ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ぴめんと

ピーマン焼酎。基本的には麦。香りづけにピーマンが使用されている感じです。

ぶっちゃけ飲みやすい。香りが爽やかで実にピーマン。

ピーマン齧りながら飲むと実にまた旨い。

ピーマンイズワンダフルです。


PIMENTO

 しゃりしゃりと口に広がる青臭さ。そして青臭さの中に感じる苦味と旨味。噛んでいるうちにふっと感じる野菜としての甘さ。これらが合わさって実にピーマンらしい旨味を醸し出している。

 

 もぐ前食いさながらの新鮮なピーマンである。いやはや、やはり露地栽培のピーマン、特にこう、丁寧に育てられているピーマンは実に旨いというものである。人間達に感謝だ。

 

 さて、グレード3、おそらく北海道のレースを勝利したわけであるが、あの翌日にまたもや長時間の移動を経て、いつもの牧場へと戻ってきていた。ただ、少し気になったのは、いつもの表彰的な所で、グレード3だったのにも関わらず、グレード1と同じぐらいの人がいたことである。私自身は特に気づきはしなかったが、何か注目されることをしたのであろうか。確かに何レースかぶりの勝利ではあったので、それで祝い、ということなのだろうか。

 

 一瞬、私自身の引退レース?とも思ったが、今日も今日とて坂路をすっ飛ばし、プールで潜水をして鍛錬を続けているので、そういうわけでもないらしい。

 

 しかし、こちらの芝のコースを走って判ったのだが、やはりあの北海道の芝の方が走りやすいのだ。こちらの芝は確かに硬い床の様に力を返してくるので、一見スピードが出しやすい。しかし、私の場合、最後に踏ん張る時に反発力のせいか、どうも力が逃げている様な気がするのである。しかも、その反発力が脚に悪い事が判り切っているので、私の中でどうしても無意識的に力を抑えてしまう。あの北海道の柔らかめの芝を走ったからか、余計に理性も合わせて力を抑えてしまう気もしている。

 

 まぁ、とはいえ、坂路や併せ馬の一部コースは木のチップでしっかりと衝撃を吸収してくれるためか、個人的には思いっきり走れるので何も問題はないのである。

 

 あとは最近ではあるが、取材陣やら、あとは他の厩舎の人間らしき人がやたらめったらと私の厩舎を訪れるようになっている。体感としては、クラシック三冠の時の倍以上は間違いなく居る。

 

 坂路をすっ飛ばせば歓声が上がり、潜水をすれば驚きの声が上がり、併せ馬をすればまた歓声が上がり、ピーマンを食うとなぜか笑いが起きる。そのぐらい、私は最近人に囲まれている。気分としてはゴルフのギャラリーを引き連れている感じであろう。いやはや、私がまだ元人間だから良いモノの、これが他の神経質なお馬さんだったら体調崩してるぞ、と思いながらも、個人的に注目されるのは嫌いではない、むしろ気分が良い。何せこれほどの人に注目されるなど、記憶のある限りではこれが初めてなのである。今日ぐらいは天狗になっても良いであろう。

 

 ということで今日は気合を入れて坂路を12本…行こうと思ったのだが、10本目で手綱を思いっきり曳かれて止められてしまった。実に世知辛いものである。

 

 

 あくる日。もっしゃもっしゃとバケツでピーマンを食っていると、なんと、あのピーマン同志が隣の厩舎へとやってきたのである。

 

『あれ。お久』

 

 そう同志からニュアンスを感じ、ちらりと目をやってみれば、あちらさんも出されたピーマンをもっしゃもっしゃと食っていた。

 

『どもども』

 

 私もそう簡単に挨拶をしながら、ピーマンを食らう。

 

『他のやつらコレ食わない。お前判ってる』

『だよな?いや、君も流石だ』 

 

 互いのしゃりしゃりというピーマンを食う音が響く厩舎。実に心地よいものである。しかし、やはり私よりも食う量が間違いなく多い。というか、体も私より大きくなっている様な気がする。ふむ、ピーマンのお陰か?まぁ、そんなわけはないか。ピーマンを食ってるだけで成績が上がって、しかも何か副次効果があるなんて馬鹿げた話はあるわけがない。

 

 飯の後は坂路とプールの鍛錬が私のルーチンワークなわけであるが、なんと、同志も私と同じメニューを繰り返している。というか、こちらに来てから毎日隣にいる。

 

 プールを泳げば後ろから付いてくる。坂路を走れば横にいる。併せ馬ではお互いに抜かせまいと本気で競い、そして同じピーマンを食う。同じ釜の飯、というわけではないが、何か妙な信頼感が産まれつつある感じだ。あちらさんも同じようで、日々、ニュアンスを投げかけてくる。

 

『お前速い。なぜ』

『なんか走り方違う。なぜ』

『疲れないの?』

 

 などなど。特に坂路では、私が10本以上行こうとする様を見て。

 

『おかしい。おかしい。おかしい。おかしい』

 

 と、ものすごい剣幕で気持ちを伝えられた。おかしいとニュアンスを伝えられても、私が産まれてこのかたずっとやっている事なので。

 

『普通』

 

 とニュアンスを答えた所。

 

『おかしい…』

 

 そうニュアンスを伝えて、同志はそっぽを向いてしまった。ううむ、この練習量は同じ馬から見てもおかしいものだったのか。そう初めて自覚したのはこの時である。そう自覚すれば、そこからは早かった。

 

―そういえば、他の馬、坂路は多くても4本ぐらいだったなぁ―

 

 とか

 

―プールで潜ってる馬、見たことないなぁ―

 

 とか

 

―芝とダート、両方で鍛錬している馬、いないなぁ―

 

 とか。同志と走っていると、実に新たな気づきが芽生えた。いやはや、今まで、当たり前と思っていたことだったのだが、なるほど、なかなか私は風変わりな事をしているらしい。ま、風変わりと判ったとしても、変えるつもりはさらさらないのである。

 

 そう、風変わりだといっても、やはり何と言っても、鍛錬こそ正義である。一歩一歩、確実に鍛錬を積むことこそ、最終目的への最短ルートと申しますので。

 

 ということで、今日も同志の疑問の目をスルーしつつ、坂路をすっ飛ばすわけである。まぁ、10往復ぐらいで勘弁してやろう。ああ、ただ、同志も同志で7往復ぐらいまでやっているので、『おかしい』と言っている君も『おかしい』馬なのだぞ?と伝えたいのだが、残念ながらニュアンスでは伝わらないようである。まぁ、確かに、天皇賞の追い込みを見ていれば納得の練習量であると言えよう。

 

 そういえば天皇賞と言えば、あの葦毛のお馬さんを最近坂路で見ていない。大体坂路ですっ飛ばしているはずなのであるが。どうしたのであろうか。ケガなどしてなければいいのであるが。

 

 

 北海道のレースから一カ月ぐらい経った。昼間の太陽はじりじりと芝を焼き、夜の風は実に生温い。

 

 最近、なぜか周囲が慌ただしい。オーナーは連日私の厩舎に来るわ、取材陣も代わる代わる来るわ、同志の世話をしている人間も忙しなく動いてるわ、落ち着きがない。

 

 まぁ、とはいえ、我々ピーマン同盟は日々ピーマンを食って鍛錬することぐらいしか出来ないのである。そんな風にのんびりと構えていたわけであるが、ある日、急に人々の我々に対する扱いが妙に丁寧になったのである。

 

 まず、厩舎が今までの厩舎ではなくなった。同志も同じように移動したが、同志の厩舎とは少々離されてしまっている。そして、練習量も明らかに減ってしまった。つまり、缶詰に近い状態にされているのである。しかも、私が移動する前と後に、入念に清掃もされているようで、いつもの厩舎以上に清潔になっているのだ。更には、今までは要所要所で行われていた血液検査も、ほぼ連日のように行われている。まぁ、別に痛くもかゆくもないのであるが、ただ、遠くから。

 

『なにそれ…痛!?』

 

 と、同志のニュアンスが伝わって来るので、どうやら同志的にはこの生活は辛そうである。

 更に、今までは無かったことなのであるが、私の移動した先を色々と記録している様なのだ。厩舎に入ってメモ、練習場についてメモ、飯を食べてメモ。こういった具合に、私の記録を逐次行っている。うーん、なんというか、神経質なお馬さんであったら嫌であろうなぁ。ま、私としては問題は無い。

 

 ただ、最近またパプリカを食わされた。ニンジンを克服できたからもしれないが、多少、前よりは美味しく頂けるようになっていた事に我ながら驚きを隠せない。ただ、2~3個ならいいが、ピーマンの様にバケツ一杯で、というと話は別である。

 

 何度も言うが、ピーマンとパプリカは別物である。パプリカは甘い。ピーマンは苦青旨いなのだ。チンジャオロースが甘いパプリカで作られていたら誰だって面を食らうと思う。小麦粉は一緒だから薄力粉でパンを作ろう!と言っている様なものなのだ。薄力粉のパンも不味くはないが強力粉ほどのパンではない。話が逸れたが、ようは適材適所であるわけだ。

 

 ちなみに、同志も以前パプリカを食っていたが、1つ食って『ぺっ』としていた。気持ちは判る。

 

 それにしても、この缶詰生活はいつまで続くのであろうか。もうすでに3~4日は経っていると思うのだが、未だに解放される雰囲気がない。というか、そもそも缶詰にされる理由が不明なのだ。怪我をしているわけでもないし、かといって何か問題を起こしたわけでもない。うーむ、実に謎である。

 

 

 謎が解けた。

 

 缶詰生活をして約10日後の事である。

 

 いつもの移動車が厩舎に付けられた。久しぶりに同志と顔を合わせつつも、私と彼は車に乗せられて移動したのである。最初は、これだけ私たちを缶詰にしたわけだから、どれだけのレースなのだろうか?などと気楽に考えていたのであるが、車を降ろされて実に驚いた。

 

 なんせ、目の前にジェット機が鎮座していたからである。

 

『…なにこれ。怖い』

 

 そうニュアンスを伝えて来た同志であるが、私も割とそれどころではなかった。今までの出来事が繋がったからだ。

 

 そう、10日間の缶詰、つまり隔離。毎日のように血液検査に注射。そしてレースの移動車に乗せられてきてみれば、目の前には飛行機。そして私はれっきとした競走馬。これから導き出される答えは一つしかない。

 

 海外遠征、国外でレースを走るんだ、私は!同志も!

 

 でも、はたして私たちはどこの国に行くのであろうか?今の時代、1990年代前半という事を考えると、海外遠征をした馬と言うのは少なかったように感じたのだが…少々不安である。

 

 というか、そもそもだ、海外でもピーマンって食えるのか?

 

 いや、むしろ無いと困るのだ。私は、ピーマンが大好きなのである。

 

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