ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ぴめんと!(挨拶)

本日の料理は、あの森田さんお勧め。材料はこう!

◎ピーマン 4~5個
〇醤油 大さじ1
〇みりん 大さじ1
〇酒 大さじ1
〇和風顆粒だし 小さじ1
〇水 50ml
△かつおぶし お好み

作り方は簡単。ピーマンを6等分にして油で炒めて、焼き目が付いたら調味料をぶち込んで1~2分お好みで煮込むだけでございます。米が止まらんですよ。


パプリカはピーマンではない

 

 ドナドナとはこういう気分であるのであろうか。

 

 おそらく成田空港…である場所で、私は見事に箱に詰められていた。とはいっても顔は出せるので、圧迫感は無い。ただ、同志は非常に窮屈らしく、出たい出たいとニュアンスを伝えてきている。とはいえ、明らかに空輸なわけで、変に開放的に空輸されるよりは箱に入れられた方が安心なわけなので、我慢せねばならないのは明白である。ただまぁ、私は問題ないが、馬である同志には強く生きていただきたいものだ。

 なお、飛行機に搬入…いや、搬入とすると完全に荷物になった気分になるので、搭乗と言っておこう。そう、搭乗するときに、ちらっとピーマンっぽい野菜の箱も数箱見えた。うーむ、向こうでの我々の食料であろうか。というか、こちらから箱で持って行かなければならない、ということは、海外のレース先ではピーマンが無いという事であろうか。少々不安が募る。

 

 特に、私は最悪ピーマンが無くても、まぁ我慢は出来る。欲しいは欲しいが、そもそも最初の頃は無くても良かったのであるからね。ただ、モチベーションは間違いなく下がる。こればっかりはどうにもならない。

 問題は同志だ。彼は私の様な元人間ではないであろう。つまり、馬の本能で生きている馬なのである。となると、好物のピーマンが無いというだけで人の言う事を全く聞かなくなる可能性だってあるし、レースでは凡走どころか走らない可能性だって出て来るのだ。まぁ、とはいえ、調教師などの人間がなんとか手配はしているのだろうが。ただ、もしピーマンの量が足らなかった場合は、私よりもピーマン同志に差し上げてほしいなとは思う。

 

 おっと…そろそろ離陸であろうか、エンジンの音が大きく…いや、これは、大きくどころではない。ものすごく煩い。やはり人間よりも聴覚が良いのか、いやもうものすごく、ものすごく煩い。え、待ってほしい、このうるささの中で何時間も?同志なんかもう悲鳴上げてるぞ?え、ちょ、おおっ!?体が後ろに引っ張られて…。って隣から同志のニュアンスが…!?

 

 『いやだああああああああ』

 

 同志もうるさいぞ!?

 

 

 いやな事件でしたね。と言うには少々長い時間であった。飛行機で移動する事暫く、なかなかの衝撃で着地をした飛行機から降ろされた私を待っていたのは、全くもって見覚えのない異国の地であった。うーん…正直何の国だかの情報が一切ない。

 ただ、空港の形はなかなかに特徴的で、日本の様に直線的な建物ではなく、円形の建物の周りに駐機場がある感じである。なんというか、非常にオシャレである。

 

 ふと、駐機場の飛行機を見たときにAIR…FRANCE…と見ることが出来た。

 

 …え?もしかして、エールフランスか?ということは、エールフランスの飛行機が来ている国ということか?うーむ…絞り切れないな。あ、しかもあの特徴的な機体。コンコルドじゃないか。ええと…コンコルドがまだ現役で飛んでいるという事は、まぁ、やはり、1990年代であることは間違いないとして、確か定期便でとなると結構国が絞られるような気もする。

 ま、とはいえ、飛行機に特別詳しくは無いので、私が出来る事はここまでである。

 しかし生のコンコルドを見るのが馬になってからとは、なかなか数奇な運命である。たしか、あの名前は日本語で言うところの「調和」であったはずだ。うむ、何かの縁であるし、こちらの国でもうまい事、人間達と「調和」をもってレースに挑めればいいなと願掛けをしておこう。

 

 まぁ、それはそうとして同志よ。そろそろ顔を上げないか。大丈夫、大丈夫だ。ピーマンと新たな大地はここにあるぞ。

 

 

 数日間の検疫、まぁ、血液検査に注射、あとは隔離であるが、を過ごした後に、私と同志はこれから暫くを過ごすであろう厩舎にて、体を休めていた。

 私としてはすぐに走り出したいのであるが、しかし同志が完全にグロッキーである。

 

『だっる…』

 

 いつ見てもそんなニュアンスしか返ってこない。ただまぁ、ピーマンはしっかり食っているのでそのうち復活するであろう。

 

 ただ、私と同志がピーマンをがっつり食っている様を見て、おそらく外国人らしき人が、思いっきり驚いていたことと、いつもの世話をしている人間が、恐ろしい剣幕で何かを説明していた事がすごく気になるのである。

 

 なんであろうか。

 

『ウマがピーマン食うわけないだろーHAHAHAHA』

 

 とか言ってて。

 

『ほんとに食ってるよCRAZY…』

 

 的に驚いて。

 

『わかったらさっさと集めて来いよ!』

 

 とめっちゃ怒られて、駆け足で集めにいった、という風にも感じたのであるが、まぁ、そんなことはないか。

 まぁ、幸いにしてピーマンの箱は2箱残って…いや、2箱か。何々…『10kg』という文字は見てとれるから…うーむ、どのぐらいだ?私が食っている量は。バケツ一杯がどのぐらいかは正直不明であるが、ただ、毎日バケツを一杯、そして同志は二杯食っているわけなので、箱2つ、『20キロ』のピーマンだけでは数日しか持たないのでは?そう思って人間を見てみるが、まぁ何も伝わるわけがない。ただ、いつもであればピーマンを差し出して撫でてくれる人間が、ピーマンを差し出さずに撫でて来たので、これはもしかするとピーマンが足りないのかもしれない。

 

 …え?そう考えてしまうと、これは結構ピンチでは?

 

 おそらく同志もレースを走るのであろう。ただ、どうにもピーマンがないせいで走らなかったらと考えると…ううん、まぁ、考えるのはよそう。私は馬である。そんな兵糧の事なんて考えている暇などはないのである。

 

 ああ、もっしゃもっしゃと食うピーマンが実に旨い。心が安らぐというものだ。

 

 

 あれから数日後。私はなぜか同志と共に、森の中を歩かされていた。厩舎を出て、早速鍛錬か? などと考えていたのだが、いったいどういう事なのであろう。いやしかし、なんというか自然一杯の森である。なんというかメルヘンチックというか。日本の森というと、こう、藪! のようなイメージがあるが、こちらは自然を活かし、それでいてしっかりと道がある感じで歩いていて妙に楽しい。

 しいて言えば管理されている森林キャンプ場の様な感じである。未舗装路、しかし先が見えない道、天を見れば木の葉と青空。非常にリフレッシュできる空間だ。

 

『きもちいい』

 

 同志もそんなニュアンスを振りまきながらも、私の後ろを付いてきている。そういえば同志と言えば、昨日の晩であるが、どうやらピーマンの中にパプリカが交ざっていたようで。

 

『これ違う!』

 

 とパプリカを地面に叩きつけて荒れていた。いや、あの時は壁を一枚挟んでいるとはいえ、どうしようかと思ったぐらいの荒れ具合であった。蹄はカチカチ鳴らすし、鼻息は荒いしでそれはもう、まさに暴れ馬という言葉がぴったりなほどであった。

 ただ、その後ピーマンをしっかり頂いてから寝ていたので、まぁ、明日になれば機嫌を直してくれるだろうなと思っていたのだが、その通りになってよかったよかった。

 

 頼むから同志にはパプリカをやらんでくれ。な?

 

 そう意味を込めて、手綱を曳いているいつもの人間に目をやるが、まぁ、伝わらない。願うだけである。

 

 などと考えていたら、目の前が急に開けた。と、同時に、曳かれていた手綱を外されて、首を2回ほど叩かれた。ふむ。つまり、この目の前の開けた…向こうまで続くこの長い直線を走るわけか。なるほど、これはなかなかに面白そうである。

 

 坂路とはまた違うものの、しかし、自然の地形を利用しているのか、微妙にアップダウンが付いているものすごく長い直線である。

 

 気づけば同志も鍛錬の様相で、さっと私の隣に陣取っていた。

 

 いやしかし、この直線コースは明らかに日本の坂路よりも長い。ゴールが全く見えないほどである。足元は…ダートっぽいが、微妙に日本のダートとも違うような感じである。正確に言うと、日本の砂がよく手入れされた砂場と言った感じで、こちらは砂浜などの手入れが余りされていない、天然の砂場といった具合だ。もちろん走りやすそうなのは日本の砂である。

 

 足元に蹄を突き入れて、砂の感触を確認していると、私の上の彼から『行くぞ』と手綱を動かされた。ただ、大きくは動かされていないので、まずは様子見と言ったところであろうか。同志の上の人間も、同じような動きである。

 それならば、軽く走ってみよう。そう思って地面を蹴る。ふむ…やはり少しばかり砂にムラがあるというか…密度が均一ではない感じがする。だが、これはこれで面白い。

 

 レースがいつになるのか。そして、外国のお馬さん相手にどこまでやれるか、全く判らないが、しっかりと鍛錬を積むことにしよう。

 

 

 

「いやぁ…驚いてましたね。彼ら」

「ああ。『本当に馬がめっちゃピーマン食ってやがる!?』だもんな」

「ええ。私に『ピーマンなんてないよ』と言ったのは、馬が食うわけないって思っていたからだなんて…なんというか、呆れます」

「仕方ないだろ。考えてみろ、もしこいつを知らない状態で、外国から馬を受け入れるときに『ピーマンを毎日10キロは欲しいです!』なんて言われてみろ。は?いや、何を言ってるのですかって返すぞ」

「まぁ、確かに」

「でもま、これでピーマンが手に入りそうなんだ。いいじゃないか」

「いや、それがそうでもないらしいんですよね」

「そうなのか?」

「ええ。やはりこちらではパプリカが主らしいんです。よくよく聞いてみれば、こちらでは消化に悪いから皮を剥く、というのが文化らしくて、肉厚のパプリカが好まれると」

「ああ。確かにピーマンの皮を剥こう、と言っても、ピーマンの皮剥いたら食うところ無いよなぁ」

「でしょう。だから『日本で言うピーマン』というものを専門で作っている『ピーマン農家』はやっぱり少ないらしくて、どかんと量は準備できないらしいんです」

「なるほどなぁ。ま、なんとかかき集めてもらうしかない、か…そういえば、こちらではピーマンは何というんだ?」

 

「ポワブロン、ですね。ちなみにパプリカもポワブロンです。つまり日本で言う()()()()()()()()()()()()も、こちらでは()()()()()()()になりまして…」

 

「…なんて厄介な。うーむ、せめて日本からのピーマンの検疫と税関の許可が下りればな」

「飼料用とは言ったんですが、最初の一便以外は断られましたしね。まぁ、ピーマンの一件は税関の人間も一緒にいたので、それがどう出るか、ですね」

 


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