ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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総決算 有馬記念―集う者

「テイオー!見ましたわよ!貴女、伝説のウマ娘達と走るのですわね!?」

「そうなんだよマックイーン。いやー…大変なことになっちゃったなーって」

 

 冬が迫るトレセン学園。その食堂で、テイオーとマックイーンは2人で夕食を食べていた。だが、どうやらトウカイテイオーはドリームトロフィーが気になるようで、食があまり進んでいないようであった。

 

「そのご様子ですと…負ける気はありませんのね?」

「うん。負けるつもりはないんだけど、うーん…やっぱり相手が相手だから、ちょっと弱気になるなぁって。あはは…」

 

 テイオーはそう言って、ため息を吐いた。天真爛漫な笑顔を浮かべるテイオーですらも、流石にプレッシャーを感じているらしかった。

 

「テイオーらしくないですわね。…では、このわたくしメジロマックイーンが一肌脱いで差し上げましょう」

 

 そんなテイオーをみて、マックイーンはテイオーの顔を正面に据え、その目を見つめた。

 

「次の有マ記念。そうです。貴女が走るドリームトロフィーの前日のレース。私が見事にセンターの座を射止めてみせます。グランプリ春秋制覇の偉業をもって、あなたへのエールとさせていただきます」

 

 テイオーは少しだけ、目を見開いた。だが、ふと、メジロマックイーンの脚を見る。

 

「…それは凄いけど。出来るのマックイーン。確か、脚に怪我が見つかったとか聞いてるよ?」

「甘く見ないでください。私はメジロ家のウマ娘、この位の怪我は乗り越えてみせます。それに」

 

 マックイーンは一呼吸おき、こう、続ける。

 

「私は貴女と違って、怪我を繰り返しています。でも、でもですね?貴女には希望を魅せられ続け、励まされ続けておりました。貴女のお陰で、私は今も走れているのです。それならば、貴女が不安になっているというのならば、今度は私が貴女に希望を魅せて差し上げたいのです」

 

 そういってマックイーンは、満面の笑みをテイオーに向けていた。その言葉に、テイオーも小さく笑みを浮かべていた。

 

「そっか。うん、判ったよ、マックイーン!有マ記念、楽しみにしているからね?」

「当然です。テイオー。あなたのドリームトロフィー。私も楽しみにしておりますわ」

 

 

『さあ、ドリームトロフィーを明日に控え、トゥインクルシリーズを締めくくる有マ記念の出走時間が近づいて参りました。

 

 やはり注目は菊花賞をレコードタイムで走り抜けたビワハヤヒデ!文句なしの一番人気です!

 

 二番人気につけたのはレリックアース!前走のジャパンカップ、並み居る強豪を切って捨てた末脚炸裂なるか!

 

 三番人気はダービーウマ娘のウイニングチケット!前走のジャパンカップでは3着でしたが、この中山で勝利の栄光を掴めるか!

 

 四番人気に入りましたのは、メジロマックイーン!宝塚記念、天皇賞秋を見事に勝利で収めた強豪!しかし、脚部不安が伝えられる中での出走となりました。ただ、仕上がりは非常によさそうであります!』

 

 

 トレセン学園の生徒会室では、一人の客人を迎え入れていた。

 

「久しいなルドルフ、息災か?」

「はい。お久しぶりです。シンザンさん。そちらもお変わりなく」

 

 そう言って、2人はソファーに腰かける。と、同時に、エアグルーヴがコーヒーを差し出していた。

 

「これは有難い。さて、早速だが、私は仕上げて来たぞ。他の奴らもな。お前はどうだ」

 

 ルドルフはと言えば、コーヒーを口に含んで笑顔を見せる。そして、こう言い切った。

 

「当然、私も仕上げております。負けるつもりは一切ありませんよ」

「ははは!そりゃあ当然。私もだ。ああ、そうそう。一つお前に伝えておこう」

 

 そういってシンザンもコーヒーを煽る。そして、ちらりとルドルフを見た。

 

「なんでしょうか」

「我々は、今までの走り方は出来ない」

「…それは」

 

 ルドルフが何かを言いかけたが、それを遮るように、シンザンは右手の掌でルドルフを制していた。

 

「当然だろう。我々は、全盛期は過ぎた。当然の様にトップスピードは落ち、地面を蹴る力も全盛期から見てみれば貧弱と言わざるを得まい」

 

 カチャリと音を立てて、シンザンはコーヒーカップを置く。そして、右の掌を握りこみ、拳を作った。

 

「だが、それがどうした。それがどうしたと言うのだ。ああそうだ。それがどうした。私は負けん。負けんのだ」

 

 気迫。それが伝わる言葉であった。それが証拠に、同じ部屋の中にいるエアグルーヴ、そしてナリタブライアンの尻尾が逆立っている。だが、ルドルフは違った。

 

「当然でしょう。あなたは伝説だ。たかだか全盛期を過ぎたぐらいで、あなたの強さは揺るがない。だが」

 

 そう、冷静に、シンザンを見ながら言葉を投げた。

 

「貴女に勝つのは、私だ」

 

 シンザンは小さく笑みを浮かべ、そして小さく、笑いを口から吐いた。

 

「ほう。私に勝つのはテイオーではなく、お前だと言うのか?ルドルフよ」

「当然のこと。トウカイテイオーすら下して、貴女に土を付けてみせましょう」

 

 にやりと笑うシンボリルドルフ。しばらくそんなルドルフを見ていたシンザンであったが、何を思ったか、急に大声で笑い始めていた。

 

「くくく、くははは! あーっはっはっはっはっは! いい! やはりいい! ここは、レースの風は実に良い! ああ、最後の憂いが消し飛んだ!」

「憂い、ですか」

 

 ルドルフは疑問を口にした。先ほどまで負けないと言っていたシンザンの、どこに憂いがあったというのだろうか?

 

「ああ、そうだ。どこかにあった。『私が今さら走ってよいのか』『私がお前たちに敵うのか』『私の走りを待っている人がいるのか』そんな憂いだ」

 

 なるほどと、ルドルフは納得した。確かにそうかもしれない。今さら走らないでくれ、夢は夢のままでいてくれ、そういう声を、ルドルフ自身も受けたことがあったからだ。

 

「そうだよなぁルドルフよ。どれだけ背を押されても、どれだけ応援されても、何を言われても。最後、我々は、我々のために走るのだ! ああ。そうだな」

 

 だが、ルドルフはそれでも走り続けた。皇帝と呼ばれた彼女が走り続けた理由。それは、何のためであったのか。

 

「改めて宣言をさせていただこう。皇帝、シンボリルドルフ!」

 

 それが判ったのであろう。シンザンは笑みを浮かべ、改めてルドルフにこう、はっきりと言葉を投げた。

 

「このシンザン。いくら衰えようとも誰にも先頭は譲らん。刮目して、私の勝利を拝むがいい!」

「言いましたね。ならばその驕り高ぶった鼻っ面、私が見事に叩き折ってみせましょう」

 

 

『さあ、各バゲートインが進みます。一番人気ビワハヤヒデは8枠13番、レリックアースは6枠9番に収まりました。ウイニングチケットは7枠11番、そしてメジロマックイーンが3枠4番に収まります。

 

 そして最後の一人が収まりました。

 

 トゥインクルシリーズ、総決算。有マ記念!今スタートです!

 

 さあ注目のビワハヤヒデは先頭集団に取り付く形、メジロパーマー、レリックアース、ヴァイスストーンの3人が先頭集団を形成してペースを作っていきます。

 

 そしてホームストレッチに入ってまいりました!14人を大歓声が迎える中、先頭はメジロパーマー!続く、ヴァイスストーン、レリックアース、そしてビワハヤヒデが4番手であります!!後方でありますがライスシャワーもいる!メジロマックイーンとウイニングチケットは中段に控えている!外目を通ってはナイスネイチャ!

 

 各々が一番力の出せる位置について先頭がコーナーに入ってまいります!』

 

 

 都内。某所。そこには、3人のウマ娘が集っていた。

 

「三人がまた揃うなんて、夢みたいだ」

「ええ。本当に」

「うん。本当に」

 

 トウショウボーイ、テンポイント、そしてグリーングラス。TTGと呼ばれる、名ウマ娘達である。普段はばらばらに余生を過ごしている彼らであるが、ドリームトロフィーのために、東京に上がってきたらしい。

 

「でも、本当に大丈夫なのですか?テンポイント。あなたの脚、本当に走れるものとは思えません」

 

 そう言ったのはグリーングラスである。だが、言われた方のテンポイントは面白くはないようで。

 

「大丈夫だから、ここに立っています。グリーングラス。大丈夫ですよ。貴女はまた、私に追いつけないままゴールを切るだけですから」

 

 眉間に皺を寄せながら、言葉に棘を乗せてグリーングラスにそう返していた。その言葉を受けたグリーングラスはといえば、眉間に青筋を立てていた。

 

「…言いましたね?テンポイント。いいでしょう、ええ、いいでしょう。全力で相手をして差し上げます」

 

 一触即発の雰囲気である。が、そこにトウショウボーイが、笑顔を浮かべながら割って入った。

 

「まぁまぁ二人共、せっかく久しぶりに会ったんだしさ。この後食事にでも行こうよ」

「賛成」

「それは賛成です。いいお店、知っているのですか?」

 

 先ほどのつんけんとした雰囲気が一転、のほほんとした雰囲気に変わる。どうやら、先ほどの言い合いは、彼女たちにとってはいつもの事であるらしい。そして、そんな3人に、一人のウマ娘が近づいて来ていた。

 

「ん、あー。それはね」

「私が案内することになっています。さ、行きましょう?」

 

 伝説のアイドル、ハイセイコーその人である。いきなりの登場に、テンポイントとグリーングラスは面を喰らったようであった。 

 

「「ハイセイコーさん!?」」

「どうされました。そんな、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。積もる話があるのでしょう?早く行きましょう。それに、私としても貴女達と話したかったのです」

 

 そう言って歩みを進めるハイセイコー。3人は、その背中を慌てて追った。

 

「でも、ハイセイコーさんが、私達と話したいっていうのは?」

 

 グリーングラスがそう問うと、ハイセイコーは笑顔を彼らに向けていた。

 

「ええ。何せ私が去った後のトゥインクルシリーズの人気を、貴女達が不動のものにしてくれたのですから。感謝を伝えたいと常々思っていたのです」

「…それは私達もです。ハイセイコーさんが活躍してくれたから、3人が頑張れました。こちらこそ、ありがとうございます!」

 

 3人はそう言って、ハイセイコーへとお辞儀をする。ハイセイコーはというと、苦笑をして、彼らを見つめるだけだ。

 

「…ま、立ち話もなんですし、早速お店に入っちゃいましょうか」

「はい!あ、ハイセイコーさん、今日はどんなお店に連れて行ってくれるんですか?」

「ふふ。私が現役時代に通っていたお店です。北海道の海産物と、ピーマン料理が自慢の美味しいお店ですよ」

 

 

『さあ第三コーナーを抜けてホームストレート!先頭はビワハヤヒデ!ビワハヤヒデ先頭!やはり強い!菊花賞の勢いのまま有馬記念も勝利で飾るのか!

 

 いや!ここで最内を周って伸びて来たのはメジロマックイーン!メジロマックイーン!これは強い2頭の叩き合いだ!後ろからナイスネイチャも届こうとしているが残り200メートル!ビワハヤヒデかメジロマックイーンか!

 

 ビワハヤヒデが粘る!!しかし!しかし!メジロマックイーン!宝塚記念の勢いのまま有馬を制するのか!?

 

 メジロマックイーンが来た!メジロマックイーンが来た!メジロマックイーンが来た!トウカイテイオーと競い合った意地を見せるのかメジロマックイーン!メジロマックイーンだ!メジロマックイーン!ついに!ついに!

 

 メジロマックイーンが有馬記念を制覇!ついに最強の座を手に入れたメジロマックイーン! 

 

 あの90年、伝説のオグリキャップを思い出す見事な勝利を収めました!メジロマックイーン!そして見事!宝塚記念に続き有馬記念を勝利!グランプリ春秋連覇を成し遂げました!!

 

 伝説のトウカイテイオーが引退して初めて迎えたこの有馬記念!誰が最強に名を連ねるのかと、本命不在と言われた中!それを見事にもぎ取ったのは!頂点に立ったのは!メジロマックイーン!そして7歳での有馬記念制覇はスピードシンボリに続く2例目!!強い、強いぞメジロマックイーン!』

 

『いやぁ、トウカイテイオーが引退してから果たして誰が頂点に立つのか、非常に気になっておりましたが、ここでメジロマックイーンとは予想外でした。いや、やはり強い馬は強いですね』

 

『ええ、本当にそう思います。しかし、2着のビワハヤヒデも3歳ながら見事入着、ライスシャワーも少し離されましたがナイスネイチャ続く形。確実に次世代の波は来ているように感じますね。おおっと!?ここでメジロマックイーンが立ち上がった!?これはナポレオンポーズだ!あのトウカイテイオーのナポレオンポーズだ!鞍上も天に指を掲げた!なんと素晴らしい光景でしょうか!』

 

 

 そして控えたドリームトロフィーを目の前に、2人のウマ娘が日本の中山レース場で再会を果たしていた。

 

「…よう、久しぶり」

「お久しぶりですね。イージーゴアさん」

「…なんだその気持ち悪い話し方!サンデーサイレンス。お前、日本に来てから相当変わったな?」

「貴女こそ。イージーゴア。そんなぶっきらぼうな話し方、貴女に似合っていませんよ?」

 

「くくく、ははははは!」

「ああっははははは!」

 

 二人は人知れず笑い合う。すると、今まで姿勢が悪かったイージーゴアは背筋を伸ばし、逆にサンデーサイレンスは相手を試すように腰に手を当てた。

 

「お元気そうでなによりです。サンデーサイレンス」

「あはははは!お前もな!イージーゴア!なんだ、寂しくて追っかけて来たのか?」

「ええ。寂しくて寂しくて。疼くんです。体が、貴女を追い抜けと」

 

 まるで入れ替わったような口調で話す2人。だが、2人はそれを不思議とも思っていない。そう、本来は、これが素なのだ。

 

「ははは、だが残念。俺はもう走らない!俺は、俺の走りを下の世代に伝えていく。そう決めたのさ」

 

 サンデーサイレンスの言葉に、イージーゴアはため息を吐いた。

 

「そうだろうと思いました。全く、一言くれればよかったものを」

「一言いったらお前が付いてくるだろうが。―いいか、イージーゴア。勝負だ」

 

 そういってサンデーサイレンスは、イージーゴアの顔を指さした。

 

「勝負?」

 

 疑問を浮かべるイージーゴア。それを見て、サンデーサイレンスは更に笑みを浮かべていた。

 

「テメーの弟子と俺の弟子。どっちが速いかな。テメーはアメリカで育て上げる。私は日本で育て上げる。そしていずれ、いずれその弟子が戦い、勝利する姿で酒を飲む!な?楽しそうだろう?」

「それはいい提案です。受けて立ちましょう」

 

 そういって、イージーゴアとサンデーサイレンスは強く、強く握手を交わしていた。

 

「ああ、それはそうとして。テメー。

 ―ドリームトロフィー。あなたは私の知る限りで最高のウマ娘なのです。負けることは、許しませんよ?」

 

「当然です。あなたのライバルは、強いのですから。

 ―しっかり観客席から応援しやがれ。このアヒル野郎」

 

 

 メジロマックイーンは、有マ記念を見事に先頭で駆け抜けた。本命不在と言われた中、あのトウカイテイオーを超えるように。

 

 そして、今までのメジロマックイーンでは有り得なかった行動を起こしていた。

 

 普段であれば、レースで勝利した後に、お淑やかに、しかし力強く『当然だ』と言わんばかりに観客を見るマックイーンなのだが。

 

 ウイニングサークル。そこで、彼女は満面の笑みを浮かべると、腰に手を当てて、天に指を掲げてみせたのだ。それはまるで、トウカイテイオーの現身そのままであった。

 

「わたくしは成し遂げました。あとは貴方です。トウカイテイオー」

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