トウカイテイオー視点
ボクたちトレセン学園のウマ娘といえど、ずっと走っているわけじゃない。ちゃんと授業を受けてお昼には友達とご飯を食べて放課後には遊びにいったり。
レースやトレーニングがない時は結構皆自由に年頃の女の子として過ごしているんだ。
だから、ボクの目の前で行われている光景は女の子にはあまりにも酷だと思う。
「え!?マックイーンさんはお食べにならない!?あのマックイーンさんが!?」
「え、ええ。レースも近いことですし、体重の管理はメジロのウマ娘とし徹底しなくては」
「そう、じゃあウマ娘じゃない僕は関係ないね」
「そうですが……」
「つまり好きなだけこのイチゴパフェを食べても問題ないわけだ」
「お、お好きにすればよろしいかと」
「もちろん」
ひ、ひどい。ボクは自分の顔が引きつるのを自覚した。
スイーツと甘いものが大好きなマックイーンの目の間で見せつけるようにあんな生クリームonイチゴon生クリームなパフェを見せつけるように食べるなんて。
パフェをいやらしいほどゆっくりと掬ったマックイーンに似た銀髪で頭に妙なトンガリが付いてる男の名は『左門召介』。なんとあれでマックイーンのトレーナーなのだ。
左門召介がやっていることは断じてトレーナーが担当ウマ娘にやっていい行為ではないはずだ。恥ずかしくないのかな?
それに、ああ、口では強気なことをいったマックイーンだけど目がパフェに食いついて離れない!
目の間で左門召介の口に運ばれていくスプーンを仇を見るような目で見てる!?
さすがにライバルのあんまりな姿にボクは立ち上がって二人が座っているテーブルに向かうことにした。
「ちょっと!もう見てらんないよ!」
「ん?ああまた君かトウカイテイオー、まったく何の用だい?見ての通り僕たちは忙しいんだけど」
「見ての通り!?ボクには物欲しげな顔したマックイーンをイジメてるようにしか見えなかったけど!?」
「ちょっと!私はそんな顔していません!」
何取り繕ってんのさ、もう手遅れだと思うんだけど。
「まぁまぁ、何か話があるんだろ?ほらケーキでも食べながら話そうよ」
そう言って左門召介はボクの前のテーブルにいちごのショートケーキを置いた。
わー、美味しそう、ちょうど甘いものが食べたい気分だったんだよねぇ。
左門召介が執事みたいに椅子を引いてくれる、こういう仕草がやけに似あうんだよねこの人。さて何処から食べようか、やっぱり一番上のいちごからかな?
「ってあぶなーい!」
「ちっ」
危うくいじめの片棒を担がされるところだった。
マックイーンを見れば裏切られた顔をしている……のかな?ショックで俯いてるのか目線がケーキに向いてるのか分かんないや。
「これだよ!糖質制限をしてるマックイーンの前で甘いもの食べるのやめてあげなよ!」
僕は新たに出てきたケーキを指さして言う。
「はぁ、わかったよトウカイテイオー」
そう言って左門召介は食べ終わったパフェの器をテーブルの端に寄せた。
よかった、いくらライバルでもこれ以上は忍びないからね。
「おかわりを」
「承知」
カス虫―――!!!
信じらんない!近くに来ていた食堂の人を呼び寄せたと思ったらおかわり頼んだ!空いた器片付けてもらうのかな?て思ったらとんでもない裏切りだよ!
「あれマックイーンさんは頼まなくてもいいのかな?」
「ですから!私は!……私は……」
マックイーンが揺らいでるー!!?
ちらちらとメニュー表を見るマックイーンは既に決壊しそうだった。
そんなマックイーンを見つめて呆れたように左門召介はため息をつくと指を鳴らした。
「ベヒモス」
途端に像のような外見をした生物が左門召介の隣に現れた。
ベヒモスは『暴食を司る悪魔』で彼の指先から発射されるビームに当たると強烈な食欲を抑えられなくなるという権能を持っている。
「せっこ!!せこい!そうまでしてマックイーンに食べさせたいの!?仮にもトレーナーならマックイーンを応援するべきなんじゃないの!?」
「うるせーー!!!そもそも僕はそんな食事制限出してない!いけベヒモス!二度と体重計に乗れないようにしてしまえ!」
「キミってひとはどこまでカスなの!」
ああ!ベヒモスが手を振り上げた!ビームが打たれるもうおしまいだ!きっとマックイーンはこれから飯ロマックイーンとして生きていくんだぁ。
ボクが絶望する中、
ベヒモスはゆっくりと大きなパフェをマックイーンの前に置いた。
「まさかの物理!?」
マックイーンの前に置かれたパフェはお店とかで作ってもらう多くのお客に振舞うことが前提の画一的なパフェじゃなくて、超一流のパティシエがコンテストで優勝するために創り上げたような奇麗で美味しそうなパフェだった。
星のように散りばめられたフルーツとチョコの中心に太陽か地球もしかしたら銀河を表すようにアイスクリームが鎮座している、芸術を思わせるパフェ。
ボクもちょっと見たことがない。
「素敵……」
さすがのマックイーンも感動したみたいで、
「こんな素敵なものを出されては食べないわけにはいきませんわね」
なんて目をキラキラさせていた。ベヒモスも自信ありげにしている。
いいなー、僕にもちょっとくれないかな?
そんな風に思っていると食堂の人がパフェを持ってきた。あ、そういえばさっきカス虫がおかわり頼んだんだっけ。
「お待たせしました」
だけど、テーブルはベヒモスのパフェとボクの前にあるケーキ、パフェの空いた器にマックイーンの紅茶といっぱいで置く場所が無くて困っちゃったみたい。
「ああ、ありがとう」
そこで頼んだ張本人である左門召介が腕を伸ばして受け取ろうとしたところ裾がテーブルの隅に引っかかった。
そこからは全てがスローモーションに見えた。
浮き上がるテーブル、バランスを崩すベヒモスのパフェ、揺れる紅茶。
ボクの意識が一倍速に戻った時、カランカランという嫌な音が食堂に響いていた。
慌てて下を見ると宇宙にアイスクリームという太陽を作り上げたかのようだったパフェはされどここが重力空間であることを知らしめるように床に墜落していた。
かといって上が無事というわけでもなく、テーブルはカップからこぼれた紅茶がマックイーンの前を濡らしていた。
「カ……」
「いや、わざとじゃないんだ、すぐに食堂のひとに布巾を持ってきてもらおう」
「カ……カ…」
「それに?ベヒモスはここにいるんだから、もう一回作ることなんてわけないさ、ね?ベヒモス?」
静かに首を振るベヒモス。確かにあれほどの物をもう一度と言うのは難しいと思う、それにボクにはこころなしかベヒモスが怒ってるように思える。しかし、それ以上にマックイーンから立ち昇る気は異常だった。
「わかったよ、マックイーンさん僕の負けだ、もう今日は帰ることにするよ」
「カス虫ぃ―――!!!」
「うわぁーー!!マックイーンがキれたぁ!!」
体力雑魚のカス虫がウマ娘のマックイーンに勝てるわけもなくそのままどこかに引きずられていった。もう会うことはないと思う。
評価があれば続くかも