ごま油をぶち込んで、ちょっとショウガを入れれば止まらないピーマンの出来上がりです。
※背中を痛めまして、執筆速度が爆下がり中です。バクシンしながらシップを貼っていますので、一週間ぐらいすれば回復すると信じてピーマンをバクシンしております。
全力である。まさしく、全力であった。あのブリーダーズカップクラシックで、まさに私の最高速度を、最高のパワーを出し尽くしてなんとか勝てた。
いやはや、エーピーインディはまさしく強者であった。恐らく、凱旋門を勝つ前の私であれば負けていただろう。だが、残念ながら私は芝の王者。凱旋門馬になってしまったのだ。この肩に乗っかっているものは、アメリカで収まるほど軽くはないのである。
クールダウンをしながら私の後ろを同じように走る、そのエーピーインディを見てみる。すると。
『…追いつかれた』
そうニュアンスを感じ取る事が出来た。なるほど、やっこさんもなかなかに自信があったようである。勝ったのは私であるが、まぁ、とはいえ、実力も伴った自信であったに違いない。そりゃあ、私が全力の全力を出さなければいけなかったわけである。
それにしても、今回、脚の軋みが前回の凱旋門より大きく感じた。特に骨の軋みというか。やはり、いくら鍛え上げたといっても、根っこの部分はトウカイテイオーであるらしい。柔らかい関節と、私が鍛え上げた強靭な筋肉から生み出される推力に骨が付いてきていないのだと思う。うーむ…凱旋門より前、8割で走っていた事は、本当に正解だったのかもしれない。
などと考えながら走っていた所、爆発したような歓声が私と彼を包み込んだ。どうやらホームストレッチ、観客席の前まで戻ってきていたらしい。
走る前のブーイングなど忘れるほどの、大音量の大歓声。指笛や拍手も溢れんばかりに降り注いでいる。アメリカの、こういう所は大好きである。
そして、私の後ろをついてきたエーピーインディの騎手が、私の上の彼に向かって、親指を立てていた。ああ、なるほど。讃えてくれているのか。彼もそれに気づいたのか、深くお辞儀を返していた。
■
ウマ娘、ヒシマサル。シアトルスルーから連絡を受けた彼女は、早速、ビッグレッドことセクレタリアトへと連絡を取っていた。
『よおヒシマサル。暫く』
「セクレタリアトの
『はは、だろうな。で。トレーナーの話は受けてくれるのか?』
「いろいろ考えていたのですが、いまいち決めあぐねていまして。私が姐さんのトレーナーになれっていうのは、なんというか分不相応というか」
がははが豪快に電話口で笑い声が聞こえた。
『あっはははは!そんな小さい事を気にするな。お前、テイオーの後輩だろ?テイオーを育て上げたトゥインクルで培った経験を、そのトレーニング方法を私に教えてくれればいい。ああ、あと、私のトレーナーに成れば稼ぎは約束しよう。これでも貯金は余るほどあるんでな』
「あははは。まったく、姐さんたら。まぁ…その、ご存じの通り、自分、脚がそんなに調子が良くないんですよね。丁度、降りるにはいい時期だと自分でも感じていましたから、その話、受けますよ」
『おお、そうか!助かる!ああ、もし、お前だけで不安だったらもう何人か連れてきてもいいぞ。まとめて面倒を見てやる』
「…ああ、では一人。実際にテイオーと走った奴がいるんです。年末の有マでラストランの予定なんです。あとは一般ウマ娘になるとか言ってたので、そいつを連れて行ってもいいですか?」
『もちろん。あのテイオーと、実際に走ったのなら余計に歓迎するよ!いやぁ、持つべきものは良い教え子だ。ヒシマサル』
「あはは。でも、私なんかが教える事、あります?私なんかせいぜい、日本のトゥインクルでG3のセンターを獲ったぐらいですよ?」
『何を言ってるんだ。もう私は全盛期を過ぎに過ぎた。それにプロからも離れて久しいのはお前も知っているだろう。実際、今の状態でどこまでお前たちに追いつけるか判ったもんじゃない…っと、まてよ?』
一瞬電話の向こうで考え込むように黙り込んだセクレタリアト。ヒシマサルは静かに、続く言葉を待っていた。
『そうだな、確かに、引退して、久しぶりに走ったのが私だけじゃあ、あまりにもアレだろう。…なぁヒシマサル。お前、ハチェットに連絡取れるか?』
「ハチェット…?そんなウマ娘、いましたっけ?」
ヒシマサルはそう疑問を口にした。と、同時に、セクレタリアトが間髪入れずに言葉を返していた。
『あ?ヒシマサルよぉ、お前日本のウマ娘のくせしてハチェットの事を知らないのか?まあいい。ハチェットを知らないのであれば…ルドルフか、たづな秘書に伝言を頼みたい。ハチェットに『セクレタリアト』から伝言だと。テイオーが上がったら再び走るぞと。そう伝えれば十分だ』
「はぁ。判りました」
『頼んだぞ。トレーナーの件と、伝言はしっかりと伝えてくれ』
「はい。確かに」
『ああ、あと、今年の末、ラストランの有マ記念、後悔のないように頑張れよ。テイオーも走るんだろう?負けるな、とは言わない。でも、諦めるな。じゃあな』
「ありがとうございます。最後まで全力で走り切ってみせますよ」
■
クールダウンを終えた後に私を待っていたのは、毎度のことであるが表彰式であった。歓声は相変わらず収まる事を知らないようで、彼がガッツポーズを取るとそれに合わせて更に歓声が大きくなったことが印象深い。
そして、写真撮影を終えた私は、毎度の様に厩舎でのんびりと休みを取っていた。
今回のピーマンはバケツ三杯。そこにアメリカのピーマンが1杯。うむ。いい比率である。
もっしゃもっしゃとピーマンを食い、アメリカのピーマンを少し摘まむ。いいアクセントである。それにしても、我ながら凱旋門とBCクラシック、つまり、世界最高峰の芝と世界最高峰のダートを獲った、ということはもうやる事はないのではないかと思いつつも、いやまてよとも考えが思い至った。
そう、私は確かに世界の芝とダートは獲った。しかし、国内の古馬G1を1つも獲っていないのだ。天皇賞春秋、宝塚記念、ジャパンカップ、有馬記念。流石に障害競走は守備範囲外だとして…守備範囲外だよな?何か、ここの人間達は常識が通じないので非常に怖い所ではあるが、とはいえ、古馬G1を一つくらいは獲りたいと思うのである。
特に、有馬記念。やはり年末の中山の舞台で、一着でゴールを通り過ぎてみたいと思うのだ。
ええと…今、おそらく11月ぐらいだから、もしかすると今年の年末に走る事になるかもしれない。確かオルフェーヴルやディープインパクトも、凱旋門の後で有馬記念を走っているハズであるし、きっと次走はそこだと信じたい。
ま、とはいえ、私はただの馬である。次走は人間達の判断に任せることとして、ひとまずは、毎度の如くではあるが、目の前のピーマンを楽しもうと思う。
この青臭さと苦さが、やはり、堪らないのである。
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「やりました、やりましたね!」
「おお!おお!まさか、まさかだよ!」
「本当に!名実ともにこれで芝とダートの王者です!ああ、冥利に尽きます…!」
「おめでとう。本当におめでとう。いや、俺も、まさかこんな馬にかかわる事が出来るとは思いもしなかったよ」
「あはは。しかし、最後の追い込みはすごかったですよね。今までの訓練が実を結んだと言うか」
「本当にな。今までなぜ、結果が付いてこなかったのかと思っていたが…、急に歯車がかみ合ったように強くなったよ」
「ええ。本当です。ただ、こうなると今度は怪我が怖いですね」
「ああ…名馬は怪我が多いとも言うしな。ま、ただ、こればかりは運もある。俺たちに出来ることは祈るだけさ」
「…そうですね。できれば、最後までしっかり、怪我無く過ごしてほしいものです」
「そういや、次のレースの話はあるのか?以前は有馬記念とか言ってたが、ここまで活躍したのであれば、種牡馬にするという判断もあるんじゃないか?」
「ええ。とはいえ、そのまま有馬記念に行く予定です。ただ、いつまで現役続行させるかはオーナーの判断ですね。ここまで活躍したとなれば、早めに引退させて種牡馬にさせるのが正しい判断だとも思います。ただ…」
「ただ?」
「できるかぎり、こいつの走りを長く、見ていたいと思います」
「そりゃ、俺も同意見だ」
■
ウマ娘、トウカイテイオー。彼女はブリーダーズカップクラシックの最終直線を、エーピーインディと競い合い、そしてついにその頂点に君臨した。
ゴールの後。いつもであれば、『ボクが一番だ!』と大きく見得を切るのだが、今日の彼女は少し違った。
何も言わず、笑みを湛え、左手は腰に、そして、右の手を高く掲げ、人差し指を一本天に突き出したのだ。
同時に、大きく歓声がトウカイテイオーに降り注ぐ。
「あーあ…、負けたかぁ」
そう言いながら近づいてくるのは、エーピーインディそのウマ娘だ。秒差は無し、ハナ差でテイオーに負けた彼女は、しかし、すがすがしい笑みを浮かべていた。その彼女を見ながら、テイオーも笑みを浮かべていた。
「凱旋門ウマ娘、強かったでしょ?」
「ええ。ええ!信じられないほどに!おめでとう、王者、トウカイテイオー!」
そう言ったエーピーインディの言葉に反応して、更に更に歓声が大きくなる。
その歓声に紛れて、小さく彼女はテイオーに耳打ちをした。
「次は負けないからね?トウカイテイオー。今日の所は冠を預けておくから」
「ん。いつでも来なよ。ボクは帝王だからね。何度でも返り討ちにしてみせよう」
いうや否や、お互いに大きく腹を抱えて笑う。そして、笑いが収まると、力強くお互いの手を握り合った。
「ああ、そうだ。トウカイテイオー。今晩は君を祝うパーティーをセクレタリアトが準備してくれている。しっかり食って騒ぐからね!」
「え!?あれ!?パーティーってやらなかったっけ!?」
「あれは前祝だろ?今晩が本番だ!ウイニングライブの後、オールだからな!騒ぐぞー!」
「うえええ!?」
「ああ。ちなみにだ。そちらの…メジロ家?というところからピーマンを取り寄せていてな。肉詰め、スープ、天ぷら、パスタ、サラダ。お前の好物を多数取り揃えているからな!」
「え!?それはちょっと楽しみかも…!」
歓声の中、そんな事を話す2人であった。
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所変わってトレセン学園の生徒会室。ヒシマサルは、シンボリルドルフへの面会を行っていた。
「お世話になります。会長さん」
「やあ、ヒシマサル。息災か?」
「はい。今回、ご報告がいくつかありまして。お時間をいただきましてありがとうございます」
「いいさ。で、何かな?」
「はい、実は2つばかり報告がありまして…。一つ目は、有マ記念をラストランとして、今年限りでトゥインクルシリーズを引退します」
シンボリルドルフは一瞬目を閉じ、しかし、すぐにヒシマサルの姿をまっすぐと見た。
「なるほど、今年の有マで引退…か」
「はい。脚の調子も良くなく、引き時だと感じましたので」
「そうか…残念だ。そういえば、君のアメリカの親族への相談はしたのかい?」
「はい。納得の上での引退です」
「そうか、そうか…。ちなみに、引退後は?」
「アメリカでトレーナーに誘われてまして。そちらで働こうと思っています」
「なるほどな。しかし、本当に残念だ。君は今まで2着より下に落ちたことは無い。間違いなく実力のあるウマ娘であったのに」
「え?会長さん、私の事、ご存じだったのですか?」
「もちろんだとも。シンコウラブリイとのニュージーランドトロフィー。あの熱い競り合いはしっかりと脳裏に焼き付いている」
「えっ!?レースの内容まで…!?ありがとうございます」
「いや、何。実力のあるウマ娘というものは、自然と目についてしまうものさ。…しかし、今年で引退か。確か、次走はジャパンカップだったか?」
「はい。…まぁ、メンバーを見ると気後れしますけどね。日本からはナイスネイチャ先輩やイクノディクタス先輩も出ますし、でも、精一杯頑張ります」
「うん、そうだな。11月のジャパンカップ、そして、年末の有マ記念。有終の美をぜひ飾ってほしいと思う」
「ありがとうございます」
ヒシマサルはそう言って、頭を下げた。そして、頭を上げると、シンボリルドルフは小さく頷く。
「で、2つ目の報告とは?」
「あ、そうです。『セクレタリアト』から伝言で、『ハチェット』へ、再び走る、と伝言をお願いしたいと」
その言葉を聞いた瞬間、シンボリルドルフの顔が強張った。
「何?…すまない、ヒシマサル。今、何と言った?もう一度頼む」
「え…セクレタリアトからハチェット?というウマ娘に伝言で、再び走る、と。会長か、たづなさんに伝えれば判ると言われたもので…」
「セクレタリアト…あの、ビッグレッドで間違いないか?」
「はい。あのビッグレッドです」
「すまない、確認のために聞くのだが、セクレタリアトと君の関係は?」
「あ、ええと、私のアメリカでの姉貴分です。ああ、もちろん血縁ではないですけれど、今度私がトレーナーとして働く場所でもあります」
シンボリルドルフは目を瞑り、腕を組んだ。
「なるほど…なるほど…。………エアグルーヴ。エアグルーヴ!すまないがヒシマサルの相手を頼む。少々席を離れる」
「承知しました、会長。理事長室ですね?」
「ああ、そうだ。たづなさんと理事長の所へだ。至急の用事が出来た」
そう言うと同時に、椅子から立ち上がり、扉の方へと足早に歩いていく。その途中で、更にナリタブライアンへと声を掛けていた。
「あとブライアン!至急、新冠へ連絡を取ってくれ。内容は判っているな?」
「新冠?…ああ、あの人か。早来と静内、天間林への連絡はいいのか?」
「あの3人には新冠から伝えてもらうように言ってくれ。それで問題は無いはずだ」
「他は?雫石はいいのか?」
「そちらは話が纏まってからにしておきたい。ああ、あとブライアン、浦河は話が纏まり次第、私の方で連絡しておく。頼むぞ」
「承知した」
「頼んだぞ。では失礼する。」
「エアグルーヴ。私も電話で外す。そいつの事は任せた」
取り残されたのは、状況が理解できていないヒシマサルと、落ち着いているエアグルーヴの2人のみだ。
「あの…え?え?」
「災難だなヒシマサル。ああ、それと間違いなく今回の件で理事長から呼び出しもあることだろう。暫くここで待機していろ。ほら、突っ立ってないでまず座れ。コーヒーと茶菓子だ」
「え?あ、はい。ありがとうございます…?」
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