ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマンの肉詰めはシンプルだが、どうしても肉がはがれてしまうという方にお勧めな方法として、ピーマンに片栗粉や小麦粉を塗って肉を入れてみると、加熱後肉がはがれにくく、美味しくピーマンの肉詰めを頂くことが出来ます。

ただ、粉が多いと味が変わるので、なるべく薄めに塗ってみましょう。


春は作付けの季節である

 もぐもぐとピーマンを貪って厩舎の中でのんびりとしていると、珍しく今日は彼が私の厩舎の前へと来て、手ずからピーマンを食べさせてくれた。首を叩かれて、更にもう一つピーマンを頂いたわけである。そしてさらに人が増えて、今まで見たことのないおじさんがこちらへとピーマンを差し出していた。

 よくよく見れば、私に乗っている彼がそのおじさんに頭を下げていた事から、おそらくは彼よりも偉い人なのかなぁなどと思う。であれば、無下にも出来まい。差し出されたピーマンをもぐもぐと口に含むと、おじさんは満足そうな笑顔を浮かべて私の鼻先を叩いていた。ま、別に人間に叩かれたぐらいではあんまり痛くは無いので問題は無い。

 

 それにしても、我ながら4戦4勝。なかなかいい仕上がりだと思う。

 

 最近ではフォームも完成に近づいている。歩幅を変えるなんていうのは朝飯前で、地面の良し悪しで蹄を地面に叩き入れる力も変えて足への負荷が軽減できるように工夫も行っている。全力のフォームについても、今もまさに少しずつ改良は進んでいて、歩幅は更に広く、そして叩きつける足への反動は小さくできるように。そもそも叩きつけなければ進めないのか。抉りこむようにすればいいのではないか、などと色々考えながら走っている。それがようやく形になってきたわけだ。

 

 今では全力のフォームで走ったとしても、大体200メートルぐらいは痛みや疲れが出ない。武器としては及第点であろう。これからも改良を続け、体を鍛え続け、かのゴールドシップのように3コーナー前からのロングスパート、なんていう事もやってみたいものだ。

 

 さて、考え事もそこそこに、ピーマンも腹いっぱい食ったことだし、瞑想してからしっかり寝よう。あ、それはそうとして、牧場の桜のつぼみが大きくなってきた。花見などもぜひしたいものだ。

 

 

 前回のレースから一か月と経たないうちに、なんとまた私は車に揺られて船橋の中山競馬場の大地の上に立っていた。なんというか、レースのスパン短くない?ま、とはいえやはり、私としては別に車が嫌いなわけではないし、むしろ観光気分で気分があがるので問題は無い。

 

 そして、一か月という時間ではあるが、季節は確実に歩みを進めている。茶色かった芝は今では青々としているし、まさに芝コース!と言った具合のレース場となっている。しかも周辺部に植えられた桜は満開と言って良い。実に春らしい。

 

 レース場での併せ馬の練習もそこそこ、休憩もそこそこ。5戦目ともなれば慣れたものである。本番に向けてピーマンを口に含んでもっしゃもっしゃしていると、厩舎で見たおじさんがまたしても私の厩舎の前で、私をじいっと見ていた。うーん、どちらのおじさんですかね。そう思っていると、いつも私の世話をしている人間ですらも、おじさんに頭を下げていた。

 

 客観的に見ると、このおじさん、私の上に乗る人間や、世話をする人間ですら頭を下げるような偉い人で、私に会いに来ても問題が無い人物ということになる。…もしかしてこのおじさん、私のオーナー?その可能性が大きいかもしれない。ま、であれば少しすり寄っておこう。甘えておいて損は無い。すると、すり寄った顔を笑顔で撫でていただけた。うーん、触れ合いは少ないが、レース前とはいえ、会いに来てくれるとはじつに良いおじさんである。

 であれば、このオーナーらしき人、そして彼、そしていつも世話をしている人間、かれらのためにも今回のレースもしっかり勝っていこうと思う。

 

 と、簡単に思っていたのだが、今回のレースはどうやらいつもと様子が違う。

 

 レース当日、意気揚々と装備を付けてパドックに出てみれば、明らかにいつもと違う歓声と、大量の観客が私を見ていたのである。流石に驚いて少し足を止めてしまったが、いかんいかんと歩き出しながら平常心を装いつつ、足のストレッチを行う。のばし、のばし、縮め、縮め。手綱を引く人間は少し首を傾げておりますが、私のルーティーンなのですこし我慢してほしい。

 

 さてさて、それはそうとして私の番号は『18』。横の数字は『2.1』で、他の馬の数字は小さくても『3.7』であるから、これまた私は一番人気であるらしい。

 

 というか私の番号が18番。電光掲示板もいままで見たことない馬の数を示している。なるほど、今回は18頭の馬が走る大レースじゃないか。よくよく見てみれば、コースの距離は2000メートル。まぁ、これは大した問題じゃない。

 

 などと掲示板をのんびりと眺めていたが、ふいに見つけた文字に足が止まってしまった。ヒトの言語は読めない聞けないと思っていたが、私はどうやら、数字とアルファベットはある程度読むことが出来るらしい。

 私が見つけたその文字は、『GⅠ』。競馬において最高峰のレースを意味する、グレード1の文字が見えたのである。

 

 まぁ確かに4戦連勝しているわけだが、かといってそんな自分がグレード1レース…。本当か?うーん、もしかすると見間違いかもしれない。えーと…私の『18』の横が『2.1』。2000メートルね、うんうん。一番上のレースの名前らしいところは読めないが…その後ろについてますね、『G1』。

 そんなわけで、驚いて立ち止まってしまったわけだが、すかさず人間が手綱を引いてくれたので、事なきを得た。だがそうか、グレード1レースか。だから18頭もいるわけで、これだけパドックで盛り上がっているわけか。納得納得。

 

 いやまて、ピーマン食べて練習してレースに勝っていたら、グレード1レースを走る事になっただって?なんとも現実感のない話である。

 

 とはいえ、困惑していても仕方がないか。だってもう私はパドックでぐるぐると回っているのだ。あと数分もすれば止まれの合図でレース場に入場せねばならない。18頭いて、2000メートル、グレード1のレースではあるものの、やることは変わらない。無理せず、しかし本気で勝ちに行くのだ。

 

 そうしているうちに、止まれの合図とともに彼がこちらにやってくる。いつものように首を叩き、私の上に乗った彼であるが、更に一度、首を叩かれた。

 

 ―今日はやるぞ―

 

 なるほど、そういう気合を感じられる。

 

 ―もちろんやるぞ―

 

 そう意味を込めて鼻息を返す事も、慣れたものである。

 

 そうして、いざ馬道を抜けてみれば、そこは歓声の嵐であった。

 

 まさに耳をつんざく大喝采。その音に驚いて観客席を見渡してみれば、今までのレースでは見たことのないほどの満席の観客席がそこには在った。そして眼前に広がる緑の芝。周囲には青々とした木々と、薄い桃色の桜が咲き誇る素晴らしい景色を見ることが出来た。

 

 私はいつものように、少し跳ねるような感じで芝の感触を感じ取りつつストレッチ、そして軽く走ってウォーミングアップを行いながらも、今日は果たして何のレースなのかを考えていた。

 

 この観客と馬数で、先ほどのグレード1のレースというのが真実味を帯びてきた。そりゃあ、そんなレースならオーナーらしき人が直々に私に会いに来るわけだし、調教の時以外会わない、普段は厩舎に来ない彼ですら厩舎に来るわけだな、と、納得も出来る。

 ともなれば、このレースは一体何のレースなのであろうか。ただ、私は競馬には暗いので、知っているG1レースの名前といえば、皐月、ダービー、菊花、天皇賞にジャパンカップに有馬記念ぐらいである。確か菊花賞と有馬記念は年末のイメージがあるので、春のこの時期のレースではあるまい。天皇賞こそ春と秋の開催だったはずであるが、確か春はゴールドシップが長い距離を走って勝った記憶があるので、2000メートルのこのレースではないと言える。ともすればダービーと皐月賞になるのだが、正直そんな大レースに私が出れるはずがないと思っている。

 たかだか私は4連勝しているだけの馬なのだ。それに、ダービーは確か桜の季節じゃなかったはず。夏の前のイメージがある。一番近いのは皐月賞なのだろうが、皐月は5月の事だ。桜は5月には良くて葉桜である。…となると思い起こせるレースが一切ない。

 

 とはいえ、2000メートルで桜が咲く季節のG1レースなのだ。名前が判らなくたって、この観客の入りを見れば注目されていることは嫌でも判る。

 

 覚悟は決めねばなるまい。特に今回は大外18番スタートである。ゲートから出るタイミングは遅れたくない。できれば出遅れ無しの、しかし少々後ろ目で様子を見ながら第一カーブを迎えたいものだ。ということで、いつものように彼にそこらへんは任せよう。私が出来るのは、大人しくゲートインを行い、しっかりと手綱の通りに走ることぐらいなのである。

 

 

 スタートはしっかりと成功できるか…?などと不安を持ちながらレースの幕が上がってみれば、結局なんてことは無かった。スタートは見事、彼の手綱のおかげで馬横一線である。他の馬もスタートが巧い。流石グレード1レースである。そして、彼の手綱が緩んでいることから、ほどよく前に行け、ということであろう。ああ、もちろん判っているさ。走るコースを内側に意識しつつ、先行しようとする馬達を先に行かせる。スタート直後は無理はしない。そうやっていると第一コーナーを迎える頃には、私は後ろから5番目ぐらいの位置で抑えつつ走ることが出来た。普段であれば、3つめのカーブまではこの位置で様子見である。

 

 …様子見のはずだったのだが、珍しく今日はここで手綱が緩められた。前に行けということである。

 

 珍しい。初めての展開である。とはいえ、逆らうことはしない。何せレース展開は私よりも彼の方が、よく熟知しているからだ。ということで少し足に力を入れて加速する。内側は他の馬で進路が塞がれてしまっているため、大外から加速をかける。体力はまだ潤沢にある。焦らずじわりじわりと順位を上げていると、手綱が引かれた。ふむ、前方から5番目といったところ。なるほど、いったんここまで上がるだけでいいわけか。そして、様子を見ながら速度を他の馬に合わせつつ、2つ目のカーブを曲がる。コースは他の馬に比べれば外であるが、前に馬はいないので、非常に視界がよく、いつでも加速がかけられる位置である。それに、足元が他の馬の蹄で削られておらず、非常に走りやすい。やはり彼の手綱は巧いな。

 そして直線であるが、ここではさほど動きがなかった。彼は手綱を握ったままだし、私もまだ行こうとは思っていない。実際のところは、彼もこう思っているはずだ。

 

『仕掛けるのであれば3つ目のカーブの入り口』

 

 私の考えはドンピシャであった。ここまでくると、以心伝心と言っていいのかもしれない。まさに3つ目のカーブの入り口。彼の持つ手綱が緩められたのである。それの意味するところは。

 

―行け―

 

 ということに他ならない。他の馬や人間は、おそらくカーブへ意識が向くであろうその瞬間を狙い、歩幅を少し広げて、するっと速度を上げる。前をいく馬達は狙い通り内側に走り込み、前が完全に開いた。私は減速することなくカーブを抜け、4つ目のカーブに突っ込む。そして、カーブを抜けて直線に頭が向いた頃には、先頭を走る馬と横一線になった。

 

 今までであれば、ここから一気に突き放せたはずである。だが、そうは問屋が卸さなかった。やはり皆、この大レースに出るほどの手練れの馬達であることを、私はしっかりと痛感することが出来た。

 じわりじわりと差は開くが、数頭ほどが私の後ろにくっついて、一気には離れないのだ。そう、ダントツ私が速いというわけではないのである。

 更に、なんと左側から一頭つっこんできた。正直、今現在の速度は間違いなく、つっこんできた馬のほうが速い。正直に言う、強い馬だ。速い馬だ。このままいけばゴール手前で抜かれてしまうだろう。

 

『俺のほうが速い!抜かしてやる!』

 

 そういうニュアンスも伝わってくる。…だが甘い。私の上の彼もそれを判っているのだろう。手綱は動かない。そうだ、私はまだ、全力どころか、本気でもないのだ。

 

 つまりこういうことだ。

 

 

『いつから俺が本気で走っていると、錯覚していた?』

 

 

 彼が私の体と重なろうとした瞬間、更に歩幅を広げて加速する。フォームを変えない状態での最高速度まで速度を上げきり、見事、私は誰もいないゴールに飛び込めたのだ。

 

 

「強いな。あいつ。無敗で皐月を取っちまった」

「はい。強いです。しかも…」

「フォームを変えずにスパート、だろう?レース展開もそうだが、走りが一か月前より進化してやがる。なんだよあの気持ちの悪い加速の仕方」

「鞍上も驚いてましたよ。調教中はそんなに変わってなかったのに、本番走り出したら別物だったって」

「恐ろしい馬だな。それだけに、俺たちはあいつをしっかりと見てやらないとな。あれほどの馬を調教中に怪我させた、なんて日には非難の嵐だろうよ」

「判ってますって。それに安心してください。危ない事はあいつ自身が拒否しますからね。まったく。頭が良すぎるんですよ」

「そういえばアイツへの褒美はどうするんだ?今までピーマンをバケツで3杯だったよな?」

「そこは頭を抱えていますよ。大きめのトロ船いっぱいに入れてやろうかとも考えたんですが、多すぎて腐らせてもなぁって思っています」

「ああ、確かにな。あいつがいくらピーマン食うっていっても限度があるだろう」

「何か良い案ないっすかね?」

「いっそのことピーマンの苗木でも房内で育ててみるか?」

「あ、それいいっすね」

 

 

「おう。首尾はどうだ?」

「あ、トレーナー。うん、まぁ、いつも通り。柔軟はしっかりやったし、ウォーミングアップも完璧。あとは出たとこ勝負だと思うよ」

「そうか。で、今日の戦術だが…本当にフォームを変えないのか?」

「うん。他の娘には悪いけど、今日は通過点だもん。ここで全力を出さなくちゃ勝てないような実力じゃあさ、ボクは無敗の三冠なんて無理だと思ってるからね」

「覚悟は出来てるんだな、前にも言ったが、それは厳しい道のりになるぞ?」

 

「あはは、何を今さら言ってるの?ボクはルドルフさんを超えるんだもん。このぐらいの事、呑み込んでみせなきゃね」

 

「そうかそうか。いやぁ、覚悟の決まった奴は怖い怖い。怖いから俺は客席から見ているよ」

「あはは。じゃあまたあとでね。トレーナー」

「ああ、そういえば今日、ルドルフは来れないってさ。全く、可愛がってる後輩がクラシックの初戦に挑むってのに…」

「あー、カイチョーは多分菊花賞までは来ないよ」

「…そうなのか?」

「うん」

 

 

「ルドルフ。本当にいいのか?皐月を見に行かなくて」

「はい」

「彼女がお前に追いつけるのか、それを占う大切な一戦だぞ?」

「良いんです。見ずとも結果は判ります。彼女は強いのです。いずれは私を超えるほどに。だから、このぐらいは鎧袖一触。…いや、私が見るまでもなく、勝ってもらわなければ困るのです」

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