ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマンイズワンダフル!

パンに溶けるチーズを乗っけて、その上のスライスピーマンをたっぷり乗せて
ベーコンを散らしてコショウを振り掛けグリルで5分!

チーズピーマントーストの出来上がり!お好みで塩で味を調整だ!
追い生ピーマンをしてもオッケー!

美味しいですよ!


春の陽気、戦の気配

「くっそおおおおー!なんで最後に動かなくなったんだボクの脚いいいいいい!そりゃそうだよねペース配分間違えたボクのせいだよねえええええええええ!!!ちくしょーーーー!」

 

 切株に向かってそう吠えるトウカイテイオー。しかし、その顔はなぜかせいせいとしていた。

 

「あーすっきりした。マックイーンもここで叫んだのかなぁ…」

 

 叫んだテイオーは、近くのベンチ座り、はちみーをすする。すると、一人のウマ娘がテイオーへと声を掛けた。

 

「テイオーさん、天皇賞3着、おめでとうございます」

 

 クラシックの冠の一つ目、皐月の冠を手に入れたミホノブルボンである。ちなみに、3着というのに皮肉などは一切ない。ブルボンは人づきあいが少々苦手なのである。

 

「んー?ってブルボンじゃん!皐月賞おめでとう!」

「ありがとうございます。坂路の鍛錬のお陰です」

 

 そういって2人は握手を行う。

 

「いやいやー、それほどでもあるかなー?あ、天皇賞ありがとう。もうちょっといけるかと思ったんだけどねぇ…。マックイーンとリオナタールが強すぎてさ」

「…ですが、逃げの姿、しっかりと見させていただきました。学びが多かったです」

 

 ブルボンの表情に、テイオーは笑みを浮かべた。

 

「ん、よろしい。ボクの負けをしっかり糧にしてね。適性的に中距離、しかも普段は後ろで控えるウマ娘でも、鍛えれば逃げてここまで行けるんだって、判ったでしょ?」

「はい。その、ありがとうございます」

「ま、それにボク自身も底が見えたし、いい経験だったよ」

 

 せいせいとした表情の正体はこれであった。自身の底が見えたのならば、更に鍛えることが出来るというもの。伸び悩んでいたテイオーは一つの光明を得たのである。

 と、ブルボンが急にテイオーの耳元へと近づき、小さな声で話を始めた。

 

「…そういえば、テイオーさん。お気づきになられてますか?最近、坂路で…」

 

 その言葉にテイオーは頷いた。

 

「うん。気づいてるよ。彼女でしょ?いやぁ、ボクとブルボンについてくるなんてね」

「ええ、未勝利のウマ娘とは思えません」

「確か同期だったよね?どんな娘なの?」

 

 テイオーの言葉にブルボンは少し手を頬に当てて考える。

 

「…かなりの気性難です。しかも、骨折など怪我も多く、運も少々悪かった、と思います。しかし、素質は私よりも素晴らしいかもしれません」

「ふーん?じゃあ、いつか、色んなものに折り合いがつけられたら化けるかな?」

「…幸い、クラシック戦線で当たる事が無いとは思うので、ほっとはしています」

 

 そのブルボンの言葉に、テイオーは口角を上げ更に口元を隠す、楽しくて仕方がない。そんな笑みをテイオーは浮かべた。

 

「そっかそっか。……いやぁ、ブルボンも、ライスも、そして…そのウマ娘、レリックアースも、実にさ、実にいいよね。―――ボク、来年から始まる君たちのシニアが楽しみだよ」

「あの、少々怖いですよ、テイオーさん」

「え!?そ、そう!?ちょっと会長を真似してみたんだけど…カッコよくなかったかぁ。うーん…じゃ、じゃあこんな感じかな?」

「…テイオーさんは今のままでいいと思います。あと、会長さんの真似はやめておいた方がいいと進言します」

 

 

「…」

「マックイーン?」

「……」

「マックイーンさーん?」

「………」

「あの、マックさん?」

「………………黙っていてくれませんか、ゴールドシップ」

「うい」

 

『天皇賞春連覇ならず!』そう銘打たれた雑誌を手に、メジロマックイーンはスイーツ食べ放題のカフェへと繰り出していた。いつも巻き込む側のゴールドシップは、今日は残念ながら巻き込まれている側だ。

 

「なぁ、なぁマックイーン?せっかくスイーツ食べ放題に来たんだから、そんな難しい顔すんなって」

「…」

「あーもー!!辛気臭い!辛気臭いぞマックイーン!1週間ぐらい放置した牛乳ぐらい辛気臭い!」

「どういう意味ですのそれは!」

 

 そう叫んだマックイーンの口に、モンブランが無理やりに詰め込まれた。

 

「むぐっ!?」

「オメーのそういう態度がだよ!ったく、レースで勝てなかったから凹むのはいいけどよー、せっかくスイーツ食べに来たんだろ?今は美味しく食べろってんだ」

「…むぐ…あ、美味しいモンブランですわね」

「だろー?ったく、雑誌は横に置いておけって」

 

 マックイーンはゴールドシップの言葉に、雑誌を仕舞うと改めてスイーツを食べ始めた。モンブラン、ミルフィーユ、パフェ、ショートケーキ、クッキー、マカロン。次から次へと皿に盛っては無くなり、更に盛っては無くなり。更に更に盛っては無くなり。マックイーンはもう、心行くまでスイーツを楽しんでいた。

 

「太るぞーマックイーン」

「…次走は早くても宝塚記念です。今日は、今日だけは心行くまで楽しみます!」

「やけ食いかー、ま、ほどほどにな?」

「やけ食いもしたくもなります。史上初の連覇…!おばあさまにプレゼント出来るかと思っていたのに!自分が情けないのです!あともう一歩、もう一歩強く踏み込んでいれば!」

 

 マックイーンはそう言いながら強く拳を握りしめた。ほほに生クリームが付いているので少々滑稽に見える。見かねたゴールドシップは、そんなマックの頬から生クリームを指で撫で取って口に入れていた。

 

「クリーム、やっぱ甘いわ。ってマックイーン、一歩踏み込むってそれは無理だったろ。お前もリオナタールも全力で走ってぶっ倒れてたじゃないか。なんだ、全力出し切ってなかったんか?」

「そんなわけないでしょう!全力でした!絞り切りましたとも!」

「じゃあしょうがねーじゃん。全力で競い合ったんだろ?」

 

 ゴールドシップはそう言うと、自分のイチゴをフォークに突き刺して、マックイーンの口へと放り込む。

 

「むぐっ…。確かに、全力で競い合えました。テイオーの逃げに必死に追いついて、ダイサンゲンさんに追いつかれないようにコースを取って、最後、リオナタールさんとは末脚の全力の勝負…勝てはしませんでしたが、全力を出した勝負でした」

「その結果がレコード負け、だろ。リオ、マックイーン、テイオー。3人レコードなんて信じられねぇよ。全く、いいじゃねーか。確かなんだっけ?『全力で競えるライバル』が欲しいとか前に言ってたじゃんか、なぁマックイーン?そう思えば、負けこそしたけどもさ、最高なんじゃないか?」

 

 マックイーンはゴールドシップの言葉に、はっとする。そして、自らのショートケーキを一口含んで、笑みを浮かべていた。

 

「確かに、彼女らは全力を出せるライバルです。ふふ、次のレースが今から楽しみです。次こそは、勝ち取ります」

「お、その調子だぜマックイーン。あ、じゃあ、気分良くなったところで、これ一つ貰いっと!」

「ああっ!?それは食べ放題といっても、本日限定10個の貴重なチーズケーキなのですよ!?せっかく後で食べようと確保しておいたのに!ゴールドシップやめなさい!ゴールドシップ!?あああああー!?」

 

 

「天皇賞おめでとうございます!リオナタールさん!」

「あ、ライス。ありがとう。ライスも皐月賞、良い走りだったよー」

 

 ライスシャワーはその言葉に、少しだけ気まずそうに苦笑を浮かべた。

 

「リオナタールさん、その、すいません…皐月賞。最終コーナーから思うように脚が動かなくなっちゃって…」

 

 あはは、とリオナタールは笑って、ライスシャワーの肩を軽く叩いた。

 

「いーのいーの、気にしない気にしない。私なんか怪我で皐月出れなかったんだから。ライスはちゃんと走り抜けて3着に入着したんだもん。凄いよ!」

「あうう。ありがとうございます」

 

 ライスは嬉しそうだ。リオナタールは更に笑みを強くして、言葉を続ける。

 

「ライブちゃんと見たからねー? 可愛く出来てたじゃん。教えた甲斐があったよ!」

「え!?見に来てたんですか!?」

「そりゃあ、可愛い妹分だもん」

「あうう、ありがとうございます」

 

 ふと、笑みを浮かべていたリオナタールの表情が引き締まる。

 

「さてと、ま、ダービーまで時間は無いけど、これからも一層厳しくいくよ?テイオーの弟子であるミホノブルボン、彼女に追いつくんでしょ?」

「…うん。ブルボンさんに追いつきたい。だから、頑張ります!」

「うん、その調子だよ。じゃ、さっそく。軽く坂路6本ぐらいいこーかー?」

「ひぇええ!?」

 

 悲鳴をあげるライスシャワーを横目に、リオナタールは笑顔を浮かべて練習場へと消えていった。一人残されたライスシャワーは、拳を小さく握ると、自分の胸へと当てる。

 

「…今はブルボンさん、でも、リオナタールとテイオーさんにも、絶対、追いつく。ううん、いつか、いつか絶対に追い越してみせる…!あ、でも、ピーマンは…うーん…」

 

 もっしゃもっしゃ。

 

 もっしゃもっしゃ。

 

 私とピーマン同志の咀嚼音が響く厩舎は、実にゆるい空気が流れていた。いやはや、最後の最後、葦毛の馬とピーマン同志に抜かれてしまうとは思わなかった。

 最後なんとか体を重ねてゴールをしたものの、どう見ても3着である。ちなみ4着には有馬のお馬さんが滑り込んでいた。結局どちらが一位だったのであろうか。

 流石に今回は疲れたので、厩舎に戻って眠りこけていたら2頭とも戻ってきていたので、結果を知る事は叶っていない。

 

 それにしても、いやー、みんなかなり強かった。それに3200メートルの距離の壁は実に分厚いものであった。

 

 ただ、最後に彼に首を叩かれ『よく逃げた』といった感じでおほめを頂いた気もしている。それが証拠に本日のレース後のピーマンは3杯だ。勝利時ぐらいの量である。ちなみに同志は4杯目を食っている。というか、私よりも食べていないか?いやはや、すごい食欲である。

 なお、今回の私は脚に結構きてしまっている。まぁ、3200メートルを全力で走ったのだから仕方がないとも言える。坂路鍛錬で10本は走っているから大丈夫だという自負があったのだが、やはり甘かったと言わざるを得まい。

 というのも、坂路鍛錬の片道は感覚で言うと1000メートル。10往復こそしてはいるが、つまり、1キロ走ってちょっと息を挟んで1キロ走って、を続けているわけなのだ。

 3000メートル超えを一息で走る体験は初めてであり、つまりペース配分が無茶だったのだ。しかも普段は最終直線前から追い込んでいくのが私のスタイルだったわけで、慣れないことをしているからこそ、最後の最後に脚に来てしまったのだと思う。というかそう思いたい。というのも、私の、馬としての距離適性。それが長距離ではないと言われてしまっては少し悲しいのだ。

 

 ま、とはいっても坂路をしっかりと熟してプールで潜水することは変わらない。その上で何か足腰の筋肉を鍛え上げる…事はちょっと難しいか。まぁ、とはいえ、鍛錬方法や私の適性などは、私の世話をしている人間や彼が考える事であろうし、私は真面目に鍛錬を行うだけである。今日の所はピーマンを食らう事で勘弁してやろう。

 

 あ、そういえばそろそろ鉢植えのピーマンなど頂けないであろうか。天皇賞(春)が終わったという事は、そろそろ初夏に近づいてくるという事である。鉢植えのピーマンの青臭さと苦さが非常に楽しみなのだ。

 

 

 

「お疲れ様です。作戦通りでしたね」

「いやー…もうちょっと粘ると思ったんだけどね、申し訳ない」

「いやいや、オーナーと調教師のオーダー通りです。私じゃ出来なかったですよ」

「そう言ってもらえると嬉しいね。しかし、ゴール直後でも息がそんなに上がってなかったから、やっぱりスタミナは半端ないね」

「あはは、確か坂路2桁でしたっけ?」

 

「うん。毎日のようにね。逆にそれだけ熟しているのに突出出来ないのが不思議なんだ」

 

「うーん…確かに。先々週でしたっけ?こいつに並走しているミホノブルボンなんか、皐月で滅茶苦茶強かったんですが、それに比べるとぱっとしませんよね」

「荒唐無稽かもしれないけれど、ルドルフは相手を見て力を調整していたと今でも思っているんだ。相手が弱いとみるや、本気を出さなかった」

「ああ、噂は聞いたことがあります。全然本気じゃなかったとか、色々と」

 

「その子供、だろう?もしかすると、今まで一度も本気で走ってないのかもしれないな」

「ええ!?そんな馬鹿な…」

 

 

「作戦通りではあったが、負けたなぁ」

「仕方ないですよ。レオダーバンの勝ち時計が3分18秒ジャストで、天皇賞レコードでしたから」

「テイオーもタイムそのものは18秒5で、昨年のマックイーンを超していたんだがな」

「強かったです。レオダーバンもメジロマックイーンも。追い込んできたダイユウサクも驚きましたよ」

「ま、気を落とすなよ。なにより今回のレースは試金石だ」

 

「判ってます。なによりあいつの底が見えたのは大きな収穫です」

 

「その意気だ。で、次はどうする?宝塚に推されてはいるが」

「宝塚は避けます。その代わりに…これに出ようかと」

「…ほう?ああ、あいつにはぴったりのレースかもな」

 

「そうでしょう?パリに飛ぶ前には最高かと思いまして」

 


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