ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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宇都宮競馬場。現在では、カンセキスタジアムと名前を変えてしまった北関東の競馬の聖地。

どうやら、とあるピーマン好きが活躍した世界では、その様子も様変わりしているご様子です。


①ピーマンを用意します。
②半分に切ります。
③氷水に丸一日浸して、冷蔵庫で保管しておきます。
④お好みで塩など振って食らいつきます。

⑤スパム(減塩じゃない塩辛い奴)、コンビーフを間に挟んで食います。

ビールと合うんだなぁ。これが。


蛇足につき、ピーマンをよこせ

 宇都宮競馬場。トウカイテイオーが種牡馬として暮らしている研究所から近いところにある北関東の地方競馬場である。とはいえ、距離にすれば5キロほど離れていて、普通であれば車で移動するような距離だ。

 

 特に、研究所から競馬場に向かう道の中には、片側2車線の宮島環状線という幹線道路があり、しかも、競馬場にたどり着くまでには道中高架を2つも挟むというなかなかの道である。

 

 しかしながら、その道が急遽、数年前に突貫工事で大変革を迎え利便性が高まっているのは、御存知の通り。馬が一度も信号や高架を通らずに行き来できるように、わざわざ歩道の拡張や、防護柵の設置、地下道の設置を行ったのだ。運営元いわく、競馬場と研究所の行き来を容易にし、馬の状態をよりよく保つためだ、という話であるが、その目的は、明らかに一頭の種牡馬のための道であろう。

 

 その種牡馬とは、冒頭にも名前を出した、トウカイテイオーその馬だ。というのも、日本中からその姿を見たいというファンが訪れるために、週に一回、宇都宮競馬場でお披露目が行われているからである。特に、新しい道路が出来てからというもの、競走馬研究所から、宇都宮競馬場まで、トウカイテイオー号が蹄鉄のいい音をさせながら闊歩するその様は、今では宇都宮の名所の一つとなっている。

 

 無敗の三冠、凱旋門賞馬。日本の歴史を変えた馬が、なぜ北海道などの放牧地に送られず、この競走馬研究所にとどまっているのか、その詳細は知らされていない。だが、眉唾とも言える噂レベルの話ではいくつかの逸話が伝わってきている。

 

 代表的な例を挙げるのならば。

 

①―ロマンリバー。地方競馬出身ながら、名騎手のもとでG1馬となった名牝であることは有名であろう。このロマンリバーがまだ宇都宮に居た頃、指導していたという話。

 

②―ディープインパクト。凱旋門賞を見事獲ったその数日前に、違法薬物と知らずに投与しようとしていた薬を、厩舎を蹴破ってまで全力で止めに入って事なきを得た、という話。

 

③―オフサイドトラップ。今では名種牡馬の凱旋門賞馬である。だが、そのデビュー当時にどうも調子が悪かったそうだ。しかしトウカイテイオーと福島の療養施設で過ごした結果、以降、一切故障をしなくなったという話。

 

 他にも、エルコンドルパサー、グラスワンダー、スペシャルウィークといった馬たちに何かしらの影響を与えたと言われるトウカイテイオー。眉唾の話だ、と、一蹴するのは簡単だが、トウカイテイオーが宇都宮に来てから、やたらと北関東の地方馬が中央でいい成績を残しているという事から、そうも言えないのが実情である。

 

 運営元に取材を申し入れたのだが、この件についてはノーコメント、という返答しか返ってこなかった。今後も、トウカイテイオーという馬を追いかけたいと思う。

 

―月間雑誌『サラブレッド魂』より抜粋

 

 

 シャバの空気はいいもんだー。って具合で、宇都宮の町中を闊歩する。天気は快晴、馬場は…まぁ、アスファルトっぽいんだけど、なんとこれ、ウレタンカラーゴムチップという柔らかい素材らしい。私の脚に気を使ってくれたのだとか。いやはや、なんとも頭が上がらない。

 

 さて、私が宇都宮に来てから、すでに現役の時の数倍過ごしている。あのロマンリバーとも種付をする仲だ。いやはや、時が経つのは速いものである。この道だってそうだ。

 

『utunomiya no keibajo- ikita-i』

 

 などと文字で書いてしまったのがキッカケで、道が整備される始末。いや、いつぞやに温泉ほしいねーなんて思っていたけど、それ以上の大工事が行われてしまったわけで。気づけば毎週のように、このウレタンカラーゴムチップの道を闊歩していくわけだ。

 

「―――――!」

「!!!」

 

 そして、どうやら、名物にもなっているようで、歩道の周りには、私を一目見ようとカメラを持った人々が並んでいる。飽きないねぇと思うけれど、まぁ、確かに競走馬と触れ合える機会なんてそうそうないからねー。私もおそらく、人であれば、この列の中にいただろうね。ま、私の姿を見るだけで笑顔になれるならば、いくらでも姿は見せるともさ!

 

「―。―――」

 

 お、そして何かを話しかけながらこちらに近づくこどもさんが一人。なんじゃい?と思いながら視線を向けてみれば、手にしていたものをこちらに差し出してくれていた。

 

「―――――――!――――!」

 

 なるほど、これを私に下さると。いいでしょう、頂きましょう。そうやって、緑のあんちくしょうをこどもさんの手から頂く。うーん。なかなかの新鮮具合。悪くないね。これはいくらあっても飽きはしない。私の身体はピーマンで出来ていると言ってもいいほどだ。

 

 と、思っていたら、こどもさんを皮切りに、いろいろな人が、こちらに緑のあんちくしょうを手渡そうと群がってきた。おおう、嬉しいけれどねー。ちょっと、急ぎなのよ。私、お披露目にいかないと行けないわけでしてね?どうするー?と相棒に目線をやれば、首を縦に振られた。

 

―食ってよし。

 

 ならばと、この場でピーマンを頂くとしよう。あ、一人一個までねー。いや、君のも食べるから焦るな焦るな。うーん、こいつはさっきのよりも苦い。素敵だ。こいつは大振りだな。どれどれ…。おいこれはパプリカだ。間違うなよ?ペッだ。そんなものペッだ!

 

 

 今日のお披露目はどんなもんじゃろ。ファンに囲まれながらゆっくりと競馬場に入る。もちろん正門からだ。なお、ボロは出さない。だって腐っても二足歩の動物が中に居ますので。人前でなんてそんなそんな。と、話がそれたが、この宇都宮競馬場も、私がお披露目を行うようになってから、かなりの大改修が行われている。

 

 たとえば、この正面のエントランスもそうだ。

 

 自動扉なんかは、私が入っても余裕なくらい大きいし、エレベーターやエスカレーターなんかも、私が乗っても狭くないし、壊れない。移動しやすい素晴らしい建物に様変わりしている。

 

 …いやまぁ、多分私のために、なんだろうけれどさ。やりすぎちゃうん?そう思って相棒に聞いてみたんだけれど。

 

『君、世界の宝だから。このぐらいはまだ数のうちに入らない』

 

 とか言われてしまってねー。いやー。こりゃ下手な事はできないぞと思った次第だ。そんなこんなでお披露目はパドック、そして、こんな風に普通にエントランスで行われる。ま、闊歩してきてるんだから、常にお披露目と言っても過言じゃないけれどね。

 

 ちなみに、時折ナイスネイチャ氏やダーバン氏などもここに来たりする。多分、計らいなのだろうねーと思いながら、彼らと思い出話なんかをする日々だ。なお、どっかのアメリカ野郎も時折こちらに来ていたりする。私と会うとめちゃくちゃ機嫌が良くなるそうだ。馬が合うとはこのことだー、なんて相棒には笑われたけれどね。

 

 とまぁ、現実逃避はここまでにして、今は目の前にいる大勢のファンたちに応えようか。どっこいせ、と前足を上げてみれば、大歓声が上がる。どうやらこの世界だと、私はステップではなくナポレオンポーズのトウカイテイオーという感じになっているらしいからね。ほら、ワガハイの写真を好きなだけ撮るといいぞよー。そして、家宝にしたまえー。

 

 

 パドックに出てみれば、これまた巻き上がるのは大きな歓声。まぁ、現役当時よりは小さいけれど、種牡馬としてはかなりなものだと自覚はしている。そして、今日のお披露目の相方は…と。ネイチャとか同志ではない?インディ氏だったらすでに、このあたりで『お前好き!』とでっかい声が聞こえるのでわかるもんだけど。それとも、今日は一人のお披露目かー?と思いながらパドックを回る。

 

 足を止めたり、上げたり、ステップしたり。ファンサービスはしっかりと。処世術、処世術というやつである。まぁ、私の今後はほとんど揺らがないとおもうんだけど、昔からの癖だ。

 

 ―と、ひときわ大きな歓声が上がった。ああ、どうやら、今日の相方の御出座しらしい。さて、今日は誰と一緒にここでお披露目なのか。この前はディープ氏だったけれど、まぁ元気そうだったね。『女はもういい』とか言っていたけれど、乾く暇がないってのは贅沢なんだぜーと教えてあげたりもしたので、ぜひ長生きして欲しい。

 

 と、話がそれてしまったが、私が考え事をしているうちに、パドックに完全に姿を現した一頭のお馬さん。私の記憶の中には…うーん、あんまりないね。ちょっと小柄だ。

 

『げ、年寄。なんでいる』

 

 …あ?お前、第一声それかい。確かに年寄りの馬ではあるけどよぉ。それなりに気持ちは若いんだぞ?全くひどいことを言うもんだなぁとため息をついていると、続けて、こんなことを私に言ってきた。

 

『…お前嫌い。勝てない。嫌い』

 

 あー?嫌いときたか。はて…勝てない?心当たりは結構あるけれど…でも、ネイチャとか同志ほど若くはない…。若くないってことはもちろんマックイーンでもないしなぁ。ま、あいつ最近白くなったしそもそも色違いだな。困ったもんで相棒に視線を送ってみる。誰だっけこいつ?

 

 すると、相棒がさらさらと手帳に文字を書いて、こちらに差し出した。

 

『hanshin omaega kireta re-su』

 

 …阪神。お前がキレたレース?…私がキレた…。…あ!お前あの時の若馬か!思い出した!阪神にお披露目に行った時『ジジイどけ』とか言ってきた生意気なあんちくしょうじゃねーか!すっっかり年寄りになってまぁ。久しぶりーとニュアンスを送ったのだが、返ってきた言葉は。

 

『…うん。でもお前嫌い』

 

 そっけないお言葉だこと。あ、そういえばこいつの名前知らなかったな。誰なんじゃろう。えーと…どこかに名前、名前と。ゼッケンは背負ってないな。ま、てことは彼も種牡馬であることは間違いないであろう。んで、推測するに、私と肩を並べるぐらいのお馬さんである。手前味噌だが、私とこう、一緒にお披露目をする馬ってのはそんじょそこらの馬ではないはずだ。

 

『…年寄。お前、もう一度走る?走る?』

 

 なんだ急に。余計に気になるなぁ。えーと…誰か知らない?相棒?…ま、ここじゃあ視線送っても首を傾げられるだけか。えーと…観客席とかにプラカードとかないかなー。大画面だと…あー、映像だけやね。

 

 はてさて、と視線を彷徨わせていると、横断幕が垂れ始めていた。おお、いいね。いいタイミングだよそれ。えーと、どれどれ。

 

『トウカイテイオー!』

『ありがとうトウカイテイオー!』

 

 んー…あのあたりは私のファンだねー。えーと…それじゃなくてー。お、どうやらこれか。えーっとなになにー。

 

『感動をありがとう!ステイゴールド!』

 

 …ン?

 

『世界に羽ばたいたステイゴールド!』

 

 …ンン!?

 

 思わず、若馬だった馬を2度見した。え、お前、ステイゴールド!? ステゴ!? 本当かよ!? あー…そりゃあ…まぁ、喧嘩売って、来るか! あ、いや、名前がわかるとなんか、その、喧嘩売られてちょっと嬉しい感じがしてくるもんで、不思議なもんだと思う。

 

『走るなら、今度こそ負けない』

 

 でも、そうか。君も私と肩を並べる種牡馬になったわけか。ってことは、多分だけど、君は香港を勝って、そして今頃あれか、オルフェーヴルとか、ゴールドシップとかが誕生しているわけか。

 

『やるか?』

 

 いやぁ、本当に時が経つのは早いもんだと、しみじみ思うよ。

 

『やる。ジジイ、負かす』

『…あ?』

 

 …とはいえ、もう一度こいつには教育が必要なようだ。おう相棒、四の五の言わずに鞍を寄越せ。あいつにも騎手を準備させな!このトウカイテイオー様相手に舐めた態度をとったらどうなるかもう一度教えてやる。ハンデなしの勝負だこの野郎!




「テイオー、君はやっぱり、ピーマンが好きなんだな」 
「うん。カイチョーも、最近はピーマンなんだね?」
「ああ、この苦味がくせになっていてな」
「にしし。カイチョーも判ってきたじゃーん」


「…ピーマンが美味しいとか言っている奴の気がしれねぇ」


「…ちょーっとそこのキミー?今、なんて言ったー?」
「あ?別に。ピーマンなんて、美味しくない、って言ったんだ」
「へぇ。そう。へぇー…そう?カイチョー。ちょーっと大切な、すごく大切な用事ができたから、また後で」

「あ、ああ。テイオー。……ほどほどにな?」
「うん。判ってる、判ってるよー。アハハー」
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