五帝?ああ、ルフィを入れた四皇の呼び方ですね……え?違う?? 作:九十九夜
でもまだ出ない。
ヒロインが出したい。ヒロインが出したい。
誤字報告ありがとうございます。
読み直して変更しました。
「ビスキュイ、朝よ。お父さんお手製のビスケットも……あら?」
行儀よくノックしてから扉を開けた美女……現シャーロット・ボタン。旧姓詠錠牡丹は首を傾げ……その場で絶叫した。
「あ、貴方っクラッカーっちょっと来てっ今すぐ!!」
『どうした?今打ち合わせの最中なんだが』
常備している直通の電伝虫を使って朝早くから建築の打ち合わせに行っている夫を呼びだした。そう、彼女はすぐに気がついたのだ。
それは犯人が彼女と同郷……どころか同じ一族の犯行だからこそだった。
いつも愛する息子が寝ていた寝台。そのあまり乱れていない、争った形跡のない現場と、何よりそこに浮かび上がっている特殊な……彼女の知るところでは禁術に指定されている「口寄せの術」の術式。そのマーキングの後を。
余りの取り乱し様に周囲にホーミーズや使用人が集まってきているがこの際お構いなしとばかりにそのまま悲鳴じみた声で続ける。
「ビスが……ビスキュイがいないのっ。起こしに行ったら部屋にあの子の姿が無くて……あの子が寝てたベッドに《口寄せ》の術式がっ」
『すぐ行く。一応ママに連絡……はどうなるか分からないな……取り敢えずぺロス兄にだけ電伝虫で伝えておく、くれぐれもママにはまだ事が伝わらない様にしてくれ。』
「え、ええ。」
そんな夫婦の会話を聞いていた周囲はハチの巣を突いたように騒がしくなった。
「ビスキュイ様が?」
「攫われた?」
「攫われた。」
「どうして?」
「ママの孫なのに!」
「とんでもない奴だ!!」
その空前絶後にして前代未聞な“ビッグマムの治める万国で何の犠牲も無く彼女の身内を攫って見せる”という恐れ知らずな暴挙にあるモノはひえぇと怯えを顕わにし、あるモノは無礼者だと憤ってみせる。
それは単純にそんな荒事を行っていった犯人への警戒であったし、ビッグマムその人、牽いてはその傘下の子どもたちの力を知るが故の恐ろしさも幾分かにじみ出ている様で実際、後者の方が配分が多いような気さえする。
「ペロスペロー様や将星の人たちもお怒りに違いない。」
「あの方は随分可愛がられていたからなあ……。」
「ビスキュイ様。可哀想に……今頃お腹を空かせてるんじゃないかなあ。」
「泣いてないといいけど。」
口々に言うホーミーズに、気が気でない使用人たち。
フラフラと危なっかしくも歩き出したボタンが心配で付いて行ったものを除いての雑談中に、キラリと近くの鏡が光った。
「お前たち邪魔だよ!そこを早く退きな!!」
「「「「ギャアアアアアァっお~ば~け~!?」」」」
「ブリュレだよ!!まっったく失礼な奴だねっ。次言ったら侵入者と同じ顔に変えてママのところに突き出してやるからね!覚悟おしっ」
「「「「おおおお許しオオオっ」」」
言っていることが本当に御伽噺の魔女さながらのえげつなさな鏡人間ブリュレの登場にその場が驚愕に包まれる。
「ななななぜここにぃ!?」
「朝の散歩でもと思い立ってミロワールドを散歩してたらなんだかとんでもない話を聞いたみたいな気がしてね。で?ビスキュイがなんだって?ボタン義姉さんがあんなに憔悴するなんて何かあったんだろう?」
「それが……。」
「ビスキュイ様が攫われたんだよ。」
「あっ、馬鹿お前っ」
鏡から抜け出そうとしていたブリュレはその言葉にうっかり足を踏み外し、とても痛そうなビタアアアンっという効果音とともに強かに身体を打ち付けた。
「きゃあああ!?痛いっってどういうことだい!?ビスキュイが攫われた?馬鹿言うんじゃないよ!昨日の茶会からあたし含め兄さん姉さんも警備を怠ってないんだよ!!」
「わ、わからない。」
「でもでも、朝布団の中にはもういなくて~」
「さっきボタン様がクラッカー様に電伝虫してたんだ。」
「禁術がどうって~」
「こうしちゃいられない、早く義姉さんのところに行かなくちゃ!」
尚、この後また鏡に戻ろうとしたブリュレはまたもや足を滑らせミロワールド内で盛大に転ぶこととなる。
***
「で、朝起こしに行ったらビスキュイは既に居なかった、と。」
「はい。」
此処は万国の数ある島の一つ、シャーロット・クラッカーの治めるビスケット島クッキータウン。そのとある応接間で連絡を受けたペロスペローとクラッカー夫妻。そして遅れながらもミロワールドから追いかけてきたブリュレの姿があった。
「だがクラッカーが出勤する前にお前たち夫婦揃って奴の寝顔を確認したんだろう?ペロリン。……ふむ、それならそこまでの2時間程度の時間内での犯行となる訳だが……。」
「……あの子のベッドに、口寄せの術式が描かれていました。」
眉根を寄せたボタンがテーブルの上に乗っている紙にビスキュイのベッドいっぱいに描かれていた図形と酷似したものを描いていく。
その図の8割は文字を崩したもので構成されており、ワノ国出身、ましてや詠錠の出身でない彼らからすると奇怪な絵の様にしか見えない。
「義姉さん、口寄せって?」
「……大元は隣り合った違う世界の者を召喚するための術だったと。でもそれはあくまで御伽噺の存在で……そもそもそんな技を使うのにどれだけの気……
「それなら偽装か。」
考え込んでいたクラッカーの呟きにゆったりとした動作で首を振ったボタン。
彼女に瞳からは耐えていた涙がポロリと落ちる。
一粒落ちたソレはひとつ、またひとつと零れ落ち、スカートの上にシミを増やしていく。
「そう思いたいけど……ごめんなさい。ここに来てから松雪兄さん以外との縁は切れたとばかり……。」
そんな彼女をクラッカーは宥めるように抱き締めて背中をさすってやる。
この場に彼女を責める者は誰一人としていない。
それは彼女本人が悪いわけではないという事と彼女の実家のことを結婚式の顔合わせから知っているからである。
シャーロット家や牽いてはビッグマム海賊団の事を下賤な輩と一様に見下していたことやボタンを含め女性を貶める発言を繰り返す相当胸糞悪い連中だという事は既に理解しているのだ。
このとき特に腹に据えかねていたらしいクラッカーはそれとなくビッグマムに許可を取って、事故に見せかけて帰還途中の一族の乗る舟の半数を沈めた。ワノ国への足掛かりだったので壊滅させなかったわけだが皆内心でいいぞもっとやれ状態だったのは言うまでもないことだろう。
人一倍自身の妻のこと含め散々なまでの貶しを聞いていたのもあって我慢ならなかったとのことだが、そも、自身の妻を悪く言う連中に慈悲はない。
シャーロット家の兄弟は皆結婚相手や身内には優しいのだ。
それからというものその非礼をボタン以外で唯一詫びてくれた松雪という男だけ交友を持ち仲介役にしていたのだが……。
「そう言えば松雪義兄さんはどうしたのよ。」
「そう言うと思ってな、ここに来る前に連絡しておいたんだが……誘拐の事を知らないどころかこないだのお茶会の代理……というよりお茶会があることすらしらされていなかったようだ。ペロリン。」
「良くママが許可出したよな……いやワノ国の権益関係の話してたから丁度良かったってだけか?」
クラッカーはその強面を更に歪ませる。
今にも相手を滅多刺しにしそうな気迫を纏った彼はギリリと奥歯を軋ませた。
(一体どこで情報が漏れた。)
『え?明日朝でお仕事終わりなの?じゃあこの間言ってたジンジャーブレッドの作り方教えて!!』
一緒にビスケットを作る約束を楽しみにしていた息子の姿が蘇る。
歳のわりに聞き分けが良く、我儘らしい我儘一つ言わずに自分や兄たちを慕ってくれる可愛くも自慢の息子。
頭も決して悪くはないのでこのままいけばそれなりの戦力になるのではとあのママや兄たちですら目を掛けている。
……もっとも別に才能が有ろうが無かろうがクラッカーにとって目に入れても痛くないほど愛しい息子なのだが……。
普段から我慢をさせている分久々の余暇の時間を折角妻子と過ごすために使えると思ったのにこの仕打ちである。犯人を見つけ次第愛刀プレッツェルでめった刺しにしたいくらい腹立たしいことこの上なかった。
「今出せる船は?クイーンママシャンテ号は流石に無理だろうが他の船なら「気持ちは分かるが落ち着けクラッカー。」……ああ。」
長い舌をそのままに器用にはああと溜息を吐いたペロスペローはキャンディーケインをコツリと改めて床につけると目を細めた。
「今松雪に改めて確認してもらっている……だがもし想像通りだとすれば厄介だな。なんせあそこには……。」
既に百獣の奴らがいるはずだからな。ペロリン。と帽子を目深に被りなおした。
***
「ルフェリオクス・デールニエディ・ウィス・ノクタル。この世界での通称は【常夜の黒】。まあ、呼び名はまだまだあるが……ふむ、やはり碌なものがない。取り敢えず歓迎するぞ、我が義弟よ。」
「……シャーロット・ビスキュイ。」
ビスキュイの呟くような物言いに別段不快感を醸し出すこともしない目の前の相手はにこにこと笑顔のままビスキュイとテーブル越しに対談するかのように対面している。
はて、自分は頭を殴られて目も潰されたように感じていたのだが、あれは嘘だったのだろうか?そもそもここは何処なんだとぼやけの取れていく脳で考えて、考える。
―――この目の前にいる彼は、一体誰なんだ?