そのため、アリエッティ ⇒ 私、ホミリー ⇒ お母さん、ポッド ⇒ お父さんという記述になっています(スピラーはそのまま)。
第3話、第4話の主語が三人称なので、それに合わせようとは思いましたが、結局一人称で発表することにしました。
ヘビとの戦いが終わった後、私達一行は再び歩き始めた。
スピラーが一度も相手の攻撃を受けることなくヘビを倒したことで、どんなもんだと言わんばかりにとても誇らしげな表情をしていた。
一方、私は複雑な気持ちを抱えたまま歩いていた。
(ヘビはもう戦意を喪失していたはずよ。何もあんなことまでしなくても良かったのに…。)
私はスピラーに何度も言いたくなった。
そのため、直接スピラーに感謝の言葉を言う気にはなれなかった。
しかし彼のおかげで私達は助かったのだから、せめて心の中では感謝をすることにした。
お母さんはと言うと、せっかく野イチゴで元気を取り戻したのに、ヘビを見て腰を抜かしてしまったせいでまともに歩くこともままならない状況だった。
そのため、お父さんに抱えられながら何とか一歩ずつ前に進んでいる状況だった。
「あなた、本当にすまないねえ…。」
お母さんは足を引っ張ってばかりで、とても申し訳なさそうだった。
「気にするな。色々あったから無理もないだろう。だがもうすぐ家に着くからあと少しだけ辛抱してくれ。」
「はい…。」
「それからアリエッティ。」
「何?お父さん。」
「さっきから表情が暗いぞ。」
「えっ?そ、そんなことは…。」
「確かにあのヘビはかわいそうだったが、そんなに深刻に考えるな。もう済んだことだ。」
「……。」
私は何を言えばいいのか分からず、少しうつむきながら黙っていた。
「お前には想像出来なかったかもしれんが、スピラーはあのようなやり方で今まで生きてきたんだ。」
「ああ。俺、今までずっと獲物をしとめてそれを食料にしてきた。」
スピラーは全く動揺する気配もなく、平然と言い切った。
「それじゃ、あのヘビも食料にするの?」
私は半信半疑で問いかけてみた。
「ああ。この荷物を運び終えたらヘビのところに行って、切り刻んで食料にする。食べきれない分は仲間を呼んで分けるか、干して携帯用食料にする。あと皮も骨も内臓も、使える部分は色々利用する。」
私にとっては気持ち悪くなりそうな内容だったが、スピラーはやっぱり平然と言い切っていた。
私自身は経験したこともないけれど、これが野生的な暮らしなのだろう。
後に私は自然界で生きる動物達は獲物になりそうな動物と戦い、勝てばその獲物を食べて生き延び、負ければ肉になる。
そういう弱肉強食の世界で生きているということをお父さんから聞かされた。
その時、そこには借りぐらしとは違う大変さ、過酷さがそこにはあるんだと私は思った。
それから間もなく、前方に一軒の家が見えてきた。
「お父さん、あの家?」
「ああ。正確に言えば倉庫だが、あそこが新しい家だ。」
お父さんは指差しながら教えてくれた。
それを聞いて、疲労困ぱいだった私はやっと着くんだと、少しうれしくなった。
倉庫の左側には斜面に柿や栗の木が何本も生えていて、そこから先は雑木林となっていた。
一方、右側には稲がたくさん育っている田んぼがいくつもあり、一角だけ色々な作物が植えられている畑があった。
「お父さん、あの建物には人間が住んでいるの?」
「スピラーらの話では普段は無人だそうだ。田植えや稲刈り、さらには畑の作物を一度に収穫する時に、昼間の時間だけ来るそうだ。」
「それじゃ、早朝や夜の時間なら安心して『借り』に行けるわね。」
「そうだな。だがこれからはわらについている稲穂や、畑で間引きの対象となる若い芽などが主な食料になる。パンやビスケット、角砂糖などは入手しにくくなるが、それは覚悟してくれ。」
「近くに民家はないの?」
「少し離れたところまで行けばあるが、途中で人間やカマキリ、タヌキなどに出くわすと面倒なことになる。出来れば下手に行かない方がいいだろうな。」
「そうなの…。」
お父さんは他にも、建物に電気自体は通じているが、自分達が住む場所に電気を引くためには配線を加工しなければならないことや、ガスボンベがないため、ガスが使えないことも教えてくれた。
確かに食事や快適性などでいくつか不便なことはありそうだったが、私はそれらをしっかりと受け止める覚悟を決めた。
やがて倉庫が目の前まで迫ってきた。
建物の右横の部分には雨よけのひさしがあって、その下には一台の一輪車が置かれていた。
私達は入り口として使えそうな隙間から中に入った。
内部では広い空間の中に見慣れない機械類(後で知ったことですが、田植え機やコンバイン、草刈り機と言うそうです。)やカマ、のこぎり、軍手といった道具があった。
「お父さん。私達が住む場所はどこ?」
「あの奥にござやマットなどが並んでいるだろう。」
「はい。」
「あの裏の部分だ。そこから床板を外して下に降りられる。あそこまで行けばひとまず引越しは終了だ。」
「分かりました。」
すでに疲れきっていた私達は残された体力を振り絞るようにしてその場所に向かった。
(ただし、スピラーはまだ充分に余力があるようだった。)
そしてみんなで協力して床板を外し、下に降りていった。
「はあ~、やっと着いた…。」
最初に降り立った私は着いた途端に全身の力が抜け、その場にへたり込んだ。
そしてハンカチを取り出し、顔中にあふれ出てきた汗を拭いた。
「私も…、もう限界…。」
お父さんに抱えられて歩いていたお母さんもついに力尽き、その場に崩れ落ちた。
「2人とも本当にご苦労だった。よくがんばってくれたな。」
お父さんは私達に優しく言ってくれた。その優しさが私の心には深く染みわたった。
「みんなバテバテなんだな。俺、まだ余裕。」
スピラーはまるで自分の体力を自慢しているかのように言ってきた。
「だってしょうがないじゃない!私は女の子だし、あなたとは育ちも違うんだから!」
「ふうん。まあいいや。それより俺はこれからあのヘビのところに行く。アリエッティもヘビの肉食うか?」
「い、いらないわよ。」
私はコオロギの足を差し出された時のような言い方で断った。
「ふうん、ならいいや。それじゃ、俺、行く。」
「では気をつけてな。それから引越しの手伝い、ご苦労だった。ありがとう。」
「ああ。おじさん達も気をつけて。」
スピラーはお父さんと短い会話を交わした後、勢いよく上に昇っていき、一目散に走っていった。
あんなに重い荷物を持って、しかも暑い中を歩いて、それでもまだあんな体力があるなんて…。
私は彼の底なしの体力にただただ驚いていた。そして彼がうらやましくなった。
そう思いながら、私は大きなあくびを一つすると、ぐったりとその場に横になった。
そしてまだ午前中にもかかわらず、眠気が襲ってきた。
この時お母さんはすでに私の近くですっかり眠りに落ちていた。
後で知ったことだけれど、お父さんはそんな私とお母さんのためにマットの端の部分を切って掛け布団を作り、熟睡している私達にかぶせてくれた。
私はそんなお父さんの優しさがたまらなくうれしかった。