DAWN   作:地球の星

21 / 23
21. RUN

 俺はニーヤ。貞子っていう老人の女性に飼われていて、古い大きな屋敷に住んでいる猫だ。

 無愛想な顔をしているが、まあ気にしないでくれ。こんな俺にも感情くらいはあるんだぞ。

 デブ猫?それは言うな。失礼だぞ。

 さて、翔が通風孔に向かって語りかけてから30分後、俺は夏の日差しが降り注ぐ中を走り続けていた。

 何故かって?それは翔が通風孔に向かって

『でも、返せるわけないよね…。だってもう君はここにはいないんだから…。』

 と言った後、下記のようなことがあったからだ。

 

 

 あれからしばらくして、家の中から「翔さん、どこにいますか?」という貞子の声がした。

「はい、ここです。」

 翔は返事をすると立ち上がり、テラスに出てきた彼女を見た。

「翔さん、今日の夕方にはまた病院に戻らなければなりませんが、何か持っていくものはありますか?」

「いえ、特にないです。」

「自宅には戻らなくていいですか?」

「大丈夫です。今日はニーヤともう一度一緒に過ごしたかったので。」

「そうですか。分かりました。でもニーヤは最近よく遠出するようになったので、あまり一緒にいられないかもしれませんが、いいですか?」

「えっ?どうしてですか?」

「理由は私にも分かりませんが、よく外出するんですよ。朝出ていったきり、夕方までずっと帰ってこないこともあるし。今日もこれから外出をするかもしれませんよ。」

「そうなんですか。でも大丈夫です。いずれにしてもここに戻ってくることは当分の間ないかもしれないので、ここでゆっくり過ごします。」

「分かりました。」

 貞子は会話が済むと、奥の方に去っていった。

 

 翔は貞子の姿が見えなくなると、再び座った。

 そして何か確認するような表情で「ニーヤ、遠出するって、もしや?」と言った。

 ニーヤは「ニャー(そういうことだ)。」と言ってうなずいた。

 すると翔も何かピンと来るものがあったのだろう。その場でこっくりとうなずいた。

 そして彼はすぐに玄関に行ってくつを脱ぎ、走るような足取りで二階の自分の部屋に向かっていった。

 

 それから10分くらいしただろうか。翔は手に何かを持って降りてきた。

 それは手ぬぐいと折りたたまれた2枚のティッシュペーパーだった。

「ニーヤ、お待たせ。早速だけれどお願いしてもいいかな?」

 彼はそう言うと、何かをくるんでいるティッシュペーパーを手ぬぐいの中に入れてしゃがみこんだ。

「ニャー(いいぜ)。」

 ニーヤは喜んで了解するような感じで返事をした。

 すると翔は手に持っている手ぬぐいをニーヤの首筋にかけてくれた。

 そして後頭部付近で両端の部分をぎゅっと結んだ。

「じゃあ、頼んだよ。」

 彼は優しい声で言った。

「ニャー(まかしとけ)。」

 ニーヤは自信に満ちた声で応えた。

 そして30℃近い気温の中を全力で走り出した。

 行き先はもちろん、あの場所だった。

 

 

 というわけだ。ところで、あの場所ってどこかって?

 決まっているだろう。翔にお願いされた場所だ。

 付け加えて言えば、あのにっくきカラスの案内で行った場所だ。

 あのカラスに感謝はしたくねえが、まあいいとしよう。

 とにかくアリエッティの居場所が分かったというだけあって、あの日、帰り道を行く俺の表情はすがすがしかった。

 しかし、屋敷に戻ってきた頃にはもうバテバテだった。

(さすがにこの距離を往復すると体力的にきついな。これからは体を鍛えておかなければいけないな。)

 俺はゼイゼイ息をしながらそう思った。

 屋敷では俺がいないことを心配していた貞子が「ニーヤー!?」と叫びながら、あちこちを探し回っていた。

 

 

 それから俺は毎日のように出かけては体を動かし続けた。

 貞子が「最近、ニーヤはしばしば遠出するようになった。」と言っていたのはそういうわけだ。

 そのおかげで今では結構体力に自信がついた。

 正直、今の体力なら古い屋敷とアリエッティの家を往復しても大丈夫だろう。

 だからこそ、俺は今日、アリエッティに髪飾りを返したいという翔の願いを聞き入れることにした。

 彼から物を受け取った俺は今、この暑さの中をがんばって走り続けている。

 目指す先はもちろんアリエッティの家だ。

 そして翔から頼まれたものを彼女に渡した後、翔が病院に戻る前に再び屋敷に戻る。

 これが俺の役割だった。

 うまくいくかは俺にも分からない。

 でもやれることはやらなければ。

 俺はそう考えながら、夏の日差しが降り注ぐ中を走り続けていた。

 

 それにしても、アリエッティに会ったら何を言おう?

 未だに何を言えばいいのか分からないままだ。

 まあ、今回は「翔がこれを渡してくれ。」って言っていたと言えば何とかなるだろうが。

 それ以前に、アリエッティは家にいるのだろうか?

 留守だったらどうしよう?

 翔は今日しかあの屋敷にいられないのだから、チャンスは一度だけだ。

 もし会えずに、この荷物を持って帰る羽目になったら、翔に何て言おう。

「ごめん、会えなかった。」

 と言うしかないのだろうか。

 そうなったら嫌だな。だが、アリエッティの家に行ってみなければ分からん。

 とにかく今は全力で走れ!38度5分の体温。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。