DAWN   作:地球の星

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7. 入院

 病院に向かう途中、翔はいよいよ手術を受けるんだという不安に襲われるようになった。

 アリエッティのおかげで生きる勇気が湧いてきたとはいえ、やっぱり怖かった。

 髪飾りを握っている右手は震え始めた。

 いや、右手だけではない。左手も足も震え始めた。

(アリエッティ。こんなこと言うのも何だけれど、僕は本音を言えば手術なんて受けたくない。もしかしたら元気になれるかもしれないけれど、失敗したら死ぬかもしれないんだ。やっぱり怖いよ…。アリエッティ…。どうか僕を守ってくれ…。)

 そう思いながら彼はしっかりと握っていた右手を開き、すがるような気持ちで髪飾りをじっと見つめた。

 その時、車が赤信号で止まったため、貞子は翔の方を見た。

「翔さん、怖いのですか?」

「は、はい…。でも、もう後戻りすることも出来ないですから、勇気を出して手術を受けます。」

「そうですか。ところで、その手に持っている物は何ですか?」

 貞子はアリエッティの髪飾りに気がついた。

「これですか?これは…、小人用の道具です。お守りになればと思って持ってきました。」

 翔はドキッとし、少しあわてたような口調で返した。

「そうですか。あなたのお守りなんですね。」

「はい。」

「それがあなたに幸運をもたらしてくれるといいですね。」

「はい。僕もそう信じています。」

 二人が話をしていると信号は青になった。

 貞子は会話を終わらせるとアクセルを踏み、車を発進させた。

 

 やがて車は桜の木々が並んでいて、もみじやクスノキなどがたくさん植わっている坂道にさしかかった。

 木の葉の隙間からは太陽の光が差し込んでいた。

 それはまるで何かが高速でピカピカと輝いているようだった。

 坂道を過ぎると、木々の隙間から病院が現れ、続いて大きな駐車場が姿を現した。

 すでにたくさんの車が停まっていて、夏の日差しをたくさん浴びていた。

 病院の正面付近はすでに満車状態になっていた。

 貞子は駐車場に入るとしばらくの間走り回った。

 そしてもうすぐ日陰になりそうな空きスペースをを見つけた。

「それでは翔さん、ここに車を止めます。病院の入り口まで50メートルほど歩くことになりますが、よろしいですか?」

「はい。いいですよ。」

 それを聞いて貞子は車を一旦止め、ギアをRに入れてバックしながら車を駐車していった。

 車が停車すると翔は手に持っていた髪飾りをしまい、車を降りた。

 病院の中に入ると、受付の人は担当の人を呼んでくれた。

 しばらくすると白衣を着た女性看護師さんが来て立ち止まった。

「こんにちは。あなたの担当をさせていただきます、看護師の岡谷(おかや)と申します。」

「はじめまして。翔と申します。こちらはおば様の貞子さんです。よろしくお願いします。」

「はじめまして。貞子と申します。これから翔をよろしくお願いします。」

「分かりました。」

 二人は岡谷さんとあいさつを交わした後、彼女の後を一緒についていくことになった。

 そして6階までエレベーターで上がり、602号室と書かれた病室の前まで来た。

「それではこちらが翔さんの病室になります。個室ですのでゆっくり出来ると思います。」

「はい。ありがとうございます。」

 翔は深々とお辞儀をした。

「付き添いの方はどうなさいますか?」

「出来れば面会時間が終わるまで付き添いたいのですが、よろしいですか?」

「いいですよ。かしこまりました。」

 岡谷さんはそう言うと病室のドアを開けてくれた。

 翔と貞子は中に入ると振り返り、あいさつをした。

「ではゆっくり過ごしてください。」

 岡谷さんはそう言うとドアを閉め、自分の持ち場に戻っていった。

 

 翔は気持ちを落ち着けると、持っていた荷物からパジャマを取り出し、着替える準備を始めた。

 その途中、服の中にしまっていたアリエッティの髪飾りが顔をのぞかせた。

 貞子はそれに気づくと、興味深そうな表情を浮かべた。

「その洗濯ばさみ、本当に翔さんの大切なものなんですね。」

「はい。もしも小人の女の子に会えたらこれをプレゼント出来ればと思って。あの屋敷に小人にプレゼントしようとした家があるように。」

「そうなんですか。思えばあの家に確かに小人が住んでいたような形跡がありましたし、あなたも小人の存在を信じているんですね。」

「はい。一度その姿を見ることが出来たらうれしいです。」

「私もですよ。そうなったらぜひとも私達の手であの家をプレゼントしたいですね。」

「そうですね。でもおば様。一つ約束したいことがあるのですが、いいですか?」

「何ですか?」

「小人がいるかもしれないということは、ハルさんも含めて誰にも話さないという決まりにしてくれませんか?」

「何故ですか?」

「もし他の人に話して、その人が小人を捕まえたり、さらし者にしたりするようなことがあっては嫌だからです。小人にもきっと家族がいるはずですから。」

「それもそうですね。たとえ小さくても命の重さは同じでしょうからね。」

 貞子は納得したように答えた。

 翔はパジャマに着替え終わると、アリエッティの髪飾りをかばんの中に大切にしまい、ベッドに座った。

 

 その後、二人は色々な会話を楽しんでいた。

 話が一段落すると、彼らは他の病室を訪れることにした。そして入院している他の患者さん達に自己紹介をしてまわった。

 入院している人達は年老いた老人や、病気で入院した9~10歳くらいの男の子など様々だった。

 翔はあまり会話に参加しなかったため、黙っていることが多かったが、それでも雰囲気にはなじめたようだった。

 

 二人が患者さん達と色々話をしていくうちに時は流れていき、やがて夜になった。

 そして夜8時になり、面会時間終了の時間になった。

「翔さん、一人で寂しいかもしれませんが、どうか前向きな気持ちを失わないでくださいね。」

 貞子は内心では心配しながらも、笑顔を浮かべてそう言った。

「はい。分かりました。」

「それでは今日はこれで失礼します。」

 貞子は扉をそっと閉めて立ち去っていった。

 一人になった翔は、その後病室から一歩も出ようとせず、ただアリエッティの髪飾りをじっと見つめていた。

 そして(僕を守ってくれ。)と何度も何度も願い続けていた。

 

 手術開始まで、あと40時間…。

 

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