DAWN   作:地球の星

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19. お帰り

 俺はニーヤ。貞子っていう老人の女性に飼われていて、古い大きな屋敷に住んでいる猫だ。

 無愛想な顔をしているが、まあ気にしないでくれ。こんな俺にも感情くらいはあるんだぞ。

 デブ猫?それは言うな。失礼だぞ。

 さて、今日俺はえさを食べ終えた後、涼しいうちに外を歩き回ってきた。

 俺にとっては体を鍛える意味でいい運動になっているので、これからも続けていこうと思っている。

 家に帰ってきた後は日陰に入り、セミの声や鳥達の鳴き声、さらには風の音や木の葉の音を聞きながらごろごろしていた。

 その間、またカラスが邪魔してきやしないかと思ったりもしたが、結果的にそれは杞憂だったようだ。

 

 木陰に入ってから30分くらいたっただろうか。ふと屋敷の敷地内に一台の車が入ってきた。

 確かあれは貞子という人が所有しているものだ。

 まあ、俺はしょっちゅう見ているから、別に珍しいことでもないのだがな。

 でもよく見ると、もう一人の人間が乗っている。

 誰なのかまではよく確認出来ないが、どうやら男の子のようだ。

(誰だろう?)

 俺は立ち上がって車の方に向かっていった。

 車はやがて止まり、エンジン音も切れた。

 貞子は助手席に乗っている人に何か話しかけると、運転席のドアを開けて、車内から出てきた。

 それに続いて助手席のドアも開き、中から人が出てきた。

(あ、あれは…!!)

 俺は目を見張ってその人を見つめた。

 あれは、翔!翔じゃねえか!

 俺は一瞬夢じゃないかと思い、目を疑った。

 それでも、何度確かめてみてもやっぱり翔だった。

(余談だが、もし俺が人間だったら、こんな時ほっぺたをつねって「痛~い!夢じゃな~い!」とか何とか言っていただろう。)

 お前、無事だったのか!帰ってこられたのか!

 手術、乗り越えたんだな!元気になったんだな!

 俺の心には驚きと同時に喜びがこみ上げてきた。

 そして、足早に彼の元に歩み寄っていった。

 彼もまたすぐに俺に気がついた。そして門を通って中に入ってきた。

「あっ、ニーヤ。ただいま。」

 翔の表情は本当に晴れやかだった。

 それは大きな試練を乗り越えた者だけが見せることの出来る表情だった。

「僕、帰ってきたよ。手術も無事に成功したし、これからは病気を気にせずに生きていけるよ。」

 翔はそう言うとその場に座り、そっと両手を伸ばしてきた。

 俺がその手の上に乗っかるように飛び込んでいくと、彼は俺をしっかりと抱え込んで持ち上げた。

 そして翔の胸元で俺は再会を心から喜んだ。

 この時俺が感じたうれしさは、本当に言葉では表現出来ないようなものだった。

 詳しく説明出来なくて悪いが、このうれしさは決して忘れないだろう。

(あえて言うならば、テレビ番組の涙のご対面コーナーで、感動の再会を果たした時のような感じだろう。)

 屋敷の玄関前では、貞子が「よかったですね。」とでも言っているような、晴れやかな表情でこちらを見つめていた。

 彼女は何かを取りに行こうとしたのか、そのまま玄関の扉を開けて中に入っていった。

 

 しばらくして翔は俺を降ろすと、ゆっくりと通風孔のところに向かって歩き出した。

(そうか。アリエッティにあいさつをするんだな。)

 俺はそう思い、一緒についていくことにした。

 予想通り、翔は通風孔の前で立ち止まり、その場にしゃがみこんだ。

 そしてポケットから大切そうに何かを取り出した。

 それはティッシュで包まれていて、彼はそれを左手の上に乗せながら右手で開いていった。

 やがて中から出てきたものはアリエッティの髪飾りだった。

「アリエッティ、ただいま。君がこれをくれたおかげで元気になったよ。ありがとう。」

 彼はとてもすがすがしい表情でそう言った。しかしその表情はすぐに何か憂うつそうなものに変わった。

「お前、何でそんな顔するんだ?」

 俺は不思議に思い、翔に問いかけた。ただ、翔には「ニャー、ニャー?」と聞こえただけで、伝わっていなかったのだがな。

「あのね、アリエッティ。僕、出来ればこの髪飾りを君に返したいんだ。実は入院中にこの髪飾りのことが原因でちょっとした騒動が起きちゃって…。」

「ニャー?ニャー?(ちょっとした騒動?一体何があったんだ?)」

 俺が翔に問いかけると、彼は病院で起こったいきさつを色々話し出した。

 もちろん、俺の質問に答えたわけではないだろうがな。

 彼は手術の時に髪飾りをお守りとして大切に持っていたこと。

 手術が終わって意識を取り戻した後も、大切に持ち続けていたこと。

 その後、驚異的な回復を見せたこと。

 それと引き換えに髪飾りのことが病院の中でちょっとした評判になってしまったこと。

 母親に再会出来たこと。

 昨日の朝、病院の屋上でアリエッティのことをじっと思い出していたこと。

 病室に戻った時にあやうく髪飾りが他人に取られそうになったこと。

 そして一日だけ病院に外出の許可をもらって、今日ここに来たことを話してくれた。

(なるほど。その髪飾りが他の人達に狙われるようになってしまったのか。そりゃ返したくもなるだろうな。)

 俺は彼が憂うつそうな表情をした理由を知り、納得した。

 翔は寂しそうな声で

「でも、返せるわけないよね…。だってもう君はここにはいないんだから…。」

 と言った後、じっと通風孔の中を見つめていた。

 彼の表情には、もう二度と会えないかもしれない小人の少女への切ない想いと、自分ではどうすることも出来ない無念さがあふれていた。

 

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