DAWN   作:地球の星

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10. 水汲み

 翔が手術を受ける当日、この日はアリエッティが住んでいる場所にも雨が降った。

 その間、彼女は両親と共に引越しで運んできた荷物を整理していた。

 本来ならこれは昨日のうちに済ませる予定だったが、一家が次のような状態だっため、結果的に今日に順延となってしまった。

 

『あなた、すまないねえ…。私が引越しの疲れから高熱を出してしまって…。』

『気にするな。無事に新しい家に着いただけでもいいじゃないか。』

『それにしても今日も暑いわねえ…。せめて冷たい水でも手に入ればいいのに…。』

『まだ水が簡単に手に入る状態ではないから不便をかけるが、今日ばかりは何とか辛抱してくれ。これから私が工夫して何とかする。』

『あと、私がせめて何か調理をすることが出来たら…。』

『持ってきた食料がまだ残っているし、スピラーが食べられる木の実を持ってきてくれたから大丈夫だ。』

『はい…。』

 ホミリーはぐったりと横になったまま、弱々しい声でポッドと会話をしていた。

 ポッドは内心では水が自由に手に入らない悔しさを抱えながらも、懸命に妻を励まし続けた。

 一方、アリエッティは熱こそ出してはいなかったものの、疲れが抜けず、しかも暑さのために完全に夏バテの状態だった。

 しかも持ってきた水をゴクゴク飲むわけにもいかないため、のどの渇きとも闘っていた。

(暑い…。早くこの夏が終わって秋になってくれないものかしら…。)

 普段なら外に出歩くことが好きな彼女でも、さすがにこの時ばかりは外出する気にはなれなかった。

 この日はただ壁にもたれたまま、じっと時間が過ぎるのを待ち続けていた。

 出来れば昼寝でもしたかったが、やはり暑さでなかなか寝付けなかった。

 

 そんな猛暑日となった昨日とは打って変わり、今日は雨のために幾分気温が下がり、過ごしやすくなった。

 ポッドと疲れが抜けたアリエッティは比較的涼しい午前中のうちに荷物整理に励んだ。

 ホミリーは熱こそ下がったものの猛暑と熱帯夜の影響で寝付けず、未だにだるさが抜けていなかったため、少ししか作業に貢献出来なかった。

 それは彼女にとっては悔しいことだった。

 しかしせめて翔が用意してくれた角砂糖と残り少ない水を使ってシソジュースを作り、何とかポッドとアリエッティのために役立とうとしていた。

 

 作業は昼ご飯時までには何とか一段落した。

 3人は次から次へと流れてくる汗をふき取り、別々の場所で服を着替えた。

 そしてみんなで一緒に昼ご飯を食べた。

 食後にはホミリーが午前中のうちに作っておいたシソジュースをみんなで飲んだ。

「おいしいっ!」

「さすがホミリー。疲れが一気に吹き飛ぶようだ。」

 アリエッティとポッドは一口ずつ味わいながらゆっくりと飲んだ。

「そうかしら?でもそう言ってくれてうれしいわ!」

 ホミリーもそう言いながらじっくりと味わって飲んだ。

「引っ越す前に翔に会いに行ってよかった。」

「それはどういうことよ、アリエッティ!」

「だってお母さん。このシソジュースを作るのに使った角砂糖は翔が用意してくれた物なんだもの。」

「それはそうだけれど、よりによって人間に感謝をするなんて!」

「私は素直に感謝しているわよ。」

「アリエッティ!」

 ホミリーは叱るような口調で言い放った。

「まあいいじゃないか。今回ばかりは人間の優しさを素直に受け止めることにしよう。」

「でもあなた…。」

「長い人生、こんな時があってもいいじゃないか。」

「…はい…。」

 ポッドもアリエッティの気持ちを支持する側になったことで、結局ホミリーもしぶしぶながら翔に感謝をすることにした。

(翔、ありがとう。あなたのおかげでおいしいシソジュースを飲むことが出来たわ。)

 アリエッティはポッドとホミリーの会話を聞きながら、まるでテレパシーを送るかのように心の中で翔にお礼を言った。

 

 シソジュースを飲み終わり、ホミリーが片付けをし始めた頃、ポッドは外の天気を気にして家の外に出ていった。

 数分後、彼は明るい表情で戻ってきた。

「あなた、外はどうなっていますか?」

「もう晴れている。そして葉に雨粒がたくさんついている。」

「それじゃ、今なら飲み水や家事用に使うための水を確保しに行けそうですね。」

「うむ。」

「それじゃ、私が集めてくる!」

 かたわらにいたアリエッティは、両親に向かってやる気満々に名乗り出た。

「アリエッティ。その気持ちはうれしいけれど、慣れない土地では下手に外に出たら危ないわよ。」

「平気よ。私だって家族の役に立ちたいんだもん!」

「でも、外には危険がいっぱいよ。」

「大丈夫だって!」

 ホミリーは相変わらずの心配性ぶりを発揮していたが、アリエッティは引き下がらなかった。

「あなた、どうしましょう…?」

「いいだろう。行ってこい。」

 ポッドはきりっとした表情で即答した。

「ありがとう、お父さん!」

「…じゃあ、お願いするわね。」

 ホミリーは心の中では相変わらず心配をしていたが、最終的には娘を信じることにした。

 一方のアリエッティはうれしそうに自分の部屋に行くと、早速普段着から赤いワンピースに着替えた。

 そして部屋の片隅に置いてあったまち針を腰に差した。

 服装はちょうど古い屋敷で「借り」に出かけた時と同じだった。

 唯一違う点は髪飾りがあるかないかだった。

 部屋の外ではポッドが自分で加工したバケツを二つ手に持って立っていた。隣には夏バテで相変わらず疲れた表情をしているホミリーがいた。

「それじゃ、頼んだぞ。」

 ポッドはそう言うと、バケツを差し出してきた。

 アリエッティは張り切りながらそれを受け取った。

「ありがとう。私、がんばってきます!」

「それじゃお願いするわ。水が手に入る時にたくさん確保しておきたいから何回も水汲みに行くことになるけれど、任せましたよ。」

「はいっ!それじゃ行ってきます!」

 アリエッティはさっきよりも張り切って母親に返した。そして元気な足取りで倉庫の隙間から外に出ていった。

 

 彼女は早速近くに生えている草の葉についた水滴をバケツに入れた。

 大体3~4滴を入れたところで一つのバケツはいっぱいになった。

 そしてあっという間に両方を水で満たした。

「よし。まずは幸先よく水が手に入ったわね!」

 彼女はうれしそうに言うと振り返り、すぐに家に戻った。

 家では両親が水をためておく入れ物をいくつも用意して待っていてくれた。

「お帰り、アリエッティ!!」

「まずはうまく出来たな。」

 ホミリーとポッドはバケツから入れ物に水を移しながらそう言ってくれた。

「うん!この調子でがんばるわよ!」

「それじゃ、この後もお願いね。」

「無理はするなよ。疲れたらいつでも交代していいんだぞ。」

「大丈夫よ!私一人で最後までやるわ!」

「それからあまり遠くまで単独行動はするなよ。まだ慣れない土地だ。何が出てくるか分からないからな。」

「はい。気をつけて行ってきます。」

 アリエッティは両親に向かってはっきりとした口調で言うと、はずむ足取りでまた外に出ていった。

 

 しかしこの後、彼女の身に思わぬことが…。

 

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