ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマンを千切りにしまして。

桃屋のニンニクを入れまして。

そこに茹でたパスタを入れまして。

塩コショウで味を調える。



シンプルなピーマンパスタの出来上がりです!旨いよ!


ピーマンというバタフライエフェクト

「いやー。完敗だ完敗。テイオー。君はやっぱり強かった!いや、負けて満足とはこのことだ!はっはははは!」

 

 快活に笑うのは、有マ記念で見事に着外となってしまったエーピーインディそのウマ娘である。腰に手を当てて、そして大口で笑う彼女を見ながら、トウカイテイオーはピーマンを口に運ぶ。

 

「五月蠅いなぁ、もう。ご飯食べてるんだから静かにしてよー。それにここ、トレセンの学食。あんまり大声でしゃべっちゃダメだって」

「ん?ああ、すまないすまない。いやぁ、それにしても君はどうしてあんなに速いんだ?スタミナも、スピードも、パワーも、馬場も距離も変幻自在なのかい?」

 

 そうエーピーインディが言った瞬間、周りのウマ娘が聞き耳を立て始めた。トウカイテイオーの速さの秘密。聞き逃すわけにはいかない。

 

「…変幻自在?そんなわけないでしょ。研究して、研究して、ボクが一番勝てる方法を選んでいるだけだよ」

「そうかい?でも、凱旋門といい、BCクラシックといい、有マ記念といい、今までのデータ以上に君は伸びた。その理由が知りたいね」

 

 もぐ、とチンジャオロースを口に含み、テイオーはゆっくりとそれを味わい、嚥下する。一口、二口。しゃりしゃりといい音が響き、そしてテイオーは箸を置いた。

 

「んー…そうだなぁ。もちろん練習を積んでるっていうのが第一の理由。ボクの練習、付いてこれる娘はまずいないしね」

「ああ、それは思う。私ですら君の練習はクレイジーだと思うさ。なんだい、あの潜水と坂路の数。君はモンスターなのか?」

「失礼な奴だなぁ。キミ、遠慮がないって言われない?」

「あはははは!シアトルとビッグレッドからよく言われている!」

 

 胸を張ってそう言うインディに、あきれ顔でため息を吐くテイオー。そして、周囲が聞き耳を立てているという混沌とした中、一人のウマ娘が2人へ声を掛けた。

 

「テイオーさんの強さは、心の強さであると分析します」

「ん?…おや、君は、このCRAZYなテイオーの練習についていってるサイボーグじゃないか」

「ミホノブルボンです」

「おっとこれは失礼。しかし、心の強さか。メンタルねぇ…難しい所を突いてくる」

「はい。しかし、これ以外にテイオーさんの強さを表す言葉がありません」

 

 初対面であるはずの2人は、なぜか意気投合しているようである。無機質なブルボンに、考え込むように手を顔に当てて眉間に皺を寄せるインディ。そんな2人を怪訝な顔で見ていたテイオーは、思わず口を開いた。

 

「おーい?2人共?当の本人を置いてきぼりにして話を進めるのは止めてくれなーい?それにボク、そんなにメンタル強くないし」

 

 そう言ったテイオーに、2人は首を振る。

 

「いや、お前のメンタルはバケモンだろ? 有マの面子を調べたけど、どこでも走れるお前が、日本のスターが揃うあの面子の有マ記念で『殿を行く』なんて、メンタルが強いから出来る戦略だろう?」

「保証します。テイオーさん。あなたは鋼鉄のメンタルの持ち主です。だからこそ日米仏の三冠を獲れたのです」

 

 2人の言葉に、テイオーは、少し嬉しそうににやりと口角が上がった。

 

「…まぁ、そういう事にしておくよ。っていうかブルボン、どうしたのさ。今日はオフじゃなかったっけ?」

「学食にエーピーインディがいると聞いたので。会いに来ました」

「ん?そうなの?んじゃあ…ボクはちょっと席を外すから、2人で話してて。ボクごはん食べる」

 

 テイオーはそう言って、そそくさと別の席へと食事をもって移動していた。その先で。

 

『あら、テイオー。インディさんと食事では…って、またピーマンですの!?』

『ボクがピーマン以外食べるわけないでしょー?インディはブルボンと話があるって。というか、またスイーツゥ?太るよマックイーン』

『ぐっ…何か文句ありますの!?このピーマン馬鹿!』

『なにおう!?この甘味馬鹿!こっちはマックイーンの体重を心配して言ってるんだい!』

『それを余計なお世話と言うのです!』

 

 と、何かいざこざが起きているようであるが、2人は気にせずに目線を合わせていた。

 

「で、何か用なのか?」

 

 先に沈黙を破ったのは、インディの方である。少し、楽しそうに口角が上がっている。ブルボンはいつもの表情で、口を開いた。

 

「エーピーインディさん、なぜあなたは日本に残っているのでしょうか?ヒシマサル、サンエイサンキューは既に旅立ちました」

「ん?ああ、聞いてないのか?少しこっちの「ひよっこ」を指導してくれと、理事長直々に頼まれてね。帰国は一か月後さ」

「なるほど、そういう事でしたか」

「…なぁ、立ち話も疲れないか?こっちに座れよ」

 

 そう言いながらインディは、隣の椅子を引いて、座るように促していた。ブルボンは頭を下げると、自然な動作でその椅子に座り、そして改めてインディの顔を見た。インディはと言えば、少し肩をすくめ、そして笑顔を作っていた。

 

「ま、期間が短いからそんなに指導は出来ないけどな。ただ、ノウハウはマルゼンスキーとかいうウマ娘に教えているから安心しな」

「マルゼンスキーさん、ですか?」

 

 ブルボンがそう言った瞬間、インディは大きく頷いた。

 

「ああ。何か感じるものがあってな。あいつなら活かしてくれるだろうと、そう直感が働いたんだ。それに、『テイオーの世代だけ』が凄いんじゃ、日本のウマ娘として詰まらんだろう?」

「…確かに。でも、正直、私やライス、次世代のウマ娘を見ても、テイオーさんに比類するウマ娘は、今のところ存在しません」

 

 そう言いながら、ブルボンは視線を下げ、首を横に振った。インディも、小さく頷いた。

 

「うん。そう思うだろう。私もそうだ。だから、私の遺伝子を、アメリカの遺伝子をトレセンに残すのさ。将来、日本のウマ娘に、大きな幸運が舞い込みますように、って願いを掛けてな」

「大きな幸運、ですか」

「ああ。…願わくば、私の後輩と、こっちの日本の後輩がBCクラシックで、凱旋門で、その頂を競うその姿を見てみたいもんさ」

 

 

 寒空を望む、いつもの牧場の、いつもの厩舎。

 

 有馬記念が終わり、年越しまで後わずかといった所であろうか。

 

 私の前の前には、新鮮なピーマンと、おそらくはビールが入ったと思われるバケツが用意された。ま、祝杯代わりという奴であろうか。ビールを一口軽く含み、嚥下してみると、やはり心地よいのど越しと、苦みが口に広がる。そして、つまみがてらにピーマンを食べる。

 しゃりしゃりと青臭さが広がり、その瞬間にビールを含む。うむ。苦味と苦味で実に旨い。

 

 ちなみに、レオダーバン同志は、本当にあの日以来、この牧場にも姿を見せなくなっていた。まぁ、当然であろう。私が居る場所は結局のところ訓練をする場所である。引退した彼は、まぁ、自分の牧場に戻ったのか、それとも、子を残すためにどこかに行ったのか。

 ちらりと厩舎の窓から見える、霜で枯れてしまったピーマンが目に入った。数本あるその枯れたピーマンのうち、一本だけ異様に背が低い。そう、何を隠そうあれが同志が食った跡である。野郎、最後の最後にやらかしやがって。まあ、今となっちゃいい思い出である。

 

 ビールを口に含む。うむ、奴の思い出で、何杯でも行けそうである。

 

 に、してもレオダーバン同志が引退したとなると、いよいよ私の引退も近いのではないだろうか。史実のテイオーも、93年の有馬、つまり来年で引退だったはずだ。私は彼よりもきっと活躍できているはず、なので、もしかすると彼より早く引退する可能性もあるのだ。仮面のお馬さん、ナイスネイチャだってそうだと思う。G1を獲ったというのは、大きい変化であるはずなのだ。

 いや、しかしこう考えるとついに来たか、世代交代の風、と思ってしまう。今年はライスシャワーとミホノブルボンが出て来た。となれば、来年はビワハヤヒデ、ウイニングチケット、ナリタタイシンの時代であるし、再来年は遂に怪物、ナリタブライアンが台頭してくる時代なのだ。

 …ただ、ブルボンが現役を続けていることが驚きである。無敗の二冠馬は、ライスシャワーに負けてそのまま引退したはずなのだ。というか、有馬の逃げであんだけ飛ばせるのは本当にすごいと思う。

 

 と、いうか。というかだ。

 

 そうなると、ビワハヤヒデの騎手はどうなるのであろうか。そうなのだ。本来、93年となると彼はビワハヤヒデの騎手であったはず。私の上に乗っているという事は、もしかすると彼はビワハヤヒデに乗らないのでは?あ、いや、私が引退するなら問題もないのか?うーむ…。

 

 ま、私が悩んでも仕方がないか。ここはいつものように開き直ろう。私こと馬が出来る事は、人間様に従って走る事ぐらいなのだ。うむ。そう。今日はビールとピーマンが旨いということで納得しておこう。

 

 …いやまてまて、引退で一つ問題を思い出してしまったぞ。私は曲がりなりにも凱旋門を勝って、BCクラシックを勝って、そして有馬も勝っている。となればだ、きっと、引く手あまたの種牡馬としての余生が待っているのではないだろうか?…え?致すの?馬と!?

 

 うぅううううん!?そうだよなぁ、致すんだろうなぁ!お馬さんと!

 

 ううむ、ええと、ううむ…。これは難問であろう。いや、うん。まぁ、仕事、として割り切れるか…?いやそう簡単じゃあないぞ。というか、凱旋門の時もそうだったが、雌と雄の見分けがつかないんだぞ私は。それでどうやって致せと。いや、よしんば気持ちが割り切れたとしても、致せるか?どうだ実際…。

 

 いやしかし…多分、致さなかったらなかなか大切にされないだろうなぁ。能力なしとか思われたらなぁ…。ううむ…これは至極急務な問題ではなかろうか。

 

 …………や、もう難しい事を考える事はやめよう。今日はもうビールを飲もう。そうしよう。いやしかし致すのかぁ…。致すの?マジで?本気か?ううむ…。

 

 

 今日も今日とて坂路の鍛錬である。後ろから付いてくるのは、ミホノブルボンである。…のだが、もう一頭、なんかついてくるお馬さんがいる。

 

 葦毛のお馬さんなのだが、あの大きなお馬さん、メジロマックイーンではない。というか、葦毛なのだが、体はほとんど黒いのである。顔が異様に白いお馬さんなのだ。んー、どっかで見た記憶もあるのだが…こう、毎日数百以上の馬の顔を見てるわけで、いまいち判らなくなってきている。競馬場でレースをした馬なら判るんだがなぁ…。

 

 とはいえ、このお馬さん、結構良い脚をしているようで、私とブルボンの坂路にしっかりと付いてくるのだ。スピードだけなら本気の私と並ぶかもしれない。ただ、残念ながらまだスタミナが少ない様子である。3本坂路についてきただけで、息がめちゃくちゃ上がっているようであった。ちなみに、ブルボンと私は毎日8本は熟しているのでまだまだ余裕である。というかブルボン、君、前よりサイボーグみが増してきていないか?なんというか、その脚の筋肉、馬のそれじゃないぐらいバッキバキにみえるんだけども。いや、この脚ならレコードペースで有馬記念の逃げをかませるわと納得できる仕上がりである。

 

 にしても葦毛のお馬…っていうか君、顔デカいな。というか、体が黒っぽくて顔が白いから、余計にデカく見えるだけか。ま、こんなお馬さんは見たことないので、次会った時にもきっと覚えているだろう。それにしても君のスピードは本当にピカイチである。

 

 いつか一緒のレースで走るかもしれないなと、人間が私のために持ってきているピーマンを、1つ彼に差し出してみた。

 

『…何これ』

 

 首を傾げていたが、私が。

 

『旨いよ』

 

 そうニュアンスを伝えると、恐る恐る私からピーマンを受け取り、咀嚼を始めた。

 

『………苦。………ん?んん?』

 

 首を傾げて咀嚼を続ける彼。なんというか、デカい顔が動くんで少し怖い。ま、とりあえずは『ぺっ』とされなかったので、布教完了ということにしておこう。同志の代わりはいくらいても良いのである。

 

 

「お疲れ様です。聞きました?エーピーインディの件」

「お疲れ。ああ、聞いた聞いた。日本に数カ月だけ留まっての種牡馬入り、だろ?いや、びっくりしたよ」

「しかももう既に何頭か申し込んでいるとかで、これ、新たな血統が日本に来ましたね」

「ああ、実績十分な血統が日本に入る事は喜ばしいよ。確か、サンデーサイレンスもアメリカだったか?」

「ええ。確かサンデーの産駒なら、初年度産駒がここにも預かりで来るという話ですよ。現地に確認に行った調教師曰く、均整の取れた良い馬だ、とかで。無事にデビューできそうだという話でした」

「ほう?そりゃあ早く見てみたいもんだな」

「ああ、ただ、その件で問題が一つありまして」

「問題?」

 

「冗談でピーマンを差し出してみたら、いたく気に入ったとかで。向こうの陣営からピーマンの仕入れ先と、食わせ方を教えてくれと連絡があったんですよね」

 

「…またピーマンか。なんだか、レオダーバンを思い出すな」

「ええ。ま、減るもんじゃないので、やり方を含めて教えておきました。たらふく食わせてやってくれって」

「それがいい。に、しても、今年活躍している馬にはピーマン好きが多かったよなぁ」

 

「ええ、うちのテイオー、ナイスネイチャ、レオダーバン、ライスシャワーにミホノブルボン、ヒシマサルにサンエイサンキュー、国外に目を向ければエーピーインディに、スボディカあたりまで」

「なんだか、ピーマン食うと強くなってるみたいだな」

 

「んー、そうでもありませんよ。メジロは食べていませんし、去年の有馬を勝ったダイユウサクも食ってませんからね」

「…そういやそうか。ん?おい、事務所の電話鳴ってないか?」

「あ、本当だ。珍しいですね。こんな時間に。誰でしょう」

 

「もしかして、またピーマンの仕入れ先の相談かも知れないぞ?どっかの馬にテイオーがピーマン食わせたんじゃないか?」

 

「あははは。かもしれませんね。では、少し失礼します」

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