ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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目玉焼きに、千切りにしたピーマンを添えるとシンプルに旨いのです。

そして、千切りのピーマンを味噌汁に入れても旨いのです。


一時の休息。

 

「お疲れ様でした。いやはや、決まってましたよ、ナポレオンポーズ」

「あはは、ありがとう。いやー、どうなるかと思ったけれど、皆に満足してもらえたみたいでよかったよ」

「バックヤードで引退式の準備していたら、テイオーが鞍を咥えたままで離さなかったんですって?いやー、それを聞いたときは嘘だろう?と思いましたけれどね。ただ、あの姿を見ると本当だったんだなぁって思います」

「うん。本当さ。しかも鞍を咥えて僕を見ていたからね。ああ、テイオーはきっとこれが最後のターフだと理解していたんだろうってオーナーとも話したよ」

 

「それに見ましたか?テイオー。去り際にお辞儀していきましたよね」

「うん。びっくりしたよ。というか、思い返してみれば頭のいい馬だ。きっと、僕らがレース後に観客席に挨拶をする姿とかを覚えていたのかもね」

「それにその観客にお辞儀する前、ターフの去り際のあれ、明らかに2礼2拍手1礼でしたよね。あんなものいつの間に覚えたんでしょう?」

「そうだね。多分、年始に厩舎で松の内を祝うだろう?あの時にじっと見られていたと言う厩務員の話もあるから、その時かなぁとは思うんだけど。いやはや。本当に規格外というかなんというか、改めてすごい馬だったよ。あー、でも」

 

「でも?」

「素直で、すごい能力を秘めている馬だったけれど、自ら進んで行こうっていう事は無かったなぁって。こっちが仕掛け時を指示するまではじいっと抑えているというか」

「あー。それは確かに。クラシック三冠の時も、私のタイミングで行きましたからね」

「なんというかさ、感慨深いよ。ルドルフに競馬を教えられた僕が、その子に競馬を教えることが出来た、なんてね」

 

「あー。この後時間あります?せっかくならテイオーの話をつまみにコレいきません?」

「この後かい?」

「あいつの好物を食いながら、で、どうです、一杯」

 

「…いいね。ああ、いい店を知っているんだ。焼き鳥屋なんだけれどさ、そこのつくねを生のピーマンと一緒に食べると美味しくてね」

「へぇー!それは楽しみです。ああ、そういえば今夜あたり、あいつも祝杯でも挙げてるんですかねぇ」

 

「ビールのことかい?ああ、もしかしたら、僕達よりも早くピーマンで一杯やっているかもね」

 

 

 帝王賞から数日後。河川敷のバーベキュー場で、何人かのウマ娘がわいわいと調理を楽しんでいた。

 

「ライスー。ピーマンの細切りこのぐらいで大丈夫ー?」

「あ、はい!じゃあ、それを明太子バターで和えてください。で、それが終わったらピーマンをヘタごと半分にカットお願いできますか?」

「お安い御用!半分ってことは肉詰めかフライー?」

「ええと、もちろんそれも作りますけど、じっくり焼いて出汁で煮て、かつお節をかけて食べようかなって」

「いいねー!」

「ライスさんライスさん!こちらの炊き込み用のピーマンはこの位の細切れでダイジョーブでしょうか!」

「ええっと…うん。大丈夫!あとはお出汁と一緒に炊くだけだね」

「わっかりましたライスさん!」

「あ、ライスー。揚げびたしのタレってこんな感じかなぁ?」

「えっと…あとショウガをもうひと欠片お願いします。あとはリオナタールさんの好みで大丈夫です」

「ん、わかったよー」

 

 シンプルに細切りにして塩炒めから、生のサラダ、肉詰め、フライもある。そして、煮びたしやピーマンの炊き込みご飯。

 味噌汁にまでピーマンを入れているという合作の完全なるピーマンフルコースである。

 

「テイオー。炭火起きたぜー」

「いいタイミングだよゴルシ!ピーマンそのまま焼いちゃってくれるー?」

「へぇ、丸のまんまでいいのか?」

「うん!じっくり遠火で焼いて、表面焦げるぐらいにして食べると美味しいんだぁ」

 

 テイオーが満面の笑みでそうゴールドシップと会話をしていると、後ろに一人のウマ娘がやってきていた。

 

「おー、やってるねテイオー。さて、早速一つもーらいっと」

「ネイチャ!?ちょっとちょっと!?まだそれ調理前なんだけどぉ!?」

 

 しゃりしゃりと生のピーマンを喰らいながら、ナイスネイチャは薄く笑みを浮かべる。

 

「気にしない気にしない。それに食べきれないぐらいの数もあるでしょ?」

「そりゃそうだけどさぁ」

「ははは!まあ私も手伝うからさ。あ、あとこれ差し入れね」

「お?ありがとー。わ!烏賊じゃん!わかってるねー!」

「ふふん。烏賊ピーマンはナイスネイチャさんの好物なのだ。ライスー。ちょっと包丁借りるよー」

 

 わちゃわちゃと進む食事の準備。そうして、徐々に徐々に料理が出来始めた時に、テイオーが一つの事に気づく。

 

「あれ、そう言えばインディは?」

「…あれ!?本当だ、居ないですね」

「インディさんなら先ほど外されましたよ。ちょっと趣味をやってくるとか」

 

 メジロマックイーンはそう言って、少し離れた物陰を指さしていた。

 

「ありがとーマックイーン!ちょっと行って来る!」

「お気をつけて」

 

 なお、今回メジロマックイーンは『ピーマン羊羹』に釣られるがままにここに居る。他の皆が調理をする中、一人、甘味を片手に優雅にティータイムである。

 

「…なあマックイーン?少しはこっちの料理食わねーか?羊羹だけじゃ寂しいだろ」

「まぁ、せっかくですし、…そうですね。頂くことにします。ライスさん。私に、何か手伝えることはございますか?」

「あ!マックイーンさんも食べてくれるんですか!えっと、それじゃあ、こっちのピーマンを洗って、この金山寺味噌をお皿に出してもらってもいいですか?」

「ええ、そのぐらいでしたらお安い御用です」

 

■ 

 

「おお、テイオー。飯、出来たのかい?」

 

 近寄ってきたテイオーの姿を見て、インディはそう言葉を紡いだ。その口には、トレセン学園では見慣れないものが咥えられている。

 

「んー、あとご飯が炊きあがればって感じ。ってインディ。それ、パイプ?」

 

 インディが咥えていたもの。それは、コーンパイプと呼ばれる喫煙具だ。既に火がつけられているようで、紫煙が漂っている。

 

「ん?ああ。セクレタリアトから贈られてね。『お前はもう走るだけがすべてじゃない。ドリームトロフィーで走るのなら趣味の一つくらいもっておけ』ってね」

「へー。タバコかぁ…っていうか、タバコにしてはちょっと変わった匂いだね」

「はは。バニラのフレーバーの煙草さ。いいだろう?」

「でもさあ、タバコって体に悪いんじゃない?」

 

 テイオーは訝し気にそのパイプを見る。が、インディは火を消す素振りすら見せず、煙を燻らせるだけだ。

 

「体に悪いものをやっちゃいけないか?そんな人生詰まらん詰まらん。毒も楽しんでこそ人生ってもんだよ」

 

 そう言ったインディのパイプからは、バニラの良い香りが漂い始めていた。

 

「ふうーん?趣味かあ。ボクも始めてみようかなぁ?」

「やめとけやめとけ。これは私の趣味だ。それにタバコは体に悪いのも事実。お前の趣味はまた別で見つけりゃあいい。というか、お前はピーマンが趣味じゃないのか?」

 

 インディはそう言いながら、再びパイプを咥える。そして、ゆっくりと煙を燻らせ始めた。テイオーはそんなインディを見ながら、くすりと笑う。

 

「ピーマンはボクの呼吸みたいなもんだよ」

「あー…それじゃあ趣味にはならないな。ま、ドリームでテイオーは長く走るんだろうし、のんびりと見つけていけばいいさ」

「えー?ボクそんなに長く走る気はないんだけどなぁ」

 

 そう言ってテイオーは首を傾げていた。だが、インディは面白そうに、パイプを咥えているままに、にやりと口角を上げる。

 

「はは、夢を背負って走るのがウマ娘という言葉があるだろう?お前がそう思っていても、お前はいつまでも走り続けるさ」

 

 そう言いながらインディはパイプを口から離し、テイオーを正面に見据える。

 

「なんせお前は日本の夢を初めて叶えたウマ娘だ。奇跡のウマ娘だ。いつまでも、お前の両肩には人々の夢が乗っかっているのさ」

「そっかー。ま、みんなが推してくれるのならボクは、どんな所だって走り続けるけどね」 

 

 

「セクレタリアト!朗報!朗報だ!」

「なんだいシアトルスルー、藪から棒に」

 

「ついにテイオーがドリームに上がるぞ!」

 

「…おお!ついにか!」

「ああ、そして、お前の日本行きも決まった。今年の冬だ。距離は芝の2500メートル。中山競馬場で、決戦だ」

 

「いいねぇ…いいねぇ!ついにこの時が来たか!」

「そうだ。ああ、無論、私も同行する。あとはヒシマサルとサンエイサンキューもな。ああ、あと、日本行なんだが、もう一人追加だ」

「追加?誰だ?」

 

「イージーゴアもねじ込めと言ってきてね。どっかの小柄なウマ娘に挨拶をしたいらしい」

「…ははは!あいつも難儀だな。まあいい。まとめてねじ伏せてやろうじゃないか」

 

 

 葦毛の馬が一頭。今日も今日とて、二足歩行の何かを乗せて、坂道を登る。

 

 その馬の名前はメジロマックイーン。長距離最強と言われるステイヤーだ。

 

 ちらりと、メジロマックイーンはまさに今駆け上ってきた坂路の坂を振り返っていた。いつも若いのに追いつかれていたが、もうそんなことも無い。

 

 メジロマックイーンは頭がいい馬だ。今までもこんなことが何度もあった。だから、なんとなくもう、あの若いのとは会えないんだと判っている。

 

『…若いの』

 

 そうニュアンスを飛ばしても、もう、ぎらぎらと目を輝かせて追いかけて来る、あの馬はもういない。しかし。時代は巡り、そしてまた次の芽が生まれるのもまた事実。それは、この馬もよく判っている。

 

『おかしい!おかしい!』

 

 そんなニュアンスに後ろを見てみれば、自身と同じような毛色をした馬がくっついてきていた。ああ、そう言えば、こいつも居たなと少し嬉しくなる。

 

『…行くぞ!若いの!』

『またいくの!?おかしい!』

 

 それならば、今度はこいつと競い合おう。ああ、若いのよ。きっと、元気でやれよ。

 

 そうだ。あの若いのがとうとう持ってくるのをやめなかったあの苦くて青臭いやつ。せっかくだ。もう一度喰ってみるか。

 

 そう考えたかどうかは不明だが、その日の晩のこと。今まで一切食う事の無かった、そんなピーマンを喰らう葦毛のデカい馬がいたとか、いないとか。

 

―…苦。青臭。でも、旨…?―

 

 

「そういえばセントライトさん。冬のドリームトロフィーのライブ曲知ってますか?」

「ん?例年通りの『Special Record!』だろう?」

 

「…違います。そんな事だろうと思ってました。これ、歌詞カードと振付指示です。シンザンさんにも渡しておいてくださいね」

 

「おお、そうだったのか。助か…る…?って、なんだいこの曲は」

「新曲らしいですよ。しっかり覚えてくださいね?音源は後で送ります」

 

「…ううむ。歌い出しはまだいいが…なんだい?この曲は。えーっと…なるほど、最初はセンターに合わせて登場、で頭に手をやって…ウサギ?」

 

「ちょっと私達にとっては可愛すぎ、という感じですが、最近の流行りを取り入れた振り付けと歌詞らしいですよ」

「なるほどなぁ…時代は流れるもんだなぁ。うっへぇ。投げキッスもあるのかよ」

 

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