入れ直そう。

 

 止まれの合図で立ち止まり、いつものように首を3回叩いてきた彼を、大人しく背中に乗せる。そして、馬道を抜けてコースに出てみれば、これまたグレード1レースらしく大きな声援で迎えられたのである。

 

 その声援を受けながら、しかしいつものルーティーンを行う。脚を伸ばしながら、軽くジャンプをして足腰の筋肉をほぐし、その脚で軽くコースを走ってウォーミングアップ。なるほど、やはり芝はダートに比べて跳ね返りが強い。今日は歩幅を広げるスパートで問題ないだろう。ま、ただ、もしかするとダートの時の様に逃げるかもしれないので、最初から本気で逃げるのか、最後にスパートをかけるのかは彼の手綱次第ではある。

 

 などと考えていたら、ゲートインが進んでいて、あの葦毛のお馬さんも、ピーマン同志も、有馬の馬もゲートインが完了していた。私も手綱に従って、すっとゲートに収まる。今回は嫌がる馬もいないようだ。

 

 そして、人が全員捌けて、旗が振られた。

 

 ゲートが開く。と、同時に勢いよく脚に力を叩き込んで芝を蹴る。さぁ、彼は今日はどう行くのかなと、手綱の感触を待っているといきなり手綱が扱かれた。

 

―行くぞ!―

 

 そう。最初からの本気逃げ宣言である。前のダートコースのレースと同じように、逃げろという事であろう。

 

 一瞬、3200メートルを逃げて、本気で走り切れるか?という疑問が思い浮かんだ。だが、その疑問を振り払い、脚を振り上げて回転を上げた。そうだ。彼が行けると踏んだのならば、きっと行けるのである。凡走はすまい。ままよ!

 

 同じように先頭をとろうとしていたお馬さん、『12』を大外から交わして前に出る。残念、今日の私は差し馬でも先行馬でも追い込み馬でもないのだ。今日の私は、逃げ、それも、大逃げ馬である!

 

 ―――さあ、付いてきたまえ、歴戦のお馬さん達。追いかけてこないと私が先頭でゴールしてしまうぞ?

 

 ――Hi-yo Silver(ハイヨーシルバー)

 

 

『天皇賞春は波乱の幕開けとなりました。ダートを制したトウカイテイオーがまさかまさかの大逃げであります。

 2位との差は最初のコーナーに差し掛かる段階で既に4馬身ほど、さぁトウカイテイオーが逃げる逃げる。メジロマックイーンは丁度中段寄りで様子見の形。

 続くレオダーバン。ジャパンカップではメジロマックイーンより先着馬であるレオダーバンもまた注目の一頭。そしてその後ろを見てみれば、昨年の有馬記念を制したダイユウサクもいます。

 集団はトウカイテイオーのペースが速いのか縦長、先頭から最後尾までは20馬身ほどであります。

 さぁ一回目のホームストレッチに入りまして、ペースを作るのは未だ先頭トウカイテイオー。4馬身ほど離れてメジロパーマー、更に3馬身ほど離れてボストンキコウシが続きます。

 馬群の中段に見えてきましたのは昨年度天皇賞覇者のメジロマックイーン、1馬身を空けてレオダーバンは各馬を観ながらの競馬となっています。その後ろに続くようにダイユウサクも虎視眈々とチャンスを狙っている。

 先頭トウカイテイオーの1000メートル通過タイムが…61秒台、これは速いぞ!?』

 

 

 嘘でしょう?そう思いました。あのテイオーが、まさかの大逃げを打ったのです。前回のレース、逃げでダートを獲ったとはいえ、いきなり長距離の、この天皇賞で逃げを打つなど誰が考えたでしょう。

 わたくしよりも後ろについて、最後の直線で勝負、そう思っておりました。そうなれば、スタミナ、スピード共にわたくしが有利、と。ですが、こうなってしまうと、ゴールまで展開はわからなくなりました。

 おそらく、今2番手についているパーマーもそうでしょう。彼女は逃げを得意とするウマ娘。きっと面を食らっている事でしょう。私の前後を走るウマ娘達も同じようで、目を見開いています。

 ―――ですが、私のすぐ後ろを行く、彼女達だけは驚いてはおりませんでした。

 

 一人目は、リオナタール。

 

 テイオー、ナイスネイチャ、リオナタール。昨年はこの3人の時代と呼ばれておりました。事実、私もジャパンカップでリオナタールの後塵を拝しております。

 今回、ナイスネイチャさんは足の様子が思わしくないという事で天皇賞は回避されましたが、それでも、テイオーとリオナタールは虎視眈々とトップを狙っているはずです。

 ですが、そんなテイオーの奇抜な作戦を目の当たりにしながらも、リオナタールは一切動じておりません。冷静に、冷静にレースを見ていました。というかむしろ。

 

『トウカイテイオーならこの位はやるだろう』

 

 という、ある意味で絶対の信頼を感じることも出来ました。そして、そんなトウカイテイオーに負けないと言う、自負も。

 

 二人目は、ダイサンゲン。

 

 有マ記念の最終直線を、トップで走り抜けた末脚の持ち主。ただ、周りからはこういわれておりました。

 有マ記念で燃え尽きた、と。しかしどうでしょうか、今の彼女の目。あの有マ記念と同じ目をしておられます。

 

『…トウカイテイオー、マックイーン、リオナタール。競えばいい。競って先に行けばいい。

 ―――私は、最終直線でまとめて切り伏せる』

 

 そう、天皇賞の前のインタビューで答えていた事を思い出します。

 

 …これはもう、うかうかとしては居られませんわね。

 

 天皇賞、春秋制覇こそしましたが、それでも、天皇賞は我がメジロ家の悲願。譲るわけには参りません。

 

 テイオー、リオナタール、ダイサンゲン。――最終直線。この天皇賞の直線で、わたくしのスタミナとスピードに付いてこれるならば、付いてきてみせなさい。

 

 

『向こう正面に入りまして先頭未だにトウカイテイオー。2番手メジロパーマーと続いております。そして4番手に上がってまいりましたメジロマックイーン。ダイサンゲンとリオナタール、カミヤクラシオン、ブレスオウンダンスも良い手応えで上がってきているか。各バ第3コーナーの登りに向かいます。トウカイテイオーのペースはどうだ!?コーナー抜けて…坂を越えてもトウカイテイオーのペースは未だに落ちていない!驚異的なスタミナとパワーだ!』

 

 

 5つ目のコーナーを抜けて6つ目のコーナーへ最速で、そして内側を彼の手綱に合わせて本気で走る。そして自分に言い聞かせる。最速の逃げ馬なのだと。

 

 しかし、この先頭の景色は、なんと心地の良い光景なのだ! 前に誰もいない芝のコース! 実に! 美しい!

 

 そして、6つ目。最後のコーナーを抜けたときに目に飛び込んできたのは、多数の人が押し掛けた観客席と、その目の前で静かに佇むゴールであった。

 手綱が更に扱かれた。ならばと最後の直線、スピードを落とさずに走る。

 

 スタミナはまだ十分にある。しかし、足腰の筋肉は確実に悲鳴をあげつつある。やはり3200メートルを逃げるというのは辛いものなのだ。

 

 200メートルの標識、いつもであれば私がスパートをかける位置に来た。だが私にその余裕は残っていない。

 

 だが、まだだ!歩幅を広くしろ、回転を上げろ。力を入れて、しっかりと蹴り上げろ!最終直線を駆け抜けろ!

 

 先頭でゴールをくぐり抜けられるように!諦めずに!と、そう意気込んだその時である。 

 

 まさに刹那。内側からは葦毛のお馬さんが、外側からはあのピーマン同志が、そして後方からはあの有馬の馬が、土を蹴り上げながら突っ込んできたのだ。

 

 

『最終コーナーを回って先頭はトウカイテイオー!だが!やはり来た来たメジロマックイーン!

 

 既に先頭に立って2馬身3馬身と後続に差をつけているトウカイテイオーだがメジロマックイーンが迫る!おおっとここで大外から、大外からレオダーバン!レオダーバン伸びを見せてメジロマックイーンと並んでトウカイテイオーに迫る!

 

 残り200メートル!トウカイテイオー苦しいか!メジロマックイーンとレオダーバンはどちらも譲らずに伸びる!トウカイテイオー交わされた!トウカイテイオーが交わされた!先頭に立ったのはメジロマックイーンだがレオダーバンもまた外から伸びて来る!後ろからはダイユウサクも伸びを見せているが!

 

 メジロマックイーンと!レオダーバンの一騎打ちだ!!メジロマックイーン!レオダーバン!メジロマックイーン!レオダーバン!内か外か!?わずかにメジロマックイーンか!?

 

 レオダーバンもまた伸びた!?2頭全く並んでのゴールイン!三冠馬トウカイテイオーは僅かに遅れた3着!4着には半馬身差まで追い込んできたダイユウサク!』

 

 

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

「げほっ!げほっ!」

「も…むり…げほっ」

 

 先頭を走り抜けたメジロマックイーンとリオナタール、そしてダイサンゲンは、息も絶え絶えに芝に倒れこんだ。3着でゴールにたどり着いたトウカイテイオーはというと、笑顔を浮かべながら、息を整えて2人を見下ろしている。

 

「いやぁ、負けちゃったー。マックイーンもリオナタールも本当に速いよー。ダイサンゲン先輩も、最後の追い込みでひやっとしちゃった」

 

 平然とそう言うテイオーの言葉に、マックイーンとリオナタール、そしてダイサンゲンは顔を上げて口を開いた。

 

「な、なんで貴女はそんなに平然としているのです…!本気をお出しになったのですか…!?」

「本当よ…このスタミナピーマンお化け…!」

「なんでそんな平然と…やっぱ違うなぁ」

「なにぉう!?ピーマンはリオナタールもでしょ!?うーん、息は大丈夫なんだけどね、脚、もう、がっくがくなんだ。ボクも全力を出し切ったんだ。ほら、これ」

 

 テイオーはそう言って足を一歩前に出そうとしていたが、震えるだけで脚が上がっていなかった。それは、テイオーもマックイーンやリオナタール、そしてダイサンゲンと同じように、全力であったという事であろう。

 

「本気だったのですね」

「うん。―――でもね、ボクは悔しいよ。スタミナは残ってるのに脚が先に来ちゃってたんだもん。新たな課題だなぁ」

「3200を最初から本気で逃げればそうなるわよ。あんたのペース可笑しいもん」

「あはは!だっよねー。でも、ボクだって勝つつもりで全力で逃げたんだもん。抜かれたときに思ったよ。マックイーンにリオナタール。やっぱりすごいやって!」

「テイオーに言われると、嬉しいです。ありがとうございます」

「照れくさいよ。でも、ありがとう」

「あー…私は有マのリベンジしっかり返されちゃったなぁ」

 

 あはは、と笑い合う四人である。しかし、未だに掲示板は審議中の文字が浮かぶ。

 

「…にしても、なかなか着順出ないね?」

「本当ですね。確かに接戦でしたが…」

「後ろから見てたらすごい接戦だったよ。三人ともね」

「いや、本当、最後マックイーンに肉薄できたのは、我ながら奇跡だわ…」

 

 そういうリオナタールに、マックイーンは笑みを浮かべて言の葉を伝えた。

 

「奇跡ではありませんよ。貴女の実力です、リオナタール。誇ってくださいまし」

「うう、マックイーンにそう言われるとすごいこそばい」

 

 と、リオナタールが言った瞬間、観客席から大音声の悲鳴のような歓声が上がった。そして。

 

『なんとなんと!写真判定の結果!優勝は!わずか2センチのハナ差で!

 

 リオナタール(レオダーバン)!!!獅子が帝王と名優を抑えて、盾の栄誉を手に入れたー!!!

 

 2着は名優メジロマックイーン!天皇賞春連覇ならずー!』

 


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