ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

59 / 74
1月。この時期に土を作っておくのです。

ピーマンの植え付けが、非常に楽になりまするよ。


暴走機関車ピーマン/やられるピーマン

 ロマンリバーの出会いから数か月たち、いつものようにロマンリバーと鍛錬を行っていた日の事。良く見た顔の人間が、私達の練習風景を見つめていた。

 

 そう、私の鍛錬を行ってくれていた人間である。ほうほう。宇都宮に何の御用で、と近づいてみたのだが、すかさずピーマンを差し出された。うん、懐かしいねこの感じ。そういえばエーピーインディ氏は元気であろうか?『お前好き!』というニュアンス、聞いていた当時は鬱陶しいと少し思っていたが、聞けないとまた寂しく、懐かしく感じるものである。

 

 ま、それで、なんとなく察せましたよ。だって、あなたの視線が私ではなく、ロマンリバーにくぎ付けですもの。

 

 うん。まぁ、ロマンリバーと鍛錬する事既に数か月。種付けの時期も終わり、季節は夏から秋へと移行しつつあるこの日々。私の技術は、間違いなくロマンリバーに継承されたと言ってもいいだろう。フレキシブルに変化する歩幅、馬場によって変わる蹄の立て方やパワーの出し方、いざとなった時の最終加速のやり方。彼女は、見事に私の、数年間における鍛錬の成果を見事コピーしてみせた。

 

 彼女は、誠に逸材と言えるであろう。それは、君から見ても明らかなのだろう?

 

 さあさあ、彼女を君の厩舎に連れて行きたまえ。あの訓練用の牧場で、彼女を鍛錬したまえ。多分、おそらく。滅茶苦茶化けるぞ。

 

 そう意味を込めて、軽く嘶いておいた。

 

 そして、数日後。彼らが彼女を、車に乗せていた。『JRA』のロゴが入った、あの移動車に。

 

『お別れ?』

 

 放牧地からそれをみていた私に、彼女からそういうニュアンスが伝わってきた。

 

『お別れ。でも、君が一番で居る限り、また逢える』

『わかった。()()()

 

 彼女はそうニュアンスを私に伝えながら、移動車の中に消えていった。うん。なんというか覚悟がめっちゃ決まっている感じ。いやー、実に誰かに伝えたい。ロマンリバー。あれは逸材であるぞと。そして、きっと、彼女の年代は面白い時代になるぞ、と。

 

 

「お疲れ様です。ビワハヤヒデ、菊花賞見事でした」

「ああ、ありがとう。いや、やっと勝てたよ。三強と呼ばれているけど、勝ち星が無かったから正直ほっとしたかな」

「あはは。そりゃあ良かったです。あ、そう言えば聞きました?面白い馬が栗東に来たとか」

 

「ああ、聞いたよ。宇都宮の地方で走る予定だった馬を、移籍させてまで来たんだってね」

 

「そうなんですよ。いやー。しかも知ってます?あのテイオーが、技術を教え込んだっていう噂ですよ?」

「…技術を?どういう事だい?」

「ああ、まあ、走り方や群れの過ごし方をリーダーから教わる、というのは馬とか動物はありますよね」

「うん」

「あれの延長線上らしいですよ。テイオーの走り方を後ろから付いて行って、ほとんど真似してしまったんだとか」

「それは、面白い話だね」

「そう言えば、テイオーつながりってことで、あなたに屋根の話は無かったんですか?」

 

「あったよ。でも、そんな話知らなかったし、それに実は先約があって断ってしまったんだ。いやー、失敗した。その話を知っていれば間違いなく承諾したんだけどなぁ」

 

「あらぁ。それは残念です。…ちなみに、屋根を承諾した馬って言うのは?」

「ん?ああ、エアグルーヴっていう名前の牝馬だよ。牧場主が『雄だったら間違いなくダービー馬だ』と自信を持っていたからね」

 

 

 ロマンリバーが居なくなってまたしばらく。種付けのシーズンも完全にオフとなり、この牧場には実にゆるーい空気が流れている。

 

 しかしだ、種付けのシーズンオフになるとかなり暇になるもので、日々日々朝飯を食い、歯を磨いて、神棚にお勤めをして、放牧をされて、飯を食って、という味気ないルーティーンを送っていた。今だって絶賛だらけ中である。厩舎の藁が気持ち良いのである。

 

 そう言えば同志なんかは元気であろうかなぁ。うーん。人間の様にテレビや新聞で情報がすぐに手に入れられないのはなんとももどかしい。

 

 ま、横になるのも飽きたので、立ち上がるとしましょうか。どっこいせっと。

 

 ついでにピーマンを2~3個口に放り込む。うん。良い苦さである…。うーん…とはいえ、実に暇である。最近、脱走してテレビでも見ようかと思ったりもしたのだが、実際にテレビを見てみると文字が読めない。漢字とかナンセンスということが判明したので、暇つぶしは諦めた次第だ。新聞も同様である。なんだろうか。この英語とローマ字しか読めないと言う特異体質は。

 

 あ、そういえばだ。英語でひとつ思い出した。ロマンリバーって、実際、どういう字を書くのであろうか?

 

 例えば私トウカイテイオーならば、Tokai Teioである。見事にローマ字読みなのだ。英語風に言えば、East sea emperorとでも言うのであろうか。それともEMPEROR of the East seaか?うーん…まあ、そもそも英語も実際得意か?と言われると得意でもないので非常に微妙なんだよなぁ、この認知能力。

 話は逸れたがロマンリバーだ。ローマ字であれば…ROMANRIBAか?いやー、これは無いか。いや、地方馬だから有り得そうっちゃ有り得そうな所が怖い。が、音の響きから言うと、Roman riverあたりだろうか?んー、でも、これだとローマの川ってな意味になっちゃいそうでなんかこれも違う。

 

 意味を考えるとRomantic riverとかが妥当だろうかなぁ?でも、これだとロマンティックリバーという読み方に…うーん?

 

「…!?」

 

 おや、人間さんじゃあないですか。どうされました、そんな大きな悲鳴を上げて…。んん?なぜにこちらの足元を指さしておられるので?

 

 と、自分の足元を見てみて理解できた。あ。こりゃいかん。こーれはいけないぞ。

 

 蹄鉄で思いっきり、コンクリで出来た厩舎の床に『ROMANRIBA』やら、『Romantic river』って無意識で書いてしまってたわ。いやー、なんだ。無意識って怖いねー。

 

 じゃねぇ!あー!人間、人間?君、これは気のせいって奴だ。

 

 はははは!嫌だなぁ!馬がそんな文字なんて書けるわけないじゃあありませんか!はっはっはっは…。と、心の中で唱えながら、コンクリに刻まれた文字を蹄鉄でこそぎ取る。

 

「……!!!!………!!!!」

 

 私の行動を見てた人間が、更に大きな叫び声を上げ、そして喚きながらどこかに走り出してしまっていた。うーんと。そうだな。

 

 これは、暫く忙しそうな日が続きそうである。ま、暇よりは、いいということにしておこう。

 

 

「所長おぉおおおおおおおお!テイオーがテイオーがああぉああああ!」

「ん?なんだ?テレビでも見に来たか?それとも歯磨きか?ああ、もしかしてロマンリバーのほかで馬の調教でも始めたか?」

 

「文字を!文字をぉおおぉおおおお!?」

 

「…え?」

 

 

『今年も見事な盛り上がりを見せたサマードリームトロフィーリーグ!勝者はもちろんこの人!皇帝!シンボリルドルフさんです!今年は期待のルーキー、リオナタールが勝つかと思われましたが、その前評判を覆して見事なレース展開で勝利を収めました!今のお気持ちを一言お願いします!』

『まずは、応援ありがとうございます。温かい声援のお陰で、私はまたこのドリームトロフィーを勝つことが出来ました。非常に嬉しく思います』

 

 画面から流れる映像と音声を、トウカイテイオーとマヤノトップガンの2人が、寮の自室で眺めていた。

 

「すっごいなぁ。マヤもいつかあの舞台に立てるかなぁ」

 

 そう言うマヤノトップガンに、テイオーは笑顔でこう答えていた。

 

「立てる立てる。だってマヤノってすごい素質持ってるもん。正直ボクよりも上だと思うよー」

「本当!?」

「本当本当」

 

 他愛もない話をしながら、2人の夜は更けていく。と、マヤノトップガンが慌てて口を開いていた。

 

「あ、テイオーちゃん!そろそろ冬のドリームトロフィーのメンバーが発表されるって!テイオーちゃんも入ってるんでしょー?」

「うん。あとは会長とリオナタールも入ってて、あのシンザンさんも一緒に走るっていってたかなぁ」

「え!?すごいじゃん!わー!羨ましい!」

 

 ぱあっと明るい笑顔を見せるマヤノトップガン。対して、トウカイテイオーはと言えば。

 

「あはは。ありがとう。でもねー。シンザンさんと走るとなるとプレッシャーがさぁ…」

 

 苦笑を浮かべていた。しかも気持ち声が暗い。

 

「あー…だって伝説だもんねー。会長さんが活躍する前って、シンザンさんを超えろ!っていうスローガンがあったんだよね?」

「そうそう。ううーん…あー…ちょっとお腹痛くなってきたなぁ。あー、他は誰が走るんだろう…心配だなぁ」

「あっ!メンバーの発表だって!静かに静かに!」

 

 マヤノトップガンの言葉に、トウカイテイオーも思わず口を閉じた。そして。

 

『さて、それでは今年の冬のウインタードリームトロフィーのメンバーの発表です!

 

 今回のウインタードリームトロフィーも18人のフルゲートを予定しております!

 

 正式な枠ウマ番はまた後日、くじ引きで決定いたしますので、順不同で発表いたします。

 

 

 まず、今回のセンター。知る人ぞ知る名ウマ娘!

 『皇帝』シンボリルドルフ!

 

 そして、そんな皇帝をあと一歩まで追い詰めた末脚の持ち主!

 『獅子』リオナタール!

 

 見事な大逃げを魅せ、会場を盛り上げてくれた

 『スーパーカー!』マルゼンスキー!

 

 今回のSDT!皇帝に敗れるも、未だその末脚と人気は健在!

 『芦毛の怪物』オグリキャップ!

 

 華麗な末脚は未だに見る人を魅了するターフを舞うスーパースター!

 『鬼の末脚』ミスターシービー!

 

 そしてそして、ここからが今回のドリームトロフィーのひと味違うメンバーのご紹介!

 

 『TTG』、あの伝説のトゥインクルシリーズの三強がこのドリームトロフィーで復活!

 

 『緑の刺客』グリーングラス!

 『流星の令嬢』テンポイント!

 『天バ』トウショウボーイ!

 

 トゥインクルシリーズを、一躍国民のスポーツにまで引き上げた伝説のウマ娘!

 『地方レース場の怪物』と呼ばれ中央に鳴り物入りで殴り込み!

 そして、『国民のアイドルウマ娘』と言われるまでの人気を誇ったウマ娘!

 『アイドル』ハイセイコー!

 

 トゥインクルシリーズに燦然と輝く10戦10勝!レコード優勝7回という快挙!

 東京優駿を最後に姿を消した彼女が、ウインタードリームトロフィーに戻ってまいります!

 『幻のウマ娘』トキノミノル!

 

 シンボリルドルフがその記録を超えるまで、全てのウマ娘は彼女を超えるためにその脚でターフを駆けた!

 しかし、しかし誰しもが未だに追い続け、誰しもが憧れる名ウマ娘!燦然と輝く王冠は、彼女のためにあると言っても過言では無いでしょう!

 『神ウマ娘』『鉈の切れ味』シンザン!

 

 そしてそのシンザンより前、日本史上初の三冠ウマ娘となったウマ娘がおりました!

 あえて、彼女はこう呼ばせていただきましょう! 

 『クラシック三冠ウマ娘』セントライト!

 

 生涯成績11戦11勝は、未だ超えた者がいない大記録。

 東京優駿、オークス、菊花賞。変則三冠を成し遂げ、11勝のうち7勝は10バ身以上の差をつけての圧勝!あの大きく出遅れ、そして巻き返し勝利した東京優駿は未だに語り草!

 『日本最強ウマ娘』クリフジ!

 

 そしてここからは海外ドリームリーグからの参戦であります!

 

 世界最強のウマ娘は誰だ。そう問われれば、人はこう言うでしょう。

 芝、ダート。その脚に走れぬ場所は無し!

 名実ともに最強!ダート2400メートル2分24秒、2着との差、31バ身!この記録は、未だ誰にも抜かれておりません!

 『ビッグレッド』セクレタリアト!

 

 そのセクレタリアトの再来。そう呼ばれたウマ娘も参戦です。

 強烈な追い込みを魅せるこの末脚は、間違いない強者の証!

 ライバルと競い合い、アメリカのレース界隈を盛り上げた名ウマ娘!

 『優駿』イージーゴア!

 

 そしてそして、ここから残り3人は、昨年活躍を見せた、あのウマ娘達の登場だ!

 

 凱旋門。全てのウマ娘が目指すあの門。目の前で閉じられた門を今、再び!

 トウカイテイオーとあのセンターを競い合った優駿の登場です!

 リベンジを胸に誓う、『雪辱者』スボティカ!

 

 そして、ダート最強!セクレタリアトを師にもつこのウマ娘も参戦!

 こちらもとBCクラシックの借りを返すと!トウカイテイオーにリベンジを誓うウマ娘!

 『挑戦者』エーピーインディ!

 

 そして皆さまお待ちかね!昨年、ついにあの扉を開けた日本の勇者!

 あの頂に立ってみせた、日本の希望!

 暮の中山、有マ記念。凱旋を見事に果たした名ウマ娘!

 『帝王』トウカイテイオー!

 

 以上18名!ウインタードリームトロフィー!今季冬!正式メンバーとなります!

 正式な枠番決定の抽選会、及び、会見はまた後日行いますので、そちらも乞うご期待!』

 

 テレビから流れて来る情報に、トウカイテイオーは固まってしまっていた。そして、ようやく絞り出すように、口から音を出す。

 

「えっ?」

「うわー!すっごい!伝説級のウマ娘達ばっかりだ!テイオーちゃん!すごい、すごい人たちと一緒に走るんだね!」

 

 無邪気にはしゃぐマヤノトップガン。だが、そのまっすぐな言葉が、何も知らなかったテイオーに見事に突き刺さっていた。

 

「えっ、えっ?」

 

 テイオーの頭の中で、シンザンの言葉が蘇る。

 

『我らは、君を待っているからな』

 

 我らって、本当に、我らって、伝説級のウマ娘しかいない、じゃん!?と、頭の中で大声を上げたトウカイテイオーは。

 

「ひうっ」

「テイオーちゃん!?大丈夫!?」

 

 カエルが潰れるような声。まさにそんな悲鳴を上げて、床に倒れ伏してしまっていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。