プロムンの新作を買おうとしたら都市にいた 作:外郭在住ドM
「すまんすまん」
工房にて。
そう言って笑顔で入ってきたのは、金髪のヤンキー風の男。
やたらと大きいケースを持っている。
からっとした笑みがまぶしい。明るそうな印象は、多分悪いようにとられることはないだろう。
こんな状況でなければ。
「こら、ちょっと?ジエンちゃん?」
ヴィンさんが苦笑いしながらもなだめようとしてくる。
「こいつ、殴って良いですか」
俺はこの男に対して腹パンを入れ、事後承諾と言う形で許可を取る。
「いやぁ。……けほっ、……なんて暴力的な女の子なんだ……」
効いていないようなのでもう一発。
「待っぁ」
せき込んでうずくまる男に対して、俺は心の中にたまっていた怒りを吐き出した。
「予定の時間がいつだったかわかります?二時間前?おかしくないか?こっちは二時間前にすぐお茶持ってくるからって言われた気がするんですけど、二時間かかってお茶も持ってきてないってどういうことだよ!?わけわからん!」
「……あのさ、ジエン」
ヴィンさんに肩を叩かれる。怒りすぎ、と小声で言うが、知ったことではない。
「そうだぞ、俺は悪くないからな」
そんな小さな声すら聞き逃さずすかさず便乗。爽やかに笑うその顔。
拳に力が入ってすべってしまいそうだなぁ。
「ジエン。……腕は良いの、腕は。まぁ、こんな感じだから客は全然いないけど」
「ボミョンだ。よろしく」
そう言ってボミョンは殴りかかってくる。
意外にも速い拳に反応しきれず、衝撃を覚悟するが、寸前でヴィンさんがその拳を止めていた。
「ヴィン、止めんなよ」
隠し切れない不満が見える。不満ですと顔にでかでかと書かれるだろう。
「殴られたのはしかたないじゃない?」
そう言うと、ボミョンの手を離す。
相当強い力でつかんでいたようで、少し赤くなっている。
「二発は多いだろ、お返しだよ、お返し」
「ボミョンとジエンちゃんの一発は違うの」
「たとえば客が入るとするだろ?その時に新しいアイデアが思いついたとするだろ?だから俺はアイデアを優先した……っとそうだそうだ」
彼はいつの間にか俺の後ろに回って剣を見ていた。
「少なくともこの辺の武器ではないなぁ……工房もどこの奴かわからない、手入れがちゃんとしてあるから現役だが、かなりの年代ものだな、マイナーなやつか?」
「ボミョン」
ヴィンさんが促すと、あ、とボミョンが大きなケースを開く。
「あー、えっとジエンだっけ?お前の武器はこれだ」
一振りの剣。持ってみると、なかなかに軽い。
「すごいだろ?めちゃくちゃ頑張って軽量化してみたんだよ」
今の武器は預かってくれるらしく、この武器をありがたく使わせてもらうことにした。
「ところであの時の銃は?」
あー、それは。
「大事なものなので」
ごまかしておこう。E.G.OはL社の技術のはずだ。外に漏れているとかばれたらまずい気がする。
それに、あの後消えちゃったから、どうすれば出せるのかもわからない。
「ねじれ?」
「そうそう、なんか色々あるみたい」
彼女が仕事の書類をパラパラとめくる。全部目を通さなきゃいけないな、とかぼやいている。
一種の小論文にも思える枚数を読むのは確かに大変そうだ。
「そんなにもらっても読むのが大変ですよね」
そんな言葉に、ヴィンさんはフフ、と笑ってこちらに指をさす。
「情報が無い方がもっと大変だよ?」
新しい剣はなかなかに扱いやすく、良い感じになじんできた。
戦う依頼だって、きっと問題なくこなせるはずだ。
「不思議だねー、最近までは全然こんな依頼なかったのに、急に増えた気がするよ」
そう愚痴りながらも、笑顔は崩さない。この人が怒るところとか想像できないな。
「行きますか」
そう言って書類を雑に投げると、だらけていたせいで乱れた服を整え、槍を手に取る。
裏路地にある建物の中にいるというねじれ。
中に入ると、赤を基調とした部屋が俺たちを迎える。
「お客様ですか」
声が聞こえる。
目の前の巨大な糸車には、人が刺さっている。
人が解かれ、糸が紡がれている。
椅子に座っているのは、糸で出来た人形。いや、糸の塊が人の形をとっているようなもの。
ただし、頭は半分しか作られていないが。
クルクルクルクルと作業の手を止めることはない。
「話は通じるみたいだね」
「二名様ご案内ですね、どうぞ」
こちらを向くこともなく、手で示した先にはテーブルがある。
「遠慮しておくよ」
ヴィンさんは槍を構える。
「例えば、自分は糸の集まりだと考えたことは?」
糸車を回すと、人が解けていき、糸に変わっていく。
「少し話を聞いていただきたいだけですから、武器などというものは収めていただけると」
「どうしますか?」
「もちろんお断り!」
糸を切り裂く。切り裂いた断面から何かガスのようなものが空気に漏れ出る。
「時間は過去から今へと繋がる一本の道」
「黙って」
ヴィンさんの槍は、糸が降ってきて槍を絡めとろうとしたことでねじれを抉ることはなく。
壁から赤が剥がれ、それが解けて糸になっていく。
そうして糸は人の形や、犬のような形、生き物の形に。
剣で糸の塊を切り裂いていく。
彼は、顔を手で多い、空を仰ぐ。
「まるで糸のようだとは思いませんか?」
恍惚とした声が部屋を満たす。
「もし、人を糸にできたなら、それはそれは美しいものでしょう」
「苦労の色も、歓喜の色も、同じ色など一つとしてない」
「私には、赤にしか見えないけど?」
ヴィンさんの言う通り、赤い糸しかなかった。
「それは、あなたの心が感じることができなくなっているのですよ」
糸を防ぐ、切る。
きりがない。ふと、チクリと足に痛みを感じると、小さな小さな針が刺さっていた。
とたんに頭のなかでからから、からから、と音が聞こえる。
「ジエンちゃん!」
転ぶ。片足が糸に変えられている。
「その糸はあなたの過去であり、あなたの在り方であり、あなた自身なのです」
あぁ。糸の断面からあふれているのは、何かの光景。
過去というものなのだろう。
糸は赤く見えて、赤ではない。ほんの繊細な色彩を放っている。
まずい、まずい、まずいまずいまずい。
「あのですね、仕立て屋さん」
なんだよ、大事な話って
「私は昔とても悪いことをしてしまったのですよ」
はぁ、それで?別にだからなんだって話なんだよ
「あなたの妻を殺したのは私なんです」
は?……今、なんて言った?
「えぇ、そう怒らずに、落ち着いて」
くそ、くそ、っ!……ぐぁああっ!
「あまり手荒にはしたくないのですよ、とまぁ、これで話をきいてくれますね?
くそ、手が、クソ!
「もう手を使うこともないのですしいいでしょう?」
……ミナを返せ!この悪魔が!ずっとそばで見ていて楽しかったかよ…!
「人をいたぶるのが好きな性分でして」
……っ
「ミナの最後の言葉を聞きたいですか?」
「まぁ、教えませんけどね」
痛みと、怒りが体の中で駆け巡った。
奴の腕だった糸の塊から、ミナの色の糸を切っていく。
その糸のなかには記憶があった。
ミナを殺す記憶。
糸に頬ずりをする。
「ミナ、ミナ、ミナ……」
ミナの糸の断面から、記憶が流れ込んできて。
ミナの最期の言葉が聞こえる。
「愛してる」
その一言が、糸の中にあった。
聞き続けて、聞き続けて。
足りなくなった。
次は友達からミナを切り取って束ねた。
奴の手がかりは見つからない。
友達から。友達から。友達から。
ミナの糸を切り取って束ねた。
奴の手がかりは見つからない。
でも、見つからないこともあった。
どうすればいい。どうすればいい。
どうすればいい。そうだ。
自分からミナの糸を切り抜けばずっと幸せな過去を繰り返せる。
自分から■■の糸を切り取って束ねた。
それで、あたりを見回すと、様々な糸が地面に散らばっている。
どうしてこんなに美しい糸を使わないのか。
なんて、人の過去は美しい色をしているのだろうか。
■■の糸が束ねたソレを置いて、ひとまず糸の片付けをしよう。
ガラリとドアを開ける音がする。
「いらっしゃいませ」
目の前の男は、動揺してこちらの名前を呼ぶ。
顔がきれいだが、糸にするとどうなのだろうか。
どんな色なのだろうか。どんな過去なのだろうか。
尽きない興味に突き動かされ、糸車を回す。
「はぁ、はぁ、今のは」
記憶だった。多分この人の記憶。
「どうやら、君の精神は解かれなかったらしい」
管理人の声が聞こえる。
「君の精神がこの世界に定着しきっていないことが予期しない結果をもたらしたようだ」
「これ、どうするんだよ」
「左手を見るといい」
包帯が外れていて、水晶のような腕が見える。
「彼女のE.G.Oが弱いのは彼女に何もないからだ」
「だからなんなんだよ」
「彼女に自分自身をゆだねればいい」
「そうすればどうにかなるのか?」
「もしかしたら、の話だ」
「……」
「怖いのか?」
「……怖い」
「怖くなった時にするおまじないがあるだろう」
目を閉じる。
体から力を抜く。
浮遊感が体を包み、地面があやふやになっていく。
「自分を消していく、だよな」
返事はない。
左手をつかまれて、上に引かれていく感覚。
海の底から浮き上がっていくような。
――彼の手を引く。
私には何も残っていない。
だから彼の心を借りる。
上着のように。何もなくて寂しくて寒くなった心を温かくするために。
私は彼の心の殻を着る。
その瞬間、あらゆる何かと繋がった気がした。
それはとても暖かくて、穏やかな気分になる。
でも、何かがなんなのかはわからない。
ただ時が過ぎて。
この心地よい無感覚に溶け込もうとした。
――ある瞬間温かくなった。
目の前には灰でできた少女がいる。
体をマッチ棒が貫通している。
心に打ち込まれたマッチの火は絶対に消えない
今まで燃えなかったマッチの火がようやく燃える、灰になる。
おそらくあの煌々と輝く火は、私の体に飲み込んだことに対する対価だ。
私が燃えたら走ろう。
今までずっと苦しかった、これからもずっと苦しいのだろう。
なのに、なぜあなたはまだ幸せなの?
私は自分が脅威になったことを知っている。
何も変わらなければ、あなたが苦しんでいるのを見たい。
来て、と彼女は言った。
「ここにいれば、私は何も取り戻さなくても良いと思った。」
「でも苦しんででも、私自身を取り戻すべきなのかもしれない」
手を掴む。
無感覚になっていた体に熱さが伝わり、自分自身があったのだと自覚する。
「ありがとう、行くよ」
そう返事すると、マッチの火が揺らめいた。
目覚める。
糸にされかけたけど、戻ってきた。
手には大砲、『四本目のマッチの火』があった。
服もご丁寧にE.G.Oになっている。
「存分に使わせてもらうからね。…ヴィンさん、部屋を出て!」
糸がヴィンさんを追っていくが、剣で切り落とす。
そうして、バズーカを構える。
引き金を引く。
バズーカから噴き出た弾は、爆発し、糸を燃やしていく。
一撃の威力はTETHでもかなり強いという数値に違わず、一撃で部屋全体を燃やしていく。
「あぁ、だめだ、燃やすな、私の……」
燃えかけているねじれ。彼は手を伸ばし、燃え尽きていく糸たちをつかもうとする。
私は、その糸の中から、強く記憶の中に残っている糸の束を手に取り、
その糸をねじれの糸に結び付けた。
「……ああ、あぁ……そうだ。■■、■■、……ミナ」
「気分はどうですか?」
「最悪だ、……最悪だよ」
「望み通り、ミナと一緒ですよ」
「……いや、違うな。これは、ミナじゃない」
「どうしてですか?」
「ミナは死んだんだ。もう戻っては来ない」
「そうですか」
「この糸を持って行ってくれないか」
「なぜですか?」
「覚えていて欲しい」
そして、復讐を果たしてくれ。
外に出ると、ヴィンさんが抱きついてくる。
胸が大きいから少し息苦しい。
やがてしばらくするまで抱き着かれたままだった。
「ジエンちゃん!?」
「ヴィンさん。大丈夫ですか?」
「ジエンちゃんの方が心配だよ!?」
「私は特にケガはないです」
「そっかぁ…良かった。それより、さっきのはなんだったの?」
もう今はE.G.Oを着ていない。倒してから消した。
左腕を見る。とりあえず普通の腕に戻ったし、隠す必要はなくなったかな。
「なんでもないです、ただの友達からの貰い物ですから」
「可愛いけど……本当に大丈夫、それ?何か起きたりしない?」
「大丈夫ですよ」
糸を編んで作った布のチョーカーを付ける。
ボミョンに糸で何か作ってくれって頼んだら呆れられてしまった。
職人に糸を使えって何がしたいんだよ、と。
ともかくミナの糸の強度は相当らしいから、首を守るのにも役立つはずだ。
……それにしても、自分を消していく、ね。
何か取返しのつかないことをしてしまった気もする。
とりあえず、考えるのはやめよう。
廃墟。血まみれの男。いや、血に濡れているのは服で、特に傷があるわけではないようだ。その目の前には全身を隠し地肌が全く見えない、仮面をつけている者。
とはいえ、ここでは正体がわからないなんてことは珍しいことではないが。
……そして、男が跪いている。
顔は涙で濡れている。歓喜の笑みが絶えることはない。
『私にこの地に在れというのであれば』
『あなたのあらゆる病を治し、あなたを治療しましょう』
手を差し伸べる人物は、顔を見せることはなく、表情は窺うことは叶わない。
だが、その声はひどく優しく、男にとってまさしく福音に違わぬものだった。
男は世界を救いたいと願う。この者と正しい世界を創造したいと願う。
初めから書き直す予定です。
見切り発車していたら困ってしまいました。
しばらくは残しておきます。