エクスドライバーの卵の日常を淡々と描くものです。
過度な期待はしないでください。

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エクスドライバーの二次創作をやりたい!

と思いつつ、中々筆が進まないので、
自分が書こうとしているものはどんなものか?
どこまで書けるのか?

みたいなことに挑戦する意味で「Rampway/プレエントリー」を書きました。

読んでくださったら、嬉しい限りです。


Rampway(プレエントリー)

 車窓では伊勢湾ののどかな風景が後ろに飛んでいく。

 海鳥の鳴き声やタンカーの警笛に混じって、ガソリンカーがあげる鳴き声(エグゾーストノイズ)が遠くに置き去りにされるような感覚がした。運転席を包むのはレシプロエンジンがあげる雄叫びだった。

 

 伊勢湾に面する名古屋市内のルート123は、しばらく直線が続いた。

 紗理奈は軽くアクセルペダルを踏む。5,000回転をキープしていたタコメータが6,000回転を示した。すかさずクラッチを離し、ギアを5に入れ、またクラッチをつなぐ。瞬間、リアタイヤがグリップを失うが、すぐさま路面をキャッチする。返って来た加速度が紗理奈の身体をシートに押し付けた。暴走AIカーは、まだ少し先にいる。

 

 紗理奈は目だけでルームミラーを見た。先ほどまで後ろにいたアリスのMINIが消えている。代わりに、手入れの行き届いていない、ボサボサとした髪の紗理奈が、彼女を見返してきた。

 

『遅くってよ、サリナ』

 

 紗理奈が操るスバル・BRZの左を、猛スピードでMINIが抜いていった。運転席には、ヘッドレストにロングヘアの金髪を押し付けた、子どもがハンドルを握っている。

 

 アリス・クラーク・チェンバース。十二歳。英国生まれ。紗理奈の数少ない級友の一人だった。操るMINIの屋根(ルーフ)には英国国旗(ユニオンフラッグ)がペイントされている。 

 

 BRZのスピードメータは120キロを示していた。アクセルペダルを踏み込み、130キロを超す。

 

 片耳につけたインカムからは、キンキンとしたお子様の声がする。

 

『おーほほほ! このエクスドライバーから逃げられるとおもって?』

「エクスドライバーって……」

 

 紗理奈はひとりごちる。

 インカムから、もうひとり、伸びの良いテノールの声が聞こえる。

 

『そうだぞ、アリス。君たちはまだ、エクスドライバーじゃぁない』

 

『ソーイチロー』アリスの挑むような声。『わたくしたち、ちゃんとライセンスは持っていてよ?』

 

 確かに、紗理奈とアリスは、エクスドライバーのライセンスを持っている。ただし、

 

『君たちのは「プレ」ライセンスだ。本業のエクスドライバーの監督なしには公道を走っちゃいけないんだぞ』

 

 そう、『エクスドライバー』という言葉の前には、『プレ』という接頭語がつく。まだ教習所(エコール)を卒業していない、ということだった。

 エクスドライバーの中には、プレドライバーライセンスを『仮免許』と呼ぶ人もいるのだと、教習所(エコール)の友人の話を、紗理奈はぼんやりと思い出した。仮免許って、なんだろうか?

 

『あら? いまはソーイチローがいるじゃない』

 

 ソーイチロー、アリスはそう呼ぶが、本名を小早川総一朗という。本職のエクスドライバーだ。短髪に無精ひげをはやし、いつも眠たそうに目を細めて、ひょうひょうとしている人物だ。紗理奈は小早川がやる気に満ち満ちているところを見たことがなかった。

 

 こんな人がエクスドライバーで大丈夫か。そう思ったことも何度もある。

 しかしこうして彼のドライビングを目の当たりにすると、さすがのエクスドライバーだけある。そう感じさせる。

 

『本業は俺ひとり。そして学生を二人も相手にしている俺の身にもなってくれ。いいか、ヘタだけは起こさないでくれよ?』

『学生と言いますけどね、ソーイチロー。わたくしたちは、エコールの中でもエリートの、オーバートップの学生なのよ? 安心なさい』

 

「あの~……」

 

 紗理奈は申し訳なさそうに、アリスと小早川の会話に割り込む。

 

『なんですか?』

『なんだい?』

 

「えーと……」紗理奈はハンドルの向こう、どんどんと離れていく暴走AIカーを見て言った。「離されちゃってますけど……」

 

「あ」と「あら」が同時に紗理奈のインカムに届いた。

 

『アリスは暴走AIカーを抑えてくれ。紗理奈はスモークマインをよろしく。相手は旧式だが、用心するんだぞ』

『あら? 誰に言っているのかしら? それじゃ紗理奈、お気をつけて』

 

 瞬間、アリスのMINIがクンとつんのめたようだった。瞬きぐらいの時間だった。ギアチェンジしたMINIはすぐに速度を増し、暴走AIカーの前に踊りでる。ブレーキランプの点灯が見えた。そのままMINIと暴走AIカーは速度を落としてきた。

 

 紗理奈は慎重に、かつ大胆に暴走AIカーの左側に遷移する。AIカーのGPSを無力化するスモークマインを放り投げ、AIカーが一瞬、煙に包まれるのが見えた。

 ダッシュボードのカンプピストルを手にする。同時にアクセルを踏み、暴走AIカーの少し左前方に出た。タイミングを合わせて、ブレーキ操作でアリスのMINIも暴走AIカーの右前方に遷移する。

 

 二人のカンプピストルが唸るのは同時だった。トリモチのような特殊溶剤が、暴走AIカーの前部センサを無力化する。

 

『ご苦労』

 

 いつの間にか暴走AIカーの後背部に小早川のMG・TFが迫っていた。オープンタイプのガソリンカーの運転席で、ゴーグルをつけた小早川は、素早く後部センサを無力化する。

 

 暴走AIカーのボンネット部につきだしていた一つ目(モノアイ)が、暴走状態を示す赤色から、黄色に変化する。同時に、AIカーの速度も下がっていった。

 紗理奈のBRZはそのままAIカーの前に付き、MINIは右側につく。後背部に張り付いたTFと連携して、AIカーを路肩に誘導した。AIカーは非ドライブセンサからの情報を元に、紗理奈たちに従順に従い、やがて停車した。

 

 紗理奈もBRZを停車させ、急いで降車した。AIカーへ向かう。

 傍らに止まったMINIからアリスが降りると、彼女はそのまま助手席のドアを開き、素早くテディベアのシートベルトを外した。英国国旗を抱くテディベアを両手で抱えて、アリスは小走りにAIカーに向かった。

 

「またダイアナと一緒だったの?」

「ええ。家族ですもの」

 

 AIカーのもとまで来ると、小早川が慣れた手つきで搭乗者をおろしていた。

 

「大丈夫ですか?」と紗理奈たちも小走りに近づく。

 

 搭乗者のおじさんは小早川の肩を借りて外に出ると「ああ……」とそれきりを呟いて、地面に臥せってしまった。

 

 なれない状況に緊張しっぱなしの神経が、ようやく解放された、という感じだった。

 紗理奈は、良かったと安堵すると同時に、AIカーへの嫌悪を強くした。

 

 こんなものがあるから――。紗理奈はその先を、あえて言葉にしないように努力した。

 

 小早川はおじさんの様態を確認するといった。

「お前たちはもう帰っていいぞ」

「いえ、シティポリスが来るまで、わたくしたちもご一緒しますわ」

「結構。学生の本分は勉強だ。早くエコールに帰んな」

 

「でも――」と食い下がるアリスの肩に、紗理奈は手を置いていう。

「そうよ、帰りましょうアリス。それに、ほら、もう三時よ。ティータイムは言いわけ?」

 うぅ……と、一つうなって、アリスは素直にMINIへ戻る。常日頃から、「英国人は午後のティータイムを大事に致しますわ」と講釈をたれているだけあった。

 

 紗理奈もそのあとに続いてBRZに戻っていった。

 


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