問題:異世界転生したのはいいけど、俺の「力」はなんですか? 〜最弱無能として追放された少年が、Sランクパーティーに所属するようです〜 作:鴨山兄助
注文していた魔道具を受け取ったノート達は、シドとルーナに別れを告げてデスマウンテンを下山した。
ライカはカリーナと共に、ノートは魔道具の山を背負いながらの下山となった。
道中のモンスターからも逃げ切り、三人は無事アインスシティの本拠地へと帰還した。
「つ、疲れた……」
重い荷物を下ろして、ようやく一息つくノート。
それを労いに、ドミニクが近づいてきた。
「よう新入り。ご苦労さん」
「ドミニクさん……もっと事前情報はしっかりくださいよー!」
「ハハハ。悪いな、これも修行だ」
「厳しいなぁ」
だが一応、成長に繋がったことは自覚していたノート。
それ以上文句は言わなかった。
一方カリーナはドミニクを見つけた途端、凄まじい勢いで彼に食ってかかった。
「ちょっとドミニク! なんなの今回のお使いは!」
「いい修行になっただろ?」
「なーにがいい修行よ。体のいいタダ働きじゃない!」
「シドには普段から世話になってんだ。少しくらいいいだろ?」
「事前に言いなさいって言ってんの!」
ガミガミと怒るカリーナを、飄々とかわすドミニク。
やっぱりこれはパーティーの日常なのだろうと、ノートはぼんやり考えていた。
「そうだライカ。なんか変わったことは無かったか?」
「ちょっと、まだ話は終わってないんだけど!」
「オメーの話はいちいち長いんだよ。それでライカ、どうだった」
「そうですね〜。洞窟の中で変異トロールが出てきたことと……あとはノート君の魔人体が出たことですね」
「なに?」
ノートの魔人体と聞いて、ドミニクの目の色が変わる。
「おいノート。魔人体が出たのか」
「は、はい。一瞬だけ」
「一瞬でも出たのか……どういう状況でだ?」
ノートとライカは洞窟での戦闘について話始めた。
変異トロールとの戦闘後、別の変異トロールが出現。
ライカ達に襲いかかってきたそれを、ノートが出した魔人体が倒してしまった事。
二人はできる限り詳細に語った。
「なるほど……やっぱり戦いの中で目覚めるのか」
一通りの話を聞き終えたドミニクは、一人で勝手に納得する。
その直後、何かを思いついたようにドミニクはノートの肩を掴んだ。
「おい新入り」
「はい」
「帰ってきて早々なんだが、修行するぞ」
「……はい?」
するとドミニクは凄まじい力で、ノートを引きずっていった。
「ちょ、ドミニクさん! せめて少し休ませて!」
「善は急げだ! さっさとやるぞ!」
「急ぎ過ぎです! 誰か助けて!」
「ごめんなさいノート君。こうなるとドミニクさんは止まりませんです」
「ライカに同じよ。骨は拾ってあげるわ」
ライカとカリーナに見捨てられて、ノートは「殺生なぁぁぁ」と叫びながら本拠地を後にした。
◆
数分後。
ノートとドミニクは街外れの森に来ていた。
マルクとの模擬戦に使った場所でもある。
「それでドミニクさん。修行って何するんですか?」
もはや逃げる事完全に諦めたノート。
せめて修行内容くらいは聞いておきたかった。
「簡単な話だ。模擬戦をするんだよ」
「……それだけですか?」
「疑り深いなぁ、それだけだよ」
それならマルクの時と同じように、できる限りの事をしよう。
ノートがそう考えた瞬間、ドミニクの影が七つに増えた。
「ただしだノート。俺は本気でお前を殺しにいく」
「……へ?」
「アルカナってのは戦いの中で目覚めることが多いらしい」
「あの、ドミニクさん?」
「だからなノート……本気で戦うぞ」
次の瞬間。
七つに増えたドミニク影から、合計七つの棺桶が出現した。
それと同時に、ドミニクの右手の痣も淡く光っている。
「ナンバーⅩⅤ『
棺桶は全て、ドミニクの魔人体であった。
「人型じゃない魔人体……ていうか七つもあるなんてズルくない!?」
「そういう能力者もいるってことだ」
ドミニクが手を挙げると、棺桶の一つが開き、中から一本の剣を取り出した。
「さぁ、始めようか」
開始の合図と共に駆け出し、距離を縮めてくるドミニク。
ノートは咄嗟にスキルを発動して、両手の平を前方に突き出した。
「うわぁ!?」
凄まじいスピードで振り下ろされる剣。
それを上手く弾き返すノート。
その後もドミニクは隙を与えない猛攻を続ける。
「嘘だろ、反動が手に伝わってくる」
剣の衝撃が、スキルを貫通してノートの手に伝わってくる。
今までに無かった経験。それはドミニクという男の強さも表していた。
「(そういえばドミニクさんが例外もあるとか言ってたけど、こういうことだったのか)」
アルカナホルダーでありながら剣技の才能がある。
それがドミニクの言っていた例外だ。
想像以上の強敵を前に、ノートの心が焦りを見せる。
だが次の瞬間、僅かに手の力を緩めたドミニクは、後方に剣を弾き飛ばされてしまった。
「隙ができた!?」
「だと思うか?」
間髪入れずにドミニクの影から棺桶型の魔人体が出現する。
棺桶の蓋が開き、ドミニクは中から槍を取り出した。
「武器変更だ」
「うそー!?」
高速の突きを繰り出してくるドミニク。
まさか槍術まで扱えるとは。
ノートは必死にその動きを読んで、弾き返そうとする。
だが攻撃の速度が早すぎて、ノートは数発掠ってしまった。
「痛ッ!」
薄皮が破け、血が滲む。
それを見てもドミニクは攻撃を続ける。
「いちいち当てにいくのが面倒なら!」
ノートは両手の平に力を込めて、スキルの出力を上げる。
すると有効範囲が広がり、ノートの前半身を覆うほどの反発領域が展開された。
「ほう。そう解決してきたか」
「これなら方向を間違えない限り大丈夫です!」
「ならこっちも手段を変えよう」
ドミニクが槍を捨てると、再び出現する棺桶。
開いたそれからドミニクが取り出したものは、予想外の武器であった。
「ブーメラン?」
「そういうことだ!」
ドミニクは力一杯ブーメランを投擲する。
が、ノートには当たらない。
一瞬油断仕掛けるノートだが、すぐにブーメランの特性を思い出した。
「後ろかッ!」
ターンしてきたブーメランが、背面に襲いかかる。
ノートはすかさず身体を捻り、ブーメランを弾いた。
だがそれすらもドミニクの計算の内。
「背中がお留守だぜ!」
棺桶から新たに取り出した短剣を構えて、ドミニクはノートに襲いかかる。
それに気づいたノートは、右手だけを方向転換し、ドミニクの攻撃を弾いた。
「あっぶねー」
「これを止めたのは上出来だな。だがこんなもんじゃ終わらないぞ」
大きく跳ねて後退するドミニク。
その隣には既に棺桶が出現していた。
「これならどうだ?」
棺桶から取り出したのは二振りの大型ブーメラン。
ドミニクは何の苦も無く、それらを投擲する。
「二つ同時でも!」
距離を見計り、ノートはブーメランに対して手を突き出す。
するとブーメランは、いとも簡単に弾かれて、後方の木へと激突した。
「よし!」
――弾ッ!――
ブーメランを防いで喜ぶのもつかの間。
一発の銃声と共に、ノート頬に痛みが走った。
視界の先には、マスケット銃を構えたドミニクの姿がある。
「珍しいだろ。こういう武器も出せるんだ」
「銃とか嘘だろ!」
驚くノートを気にも留めず、ドミニクは次のマスケット銃を棺桶から取り出す。
すかさず彼はノートに銃口を向けた。
――弾ッ!――
「ヒィ!」
情けない声を上げながら逃げるノート。
必死に走っているおかげで、銃弾にはあたらない。
しかし後方で銃弾が木を抉る音が聞こえてくるので、それがノートの恐怖心を駆り立てた。
「なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ」
しかし妙案は浮かばない。
その間にもドミニクはマスケット銃を次々に召喚しては、ノートに向けて撃ってきた。
「マスケット銃、マスケット銃……そうだ!」
ノートは覚えている限りのマスケット銃に関する知識を引っ張り出す。
マスケット銃は単発式で連射はできない。
ならば広範囲への攻撃は苦手な筈だ。
「木の影に隠れて隙を作って」
ノートは咄嗟に木の影に隠れる。
その間もドミニクの銃撃は続いたが、関係ない。
「マルクさんとの模擬戦でやった技だ」
ノートは地面を弾いて飛翔した後、木々を弾いて森の中を高速移動し始めた。
「ほう、マルクとの時に使ったやつか」
「これなら銃弾も当てにくいはずです!」
「じゃあ武器変更だ」
そう言うとドミニクは手に持っていたマスケット銃を投げ捨て、棺桶型の魔人体を召喚する。
そして彼が次に召喚した武器を見て、ノートは度肝を抜かれた。
「こういう武器は見たことあるか?」
それは円を描くように複数の砲門が並んだ、大型の重火器。
「ガ、ガトリングー!?」
いかにも重そうなガトリングを、ドミニクは軽々と方向転換させる。
そしてためらう事なく、その引き金を引いた。
――弾弾弾弾弾弾ッッッ!!!――
「どわぁぁぁ!?」
弾幕が形成され、跳ぶどころでは無くなったノート。
彼は咄嗟に両手をガトリングに向けて付きだし、その身を守った。
だが代償として、数メートルの高さから落下することとなる。
「ぎゃすッ! 痛ったー」
尻から落ちて痛みに悶えるノート。
だがそこが隙であった。
ノートが我に返った時には、既に大型のブーメランが眼前に迫っていた。
「(あっ、終わった)」
自身の死を確信しつつも、火事場の力で手を前に出す。
その瞬間、ノートの前に巨大な岩の腕が出現した。
――バキン!――
岩の腕によって、大型のブーメランが弾かれてしまう。
それを見たドミニクは嬉しそうに口角を上げた。
「ほう、それがお前の魔人体か」
「また……出た」
自分の身体から出現している岩の腕を注視するノート。
だが今回も、数秒足らずで消えてしまった。
「ノート、今の感覚を忘れるな」
「今の……魔人体が出た感覚」
「そうだ。それを支配して、俺を攻撃してこい」
その言葉を聞いた瞬間、ノートは言い知れぬ恐怖を感じた。
変わる事の恐怖、力を使う事の恐怖、そして人間を攻撃する恐怖。
それらが重なって、ノートに魔人体を使う意志は消し去られた。
「お、俺は……」
「さぁ、続けるぞ!」
ドミニクは棺桶から、今度は刀を取り出した。
刀を構えて、ノートに斬りかかる。
「ッ!」
即座にノートは右手を前に出して、攻撃を弾く。
当然魔人体は出てこない。
一方のドミニクは、ノートから魔人体を引き出そうと攻撃を苛烈化させていった。
「どうした! 防ぐだけじゃ勝負にならないぞ!」
発破をかけようとしてくるが、ノートの心に響かない。
それはそれとして、ドミニクが繰り出す本気の攻撃を受ければ致命傷になる。
結果的にノートは防御に徹するしかなかったのだ。
「(ここは一旦逃げないと)」
完全に恐怖に飲み込まれたノートに、反撃の意思は無かった。
右手は継続して防御に使う、その隙にノートは左手で地面を弾いた。
マルクとの模擬戦でも使った、地表の高速移動である。
「避けたか」
ひとまずドミニクから距離を取れたノート。
このまま止まっていても、銃の的になるだけだ。
とにかく今は錯乱させよう。
そう考えた矢先、ノートの思惑は破られてしまった。
「ッ!? なんだこれ!?」
突如として現れた鎖に、ノートの足が絡めとられる。
鎖を辿って視線を動かすと、蓋の開いた棺桶から鎖が伸びていた。
「拘束用の武器もあるんだよ」
「……冗談じゃない」
ノートは必死にもがいて鎖から逃れようとする。
だがその隙にドミニクは、棺桶から一本の短剣を取り出した。
「終わらせるぞ」
一気に距離を詰めにかかるドミニク。
ノートは短剣から身を護るように手を伸ばそうとするも。
「ッ! 後ろ!?」
風を切る音が耳に入る。
振り返ると、大型のブーメランが近くに迫っていた。
「ブーメラン。いつの間に!?」
距離的にブーメランが来る方が早い。
ノートは咄嗟にブーメランを弾く。
だがその一瞬の隙に、ドミニクに蹴り倒されてしまった。
「チェックメイトだ」
喉元に短剣を突きつけられたノート。
完敗である。
ノートが完全に戦意を失うと同時に、足を縛っていた鎖も消滅した。
「ノート、お前なんで魔人体を出さなかった」
「……それは」
上手く言葉にできなかった。
正直に言ってしまえば、軽蔑されると思ったからだ。
だがドミニクには全て見通されていた。
「何に怖がってるんだ」
「ッ!?」
「戦っている最中も顔を見ていた。お前、魔人体が一瞬出てからずっと何かに怖がっていただろ」
「……俺は」
「ノート、お前は何を怖がっているんだ?」
短剣を消して、問うドミニク。
きっと逃れられない。
観念したノートは、ゆっくりと語り始めた。
「力……」
「は?」
「力を持つ事が、怖いんです」