とはいえですが、ピーマンを半分に切って、氷水に1日つけておきまして
パリッパリになったピーマンを食う、原点回帰の逸品もまた捨てがたし。
※マイルドですが交配の表現がございます。ご注意ください
「んなあああああああああああああ!」
「ッシャオアアアアアアアア!」
「はああああああああ!」
河川敷に響く3つの叫び声。上から順にロマンリバー、ゴールドシップ、メジロマックイーンである。バーベキュー大会が、いつのまにか、地方からきたロマンリバーをしごく会になってから既に1時間以上が経っていた。
「いやー…タフだなアイツ。もう10本目ぐらいじゃないか?」
呆れたようにインディが競い合いを見ながら、そう呟いていた。
「いやぁー…本当、宇都宮トレセンだからって舐めてたわ」
隣に座るナイスネイチャも、額に汗を浮かべているあたり、結構いい競い合いをしているようである。
「なぁテイオー。スタミナだけで言えばお前に匹敵すんじゃないか?」
「んー?多分クラシックの時のボクよりはスタミナあるかもねー」
インディの言葉に、テイオーはピーマンを頬張りながら答える。どうやら、テイオーは今回、走る気は無いらしい。
「それにしても最初はあんなにガッチガチだったのに、走り出したら別人だなぁ。なるほど、あれは確かに中央向きかもねー」
その隣でリオナタールがピーマンをこれまた頬張りながら、そう頷いていた。テイオーも同じように頷く。
「体はタフ、メンタルも十分だし、伸びる娘だよねー。ま、ボクには及ばないけど」
「まぁ、デビュー前の娘と凱旋門ウマ娘じゃあ違うわな。…ていうか、ブルボンがずーっとボケーっとしているけど大丈夫かあれ?」
「多分お腹いっぱいなだけ。そのうち再起動すると思うよ」
そうテイオー達が話している間に、走っていた3人は息を整えながら戻ってきていた。
「いんやー!お前タフだなぁ!このゴルシ様に付いてくるなんてよ!」
「本当にそう思います。宇都宮の期待の星ですわね」
「はぁー!はぁー!…っはぁー!ありがとうございますう!」
おびただしい汗を流しながらも、ロマンリバーは満面の笑みを浮かべていた。と、ふと、ロマンリバーの視線がピーマンを食べているテイオーに向かう。そして、同時に大声を発した。
「テイオーさん!私と走ってください!」
びくっと体を震わせるテイオー。
「…うぇえ!?って、大丈夫なの!?すんごい汗かいてるけど!?」
「大丈夫です!!せっかく、せっかくテイオーさんと走れるチャンスですもん!棒に振るわけにはいきませんから!」
そう言ったロマンリバーだが、はたからみれば疲労困憊もいいところ。顔は真っ赤で、脚がガクガクと震えている。
「う、ううん?でも、その汗、脚も震えているし流石に限界じゃ…」
「大丈夫ですぅ!お願いします!」
90度。見事なお辞儀をして、そう言い切るロマンリバーに、今度はテイオーがおどおどするばかりだ。
「走ってやれよテイオー。ここで会ったも何かの縁、っていうだろー」
ここで救いの手を差し伸べたのはゴールドシップである。苦笑しながらも、ロマンリバーの肩を持った。
「まぁ、ゴルシがそう言うのなら…。でも、手加減は出来ないよー?」
「はい!ぜひぃ…ぜひ本気でお願いします!」
「しょーがないなぁ…」
そうってテイオーはピーマンと皿と箸を置き、準備運動を始めていた。と、同時に隣でピーマンを食べていたリオナタールも皿と箸を置いた。
「じゃ、せっかくだから私もやるよー」
「…本当ですかリオナタールさん!よろしくお願いします!」
「う、うん!でも、無理しない…無理してないよね?」
心配そうに声を掛けたリオナタール。無理もない。ロマンリバーの息はあがったままで戻らず、脚もガクガクしているのだ。だが。
「無理でも!根性で付いて行きます!!」
そう言い切ったロマンリバーの目は、まだギラギラと輝いていた。
■
遂に来てしまった。
歯磨きが日々の日課となって数日。私は、とある施設の前に連れてこられていた。扉の中を見てみれば、一頭のお馬さんと、それを囲う人々が見える。
そう。これを見て察せてしまった。これが、俗意に言う…子孫を残すアレである。気合を入れて建物に踏み込んでみると。
『あれ。お久しぶり』
そうニュアンスを伝えて来たのは、私が凱旋門賞で雄と間違えたあの牝馬であった。そしてどこがとは言わないが…うん。もう見るからに発情期ってやつだね!
『来る?来る?』
なんか相手は覚悟が決まっている感じ。ウェルカム感が否が応でもビンビンに伝わって来る。いやー、しかし、全くマイ・サンは反応してくれない。いや、その、本番になればきっと、フェロモンとかなんかで、体が勝手に反応するんかなぁ…とか希望を持っていたのだが、やはり駄目であったか。
むむむ…遠い記憶のグラビアのアイドルなどを思い浮かべてもみているが、やはり、マイ・サンはやる気がないようだ。うーん、うーんと頭を捻っていると、彼女が此方に近づき、体を寄せてくれていた。
『…大丈夫?』
お気遣いありがとうございます。いや、しかし。凱旋門で競い合った馬が私の初種付け相手かぁ…。ということはもしや、海を越えてやってきてくださっている?やっぱり私、結構期待されているなぁ…。んー…しかし、馬のお達しってどうやればええんじゃろ?昔見た動画だと確か雄馬が牝馬にのしかかって致していたはずなのである。
いや、うん。まあぶっちゃけやり方は判っている。しかも、据え膳というのも判っている。据え膳食わぬは男の恥と言う言葉も知っているが…ンンンー!駄目だ!全く体が反応しねぇ!
イヤー!マイッタナコレハー!
救いを求めて周りを囲う人々を見る。が、私に見られた人々は一様に首を傾げるだけである。まぁ、そうだよなぁ。馬にアドバイスできるわけでもないし。そもそも雄馬が牝馬を前にこんなに戸惑っている姿っていうのも見ないだろうしなぁ…。
…えーっと。大変申し訳ないんだけれども、なんかないか。何かないのか。
『どうしたの?』
いや本当にお待たせして申し訳ありません。本当。ぐぬぬぬぬ。立ち上がれ、立ち上がってくれ、マイ・サン!
あ!そういえば二足歩行時代に見た動画で、どうしても種付けを行わない馬に対して興奮剤みたいなものを打つとかって見た様な気が!そういうお薬でもいいんで何かないですか!?っていうか普通のお馬さん、どうやってやる気になっているんですかね!?教えてレオダーバン同志!って奴はここには居ねぇ!同志ー!同志ー!いっそのことインディでもいいぞー!お前好きってニュアンスが滅茶苦茶恋しいわ!
「…?」
「…!?」
あ、うん。人間達が困惑しているのが良く判る。ええ、判っています。据え膳というのは判っておりますとも。彼女、脚になんかタオル巻いていますし、尻尾もまとめられていますね。私の致す邪魔にならない準備がされているのも十二分にわかりますとも!あー糞っ!歯磨きー!とか言っていた数日前の私をぶん殴りたい!
いやしかし、ねぇ?お仕事というのも重々承知しておりますとも。ええ、お仕事、お仕事なんですよこれ。レースが終わった活躍馬ですから私。そりゃあ子孫を残すことが仕事と良く判っていますとも!ええ!
『…?来る?』
そんな目で見ないでください。レディ。ぐぬぬぬぬ。くっそ、頼むぞマイ・サン…!
思い浮かべるのだ。そう。成人向けのアレとか…アイドルとか…最悪二次元でも…ぐぬぬぬぬ。ッアー!ダメダー!タスケテー!
どうにかならんかと、ぐるんぐるんとその場で回転していると、周囲の人間がため息をはき始めていた。いや、まぁ、レースで走ると強くて、それでいて勝手に脱走する馬がこんなヘタレだったらそんな感じになりますよねー!わかる、わかります!でもどうにもならんのです!なんかない!?なんかないのか本当に!?
ハッ!人間さん!その手にしているお注射は!?もしや!?もしや!!
もうままよ!早う打ってくれ!興奮剤でもなんでもいいからカモーン!お尻差し出しますんでカモーン!カモーン!カモーン!さっさとカモーン!これ以上レディを待たせてたまるかってんだ!
そう、そうだ!カモーン!ッシャアアアア!チクッっとキタアアアアアアアア!
■
「コヒュー…コヒュー…」
大の字でぶっ倒れているのは、ロマンリバーそのウマ娘である。流石にG1ウマ娘と並走を何度も繰り返したからか息も絶え絶えで、その目の焦点すらも定まっていない。それを見下ろすように、汗を額に浮かべているテイオーとリオナタールも息を整えながら、ピーマンを再び食べ始めていた。
「んー、運動したあとのピーマン美味しいー!」
「運動してピーマンを食える。最高だねテイオー」
もぐもぐと肉詰め、炭火焼を腹に叩き込んでいく2人。その2人を横目に、ロマンリバーが言葉を発した。
「こんなに、走ったのに、すぐごはん食べれるのって、すごい…ですね…」
苦笑しながら、テイオーとリオナタールも彼女に声を掛ける。
「…キミ本当にすっごい根性だねー。ボクに付いてくるなんてさぁ」
「私の末脚にも付いてきたよ、この娘。いやー、もしかしたら将来はオグリさんみたくなるかもね?」
「あー、リオナタールもそう思う?でも、こうなると怪我が心配かなぁ。きっと、これって決まっていくと視野が狭くなる娘っぽいし…」
「確かに。って、そういえばこの娘のトレーナーは一緒に来てないのかな?」
そうリオナタールが呟くと同時に、ゴールドシップがいち早く何かに気づいたようで、耳をピンと立てた。
『おおおーい!ロマンリバー!どこいったあー!』
顔を声のする方向に向けてみれば、どうやら、叫びながら、人を探している一人の男性がテイオー達の元へと近づいてきていた。叫んでいる内容からして、この倒れ伏しているロマンリバーを探しているようである。
「ン?あのおっちゃん誰だ?」
「さぁ?でも、ロマンリバーの名前を叫んでおられましたね」
マックイーンもその声に気が付いたようで、それにつられてテイオー達も耳をそちらに向ける。そして、テイオーは体をそちらに向けて、笑顔を浮かべていた。
「もしかすると、ロマンリバーさんのトレーナーさんかもね?ボクちょっと声かけてくるよー」
「あ、じゃあ私も一緒に行って来る」
そう言ってテイオーとリオナタールは早速駆けだしていた。そして、その男性の前に到着すると、また男性の叫び声が一つウマ娘達の耳に届いた。
『トウカイテイオーにリオナタール!?ぉおおおお!名ウマ娘に会えたあああ!!!?』
『落ち着いて落ち着いて。キミが探してるロマンリバーならこっちにいるよー』
『ああ!本当ですか!いや、良かった!』
『やっぱりおじさん、ロマンリバーのトレーナーさん?』
『あ、はい!宇都宮トレセンでリバーのトレーナーをしております!』
倒れ伏すロマンリバーの耳にも、遠くでわいわいと話す声が聞こえていたのか、ピンと耳が立った。どうやら、ロマンリバーのトレーナーその人であったようだ。テイオー、リオナタール、トレーナーの三人は、談笑しながらロマンリバーの元へと歩みを進め始めていた。
そして、それを遠目に見ながらも、ナイスネイチャは倒れているロマンリバーの元へ近寄り、耳元でこうささやいていた。
「トレーナーさんがきたみたいだよー。…ね、ロマンリバー、どうだった?中央の風は」
すると、息も絶え絶えながらも、ロマンリバーははっきりとこう、答えた。
「中央の、風。さいこう…でしたぁ…!」
「ふふふ。じゃあ、将来はネイチャさんと競い合うかもね。私、ながーくトゥインクルで現役を続ける予定だからさ。頑張りなよー?」
ナイスネイチャはそう言いながらも、にっこりと笑みを浮かべていた。そして、ロマンリバーの返答といえば。
「はいぃ…一緒に…走りますぅ…。ぜったいに…
ふにゃりと笑ったロマンリバー。しかし、その言葉には強い、光るものが確かに宿っていた。
「なるほど、ガッツもありますのね」
「本当だな。いんやぁ、我ながら良い拾いもんをしたもんだぜ」
■
いやはや、種付けは戦争でしたね。
『よかったよ』
お待たせした彼女に種付けした後、そうニュアンスを受け取った私は一安心して厩舎で横になっていた。いやー…あの注射が無かったらまさに種無し認定されるところだったぜ…。
ま、なんとかかんとかあの注射のお陰でマイ・サンも元気になったんで、無事に仕事が出来たわけである。
しかし、一度種付けするとかなり体の体力が持って行かれる感じ。今、私は賢者タイムである。…いやしかし、そうかー。私、馬でありますが遂に馬と致したかぁ。
…なんだろう。壁を一つ越えた感じはあるわなぁ。
それに、今回の種付けでマイ・サンを元気にするコツも掴んだ感じがする。まぁ、なんだかんだ言って穴があれば入りたいのだ。雄の本能とは末恐ろしいものである。しかしながらこれをこれから、事によっちゃあ10年以上も続けるわけか。何だろうなぁ…。馬と致すかぁ…まぁ、仕事として割り切るしかあるまい。
さて、さて。とりあえずは瞑想をしましょう。そうしましょう。体幹を鍛えて瞑想をしましょう。そうしましょう。あ、人間さんこちらを覗いてどうされました。もしかしてうんうん悩んでいた脳内の色々が声として漏れ出しておりましたか?
…今はそっとしておいてくれません?ね?ね?