プロムンの新作を買おうとしたら都市にいた 作:外郭在住ドM
「記憶がないんですか!?」
彼女は驚いたようにこちらを見る。
というか、話を聞く限り、どうやって記憶を失って生き延びているのか、という驚きもあるのだろう。
「目覚めたのがついさっきで」
「なにか覚えていることとかはないのか?どこからきたのかとか」
「多分。俺は少なくともこの都市を知らない」
なんとなく思い浮かぶことはある。
ロボトミーコーポレーションで少しささやかれていたが、よくは知らない。
「そうか……話が長くなりそうだ。何か飲み物を用意しよう。手伝え、エズラ」
探偵さんと呼ばれた人の名前はモーゼスというらしい。そして金髪の方の人はエズラ。
二人に案内されてきた建物。三階建ての建物だ。どうやら彼女たちの事務所のようなものらしい。
そこで話をすることになり。そしてそのうちに俺は記憶がないことになった。
聞けばここは14区。全部で20区以上もある中の一つ。そして彼女たちはフィクサーという職業なのだそう。
聞いたところだと内容は便利屋。そういえばロボトミーコーポレーションでも出てきてたな。
色んな能力があってめんどくさかった記憶がある。
「なかなか戻ってこないな」
部屋の中を見回すと、なんだか色々な資料が置いてあって、読む気にもならない。
使い込まれた煙管が机に置いてある。タバコとかそういうの、少し苦手なんだよな。
とはいえ、この世界では禁煙なんて考え方もないだろうし。
「なんで私もよばれたんですか?」
「エズラ、お前にはあれがどう見える?」
「どうって……普通に見えますけど」
「正直な話、私にはあれが男か女か、それどころかまともな輪郭さえわからなかった」
「はい?」
「ねじれているのは確かなはずだが、安定していない。
色々なものをぐちゃぐちゃに混ぜてるみたいな気持ち悪い見た目だ」
「?…よくわからないですけど、記憶を失ったからじゃないんですか?」
「記憶がないからかどうかはわからないが、それなりの規模になりかねないほどかもしれない。私が今まで見たこともないねじれだからな。いや、もしかするとすでに何らかの予兆が起きた後かもしれない。最近起きた事件を調べれば、あるいは何かを起こしているか」
「わかりました、そういうことですね」
「だがまぁ、あの様子ならすぐにどうこうというわけでもないだろう。さぁ、怪しまれる前に戻るぞ」
「すまない、エズラが転んでこぼしてしまってね、少し手間取ってしまった」
「え!探偵さ…むぐ」
「ありがとうございます」
持ってきてもらったものを飲む。
コーヒーみたいだけど……甘い。
コーヒーはブラックが好きなんだけどなぁ、作ってもらった手前言えない。
「そう言えば名前とか覚えてますか?」
「名前……」
そうか。こっちでは名前、前世のを名乗るわけにはいかないよな。
絶対に合わないし。それになんかこういう時本当の名前を言うと追われるとかしそうだし。
「ジエン」
名無しさんです。すこしひねってみたけど、センスは悪くないんじゃないか?
…やっぱりセンスないかもしれない。
「ジエンか、わかった。依頼なら何か手伝ってもいいが」
「いえ、大丈夫です。お金、あんまりないので。」
聞いてみた感じ、俺は20000アンしか持ち合わせがなかった。
アンがこちらの通貨らしいが、多いのか少ないのか。
とりあえず少しだけ過ごすなら困らない程度だろう。
どこかに預けてたとかでもするのだろうか。
正直この世界の記憶なんてないわけだし。
「とりあえず、どうすればここで生きていけますかね」
「らぁっ!」
元々持っていた剣は、軽く、それなりに手になじんでいる。
とはいえそれを振るのが俺じゃあ、あまりにもお粗末すぎる。
何度も振るが、簡単に剣をいなされる。
わざわざ刃をつぶした剣を借りたのがばからしいほどだ。
そのうち、疲れてきて少し攻撃のテンポが落ちた。
その瞬間相手の繰り出した槍がこちらの鳩尾を抉る。
石突きだから死なないとはいえ、きつい。
「はぁ、あぁ……」
えずきそうになってしまい、姿勢が崩れる。
「だめだよ、それは」
目の前まで距離を詰められ、足を引っかけられる。
バランスを崩した俺は背中で全体重を受けることになった。
「あぁ……ゲホ……」
こんなに殴られたりするのが痛いなんて。
腕を切られたときは本気で死ぬ、というか死んだ?けど、
もうそれを味わったら大丈夫かと思ったけど、そんなでもないのか。
「ジエン、立てる?」
倒れこんだ俺のことを上からのぞくのは、俺が入った事務所のフィクサー、ヴィンさん。
生きていくために、俺は自分を鍛えることになった。
モーゼスさんは、自分のために事務所をいくつか教えてくれた。
その中で選んだのは、ハン事務所という所。
他にも色々な事務所があったが、一人しかフィクサーがいないこの事務所を選んだ。
なぜ一人なのにここにしたか?…ここに泊まれるっていうからさ……住む場所があるのは大事だし。
それに、ヴィンさんはある程度実力者だって言うし。3級だって言ってた。
「よろしく、私はヴィン」
手を差し出してくる。
女性のフィクサーだ。学生服にも似た、というかそのものにしか見えない服装は、
ちょっと体形が良い感じなお姉さんとはミスマッチな感じがする。
「よろしくお願いします」
そう言って手を握り返す。
「ところで、なんで一人しかいないんですか?」
そう聞くと、彼女は少し悲しそうにして、「相棒が死んじゃってね」、と言葉を落とす。
「まぁ、よろしくね。私が立派なフィクサーにしてあげるからさ。これから一緒に仕事をするわけだし」
二コリとわらうと、机に移動して、立てかけてあった槍を取る。
「じゃ、戦おっか」
「はい?」
それはニコニコとした笑顔で言う言葉ですか?
「剣を持ってるなら戦えるかなって思ってさ。実際どのくらいできるのかも大事でしょ?」
……ということがあって今に至る。
「まぁ、筋は悪くないって感じかな」
そう言って彼女は槍をクルクルと回す。
「ま、いいよ。少しずつ練習すれば。とりあえず最低限攻撃を防げるようにはなったしね」
3時間、ぶっ通しだった。とりあえず生き残るために回避と防御をできるようになれって言われてひたすら攻撃され続けて3時間。
さすがに死ぬ……!
「も、体、が……動かない、です」
「あはは、まぁ、そんなもんだよね、最初はみんなそんなもんだから」
結局動けないまま俺はヴィンさんに背負われて事務所に帰ることになった。
俺はソファーで寝っ転がる。疲れた。
ヴィンさんはというと、あんなに動いたのが嘘みたいになにか書類を書いている。
「とりあえず、あと2日ほど鍛えればとりあえずマシになるかな」
え、二日……?あんな死にかけるようなものを……?
困惑が伝わったのか、彼女は少し苦笑いして言う。
「ほら、死ぬのは嫌でしょ?」
「まぁ、それは確かに」
死にたいとは思わない。ケガとかしたらすごい痛いわけだし。
「それに、うちは戦闘とかを生業にしてる事務所だからね。
特にここでは私がいるとはいえ、強くならないと」
そう言って、槍を持つ。
「……こんな風に」
なにがこんな風に、と思った時後ろからバリン、という音。
驚いて見れば、ガラスが割れて何人も人が入ってくる。
「殺されちゃうからね」
気を取られてみると、次の瞬間人から槍が生えていた。
「ほいっと」
ヴィンさんはナイフを持って軽く、それこそ雑草を狩るように侵入者の首を切っていく。
よく見れば、ナイフで切りつけつつ、他の人の武器も殴ったり蹴ったりして飛ばしている。
私を守る位置取りで、移動もせずに全滅させてしまった。
「ほら、うちってたまにこんな風に襲ってくる人がいるからね」
「……えぇ」
「少しよごれちゃったね」
そんな風に軽くおどける姿は人を殺した後とは思えないものだった。
「まぁ、とりあえず心配しないでね。強い人が弱い人を守るのは当たり前のことだからさ」
でも、と彼女は続ける。
「できるだけ強くなってくれないと、守り切れないかもしれないからさ、ね?」
こちらを向いて、血まみれの笑顔で笑った。これはスプラッターだ。
「……はい」
というわけで。練習をすることになって。
「そこだよ!」
右手に握られた槍の突きを剣で逸らす。突きは向きを変えれば力はそこまでいらない。次の左手に握られたナイフの追撃は少し下がって避ける。
蹴りを入れて牽制、剣を大振りに振ると見せかけて下がる。
槍の横振りを剣で受ける。でも、ヴィンさんは力が強いからまともに受けちゃいけない。
剣を傾けて上に逸らしつつかがむ。
「まぁまぁ良くなってきたね」
首にナイフを当てられながら言われる。
横振りでかがんだ時にはもう槍を手放していたけれど、かがんでいて回避ができなかった。
「そうですかね」
地味にナイフと槍の組み合わせは難しい。
「じゃあ実践ね、これ」
そう言って見せてきたのはある依頼の紙。
「ようやっとジエンちゃんのフィクサー認定が下りたので仕事ができるのですよ」
自慢げに見せてきたそれは、ある5級フィクサーの殺害。
はい?
「いやねぇ、このフィクサーがねじれちゃったから殺してほしいって依頼」
「ねじれちゃった?」
「まぁ、ようするに化け物退治だよ。うちではそういう類の取返しがつかない奴らを殺せっていう仕事を処理するの」
「化け物……アブノーマリティですか?」
「アブノーマリティ?なにそれ?」
「いえ、なんでも」
ごまかすように剣をしまう。あたりをみまわして、ふと思う。
そういえば、この事務所って不思議な感じだ。
あんなに攻められるとかいう割には一階が事務室で二階が訓練場なんだな。
「まぁともかく、周りとは違って私は弱い皆様の盾なので、
そういうのを駆除してって頼まれたらきちんと駆除しなきゃいけないんだよ。
まぁ、あまり儲からないと言えば儲からないけどね。どちらかと言うと工房の武器のテストをする依頼で稼いでる感じなんだよね。だから本当はこんな依頼受けるなんて頭おかしいとか言われるんだけど。
……まぁ、化け物は皆を殺すから消えた方が良いからね」
最後の表情は見れなかった。声だけでも背筋が一瞬ぞわっときたみたいだった。
「準備できた?」
服は着替えさせられた。ヴィンさんとおそろいの服はこの事務所の制服らしい。
学生服っぽくて絶妙にかっこ悪い。これで戦うのか?
「なんか嫌そうにしてるけど、一応効果はそれなりにあるからね?」
「そうなんですか……」
なら仕方ない。我慢しよう。
場所は裏路地。
汚い、というかもはや廃墟にしか見えない建物。
「いた」
ヴィンが指し示した先にいたのは、たしかに化け物だ。
なんというか、クトゥルフあたりにでも出てきそうな見た目をしている。
頭が大きな肉の風船で、そこから翼が生えている。顔が大きく広がって歪んでいるのは軽くホラーだ。
皮膚が裂けて肉が見えてるし、血も流れている。そんなそいつはというと、
翼をはためかせ浮いている。体がぶら下がって揺れていてストラップかなにかのようだ。
こちらには気付いていない様子だ。
「気持ち悪い」
正直、ねじれた化け物がこんなものだとは思っていなかった。
いや、アブノーマリティみたいなものだろう、これ。
こんな武器で倒せるのか?
自分の剣を見る。悪い武器ではないとは教えてくれたけど…。
E.G.Oが欲しい。ダ・カーポとか、とにかく強い武器。
「アレを倒すんだよ」
「……目が痛いですね、まずいんじゃ……」
よく見ていると……さっきから頭が痛い。
我慢が出来なくなってかがみこむ。
「大丈夫!?」
大丈夫だったらかがみこまないから。
がんがん頭が叩かれてる。うるさい音だ。
なんなんだ……
今の私と同じ化け物……
女の声が聞こえる。あの時と同じだ。
私はあれがいやだ。
あれが嫌って、なんなんだよ……
あれは悪いものだから、滅ぼして。
何かが流れ込んできて、流れ込んでくるそれが自分の中の何かを削り取っていく。
…そうだ、受け入れられない。あんなものが存在していいわけがないだろう。
「悪人は滅ぼさないといけない」
俺は手にもつ白と赤の意匠の銃、『くちばし』を構える。
容赦なく引き金を引く。
銃声が響くたび、肉風船に穴が開く。中身すら肉で出来ているようで、なかなか落ちる様子がない。
引き金を引いて、何度も弾が飛ぶたび、化け物の肉が弾け、抉れ、翼がもげる。
そうして動きが無くなったのを確認すると、念のためにもう一発弾丸を首に一発。
「……私が言うのもなんだけど、ジエンちゃん容赦ないね」
ヴィンさんの視線は俺の銃に向いている。
「というかそんな銃持ってたんだ」
「……」
『くちばし』が光の粒のようにほどけて消える。
「なにそれ、もしかしてなんかすごい銃だったりするの」
俺は自分の手を見る。なんだろう、今のは。間違いなく罰鳥のE.G.Oだった。
女の声が聞こえて、何も聞こえなくなったと思ったら、次に音が戻った時には自分の手に銃があった。
まぁ、考えてもわからないか。
「終わりましたね」
「……私、今すごく返事に困ってる」
「とりあえず依頼はこれでいいんですよね」
「…まぁ、うん」
「はい、これ」
事務所に戻ってしばらくして書類が書き終わった彼女から渡されたのは一枚のチケット。使用済みのようだ。
「これって」
「記憶がないって言ってたでしょ、服を洗った時に出てきたんだよね」
ワープ列車のチケットと書いてある。
行先は9区のようだ。
「もしかしたら記憶が戻るかもしれないでしょ?」
「でも、お金がないんですけど」
「そこはほら、仕事をすればいいから。良くも悪くもうちは色んな仕事が入るから」
「そうですね」
「明後日は大変な仕事だよ?なにせ一つ事務所を潰すわけだから」
「はい?」
「だから事務所を潰すから」
「…そうじゃなくて、そんな依頼が?」
「まぁ、弱い人達から搾取するような事務所だからね。それにもうそろそろこの槍のテストも本格的にやらないといけなかったし」
どうやら次は事務所を潰しに行くらしい。
……無理じゃね?
「そんな顔しないでよ。ジエンちゃんもそこそこ身体強化してるみたいだし大丈夫でしょ」
もしかしたら入る事務所を間違えたかもしれない。
こんなことしてたら死んじゃいそうだ。
「大丈夫、ぜったい守るからさ」
頼もしく、悪意の全くない笑顔が断る気力を削る。
次の依頼は、事務所潰し。
うわぁ、いやだなぁ。……人殺しかぁ。
出来るだけ原作は壊したくないけど、多分難しいですね。これ。
二次創作って難しい……
とりあえず頭を鍛えるために人の脳みそ吸いに行ってこようかな……