ウインナーも細かくみじん切り!
ニンニクもみじん切り!
バターをフライパンに溶かして!
ニンニクのみじん切りを入れてバターに香りを移したら!
ピーマンとウインナーのみじん切りを加えて炒めて!
卵をそのフライパンで解いて!
最期にご飯を入れてなじませれば!
ピーマンバターライスの出来上がりです。
鍛錬の牧場から、おそらく、種牡馬用の牧場に連れてこられてから早一週間。私は非常に暇を持て余していた。
まぁ、当然と言えば当然であろうか。今まで坂路を登ってプール入って坂路登ってプールに入ってレースに出て、と忙しない毎日であったのだ。それがこんな急に、惰眠を貪れと言われても時間の潰し方が全く判らないのである。そう、恐れていた暇すぎる状況に陥っていたのだ。
早速種付けか!と身構えていた私の気持ちを返して欲しい。
ただ、かといってすぐに脱出してテレビや新聞を探して見る訳にもいかないので、ここ一週間は静かに人間のいう事を聞いていた。示されたルーティーンはといえば、朝起きて、飯食って、背中に人乗せてダートと芝をちょっと走って、午後になったらあとは放牧といった具合である。実に、実にのんびりできるのだが、しかし暇である。
そうやってやる事が無くなって来ると、普段気にならなかったことが気になって来るもので、例えば身だしなみ。やはり、鏡は一日に一度は見たい。まぁ、最悪、体については一日一度はブラッシングを受けているのでまだいいとしよう。しかし!
歯磨きが成されていないのである。
そう。歯磨きである。馬で歯磨き?聞いたことがない。無論そういう意見もあるだろう。だが私は中に人がいるのである。朝晩の歯磨きはぜひしていただきたい所。
とうことで本日、私は行動しようと思ったのだ。時間としては昼過ぎである。さてさて。ちょっと失礼いたしますね。私の厩舎の扉は、高さが通常の扉の半分程度の木の扉で、鍵は無く閂で止められている簡単なものである。しかし、ただの馬畜生であれば出ることは叶うまい。しかし私は中に人が居るのだ。閂の仕組みなんてお茶の子さいさいである。
室内からちょっと顔を出しまして、扉の外に嵌っている閂を食んで横にずらせばっと。
オープン、the、ドア。
さて、右見て 左見て。扉と閂を戻して。
さーって洗面所はどこだ。この昼間の時間帯ならばきっと誰かが昼食を取り、歯磨きを行っているはずである。きっと、ああ、きっと。
問題はどうやって歯磨きの意思を伝えるかであるが、その歯磨きをしている人の前で、目の前で口を開けて待っていればきっと可能性もあろう。
さーって身だしなみ身だしなみ。だーれかおらんかー。トウカイテイオー様のお通りだぞー。
■
「所長所長所長所長!!!大変!大変です!テイオーが馬房から脱走して職員用の洗面所に来てますー!」
「はぁ!?ええ!?なんでだ!?扉に閂はしていたのか!?」
「は、はい!間違いなく!何度も確認しております!事実テイオーの厩舎は今も閂がされたままです!」
「ええ!?誰かが逃がしたか!?」
「いえ!職員は全員昼食でした!これも確認が取れております!」
「まさか、自分で逃げた…!?」
「いや、それにしては扉が綺麗すぎます!閂までされているんですよ!」
「ううん…あ、それはそうとして、馬房に戻せたのか!?」
「いえ、それが…その」
「どうした?」
「口を開けたまま頑として動かずでして…しかも、その態勢で此方をじっと見てきまして…」
「…口を開けたまま?んんん!?まぁ、いい!とりあえずテイオーの馬体は何ともないんだな!?
「はい!それは間違いありません!健康体です!」
「よしわかった。では今から私もそちらに向かう!」
■
どうもどうもこれはこれはお偉いさん。どうも私トウカイテイオーと申します。どうされましたそんなに慌てなさって。ははは、大丈夫ですとも、そんなに慌てても私めは逃げませぬ。そう、ただ、ただ歯磨きをしていただければよいのですがね?
ちらりとアイコンタクトで、歯ブラシとお偉いさんの顔を交互に見る。判ってくれるかなぁ。
すると、お偉いさんは訝しげな顔をしながら、その歯ブラシを手に取って見せた。そうそれよ。と首を縦に振って、更に口を開ける。
同時に、私の口の中に歯ブラシが当てがわれた。ああ、そう。そうそう。そんな感じです。あー!久しぶりの歯磨き!いいですねぇ。すごく、いいです!あ、ちょっとお待ちを、そこだけじゃなくて歯肉と歯の付け根あたりもぜひぜひ。ああ、そうですそうです。うーん…満足!
ちらりと水道を見れば、昔ながらの蛇口をひねるタイプで、先端が回って上下に水が出るタイプの物であった。よし、と鼻で水道の蛇口を上に向けてっと。蛇口を鼻で左に回してと。
おー、水が出た出た。うん。良い感じに口も濯げたことだし、馬房に戻るとしましょうか。
■
呆然。まさにそう言った風に、テイオーを見送る人々。それはそうだ。歯磨きを要求し、しかも大人しくそれを受け、自ら口を濯ぐ馬など聞いたことも見たことも無いのだから。だが、その去り行く背中を見ながらも、助手がようやく言葉を発していた。
「…歯磨きがしたかったんですね」
「…本当にな…いや、そうじゃない! テイオーを追いかけるぞ! 馬が一人で扉を開けられるとは考えられん!」
「は、はい!」
「ひとまず他の皆は業務に戻ってくれ。あとは此方で対処しておくから」
再起動した所長と助手はそう言いながら、テイオーの後ろを追っていく。誰か手引きをした職員がいるはずだと。もしかしたら部外者が何かをしたのじゃないかという可能性も含め、その背を追いかけた。だが、どうだ。
テイオーは道が交差するところや階段の降り口などで一時停止、見事に安全確認を行いながら、誰の手も借りずに自らの馬房へと一直線に向かって歩いていく。
「こうみると本当に頭がいいですねー。階段とか、廊下の交差点とか、人が来るところでは必ず一時停止してますよ」
「そりゃあなぁ、あのテイオーは引退レースで2礼2拍手1礼をやってのけた馬だもんな。関係者の話では、松の内を真似したんじゃないかーなんて言われているけれど、あの場所で出すという判断が出来るっていう馬なのが、常軌を逸しているよ」
「そういえば一部では『神馬』とかあだ名が付けられていましたよね」
「…渾名だけじゃないさ。実際は、色々な所から引き取りの話も来ている。御用馬、神馬、乗馬、展示、もう一度走らせると地方も名乗りを上げたりもしているさ」
「っはぁー!?そう聞くとやっぱりすごい馬ですね」
「ま、オーナーは血を断ち切らせないためにと、それをすべて断って種牡馬にしたんだがな」
「じゃあ、私達はより一層、テイオーの世話をしっかり見なければいけませんね」
「本当だよ」
そうやってテイオーの後ろをついていくこと数分。ついに、テイオーの馬房へとたどり着いた。たどり着いてしまった。この間、不審者や職員は誰も居ない。そう、人の手が介在しない状態で、トウカイテイオーは自らの馬房へと戻ってきたのである。
「しかし…大切に調教と種付けをせねばという矢先にこの脱走劇。いやはや、幸先が思いやられる」
「本当ですねぇ…っと、テイオーが自分の馬房の前に来ましたよ」
「お、さー、誰が手伝ってるんだ?犯人を見つけたらただじゃ置かない…ぞ…?」
そうやって身構えた所長と助手の前で、テイオーは自然な動作で閂を開け、扉を開いた。
「…自分で閂外しましたね」
「…外したなぁ」
「扉自分で開けて入りましたね」
「入ったなぁ」
「しかも、扉の中から閂閉めましたよ」
「閉めたなぁ。って、あー…ちょっとこれはオーナーに相談だ」
所長は頭に手を当てた。そう。これはもう、自分の考えの範疇ではないと判断したのだ。
「オーナーですか?」
「ああ、扉を改修するにも金が要るし。頭がとんでもなく良いというのは判ったからな。それに、別に危害を加えたわけでもないし、しかも目的達成したら自ら戻るわけだしなぁ。方針を話し合わなきゃならん。がっちがちに扉を固めて脱走しないようにするのか、それとも自由にさせるのか、もっと広い、自由に行動できる馬房にするのか。今後の調教をどうするかとか様々にね」
「ああ…なるほど、お疲れ様です」
自らの仕事部屋に戻りながら、頭を抱える所長である。助手も思わず腕を組んでしまっていた。
「とんでもない馬を受け入れちまったもんだ。一年か。これは、長く感じるだろうなぁ」
そう、所長はため息をついた。
「あ、所長。とりあえず、この後はどうします?普段であれば放牧させるところなんですが…」
助手の言葉に、所長は眉間に皺を寄せる。だが、諦めた様な笑みを浮かべてこう呟いた。
「…まぁ、放牧させるしかあるまい。変に閉じ込めてまた脱走されても、困る」
■
はーい、放牧中の若馬の皆さまー!注目ー!
こちらにあるのは食べると速くなる食べ物でーす!
ささ、遠慮せずに食うのだ!食えば私のように速くなるぞー!…うーむ、やはり食いつきが悪い。ピーマンは良いモノなんだがなぁ。やはり苦味と青臭さが馬的に一般的ではない…?いやいや、レオダーバン同志やナイスネイチャ、ライスシャワーなども食っていたからイケるはずであるが。
ちょっとショックを受けながらピーマンのバケツを咥えて立ち尽くす事数分。
『おいしい?』
そうニュアンスを伝えてきたお馬さんが一頭。ならばと。
『おいしい』
『もらう』
それならばどうぞと、バケツを地面に置いた。すると、恐る恐ると言った具合で一つ、ピーマンを咥えて咀嚼を始めていた。
『…苦…旨…?もう一個』
おや、これはなかなか良い印象だ。君は…ええと、女子だね?ほうほうほう、もう一個と言った割に、これはなかなか筋が良い食いっぷり。うむ。私の
■
ピーマンのバーベキュー大会。喰らいに喰らったピーマンは既に箱3つを超え、流石のウマ娘と言えど、数人脱落者が出ていた。無論、テイオーはまだ喰らい続けている。
「うえっぷ…食い過ぎたー…流石のゴルシちゃんでもこれ以上食えねーぞぉ…」
「食べすぎですよゴールドシップ。まったく」
そう言って、テイオー達から離れて休憩をとっているのはメジロマックイーンとゴールドシップのいつものコンビだ。2人共、腰を下ろし、なおかつ腹を膨らませて満足そうな表情である。
「そうは言ってもマックちゃーん。お前、その膨れたお腹で言えた事じゃないだろーがよぉ?どうしたどうしたー?ピーマンは食わない、じゃなかったんかぁ?」
「うっ…仕方ないじゃありませんか。料理がおいしいのですから。それに、お野菜ですからね。食べても太りにくい。これは私にとってすごく有難い事です」
「そいつぁ良かったぜ。いやはや、誘った甲斐があるってもんよ。…で、そちらで涎を垂らしているウマ娘ちゃーん。ピーマン食うかー?」
ゴールドシップがそう言うと、少し遠巻きでテイオーのバーベキューを眺めていた一人のウマ娘が、びくりと体を震わせる。
「…はっ!?あ、いいえ!?これから練習しなければなりませんから!?」
慌てた様子で走り去ろうとするウマ娘に、待ったをかけたのは意外な事に、マックイーンであった。
「あら?少々お待ちくださいな。そのジャージ…見たことがないですね。わたくしは中央トレセン所属のメジロマックイーンと申します。あなたのお名前は?」
びくっと体を震わせて、マックイーンを見るウマ娘。同時に、ウマ娘は慌てたように大声を出していた。
「メジロマックイーンさん!?本物!?あわわわわ!?」
ウマ娘からすれば、G1レースを走れるというだけでも雲の上の存在。そんな存在が声を掛けてきてくれた。心の中は嬉しさやら恥ずかしさやらで一杯であろう。が、そんな彼女の心中を察してか、ゴールドシップがさっと立ち上がり、自らの皿に残っていたピーマンの肉詰めを口に放り込んでいた。
「落ち着けって、ほい、ピーマンの肉詰め」
「あむっ!?…あ、美味しい…」
「だろー?テイオーとライスの料理は滅茶苦茶旨いんだ。まだまだ余ってるからせっかくだから喰って行けって、な?」
そう言って笑顔を向けるゴールドシップ。実際、ウマ娘はお腹が空いていたのであろう。ピーマンの肉詰めをおいしそうに咀嚼し、嚥下する。そして、おずおずと言葉を紡いだ。
「…あ、じゃあ、せっかくなので…あ、申し遅れました!私、宇都宮トレセン所属のロマンリバーと申しましゅ…す!」
噛んだ。その姿にゴールドシップとマックイーンは少し微笑みを零すと、言葉を続けた。
「おうおう。喰ってけ食ってけ。宇都宮トレセンかー。随分と遠くから練習に来てるんじゃないの?」
「あ、はい!トレーナーさんから中央で走れるかもって言われまして!下見もかねて、です!」
「ほほーう!?そりゃあ良い。じゃあ私のライバルかもなぁ!あ、私はゴールドシップな!」
2度目の衝撃。ゴールドシップ。まだデビューなどはしてはいないが、その美貌からメディアに出ることも多いウマ娘だ。そう、つまり有名人である。
「え!?ゴールドシップさん!?本物ぉ!?ええ!?えええ!?嘘っ!?ああう」
混乱の極みと言った具合にわたわたと腕を動かし、視線を泳がせるロマンリバー。が、そこは流石のメジロマックイーン。微笑みを浮かべて、肩に手を置いた。
「落ち着いてくださいな。ロマンリバーさん。そんな獲って食べるというわけではございませんから。ささ、どうぞ此方へ。テイオー!こちらの方をお誘いしてもよろしいですかー?」
そうして、未だバーベキューが行われているテイオーの元へとロマンリバーを連れていく。トウカイテイオーは今まさにピーマンの直火焼きを食べようとしていた所で、少しだけ不機嫌な顔をマックイーンに向けた。
「んー?って、誰その娘」
首を傾げたテイオーに、マックイーンは笑顔でロマンリバーの紹介を行った。
「宇都宮トレセンから此方に来られているロマンリバーと申される方です。私達を見ながら涎を垂らしていましたので、お誘い申し上げたのです」
その言葉にテイオーは、ロマンリバーの近くまで寄って、その顔を覗き込んだ。そして、天真爛漫な笑顔を浮かべると、近くにあった皿と箸を手渡した。
「へー?ま、ピーマン好きならぜんっぜんいいよー!人数が多いほど楽しいからね!よろしくねー!ロマンリバー!」
「あ、は、はい!よろしくお願いします!って…ああああああ!?もしかし、もしかしてトウカイテイオーさんではああああ!?」
思わず大声を上げる。そう、名前を聞かずとも、姿を見れば判るのだ。中距離で敵無し、外国も、芝も、砂も全てを制した生ける伝説。そんなウマ娘がいきなり現れたのである。
「ん。その通り!ボクは最強無敵のウマ娘のトウカイテイオー様だよー!あ、んでこっちがナイスネイチャ、あとあっちで洗い物をしているのがライスシャワーにバクシンオーとリオナタール。で、ちょっと向こうでボーっとしているのがミホノブルボン」
テイオーの言葉に、視線を向けてみれば、これまたG1で活躍するウマ娘達ばかり。
「ひうっ」
カエルが潰れた様な声。まさにそんな悲鳴を上げて、ロマンリバーは硬直してしまっていた。
「あー…まぁ、テイオーとかを見てさー、緊張するなっていうのは無理だと思うけどねぇ。ま、とりあえず食べなー?」
そう言ってナイスネイチャは、自らの皿に載っかっていたピーマンのフライを、ロマンリバーの口に放り投げた。
「むぐぅ!?…あ、このフライもおいしいですぅ…」
「よかったよかった」
ナイスネイチャはそう言いながら、笑顔でロマンリバーへと語り掛けていた。ゆるーいナイスネイチャの雰囲気と、ピーマンのフライの美味しさで気が緩んだのか、ロマンリバーはへにゃりと笑顔を浮かべた。そして、ぽつりぽつりと雑談を交わすうちに、ロマンリバーもようやく気が落ち着いてきたようだ。
「それにしても宇都宮ねぇ。遠いところからよく来たねぇ」
「あ、はい!その、身の上の話になっちゃうんですが、ブライアンズロマンという姉がいまして…。その姉が今宇都宮レース場で活躍しているんです」
ロマンリバーはナイスネイチャの雰囲気に饒舌になっているようだ。周りのテイオーや、マックイーン、ゴールドシップらは静かにその話を聞いていた。
「ほうほう?」
「それで、姉から『お前は私より走る。間違いない。中央でティアラ三冠を目指せ!』って言われまして…それがキッカケなんですが」
「なるほどねぇ。お姉さんの想いを背負ってきてるのかぁ」
「あ、いえ、そんな大層なもんじゃないですよ!でも、地方の私達からすれば憧れですから!中央って!」
もぐもぐとピーマンの肉詰めや、炊き込みご飯を食べながら身振り手振りで話を続けるロマンリバー。ふと、ナイスネイチャがにんまりと笑みを作る。
「ふっふふ。じゃあ、いい機会だねぇ。ねーロマンリバー。ちょっと一緒に練習しない?」
「えっ!?あ、でも、皆さんバーベキューをしていらっしゃいますし…そんな」
そうやってロマンリバーが遠慮しようとした瞬間。その背中から近づく、少し大きなウマ娘の影がロマンリバーにかかっていた。
「いやー食った食った。…って、見慣れない顔がいるな。っつーか、ネイチャ、なんで準備運動をしているんだ?」
「いやぁ、この娘、ロマンリバーっていう娘なんだけど、地方から中央の下見に来たらしいのよ。せっかくだから中央の風、体験させてあげたいじゃん?」
「ほー?そりゃあいい。じゃ、私も走るかね」
「えー?インディ今日は蹄鉄もって来てないじゃーん」
今まで沈黙を守っていたテイオーが、呆れた様な顔でそう呟いた。が、インディはそんな言葉を快活に笑い飛ばした。
「はははは。甘く見るなよテイオー。アメリカじゃあこんなことは日常茶飯事さ」
「…インディ?って、もしかしてエーピーインディさんですか!?」
「お、私の事も知ってくれているか。嬉しいねぇ。じゃあ、軽くここから橋の袂まで、3本ぐらいでいいか?」
驚くロマンリバーに、インディはにやにやと笑いならがも併走の準備を進め始めていた。脚を伸ばし、上半身を伸ばし、首を左右に振る。ナイスネイチャも同じだ。
そんな2人を見たロマンリバーは、覚悟を決めた。
「…はい。はい!ぜひよろしくお願いします!」
「元気が良い!さ、じゃー行くとするか。テイオー、合図頼むわ」
「よーし、じゃあネイチャさんも頑張りますかねー」
そう言って横一線に並ぶロマンリバー、そして、エーピーインディとナイスネイチャの3人。特にロマンリバーはこんな有名なウマ娘と走れるなんて思っても居なかったのだろう。満面の笑みを浮かべながらぐっと頭を低くし、その合図を待っていた。
「オッケー!じゃ、行くよー。位置についてー!よーい、ドン!」
そして、その後ろで見守るウマ娘達のやる気も刺激されたようで。
「おおー?いいスタート!頑張れロマンリバー!ぶっちぎれー!」
「ふふ、良い笑顔をされていますね。さ、私達も交ざりましょうか」
「お、やる気だなマックイーン。いいぜいいぜ。じゃあ、軽く準備運動すっかー」
「ええ、そう致しましょう」
そう言って準備運動を始めようと、体をぐっと伸ばすメジロマックイーン。だが、ゴールドシップは特に何もせず、そして走り去る3人の背中を暫く眺め。
「ま、
誰にも聞かれない声で、そう、ぽつりと呟いた。
「何か言いまして?」
「いんや?さーって、ストレッチしよーぜ、マックイーン」
■
トレセン学園の生徒会室で、ルドルフとエアグルーヴは次から次へと書類を片付けていた。が、ふと、エアグルーヴの手が止まった。
「…ん?」
「どうした?エアグルーヴ」
いつもならさっさと書類を片付けるエアグルーヴ。そんな彼女が動きを止め、更に声を上げたことで、ルドルフもそちらへと視線を向けていた。
「あ、いえ、こちらの転入生の出身ですが、見てください。宇都宮からです。昨今では珍しいなと思いまして」
「ほう?宇都宮トレセンからか。確かに珍しい。確か今、宇都宮トレセンでは注目株がいたはずだから、その娘かな?」
「そうなんですか?」
「ああ。確か名前は…ブライアンズロマン、だったかな。ただ彼女、脚に不安があるとかで地方を選んだ娘のはずだったんだが」
「では、実力は中央レベル、と?」
「ん?ああ、怪我を気にせずに一発の速さを競うのなら、ナリタブライアンと良い勝負ができるかもしれないな」
ルドルフはそう言いながら、書類をエアグルーヴから受け取っていた。
「ほう、これは…なるほどなるほど。件のブライアンズロマンでは無かったか。でもこれはなかなか、地方では実力のあるウマ娘だな。しかも順当にトレーニングが進めば、デビューは君と同時期ときているようだぞ。エアグルーヴ」
そう言いながら、笑顔を浮かべてルドルフは書類をエアグルーヴに返す。それを受け取ったエアグルーヴは、少し口角を上げながらその書類をまじまじと見直していた。
「私と同じティアラ路線…。ああ、これは強敵が来たかもしれませんね。宇都宮のロマンリバー。覚えておくことにします」