問題:異世界転生したのはいいけど、俺の「力」はなんですか? 〜最弱無能として追放された少年が、Sランクパーティーに所属するようです〜 作:鴨山兄助
「ライカ、ノート君!」
変異ドラゴンが岩の砲弾を放つと同時に、二人の名を叫ぶカリーナ。
もはや魔法による援護も間に合わない。
絶対に助けられないとカリーナが思ったその時、ノートの背中から黒い靄のかかった像が出現した。
バァン!
瞬間、轟音が広間に鳴り響く。
ノートの背中から出た像。その岩の腕が、変異ドラゴンの攻撃を弾いたのだ。
突然の妨害に、変異ドラゴンですら驚いて動きを止める。
「よかった、無事で」
だがそれ以上に、カリーナは二人の無事を喜んだ。
ノートの背中から出た像は、一向に消える気配がない。
そして、ノート自身の意識も完全に現実へと戻っていた。
ゆらりと立ち上がり、目の前のドラゴンと対峙する。
「カリーナさん。ライカをお願いします」
「お願いしますって、ノート君は!?」
「俺は大丈夫です。信じてください」
堂々と言ってみせるノートに、カリーナは小さく頷いた。
彼女は倒れているライカの元に駆け寄って、治癒魔法をかけ始める。
その間もノートは、恐れることなく変異ドラゴンと向き合っていた。
それが、ドラゴンの怒りを買った。
小さき存在が己を愚弄するなど、許せなかったのだ。
「ギャァァァァァァオォォォォォォ!!!」
今までにない、凄まじい咆哮が鳴り響く。
だがノートは怯まない。
目の前のドラゴンに敗北するビジョンは、既に持ち合わせていなかったのだ。
「カリーナさん、危ないかもしれないんで離れててください」
そう言い残すと、ノートは変異ドラゴンの元へとゆっくり歩み出した。
ドラゴンは更に怒りを覚える。
咆哮と共に、口の中に急速に魔力を溜め込み始めた。
「ノート君!」
「大丈夫です」
完全にノートを狙っている。
それを理解してなお、ノートは大丈夫だと言った。
そして、変異ドラゴンの攻撃が始まる。
口の中に溜め込んだ魔力が岩と化し、砲弾の如くノートに襲い掛かってきた。
この至近距離なら絶対に外れない。誰もがそう思った。
「無駄」
ただしノートを除いて。
ノートの小さな呟きに反応するように、背中から生えている像が、変異ドラゴンの攻撃を殴って軌道を逸らした。
斜め後方に着弾した岩の砲弾が、広間の壁を崩す。
ノートは完全に、魔人体を従えていた。
あの無限に引き延ばされた意識の中で、その性質の一端も理解した。
「(やっぱりコイツは……強くて、重い)」
故にこの「力」は、確実に目の前のドラゴンを倒すことができる。
そう確信させる程の、圧倒的な「力」そのものであった。
そんなノートの思考を知らず、変異ドラゴンは怒りに任せて次の攻撃準備に入る。
口の中に溜まり始める魔力。
だがノートに、その攻撃で誰かを傷つけさせるつもりは毛頭無かった。
思い返す。魔人体の言葉を。
『我が名を呼べ』
それが発動の合図になる。
「お前の……名前は」
チャージを終えたドラゴンがノートに狙いを定める。
それでもノートは怯まない。
「力」を得たのだ。ならばあとは使い方次第。
望むことは、守るための「力」。生きるための「力」。
大切な人と未来に行くために……この「力」を使おう。
変異ドラゴンが岩の砲弾を放つ。
それと同時に、ノートはアルカナの名前を叫んだ。
「ナンバーⅧ『
ノートの魔人体から、黒い靄が消えていく。
シルエットはマッシブな人型。
その身体はゴツゴツとした岩で構成されており。
獅子の頭部をしていた。
『ガオォォォ!!!』
ノートの魔人体が咆哮する。
それと同時に、右手の平を前に突き出した。
「弾き返せ!」
迫り来る岩の砲弾はノートに当たる事無く、一瞬にしてドラゴンの真後ろへと弾き返されてしまった。
ノート自身に反動は来ていない。
それだけで、彼はこのアルカナの強さを実感した気がした。
「これが、ノート君の魔人体」
カリーナはその姿を見て、圧倒的な存在感を感じていた。
それだけではない、彼女の本能が『岩山のように、重く強い』の持つ圧倒的な「力」を感じとっていた。
一方の変異ドラゴンは怒りを覚えた。
小さな存在が「力」を持って自分に歯向かう事が許せなかったのだ。
再び口の中に魔力を溜め始める。
それと同時に、変異ドラゴンは足を大きく踏み込んだ。
地面が揺れ、岩の大槍が生えてくる。
ノートを下から攻撃するつもりなのだ。
だがノートは動じない。冷静に地面にタッチし、バックステップする。
「地面ごと潰れろ!」
ノートの下から岩の大槍が生えようとする。
だがそれが叶う事は無く、ノートのいた場所から生えようとした岩は粉々に砕けてしまう。
それだけではない、生えようとした地面そのものが大きく陥没してしまった。
それを見ていたカリーナ、そして変異ドラゴンは何が起きたか分からなかった。
何故岩が突然砕かれたのか。いや、何故岩が押し潰されてしまったのか。
動揺しつつも、変異ドラゴンは口に溜め込んだ魔力を解放する。
魔力は岩の弾丸と化し、ノートに襲い掛かった。
「潰せ! 『岩山のように、重く強い』!」
『ガオォォォォォォ!!!』
獅子の咆哮が鳴り響く。
ノートの魔人体が勢いよく腕を振り下ろすと、迫り来る岩の弾丸が次々に落下していった。
凄まじい力に押さえつけられて、岩は地面にめり込む。
これがノートのアルカナ『岩山のように、重く強い』の能力。
純粋かつ強力な「力」。重力操作能力である。
この世界に重力を操る存在がいるとは、想像もつかない変異ドラゴン。
動揺し、その動きを止めてしまう。
その隙を逃さんと、ノートは変異ドラゴンの懐目掛けて駆け出した。
「ギャオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
「うぉぉぉ!!!」
慌てて口に魔力を溜め込もうとするドラゴン。
だがチャージが終わるよりも早く、ノートが腹の前に来ていた。
「ぶっ飛べェェェ!!!」
『ガオォォォン!!!』
獅子の咆哮と共に、魔人体の拳が変異ドラゴンの腹に叩きこまれる。
元々の尋常ならざる威力に加えて、重力の向きまで変えて放たれた一撃。
その一撃を受けた変異ドラゴンは、軽々と吹き飛ばされて、広間の奥の壁に叩きつけられてしまった。
壁が砕け、岩の雪崩に埋もれるドラゴン。
それを見届けた後、ノートはカリーナの元へと駆け寄った。
「カリーナさん、ライカは大丈夫ですか」
「大丈夫よ、もう治癒魔法もかけた。それよりノート君は?」
「方が痛いですけど、俺も大丈夫です」
「怪我してるのを大丈夫とは言わないのよ」
そう言ってカリーナはノートに治癒魔法をかけ始める。
カリーナの治療で腕の傷が癒えてきた頃、気絶していたライカが目を覚ました。
「ん……あれ、私」
「ライカ!」
「目を覚ましたのね」
「……はっ、そうです! ドラゴンが!」
「それなら大丈夫よ。ノート君が倒したわ」
「ノート君がですか?」
頭に疑問符を浮かべるライカに、カリーナはノートの後ろを指さす。
そこで初めて、ライカはノートの背中から魔人体が出ている事に気がついた。
「ノート君。それ、魔人体ですか?」
「うん。ライカのおかげで出せるようになったんだ。ライカがいたから、俺は自分の「力」と向き合えた。本当にありがとう」
「そんな、私たいしたことしてないですよ」
「俺がお礼を言いたいだけだよ。帰ったらドミニクさんにもお礼言わなきゃな」
実際、ライカとドミニクのおかげであった。
彼女達が背中を預けさせてくれたおかげで、ノートは「力」と向き合えたのだ。
そして今、目覚めた。
ノートは自分の魔人体を見る。
「……絶対に呑まれたりしない。ライカのためにも、抗ってやる」
そんなノートの決心を見定めるかのように、獅子の顔は此方を見下ろしていた。
その直後であった、後方の岩の山がガラガラと音を立てて崩れ始めたのだ。
岩山から変異ドラゴンが姿を出し始める。
「ちょっと、あれでも死んでなかったの!?」
「カリーナさん、どうしましょう!?」
「ノート君、悪いけどもう一発殴ってくれる? その間にアタシが脱出口を」
「大丈夫。もう手は打ってあります」
眼を見開くカリーナとライカ。
ノートは淡々と岩山がら這い出る変異ドラゴンを見ていた。
「ノート君、どうするですか?」
「あのドラゴンを倒す。それからダンジョンを出る」
「倒すって、あのドラゴンすっごく強いですよ」
「大丈夫。俺のアルカナなら、きっとできる」
心配するライカの頭を軽く撫でると、ノートはそう言い残して変異ドラゴンへと歩み寄った。
憎い相手が向こうから寄って来た。
変異ドラゴンは翼を羽ばたかせ、岩を払い落とす。
その眼には凄まじい怒りが燃えており、変異ドラゴンは間髪入れずノートに向かって駆け出した。
「ギャオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!」
「潰せ! 『岩山のように、重く強い』!」
――怒轟ォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!――
凄まじい轟音が広間に鳴り響く。
ノートに向かって駆け出していた筈の変異ドラゴンは、その動きを完全に止めている。
何が起こったのか、ノート以外の誰もが一瞬理解できなかった。
「ギャ、ギャオ」
変異ドラゴンの身体は、完全に地面にめり込んでいた。
どれだけ力を入れても、身体が動かない。
凄まじい重量を押し付けられて、身動きを封じられているかのようであった。
「口と足を封じ込めば、お前はもう攻撃できない筈だ」
ノートが変異ドラゴンに語り掛ける。
実際、変異ドラゴンは完全に封じ込められていた。
口が開かない。足が動かない。
攻撃が出来ない。
どれだけ怒りを燃やそうとも、上からかかる強大な重さに抗えない。
「抵抗しても無駄だ。俺の『岩山のように、重く強い』は、お前の周りの重力を操っている。この世界のルールで生きている以上、お前も重力には逆らえない」
だがもはや、怒り狂った変異ドラゴンには届いていない。
変異ドラゴンは必死に動こうとするが、重力がそれを阻む。
早く終わらせよう。
ノートは自分の魔人体に指示を出した。
「止めを刺せ! 『岩山のように、重く強い』!」
『ガオォォォン!』
ノートの指示を受けた魔人体が、押し潰されている変異ドラゴンの首と胴体を掴む。
「ギャァァァオ!」
悲鳴を上げようとする変異ドラゴン。
だがそんな事はお構いなしだ。
魔人体は力任せに、身動きが取れない変異ドラゴンの首を引っ張る。
『ガァァァァァァオォォォォォォン!!!』
凄まじい咆哮。
それと同時に、ブチィィィンと肉が千切れる音がする。
ノートの魔人体が持つ、圧倒的な腕力によって、変異ドラゴンの首は完全に引き千切られた。
魔人体が絶命した変異ドラゴンを手放す。
重量のある首と胴体が、何も言わずに地面に落ちた。
「はぁ、はぁ……倒しました」
肩で息をしながら、ノートは振り向く。
そこには唖然とした表情のカリーナとライカがいた。
「すっご」
「すごいのです」
褒められ慣れていないノートは、顔を赤くして頬をかくばかりだった。
「と、とりあえずボスモンスターを倒したことだし、皆で帰ろう」
「そうですね。ノート君もお疲れ様なのです」
「俺はライカの方が心配だけどなぁ、怪我してたし」
「へっちゃらです」
もう邪魔する存在はいない。
岩出塞がれた出入り口は、カリーナが魔法でこじ開けた。
「二人共、早く帰るわよー!」
「「はーい」」
これで任務完了だ。仲間達の元に帰ろう。
魔人体に変異ドラゴンの死体を運ばせながら、ノートはダンジョンを後にするのだった。