ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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道の駅でめっちゃ緑色の濃いピーマンを見つけまして、買いました。

いやはや、実に苦くて青臭くて最高でした。

麦酒、ピーマン、チーズ、ピーマンと止まりませんでした。

つまり、ピーマンイズワンダフルです。


ピーマンとパプリカ

「じゃ、また有マでね。リオナタール」

「うん。またねテイオー。しっかしあんた滅茶苦茶速かった。あんな末脚、どこに隠してたの?」

「ふっふーん、内緒!最強無敵のテイオー様は、ここ一番では絶対に負けないのだ!」

「えー?去年の有マと今年の天皇賞はあっさり負けたじゃない」

「うっ…それは言わないお約束だよ、リオナタールー」

「あはは!でもね、今度の有。私が勝つから」

「ん。それはこっちのセリフ」

 

「スボティカもありがとうね。まさか、winning the soulを一緒に歌ってもらえるなんて思わなかったよ」

「ん、気にしない。私だってプロ。どんな歌でも歌ってみせるさ」

「滅茶苦茶様になってたもんね。いやー、長い手足が羨ましい」

「そうか。ありがとう。いやしかし、歌詞の意味を知ると熱い歌だ。フランスにはないタイプの曲だったよ。いい経験になったさ。と、それはそうと。今度のジャパンカップ、私とユーザーフレンドリー、出るからよろしく頼むよ」

「え?そうなの?」

「え!?」

「確か、2人は出ないのだったね。直接リベンジ出来ないのが悔しいが、それでも、凱旋門のリベンジに日本の冠はしっかりと頂きに行くよ。君達が居ないレースならば、きっと楽だろうからね」

 

 そう言ってスボティカはウインクをテイオーに投げていた。それを受けたテイオーは、笑いながら口を開いた。

 

「あはは、そこはボク、心配してないから大丈夫。―――ナイスネイチャ。彼女が君たちを迎え撃つから」

「そーそー。私達の最終兵器よ。大きく勝ってこそはいないけど、油断していると、足を掬われるよー?」

「そうか。ナイスネイチャ…覚えておこう。実に、私達も楽しみだよ。ああ、あとテイオー」

「ん?なぁに?」

「今度はアメリカに飛ぶのだろう?――我々に勝ったんだ。ダートだろうが、アメリカのウマ娘に負けることは許されないからな」

「当然。ボクは、最強無敵のテイオー様だよ?芝も砂も、ボクの庭さ」

「それはそれは…。心強い言葉だよ」

 

 

 のんびりと空の旅を楽しんだ訳であるが、どうやら、私が降りた地は日本ではないようである。…なんで?おかしい。凱旋門賞の後は日本に帰るのではなかったのか。ええー…日本に帰れると楽しみにしていたのに。巨大な空港であっけに取られながら運ばれていると、明らかに日の丸ではない国旗が見えたのだ。

 

 明らかに、明らかにあの縞と星のマークは!圧倒的に合衆国!ユナイテッドステーツ!明らかに、ここはアメリカである!

 

 ええー!?アメリカ…!?え?ええ?なんで?どうして?日本は!?ジャパンカップとか有馬記念とかは!?あれー!?

 

 ええと、ちょっと整理しよう。凱旋門って確か10月頭だったと思う。思うのだ。で、一週間もたたないうちにアメリカに飛んできたわけで、という事は、アメリカでのレースが近いという事か? ええー!? アメリカのレース!?

 

 何だ、アメリカのレースって。アメリカのレース…アメリカのレース…?あれ、というか、まずそもそもだ。私の記憶が正しければ、アメリカの競馬って芝というよりはダートがメインではなかったか?確かに、私はダートも走れるが…。ううむ、全くもって何のレースに出るのかは予想が出来ない。

 あ…『Miami』と空港に書いてある。マイアミ…。ここ、フロリダ州のマイアミ!?あの砂浜と青い海が印象的なマイアミ!?わ、それはすごい見てみたい。見てみたいのだが、流石に馬だから海岸は行けないか。確かに周囲をよーくみてみるとヤシっぽい葉っぱの木が植えてあるし、そしてフランスより滅茶苦茶暑い。湿度もなかなか高い。日本の夏みたいである。

 

 いやしかし、マイアミかぁ…。んー…妙に懐かしい感じもするが、既視感という奴であろうか。まぁ、日本にもヤシの木はあるし、気のせいであろう。

 

 そうやって考えが頭の中で右往左往しているうちに、気づけば車に乗せられ、空港からはあっという間におさらばと相成った。さて、私は今度は一体どこに連れていかれるのであろうか?フランスの時の様に、森の中にある訓練場であろうか。それとも、日本の様に整備された牧場で訓練を行うのであろうか。はてさて、お立合いである。

 

 

 車に乗せて連れられて来たのは、まさかのレース場であった。ええ?まさか、アメリカ到着直後にレースか?と思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。というのも、初日はともかくとして、2日目もまだ厩舎の中でのんびり出来ているからである。普通であれば、レース場に来ての2日目、というのは既にレースに出ているスケジュールなのだ。

 

 どういうことだろうと頭を働かせながらも、とりあえずは目の前のピーマン…と、おそらく緑のパプリカを食らう。ピーマンは日本のいつものピーマンである。しかし、この緑色のでかいピーマンは、苦みがなく、少し甘いのでおそらくはパプリカであろう。ただ、フランスのパプリカとは何か違うようで、結構違和感なく食えている。なんというか、食いなれているというか。先ほどの既視感といい、私はどうやらアメリカと相性が良いらしい。

 ということで、ピーマン、パプリカ、野菜、牧草、水と三角食いならぬ五角食いで飯を食らう。

 

 もっしゃもっしゃとピーマンを食っていると、ふと、隣からも、もっしゃもっしゃと音が聞こえて来た。

 

『旨い。旨い。もっと。旨い』

 

 なかなかのニュアンスを添えて咀嚼するお隣さん。はて?と思ってそちらを覗いてみると、何と、私と同じようにバケツからピーマンらしき何かを食っているお馬さんがいた。そして私と比べても、その体は結構大きい。流石アメリカである。サイズも、食い方もアメリカンなお馬さんである。すると、こちらに気づいたようで、ちらりと横目で見られてから。

 

『…やぁ』

 

 そんなニュアンスを受け取った。

 

『ども。おすそ分け』

 

 挨拶を返しつつ、すかさずこちらからはピーマンを差し上げる。

 

『…こいつとは少し違う、小さい?』

 

 そう疑問をニュアンスに乗せつつ、そのアメリカンなお馬さんは私のピーマンを受け取り、しっかりと食った。

 

『…苦い、味、濃い。悪くない。もっと』

『だろう?ほれ』

 

 そうニュアンスを伝えながらバケツをそのままお馬さんに渡すと、これまた勢いよくバケツからピーマンを食い始めた。

 よし、ピーマン同志3号ゲット。レオダーバン同志2号はどうやらここには居ないようだし、この未開の地でお仲間を作れたのは幸先の良いスタートであると言えよう。…ん?よく見れば、アメリカンのお馬さんの厩舎に名札があるじゃないか。しかもだ、私が読めるアルファベットで書かれている。流石アメリカである。

 

 ええと…なになに。『A.P. Indy』。エー、ピー、インディ?

 

 あれ!?このアメリカンなお馬さん、エーピーインディ!?

 

 エーピーインディと言えば、確か、アメリカの競馬史に残るかなり有名なお馬さんだったと記憶している。しかも、その子もかなりの活躍を見せているお馬さんのはず。しかもだ、確かこのエーピーインディの親は『シアトルスルー』というアメリカのお馬さんである。

 

 そうなのだ。私がこのエーピーインディを記憶していた最大の理由は、親が『シアトルスルー』だからなのである。

 

 何を隠そう、『シアトルスルー』は、アメリカ競馬史における、『初の無敗でのアメリカクラシック三冠を成し遂げた馬』なのだ。

 

 そう。シンボリルドルフと同じように、『初の無敗での日本三冠を成し遂げた馬』と同じように、『その国での初の無敗の三冠馬』なのである。

 

 二足歩行で生活していた頃、競馬に興味があり様々調べたときに、トウカイテイオーの親と、エーピーインディの親は似たような馬なのだなと、そう驚いたことが今でも印象に残っていたのである。ちなみにであるが、日本でも産駒が活躍していて、直系の子であれば「タイキブリザード」がいるし、母父としては、かの有名な「ヒシアケボノ」や「カワカミプリンセス」を輩出していたりする、まさに種馬としても名馬なのである。

 

 ――そして直感だ。ああ、直感だ。根拠など無いとも。しかし、『私は、このエーピーインディと雌雄を決する』。そう、本能が吠えた。

 

 何よりもだ。こいつもピーマンを食っている。しかも日本のピーマンを旨いと言った。だがしかし、お前のそれは私から言わせればパプリカなのだ。パプリカを旨い旨いと食っている奴に負けるほど、私とピーマンは甘くはないのである。

 

 とはいっても、実際、レースをするかは判らない。息まいても仕方があるまい。ただ、こんな所で出会ったのも何かの縁だ。できれば、無敗の三冠馬を親に持つもの同士、雌雄を決してみたいものである。

 

 

「やあ、ブライアン。少々時間をくれないかな」

「なんだ、藪から棒に」

「まぁ、少々ね」

「ま、時間はあるが。どうしたというんだ。ルドルフ」

「なに、併走相手になってほしいと思ってね」

 

「あんたの?…まぁ、願ってもない事だが。あんたからそんなことを言うなんて珍しいじゃないか」

 

「ああ、まぁ、そうだね。少し、本気を出したい相手が出来たものでね。ブライアン、君の『勝利への渇望』という想いと同じ部類の物だと思っていい」

「…ほう?それはまたどういう風の吹き回しだ?」

「最近、凱旋門賞を獲った娘がいるだろう?」

「…ああ、いるな。でも、まだ奴はトゥインクルシリーズだろう?気が早いんじゃないか?」

「いや、いいや。今から準備しておいても損は無いのさ、ブライアン。凱旋門ウマ娘と雌雄を決するその時まで、ああ、そうだ、その時までに、十二分に牙を研いでおかなくては」

 

「…少し前のふぬけたあんたと違って、今のあんたはギラついた良い目をしている。いいだろう、併走相手になってやる」

 

「――ありがとう」

「ああ。だが、奴がこちらに上がってきた暁には、私が先に、冠ごと喰らってやる」

「それは困るなブライアン。彼女は、テイオーは、私が先に見つけたウマ娘なんだ。優先権は私にあると思うんだがね」

 

 ナイスネイチャは一人、部屋で頭を抱えていた。

 

「…あっれー…?今年のジャパンカップの面子、おかしくなーい?」

 

 手元に置かれたメモには、名前と詳細が書かれている。

 

 欧州最強ウマ娘   ユーザーフレンドリー

 凱旋門入着ウマ娘  スボティカ

 豪州ダービーウマ娘 ナチュラリズム

 豪州年度代表ウマ娘 レッツイロープ

 英国ダービーウマ娘 クエストフォーフェイム

 同国ダービーウマ娘 ドクターデヴィアス

 米国アーリントンミリオン勝者 ディアドクター

 

「全員すごいレース走ってるし、最低でもG1勝ってるし、有名なレースでも良いところまで来てるんじゃん…!?うわぁ、うわぁ…!?テイオーでもリオでも良いから戻ってきてぇー…G1未勝利の私じゃ荷が重いってこれ…!」


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