問題:異世界転生したのはいいけど、俺の「力」はなんですか? 〜最弱無能として追放された少年が、Sランクパーティーに所属するようです〜   作:鴨山兄助

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第一章エピローグ。


第三十話:異世界転生も悪くない

 魔人体が覚醒した翌日。

 ノートは本拠地の庭で、観察されていた。

 

「タイスさん、いつまで座ってればいいんですか?」

「魔人体のスケッチが終わるまでよ」

「早くしてくださーい」

「ノート君、頑張ってくださいです」

 

 魔人体を出しながらぼやくノート。

 長らく空白であった八番のアルカナという事を聞いて、タイスの学者魂に火がついたのだ。

 ノートは椅子に座ったまま魔人体を出して、タイスのスケッチに付き合わされている。

 ちなみにライカはただの見学だ。

 

「なるほど、顔以外はおおよそ岩で出来ているのね……岩を剥がせないのかしら?」

「やめてください! なんか不安になります!」

「タイスさん、無茶はダメですよ!」

「二人共、冗談よ」

「本当ですか?」

「(絶対半分本気だった)」

 

 そんなやり取りをしつつ、十分程でスケッチは終わった。

 ノートはやっと動けると肩を動かす。

 

「ノート君、お疲れさまなのです」

「じゃあノート君、今度は能力の説明をして頂戴」

「えぇ、またですか!?」

「メモしてなかったのよ。ほら説明して」

 

 ノートは渋々地面に図解を書いて、重力について説明をした。

 

「重力。なるほど、万物は上から下にいくというのは面白い概念ね」

「私には難しくて、よくわからないのです」

「まぁ実際難しいと思うよ。で、俺はその上から下にかかる力を操ることができるんです」

「それは、強力ね……ところでノート君、一つ質問いいかしら?」

「なんですか?」

「ノート君は初めに使っていた弾く能力。この重力を操る力と関連性がないように見えるのだけど」

「言われてみれば……そうなのですか?」

「あぁ、そのことですか」

 

 ノートは再び図解して説明をした。

 

「結局の所、俺の能力の本質って重力を操ることなんですよ」

「それはさっき聞いたわ」

「人間が上に飛び跳ねても空へは行かず、地面に落とされますよね」

「そうですね」

「弾く能力は、本当は弾いていたんじゃないと思うんです」

「どういうこと?」

 

 ノートは更に地面に図を書く。

 

「あの能力は要するに重力の向きを変えてたんですよ。上から下に落ちる力を横に向ける。そうすることで疑似的に弾いているように見えたんだと思います」

 

 つまり横に向かう強い重力が、攻撃を跳ね返す。

 それが弾いているように見えていたのだ。

 マルクとの模擬戦で木にくっついたのもこれの応用だ。

 手に向かうように重力の向きを変えていただけなのだ。

 

 ノートの説明で理解したタイスは「なるほど」と納得する。

 ライカは頭から煙を噴いていた。

 

「三人ともー! 何やってんのー?」

 

 声がした方へと振り向くと、カリーナがいた。

 

「あらカリーナ。ちょっとね」

「タイスさんがノート君の魔人体をスケッチしてたです」

「あぁ、恒例の」

「恒例なんですか?」

「ライカとドミニクもやられたわよ」

 

 どうりでライカが助けてくれない筈だ。

 ノートは少し恨めしそうにライカを見る。

 

「ラーイーカー?」

「あうぅ、ごめんなさいなのです」

 

 舌を少し出して謝るライカ。

 ノートは不覚にも可愛いと思ってしまった。

 

「ところでカリーナは? 洗濯?」

「えぇ。今日はいい天気だから、よく乾くわよ」

 

 カリーナに言われてノートは気がついた。

 なるほど、爽やかな青空が広がっている。

 

「二人共タイスの用事が終わったら、こっちも手伝ってよ」

「じゃあ私は今すぐに!」

「あぁ、俺も俺も!」

 

 タイスから逃げるように、洗濯の手伝いに行くノート。

 流石に少し疲れていたのだ。

 そんなドタバタをしていると、庭に二人の男がやって来た。

 

「なんだ、全員ここにいたのか」

「ヒャーハー! 俺らを仲間外れにするたーいい度胸じゃねーか!」

 

 眠そうなドミニクと、不機嫌そうなマルクであった。

 カリーナはドミニクを見るや、彼を睨みつける。

 

「ドミニク、アンタ今何時だと思ってるの?」

「ご機嫌な昼下がりだな」

「もう昼下がりだっつってんの! アンタも少しは家事を手伝いなさい!」

「えぇ、俺リーダーだぞ」

「リーダーなら率先してやれ!」

 

 洗濯物を置いて、ドミニクを追いかけ始めるカリーナ。

 ドミニクは飄々とした様子で逃げ始めた。

 そんな彼らの日常を見て、ノートは少し笑みが零れる。

 

「もう、ドミニクさんは」

「……ノート君、少し変わりました?」

 

 突然ライカにそんな事を言われて、ノートは心臓が一瞬高鳴る。

 

「えっ、なんで?」

「少し顔つきが変わった気がするです」

「そんなにだらしない顔だった?」

「違います」

 

 するとライカは、満面の笑みを浮かべてこう言った。

 

「ノート君、今すっごく綺麗な笑顔してます」

 

 そう言われて初めて、ノートは気がついた。

 自分が自然と笑顔になっている事に。

 

「そっか……そっか」

 

 ノートは自分の変化を、容易に受け入れることができた。

 変わる事は恐怖する事ではない。

 もしも道を間違えてしまっても、仲間が叱ってくれる。

 その幸せに気がついたノートの心は、生き生きとしたものであった。

 

「おーいノート! カリーナを止めてくれー!」

「だめです! 自分でなんとかしてくださーい!」

 

 ニシシと笑うノート。

 彼は隣にいるライカを見て、ある事を告げた。

 

「ライカって夢はある?」

「夢ですか?」

「そう。俺は特に無いんだ。今までずっと、夢なんか持とうって思えなかったから」

 

 それは、生きることに必死だったから。

 だけど今は違う。

 

「俺、夢を探したいんだ。このパーティーで、この仲間達の中で、自分の夢を探したい」

「ノート君」

「だからさ、すごく勝手なお願いなんだけど……ライカにも頼んでいいかな?」

「何をです?」

「俺の夢を探すの、そのお手伝いってやつ」

 

 はにかみながら、ノートは手を差し出す。

 ライカは迷う事なく、その手をとった。

 

「はい、喜んでです」

 

 握手をする。ライカの手は温かく、優しさに溢れている気がした。

 

「あっ、カリーナさんが魔法使い始めた」

「ひゃあ! 流石に止めないとマズいのです!」

 

 ライカは大急ぎでカリーナを止めに行く。

 ノートはそんな彼女の背中を見ながら、今ある幸せを噛み締めていた。

 

 自分を受け入れてくれる仲間がいる。

 自分を信じてくれる人たちがいる。

 何気ない日常を享受できる。

 

 それは、十四年拗らせてきた考えを変えるのに、十分な要素であった。

 

 あぁ、本当に……

 

「(異世界転生も、悪くない)」

 

 未来を生きよう。

 夢を探そう。

 この世界で、仲間達と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

【第二章に続く】




第一章はここまでとなります。
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第二章は書き溜め等をするために、しばらくお時間いただきます。
どうかお待ちくださいませ。

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