DAWN   作:地球の星

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13. 家族っていいな

 俺、スピラー。持っている弓で「狩り」をしながら生活をしている小人だ。

 家族はいない。時々出会う小人と協力することもあるが、基本的に一人で生き抜いている。

 寂しくないのかって?うーん…、どうだろう?そもそも寂しさって何だ?

 俺、ずっと一人で生き抜いてきたからなあ…。

 まあいいや。

 さて、いきなり話を戻すけれど、俺は以前ポッドという小人のおじさんに出会って引越しの相談に乗った。

 そしておじさんがけがをしてしまった時には一緒に家に連れてったりもした。

 その時、俺はそこでかわいい女の子に出会った。

「ありがとう。」とお礼を言われた時には思わず顔を赤くしてしまいそうになった。

 名前は確か、アリエッティって言っていたっけな。

 

 そして2日前に、俺は彼女と両親を連れて新しい家に案内をした。

 途中、ヘビに出くわしたりもしたが、俺の手にかかれば朝飯前だった。

 俺はアリエッティ一家の引越し作業が一段落すると、すかさずヘビのところに戻ってきた。

 そして刺さっていた矢を抜くと、ナイフを取り出して食べられそうなサイズに切っていった。

「さてっと、早速一口。」

 俺は味見(毒見?)をするようにしながら肉をかじってみた。

「んーー、生肉だけれど味はまあまあかな。まあコオロギの足みたいにうまいというわけではないけれど、とりあえずは食べるのに支障はなさそうだ。とにかく食える時に食っとこ。食べ物が手に入らずに空腹と闘った時もあるし。」

 俺はその後、肉を刻んではこれでもかと言わんばかりにむさぼるように食べまくった。

 

 結局俺は腹八分目を通り越し、腹に入るだけかき込んだ。

「ぷはあ…。食った食った…。もう食えねえ…。」

 すでに腹はパンパンに膨らんでいたけれど、それでも食べられる部分はたくさん残っていた。

 どうやら捕らえた獲物があまりにも大きすぎたようだった。

 どうしようかなあ…。アリエッティにおすそ分けしたいところだけれど、多分「いらない。」って言いながら後ずさりしそうだし…。

 こうなったら仲間を探して獲物を仕留めたということを伝えるしかないかな。

 今年の夏は異様に暑いせいで、食べ物が手に入らずに困っている小人がたくさんいるだろうし。

 俺はそう考えると、早速仲間のいそうなところに走っていった。

 

 その日の夜、俺は仲間達から「でかした!」とばかりに大歓迎を受けた。

 俺は一躍英雄のような気分になり、とてもうれしかった。

 いやあ、仕留めてよかった。

 出来ればこの喜びをアリエッティにも伝えたい。

 そう思った俺は仲間達からの歓迎の儀式が終わった後、彼女の家に向かっていった。

 だが、おじさんに「アリエッティはすでにぐっすりと眠っているので起こさないでくれ。」

 と言われて、家に入れてくれなかったため、伝えることは出来ずじまいだった。

 

 それから2日後、つまり今日、俺は仲間の小人からの伝言を別の小人に伝えるために森を飛び回っていた。

 その役割が終わった後、俺は暇つぶしをかねてアリエッティの様子を見にいこうと思った。

 同じ小人とはいえ、彼女は生活様式が全然違う。

 多分、戦闘とは無縁な、弱肉強食という言葉が当てはまらない生活をしてきたはずだ。

 腰にまち針を差しているとはいえ、俺から見たら戦闘能力は決して高いとは言えない。だからもし外で獣にでも出くわしたら、たちまちやられてしまうかもしれない。

 そう思うと、俺はいつしか彼女を守りたいと思うようになってきた。

 

 俺は身につけているモグラの毛皮を使って、森の中をムササビのように飛びながら移動した。

 木の上に着地をすると幹をのぼっていき、高い枝の上からまた飛んでいった。

 それを繰り返しながら、俺はまた木の上にのぼっていった。

 ふと前方を見ると何やら動く物体が見えた。

(はて、何だろう?)

 俺は不思議に思い、枝の上からじっとその方角を見た。

 その物体は赤くて、その両脇には何か光るものが揺れていた。

(もうちょっと近くまで行ってみよう。ここじゃよく分からないからな。)

 俺はまたムササビのように滑空をして別の木の幹にたどり着いた。

 そして近くの枝の上に立ち、その物体を見た。

 赤く見えたものは服だった。そして両脇に見えたものはバケツだった。

 あれは小人の後ろ姿だ。その小人は茶色い髪の毛を揺らしながら森の中を歩いていた。

 間違いない。あの小人はアリエッティだ。

 バケツを持っているということは水を運んでいるのだろうか。

 いや、森の中を歩いているのだから木の実なんかを集めているのだろうか。

(ちょっと声をかけてみようかな?)

 俺は最初、そんな気楽な気持ちで考えていた。

 しかし次第に彼女の様子がおかしいと思うようになってきた。

 さっきから少し歩いては立ち止まり、あたりをキョロキョロ見渡している。どうやらかなり不安そうだ。

 すでにかなり疲れているのだろう。その足取りは重かった。

 もしかして道に迷ったのか?

(どうしようか?木から降りて道を教えた方がいいのか?)

 俺は何をすればいいのか迷った。

 しかし偶然にも家のある方向に歩いていた。

 彼女自身はまだそれに気付いていないかもしれない。でもこのまま行けばもうすぐ家にたどり着けるはずだ。

 いざとなったら道を教えるつもりだったが、この調子ならそこまでしなくてもよさそうだ。

 俺はほっと一息つくと、次に飛び移る木を探した。

 その時、左の方から何か動いているのが見えた。

(何だ、あれは?)

 俺はさっきアリエッティを見かけた時と同じようにじっとその物体を見つめた。

 あれは…、野ネズミだ。

 しかもアリエッティのいる方角に向かっている!

 まずい!このままでは野ネズミと対峙してしまう!

 ただでさえネズミは小人にとって厄介な存在だ。

 俺でもまともに戦ったら勝てる保障はない。

 矢がうまく当たればいいのだが、もしも外したら「スキあり!」とばかりに餌食にされてしまうかもしれない。

 まして彼女が戦ったら一体どうなるのだろうか?もしかしたら俺は大変な光景を目撃してしまうかもしれない。

「よおし!」

 俺はそう言うととっさに弓を取り出し、素早く野ネズミめがけてしびれ薬の塗ってある矢を放った。

 矢は見事に背中に命中した。

 間もなく野ネズミの動きは鈍くなり始めた。薬が効き始めたようだ。

 よし、そのまま止まれ!

 早く止まれ!

 このままだとアリエッティと鉢合わせだぞ!止まれよオイ!

 俺は口には出さないものの、うるさく心の中で叫び続けた。

 野ネズミはそのまま小さな茂みの中に入っていき、一瞬姿が見えなくなった。

 そして茂みから半分体を出したところでやっと止まった。

 よかった、止まった。…って、アリエッティが鉢合わせしちゃったよ!!

 ちょっと間に合わなかったか…。

 俺は野ネズミに遭遇し、わなわなと震えている彼女を見て、途端に悔しさがこみ上げてきた。

 

 それからしばらくの間、アリエッティは動けない野ネズミとじっとにらめっこしていた。

 もしかして頭が真っ白になったのだろうか。それともじっと様子をうかがっているのだろうか。

 どうする?戦うのか?それとも?

 彼女が何を考えているのか、この後どういう行動をとろうとしているのかは俺にも予想出来なかった。

 正直、見ている俺までも緊張していた。

 

 だが、やがてアリエッティも野ネズミが動けずにいることに気付いたのだろう。手の震えがいつしか止まった。

 どうやら冷静さを取り戻したようだ。

 彼女は2、3歩程後ずさりをすると、次の瞬間全速力で走り始めた。

 結局彼女の選んだ決断は「逃げる」だった。

 やっぱりアリエッティは俺とは違って、戦いを好まない小人なんだなと思った。

 俺は彼女の姿が見えなくなった後、下に降りて動けない野ネズミのところに行って、刺さっていた矢を抜いた。

 そして再び木にのぼっていくと、再び滑空しながら彼女の後を追いかけていった。

 余談だが、野ネズミは殺さずにおくことにした。

 もし食料に困っている状態ならば仕留めただろうが、今はヘビの肉がある。だからしばらくの間食料に困ることはない。

 それに俺だって無駄な殺生はしたくはない。

 多分20分もすれば薬の効き目が切れて、また元通りに動けるようになるだろう。

 

 アリエッティの後を追いかけていった俺は、柿の木の枝に飛び乗って様子を見ることにした。

 彼女はまだ何かに追われているかのように一生懸命走りながら、家に向かっていった。

 家の前では帰りを心配していたおじさんとおばさんがいた。

「ただいま…。」

 アリエッティは立ち止まってそう言うと、緊張から開放されて力が抜けたのか、バケツを持ったままその場にへたり込んでしまった。

 それを見ておじさんとおばさんはアリエッティの前に駆け寄ってきた。

「お帰り!よく帰ってきたわね!」

「無事でよかった。」

「はい…。でも、水が…。」

 彼女は空っぽのままのバケツを見せながら涙ぐみそうな声で言った。水を手に入れられずに帰ってきたことを申し訳なく思っているようだった。

「気にするな。心配したが、無事でよかった。」

「怖い思いをしたようね。でももう大丈夫よ。」

「はい…。」

 アリエッティはバケツを落とすようにその場に置くと、とうとう泣き出してしまった。

 よほど怖かったのだろう。そして水を持って帰れなかったことを悔やんでいるのだろう。

 それを見て、おじさんとおばさんは彼女のもとに歩み寄った。

「心配かけてごめんなさい…。」

「いいんだ。元気で帰ってきてくれただけで充分だ。」

「早速お茶を入れるわね。飲めば元気が出るわよ。」

 彼らは優しい言葉でアリエッティを励ましながら一つずつバケツを持ち、彼女を抱えるようにして一緒に家の中に入っていった。

 その劇的な光景を見て、俺までも感動してしまった。

 

 3人の姿が見えなくなった後、俺は家族がいるアリエッティのことが何だかうらやましくなってきた。

 思えば俺は家族というものを知らないまま、これまで一人で野性的に過ごしてきた。

 でも、あの光景を見て、家族っていいもんだなと思うようになってきた。

 彼女を助けたとはいえ、このタイミングでしゃしゃり出ていくのも変だから、今日はこのまま立ち去っていくけれど、たまにはあの家族にお世話になってもいいかな?

 俺がおじさんを助けた時にはアリエッティに「また遊びに来てね。」と言われたし。

 それに食事も勧められたし。

 彼女とまた会話もしてみたいし。

 今頃、アリエッティは何をしているのかな?

 おじさんかおばさんの胸元で泣いているのかな?

 お茶を飲みながら、水汲みのことを色々話しているのかな?

 それとも野ネズミと鉢合わせしたことを話しているのかな?

 まさか俺のおかげで助かったなんて夢にも考えていないだろうけれど…。

 俺はそんなことを考えながら、ムササビのように滑空しながら空を飛んでいき、再び森の中へと入っていった。

 

 家族っていいな。

 俺もあの家族に入れてもらえないかな…。

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