ボク、ピーマンが好きなんだよね   作:灯火011

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ピーマンは何度でも楽しめるのです。

ちなみに今回のピーマンは強いです。

① 生ピーを短冊切りにします。

② めんつゆを耐熱容器にぶち込み、そこにじゃこ、ないしかつぶしを入れておきます。大体短冊切りのピーマンが浸る程度。希釈は通常のそばつゆレベルにしておきませう。

③ ①のピーマンを10秒、180度の油で揚げます。

④ ③の揚げたピーマンを②に叩き込みます。

⑤ 味が染みるのを待ってお好みで食います。

ピーマンのめんつゆ揚げびたし。シンプルですが止まらんのよ。


【番外編】テイオーINピーマンのお話―②

 さぁて、ご飯も終わって、大層驚いていたマックイーンとも別れた私である。…ボク?私?思考がさっぱり安定しないなぁ。

 

 うーん、今までのボクのような?いままでの、私のようでもある。ま、どっちもボクだからいいけどさ。

 

 とりあえず現状を整理しよう。ベンチに腰掛けて、懐からメモ帳を取り出した。…うん、指でペンが持てて字が書けるって素敵だ。というか言葉が通じるって素敵だ。すごい前世を送ってきたんだねボク。っていうか、違う世界のボクって四つ足なんだねぇ…?って、マックイーンも四つ足…。あの綺麗なマックイーンが大きな…ふふふ。ちょっと面白いかも。

 

 いけないいけない。思考がズレた。そうじゃあない。

 

 というか、前世のボクって何してたんだろ?えーっと、無敗の三冠を獲って、有馬で負けて天皇賞でまた負けて、負けっぱなしじゃん!?

 あ、でも凱旋門、有馬、…BCクラシック?ダート!?え、ダート勝ったのボク!?はー…あ、うーん。なるほどねぇ。あ、でも…ボクじゃないボクがそのあとで帝王賞を勝って…インペリアルタリス?うーん、誰だろ。あとでチェックしておこうかな。

 

 で、四つ足のほう…サラブレッド?はレースから引退して…。

 

 …種づ…え?前世でボク男の子なの!?え!?あー、これをこうしてて…えー?うーん。えー?…んー、しばらくスズカとかスぺちゃんの顔を見ないようにしておこう。ちょっとアレだね。あんまり思い出しちゃいけない事もあるみたい。あ、でもお注射が苦手じゃなくなってるっぽい。なんでだろ?

 

 はー…なんだろう。妙な事になったなぁ。

 

 でも、今のボクは無敗で皐月賞までセンターを獲る事が出来た。5月に行われる日本ダービーだって、きっとセンターになれると思う。

 

 でも問題はその後だ。きっと、今のままじゃあダービーで骨折する。

 

 前の四つ足のボクは、全力を出さずに本気で走るっていうバカみたいなことをして、自分の体を守っていた。同じように別のボクは、自分の走りを変えてその脚を守っていた。

 

 でも、ボクは走り方を変えていないし、変える気も、ない。だって、今までと同じことをしてもつまらない、だろう?

 

 ―私は非常に傲慢で、我がままだ。

 

 それに今回は名前がはっきりしている。

 

 私は、トウカイテイオー。

 

 ボクはトウカイテイオー。

 

 奇跡の名馬が私の後追い?ボクの、後追い?そんなことはバカげてる。

 

 この走りを変えないまま、どうにかこうにか行けないだろうか。挑戦できないであろうか?そもそも怪我の原因は?

 

 ―ボクの体、柔らかいからね。その反動で骨が持たなかった?―

 

 比較的ボクの体は小さい。その体を、柔らかい関節を用いて芝を蹴り上げ、大きいストライドで飛ぶように走るのがボクのスタイルだ。前はそのストライドを変えたり、ピッチ走法で走ったり。様々に対策をして、脚を持たせていた。多分、今のボクでも再現は可能だし、これを行なえばきっと簡単に勝ててしまうだろう。

 

 だがボクはこの走りのままで行く。脚に負担が大きいこのスタイルで、だ。それに何もヒントがないわけじゃあない。

 

 『私』は、小さな体で、大きなストライドを取って、しかし怪我をしない走法。その完成形を知っている。

 

 『ディープインパクト』

 

 彼は小さな体である。だが、飛ぶように走り、しかし、現役中怪我をすることなく見事種牡馬入りを果たしている。曰く。

 

『レース後に全く蹄鉄が減っていなかった』

 

 そういう、脚に負荷がかからない走りをしていたのだ。

 

 じゃあ私はどうだったのか?思い出してみれば、こうである。

 

『一レースごとに蹄鉄を打ち直し、下手をすれば普通の練習でも毎週蹄鉄を替えていた』

 

 坂路を日に十本熟す、これが私の走り方。…坂路十本?本気?ボク。

 

 まぁ、それはおいておこう。じゃあボクと一体どこが違うのだろう?

 

 一つの答えは、ボクは脚を叩きつけるように踏み込みを行っている。だけど、彼はそんなことはしていない。私の走りと、彼の走りは圧倒的に違う。体幹の使い方、首の使い方が彼の方が負荷が少ない、ということだ。うん、本来であれば、ウマ娘に彼がなっていれば参考に出来たり、教授していただいたりが出来ていいのだが…悲しいかな記憶の中に、彼のウマ娘は存在しない。だが、ここを起点にして何かしらの対策は立てられそうだ。

 

 大きなストライドで、本気の全力のまま、全てを駆け抜ける。

 

 しかし怪我をしない。この走り方を目指していこうと思う。とりあえず、トレーナーに報告だ!

 

 

「ねぇ、トレーナー。ボク、無敗の三冠ウマ娘は目指さないから」

 

 早速、ボクはトレーナーにそう宣言していた。いやー、トレーナーったら鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしちゃってさ。

 

「…ん!?は!?え!?お前今なんて言った!?」

 

 慌てたようにボクに詰め寄ってきたよね。まぁ、気持ちは判るねー。でも、ボクの気持ちはブレることはない。

 

「無敗の三冠ウマ娘を目指さないって言ったよー」

「はぁ!?なんでだ!?お前、ずっとそれを目標に頑張ってきたじゃないか!?それを諦める!?なんだ!?何があった!?怪我か?俺が気づかないうちに何か…!?」

 

 トレーナーはそうやって脚を確認しようとする。でも、それをボクは手で制して、少しだけ笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

「ううん。そう言うのじゃないよ」

 

「じゃあなんで!?」

 

「もう一つ、上を目指そうって思ったんだ」

 

 ボクの言葉に、トレーナーは目を丸くしていた。そりゃあそうだよね。昨日までルドルフさんに並ぶウマ娘になる、って言ってたんだから。

 

「もう一つ、上?」

 

 呆然。そう呟くトレーナーに、ボクはこう、言葉を続けた。

 

「うん。実はマックイーンには言ったんだけどさ。日本の菊の花を貰うのもきっと素晴らしい事なんだと思う。でもボクは。

 

 ―花の都で、とびっきりの花束を貰おうかなって」

 

「花の都…花の、都?………お前、まさか!?」

 

「ふふ。無敗であの頂に聳え立つ門を潜り抜けられたら、面白いと思うんだ。…ねぇ、トレーナー、ちょっと一周、私の走りを見てくれない?」

 

「そりゃ…すごいけどさ。っていうか、お前の走りを?」

 

「うん。ボクの走りが通用するか」

 

「何を言ってるんだ。お前の走りは毎日のように…」

 

「ふふ。昨日までのボクと今日の私は違うのだ!とりあえず見ててよ。トレーナー」

 

 さて、まずは試走だ。私の走り方。それがボクに出来るのかな。―はっはっはっ。安心するがいいさ私…絶対的中距離の王者。ダートもターフもボクの庭さ。

 

「位置についてー、よーい、ドン!」

 

 トレーナーの合図でボクは地面を蹴った。さて、私とボクがまじりあった『ボク』の初走りである。うーん、すごい違和感だ。2足歩行での走りってこんなんだっけ?腕を振って、脚を上げてと…記憶の中のボクの走りはこんな具合だろう。脚を振り上げ、柔らかい関節とパワーで地面に脚を叩きつけて推進力に変える。速い反面、その反動はなかなかのものだ。

 

 うーん、いや、しかし違和感。上半身が高いというのはこんなにも違和感を感じる物か。

 

 ならばだ。そうだな。上半身を思いっきり下げよう。前傾と言うには前傾すぎる、地面と上半身を水平に。首は上下に動かさないように体幹を意識して反動をコントロールする。

 

 しかし腕は振ってその反動は前へ進む推進力に変え、そして脚については大股で、しかし、雑に走らない。地を這うような足運びをイメージして加速をしていく。

 

 接地の瞬間も気を遣う。蹄鉄は地面と水平に。喰い込ませない。芝を抉らない。芝の表面を撫でるように、地面に対して水平に蹄鉄を動かすように力を伝えて、無駄なものをそぎ落として。

 

 気づけば最終コーナー。更に首を下げる。地面を滑る様に加速をかける。脚の着地点を更に前に。もっと接地を穏やかに、もっと体を地面に這うように、もっと、そして更に脚の回転を上げる。もっと、もっと、もっと、もっと!

 

「ゴール!…こいつぁ…」

 

「どうだった?」

 

「タイムが大幅更新してる。上がり3ハロンが30秒台!? 歴代最速じゃあないか…こんなタイム…テイオー? お前、何をした?」

 

「んー、昨日思いついた走りをしてみたんだ。ボクって体やわらかいじゃん?前傾にして、脚をもっと大股で。でも、今までみたいに叩きつける走り方じゃなくて、滑らせるようにして、力の全部を推進力として後ろに向けられたら、速いかなって」

 

「…そりゃあ理想はそうだが、いきなりぶっつけでここまで完成させる奴がいるかよ。テイオー。お前、本当にすごいウマ娘だな」

 

 トレーナーはそういって、諦めた様な笑みを浮かべていた。うん。どうやら、納得はさせられたようだ。

 

「で、どうかな?今の走りをもっと突き詰めたら」

 

「………正直、俺は国内のレースしか経験はない。だから断言は出来ない」

 

 トレーナーは渋い顔で言葉を続けてくれた。

 

「でも、今の走りは世界に通用するだろう。少なくとも、国内に敵は居ないと思う」

 

 そりゃあ良かった。

 

 ただ、ウマ娘としての私の体は、今のところ坂路やプールの地力が足らないのもまた確か。実際、今の走りのせいで脚がガクガクしてしまっている。完全に体幹と足元の筋力不足だ。

 

 私、それはちょっと我慢できないのである。何せ絶頂期は10本の坂路を熟し、潜水を5分以上する馬だったのだ。練習の虫とも言う。だけど、ボクは精々坂路3本、潜水は苦手。そんなの私じゃあない。

 

 ダービーまでには5本ぐらいは走れるようになっていたいものだ。そうだなぁ、ブルボンあたりも誘おうかぁ? サラブレッドの時も私の後ろを付いてくるぐらいの坂路好きだったし。あ、あとナイスネイチャだよ。だってこのままいくとナイスネイチャ、史実の通りだとG1獲れないじゃん。私の知ってるナイスネイチャは獲ってるんだ。何かしらG1取って貰わないと。ああ!あとリオナタールもだよ!あ、でも菊花にボク出ないから……あれ?これはボク…というか私の記憶だったかなぁ?うーん…ま、声だけかけよ!

 

 ああ、あと、あとでシンボリルドルフに会いに行こう。―キミの夢。背負っていた夢を、『私』はよーく知っているぞ?なにせ、キミが走る姿を見ていたのだから。夢の大地、道半ばで途絶えてしまったキミの夢。

 

 せっかく花の都を目指すのだ。私が、嗚呼、きっとボクが、キミの目の前にその冠を献上して差し上げよう。その後はまぁ、キミ次第、という奴だ。

 

 誰だ、あれは。

 

 生徒会室から覗む練習場のターフ。私は、一人のウマ娘に、心を奪われていた。

 

 彼女は今までも速かった。そう、私に並ぶウマ娘になると、無敗の三冠を獲る。その宣言に違わない実力と運を兼ね備えていた。

 

 ―だが、あれはなんだ。

 

 昨日までは普通だった。だが、今日。今日だ。今日。いや、わずか数分前から彼女は別人になってしまっていた。

 

 あんなに、あんなに。あんなに速く走る娘を、私は知らない。

 

 あんなに地を這うような、しかし、暴力的な走りをするウマ娘を、私は知らない。

 

 そして、猛禽類のような瞳を此方に向けるようなウマ娘を、私は知らない。

 

 なぁ、トウカイテイオー、この短期間で、キミに、何があった?


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