しかし、品種的には一緒なわけです。
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気づけば桜が満開になり、日中の気温も過ごしやすく暖かくなってきた頃。
私は遂に、あの温泉施設からいつもの鍛錬を行う牧場に戻って来ることが出来た。いや、なんというか、我ながら休み過ぎた感じである。温泉、睡眠、食事三昧。いやー、放牧よりよっぽどゆっくりできたというものだ。ただ、残念ながら最後の方は飽きてきていた。やる事がないのである。
ただまぁ、それだけ時間が有り余っていたわけで、ひとまずフォームの改良はひと段落したと言って良いだろう。と、同時に、1つ私は気が付いたことがある。
温泉に入っていた時にであるが、史実でのトウカイテイオーは長距離はそれほど得意じゃなかったはずだと、はたと気づいたのだ。そういえばと私自身も思う。長距離のレース。とはいっても、去年の天皇賞春に限った話ではあるが、案外とスタミナが持たなかった。あれだけ坂路やプールを積み重ねているのにも関わらず、である。
となると、これはもしかして、元々の私の体のポテンシャルではないのか?という事に気が付いたのだ。
そう。いくら鍛錬をしても、体の才能の方向が違うとある程度以上伸びないのではないか?という事である。例えるのならば、スポーツが好きで努力を欠かしておらずともスポーツ選手になれる人間が一握りであるように。同じ勉学をしながらも、点数が取れないテストがあるように。
私の場合はもしかして、距離がそれなのではないか?と思ったのである。凱旋門やBCクラシックは考えてみれば明らかに中距離であるしね。ただまぁ、私の考えだけなので確たる証拠はない。実際微妙な点としては芝の中山の2500メートル、長距離の部類に入る有馬記念は勝ったわけだし、天皇賞春は負けたとはいえ入着はしているのだ。どちらかというと、我ながら長距離も走れる馬なのだと思う。
だが。
『行くぞ若いの!』
目の前の坂路をえらい勢いで登っていく葦毛のお馬さん、メジロマックイーンを見ていると、なかなか自信を無くしそうである。なんてったって、メジロマックイーンは中に人などいないはずなのである。それにも関わらず、私に何度も先着しているのだ。この間の有馬記念こそ勝てたものの、また天皇賞を走った場合は、正直私が勝てるかは判らない。
更に怖いのは、ここには居ないが、この前の有馬で一緒に走ったライスシャワーだ。史実であれば、今年の天皇賞でこの強いマックイーンをぶち抜いて一着でゴール板を駆け抜けるはずなのである。いやはや、怖い怖い。
怖いので、とりあえずはマックイーンを坂路でぶち抜こう。1000メートル程度ならこちらの方が強いのである。いくぞ!Hi-yo Silver!
『おかしい…疲れた…』
む。そこにいるのはおビワさん。…で、合ってるよな?会うたびにあまりに顔が大きいので、私のイメージで勝手にビワハヤヒデと呼んでいるが…。まぁ、君はまだまだ若いのだ。我々についてこれなくても問題は何もない。そう、君はこれからだ、これから。
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「やぁ、テイオー。温泉は良かったかな?」
「あ、ルドルフさん!最高でした!トレーナーに感謝しなきゃです」
「それは結構。―うん、顔もすっきりしているな。さて、それで一つ確認事項があってね」
「確認事項、ですか?」
「ああ、君がドリームトロフィーに上がる時期の再確認だよ。これだけトゥインクルの発展に寄与したのだから、君の引退式やドリームトロフィーへ上がるための式典もそれ相応になるものでね。長めの準備期間が必要なんだ」
「ええっ!?そんなに大々的に行われるんですか?」
「ああ。URAの役員は全員出席、我々ドリームトロフィーからも、歴代の勝者が出席予定だ。前に表彰に来たシンザンはもとより、クリフジやセントライトあたりのウマ娘もスケジュールを合わせると言われている」
「…それはそれですごいプレッシャーです」
「ははは。まぁ、気にするな、とは言わないけれど、準備は此方でする。君は台本通りに動いてくれればいい。と、話は逸れたが、改めて聞くとしよう。君はいつのレースで引退を?」
「
「そうか。6月の…ああ、最後はダートで勝つつもりなのか?」
「はい。国内の芝のグランプリは獲りました。ならば、ダートのグランプリもと思って」
「それは結構。うん、テイオーなら心配ないだろう。頑張ってくれよ?」
「はい!ありがとうございます。ルドルフさん!」
「では、その予定でこちらは話を進めておこう。ああ、もちろん、変更になっても構わない。何よりも君のキャリアが優先だ。それを忘れないでくれ」
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鍛錬の牧場に戻って暫く、もっしゃもっしゃとピーマンを喰らう厩舎の中、お隣からも勢いよくピーマンを喰らう音が聞こえている。ご存じ、エーピーインディ氏である。温泉から戻ってきてもまだいるとは、君、本当にアメリカに帰らなくていいのかね?
『旨い!旨い!旨い!あ、お前好き!』
お前好き、が完全についでのニュアンスだったことは置いておこう。後で覚えていろよ。お前のピーマンをパプリカに換えておいてやる。
ま、とりあえず本人は好調の様だ。しかし彼は一体、有馬から帰らずこっち、何をしているのであろうか。時々厩舎から出て行って、どっかにいって、暫くすると帰ってくる。鍛錬をしている風でもないし、かといってレースをしている風でもない…。
もしかして君、種牡馬入りしてる?
いや、それはそれで大事件だけどもね。日本の血統、この90年代が終わってくれば、完全にサンデーサイレンスの血統の時代になるのであるが、そこにエーピーインディの血統も入るとなると日本競馬界が色々変わりかねない大事件である。ま、確証は無いが、可能性は高い案件であろう。
それにしても、サンデーサイレンスの血統の集大成であるディープインパクトに対して、もしかするとエーピーインディ、つまりセクレタリアトの血統が日本で活躍する可能性が生まれて来たという事であろうか。うーん、これは実に競馬場の外から見たい案件である。というかテレビを見たい。盛り上がっているであろうネットを見てみたい。きっと競馬好きの間では今頃お祭り騒ぎなのかもしれないなぁ。
あれ? でも、93年あたりってインターネットって普通の一般人が見れるレベルの奴なんだっけ? 窓枠のOSも確かまだまだ最初期のものしか生まれてない時代のような…。ああ、そう考えると、私の二足歩行として生きた時代はまだまだ先であるらしい。スマートフォン、光回線、ディープインパクト、インターネット、ユーチューブ。今の時代では、まだまだ一般には知られていない事なのであるなぁ。むしろサービス自体が生まれていない物すらある。ダイヤルアップ時代のインターネットなんて、スマホがある時代の人間はどれほど覚えていたのだろうか。
冷静に考えれば、私がもし人間として生きていたならば、一儲けできる知識だ。だが残念、当方はお馬さんなのである。ひとまずは目の前のピーマンを喰らうことしか出来ないのである。
ピーマンを食い、草を食い、水を飲み、そして果物を食う。三角食いというか、なんというか。多分お馬さんでもこういう食い方によってきっと胃腸の調子も変わって来るんだろうな、などと勝手に思っている。しっかり歯ですり潰してから呑み込むことも忘れたことはない。
いけないいけない。考えがとっちらかってしまっている。ま、2000年代。少なくともサンデーサイレンス最強という血統の勢力図は、少々変わりそうな感じである。更に、そこに続いている個人的注目株は同志レオダーバンである。確か血統はあのマルゼンスキー系であったはずなのだ。つまり、相手が付けばかなり良い血統になりそうなのである。
史実では確か同志はまともに種牡馬としては活躍しなかったはずである。ただ、この世界では明らかにめっちゃ活躍しているので、きっといい相手に巡り合うであろう。
ん?そういえばよくよく考えると、あのライスシャワーとレオダーバンって血統的にはマルゼンスキーの血なのか。しかも、今年活躍するであろうウイニングチケットも母父がマルゼンスキーであったはず。サラブレッドはご親戚が多いものである。
ちなみに私トウカイテイオーと、仮面のお馬さんであるナイスネイチャも血統的にはかなり近い。ナイスネイチャの父と、私の母父が同じ馬なのである。まぁ、だからどうした?という話でもあるのだが、完全に余談なのであるから問題はない。
などととりとめもない事を考えながら飯を食っていたら、バケツの中身が空になってしまっていた。ふむ。それならば体幹トレーニングと瞑想をしようじゃないか。後ろ足で立ってっと…。
そして、この坂路とプールのルーティーンの日々も悪くはないが、温泉よがったなぁと改めて思い直していた。いや、温泉の牧場にいたころは暇だ暇だと思っていたが、こう温泉に入れなくなると、やはり湯に浸かるのは最高だったと感じる日々なのである。できればもう一度、あの福島のいわきに行きたいもんだと切に願う。
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「お疲れ様。テイオーの調子はどうだい?」
「お疲れ様です。オーナー。調子は良いですよ。天皇賞春に向けて、順調と言って良いと思います」
「そうか。ありがとう。ああ、ただ、未だに少し迷っているんだ」
「と、申しますと?」
「テイオーを
「ふむ」
「天皇賞春。恐らく、メジロマックイーンとの最後の対決になるだろう。勝てば盛り上がる。負けても、まぁ後悔は無いよ。だけどね、帝王賞に行けば、国内外のダートG1制覇という偉業も有りうる。迷っているんだ」
「…私としてはどちらでもいいと思います。この馬は、間違いなく走る馬です」
「テイオーの親よりも、かい?」
「はい。間違いなく。あ、ただ、両方出すというのは止めた方がいいかとは思いますが」
「ああ。それはもちろん。怪我をしてしまっては仕方がないからね。……よし、決めた。天皇賞春で行こう」
「この場でそんな簡単に決めていいんですか?」
「ああ。問題ないよ。だって、走る馬なのだろう?」
「はい。間違いなく」
「ああ、あと。引退時期なんだけどね」
「はい」
「結果はどうあれ、今度の天皇賞春で引退だ。種牡馬入りさせる。これは決定だから、鞍上にも伝えておいて欲しい」
「…ついに、ですか」
「ああ。種付けの話は去年からあったんだけど、私も、テイオーの走りを見たくてね。これでもかなり伸ばしに伸ばしたんだけどね。本場フランスからの話も来ちゃってて、もう待てないって事になってしまってね」
「判りました。鞍上には伝えておきます。ああ、でも、ついにですか」
「ああ、ついに、だ。ま、天皇賞春、ラストランだからって無理はさせないように。怪我をしちゃ、どうにもならないからね」
「承知しています」
「ちなみに、テイオーの最初の種付け相手は決まっているので?」
「凱旋門で一緒に走ったユーザーフレンドリーがその予定だよ。既に2回予定を組んでいて、1頭目は日本、2頭目はヨーロッパで調教される予定になっている」
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トレセンの坂路。駆け抜けるトウカイテイオーに、声を掛けるウマ娘が居た。
「いよーうテイオー。まーた坂路たぁ、天皇賞に向けて余念がないねぇ」
ゴールドシップである。飲み物を片手に声を掛けたあたり、テイオーに差し入れの様だ。
「あ、ゴルシー。ちょうどいいところに。長距離の並走お願いできなーい?」
「お?なんだなんだ?テイオーから私を誘うなんて珍しいじゃん。ほい、スポドリ」
ゴールドシップから差し出されたドリンクを素直に受け取るテイオー。そして、一口口に含み、嚥下すると同時に笑顔を浮かべた。
「ありがと。まぁ、帝王賞を残しているけどさ、今回でトゥインクルのターフは最後だし。悔いは残したくないかなって」
ゴールドシップはにやりと笑うと、顎に手を当てながら言葉を発する。
「ははぁん。無敵のテイオー様でもナーバスになるんだなぁ!いいぜいいぜ!さ、じゃあ何メートルから走る?3000?4000?それとも5000!?」
「ボクがそんなに走れるわけないでしょ!?天皇賞と同じ3200を2本お願いしたいなって」
「おっけー!じゃ、私が先行でいいよな?どうせお前今度の天皇賞、殿で行くんだろー?」
「うん。お願い。って、ゴルシ、ボクが次の天皇賞で殿で行こうとしてるって、よくわかったね?」
疑問を投げるトウカイテイオー。確かにそうである。トウカイテイオーの脚質は変幻自在。昨年の天皇賞は逃げであるし、かと思えば有マ記念は殿。様々な戦略がある中で、ゴールドシップはぴたりとそれを当てて見せた。首を傾げているトウカイテイオーに、さも当然といった風にゴールドシップは言葉を返していた。
「あー?んなもんお前を見てりゃ判るって。ここぞって時は大体後ろからだろ?それに、私だってそうするからな!」
そこまで言って、ゴールドシップは笑顔を見せる。だが―。
―ま、それだけじゃあねえんだけどよ。そっか。お前のラストは
トウカイテイオーには聞こえない、そんな小さな声で妙な事を呟いていた。