三大始祖に転生したのでトレーナーになって推しをハスハスする 作:九龍城砦
バイアリータークはトレーナーである。
今のところはアグネスデジタル専属のトレーナーとして辣腕を振るってはいるが、そんな彼女にも悩みがあった。
他人に話せば、贅沢な悩みだな、と言われること確定な、それはもう大きな悩みが。
「うーん……むむむ」
トレーナー室にて、何らかの書類を前に唸り声を上げるバイアリーターク。
その書類には、何人かのウマ娘の名前が書き連ねられていた。
「何故でしょう……何故、彼女たちにはトレーナーが付かないのか……不思議です」
その書類に書かれているウマ娘達は、実力があるのにトレーナーが付いていない、いわゆるフリーのウマ娘という者たちだった。
確かに、トレセン学園に所属しているトレーナーの数は、ウマ娘の数に対して絶対的に不足している。
全員が全員、マンツーマンで指導を受けられる程に恵まれた環境でないのは確かだろう。
しかし、それにしたってこれは多すぎる。
チームを作って複数人のウマ娘の指導を行っている人も居るには居るが、それでもまだまだ足りていないと言うことだ。
「私もチームとか、作るべきなんですかねー」
もうそろそろ、アグネスデジタルとパートナーになってから3年が経つ。
残すところ、アグネスデジタルが出走を決めているレースは東京大賞典と有馬記念の2つのみ。URAファイナルズもあるにはあるが、あれはちょっと特殊なレース体系なので除外しておくものとする。
それらが終われば、ひとまずは大きな山場は超えたと言ってもいいだろう。
これからもバイアリータークがアグネスデジタルのトレーナーであり続ける事は変わらないが、少しは余裕ができる筈だ。
「ま、何はともあれ、デジタルさんに聞いてみないことには始まりませんね」
手元に置いたホットコーヒーをグイッと飲み干し、バイアリータークは椅子から立ち上がった。
⭐⭐⭐
「チーム、ですか?」
放課後、トレーナー室にて。
記録したウマ娘カップリング映像を垂れ流しながら、バイアリータークとアグネスデジタルは向かい合いながら話をしている最中だった。
今日のメニューは、オードブルにグラエル、スープにタキカフェ、魚料理にキンカワ、肉料理にルドテイ、メインにウラライス、サラダにミホライ、デザートにフラウンス、ドリンクにゴルマクというメニューになっている。お前は?トリコ。
「そうなんですよ。私もそろそろそういうのに挑戦した方が良いのかなーと。あ、もちろんデジタルさんのトレーニングが最優先ではありますが」
トレーナーとして、ウマ娘の意思を尊重するのは当然のこと。そもそも、二兎を追う者は一兎をも得ずと言うように、今すぐにもう一人をスカウトする訳ではない。
ただ、ゆくゆくはトレーナーも付かず、デビューもしていない──そんなウマ娘を一人でも減らせればいいなという、トレーナーとして当たり前の理想を持っているだけなのである。
そんなバイアリータークの提案を受けて、アグネスデジタルは少しだけ思案した後、おもむろにシリアスな表情になって顔を上げた。
「それは……このトレーナー室に他のウマ娘ちゃんが来るということですか!?」
「そういう事になりますね!」
バイアリータークのトレーナー室はここ一つなわけだから、チームを組めば当然、他のウマ娘もこのトレーナー室を訪れるだろう。
ただ、その当たり前の事実がアグネスデジタルにとっては死活問題だった。
「かっ、かかか、神たるウマ娘ちゃんと一緒の部屋でミーティング……? 他のウマ娘ちゃんが座ったソファーに私も一緒に座る……? むっ、ムリムリムリですっ! 耐えられる自信がありません!」
ズザザッ、と壁際まで後退して、首を振りながら否定の意を示すアグネスデジタル。
しかし、そこはバイアリーターク。長年アグネスデジタルのトレーナーをしている訳ではない。
「大丈夫です、デジタルさん! レースに出るようになって、他のウマ娘ちゃんと話すのにも随分慣れたじゃないですか! 今さらそんな事を気にする必要なんてありませんよ!」
「で、でも……」
いつも以上に弱気なアグネスデジタル。まるで昔に戻ってしまったようだと、バイアリータークはそんな雰囲気を感じていた。
「教室で一緒に授業を受けたり、レースで一緒に走ったりするのとは違うんですよ! 神々しいウマ娘ちゃんと個室で一対一なんて……し、心臓が耐えられません!」
「安心してください、デジタルさん! ボクも居ますから!」
「そっ、そういう問題じゃないんです〜っ!」
要するに、アグネスデジタルが言いたいのは他のウマ娘と一緒の個室に入るなんて尊みがマジヤバイ、という事である。
そんなアグネスデジタルの気持ちはよく分かる。
ぶっちゃけ、バイアリータークも転生してから即刻トレセン学園に来ていたら、アグネスデジタルと同じ性格になっていただろう。
しかし、だからこそ、バイアリータークはアグネスデジタルの背中を推してあげることができる。
「そういう問題です! いいですか、デジタルさん! 他のウマ娘ちゃんを独り占めする事は、罪ではありません!」
「!!!」
「他ならぬ、ボクを見てみてください! 3年という長い期間に渡り、アグネスデジタルという最高のウマ娘を独り占めしてしまっています!」
「ふぇっ!?」
「ですので、デジタルさんの観点から言えば、ボクはとても罪深い罪人ということになってしまいます! なので、どうかボクを助けると思って、その考えを改めてはくれませんか!」
ジッと、アグネスデジタルを正面から見つめるバイアリーターク。その瞳は真剣そのものであり、いかに彼女がチーム結成について真剣に考えているのかよく分かる。
(チーム結成したらデジタルさんと他のウマ娘ちゃんとの絡みがより多く見られるかもしれません。なんというか、デビューしてからこっちずっとボクと一緒だったせいでデジタルさんが他のウマ娘ちゃんと絡んでる写真が少ないんですよね。あぁ、これはウマ娘コレクターとして由々しき事態。デジタルさんにはもっと同年代のウマ娘ちゃんと絡んで欲しいんですよね。こんな年増とではなく、もっとみずみずしくアオハルしていてもらいたい。そして是非、その幸せそうなご尊顔をボクの脳内メモリーに収めさせてくださいお願いします)
なお、その真剣になっている理由というのも、やはりというか変態的なものであったが。
「うぅ……で、でもぉ……」
バイアリータークの説得を受けても、アグネスデジタルの考えは変わってくれないようだった。
「………………」
「………………」
沈黙が二人の間を支配する。
目の前を真剣に見つめるバイアリータークと、その視線から必死に目を逸らすアグネスデジタル。
その膠着状態は数分の間続き、バイアリータークがはぁ、と息を吐き出したことで終わりを迎えた。
「分かりました。チームの話は当分の間ナシにしておきましょう」
「え……」
「ボクの担当はデジタルさんです。そのデジタルさんが本気で嫌だというのに、強行してチームを作るなんてことは、ボクにはできません」
トレーナーは担当ウマ娘の健康とコンディションを第一に考えるべきお仕事だ。もちろん、トレーナーの都合で担当ウマ娘にストレスを与えるなど言語道断。
故に、バイアリータークは──皆神トレーナーは身を引いた。アグネスデジタルが本気で嫌がることは、絶対にしないと言って身を引いた。
「さて、そうと決まればウマ娘ちゃんウォッチングに出かけましょうか! 最近プールにちょうどいい隠密スポットを見つけたんですよ!」
「あ……」
「ん、どうしましたかデジタルさん! 早く行きましょう!」
いつもの双眼鏡と一眼レフカメラを取り出し、準備は万端。椅子から腰を上げ、部屋の出口に立ってアグネスデジタルを待つ。
「……そ、そうですね! 行きましょう! 今日も推しウマ娘ちゃんの尊いお姿をこの目に焼き付けるのです!」
「その意気ですよデジタルさん! さぁ、今日も張り切っていきましょう!」
同じく椅子から立ち上がり、いつも通りなハイテンション具合でバイアリータークの下へと駆けていく。
アグネスデジタルは気づかない。どうしてチームを組むのが嫌だと思ったのか。
アグネスデジタルは気づかない。本当に嫌な理由はあれだけだったのか。
アグネスデジタルは気づかない──ふりをしている。
⭐️⭐️⭐️
まぁ、それはそれとして。
「絶好のポジションです! ここからなら、色々なウマ娘ちゃんたちのカップリングが見れますね! さすが師匠です!」
「ふふん! そうでしょうそうでしょう! デジタルさんにならわかってもらえると信じていましたとも!」
ウマ娘ウォッチングする際には、もういつものテンションに戻っていたアグネスデジタルなのであった。
プール全体を見下ろせる、二階部分に空いた小窓。その外側──つまり屋根の上──に立って、二人はプールの中を覗き込む。
「さーて、今日のターゲットは……ムムッ!」
「どうしました、デジタルさん……ハッ、あれは!」
双眼鏡を覗いて、ターゲットを品定めする二人。その最中、目に止まったカップリングは。
「ハーッハッハッハ! あぁ、今日も美しいボク! 水に濡れて、ますます輝きが増してしまったようだね!!」
「ブクブクブク…………ぷはぁっ、ビート板落としてましたよぉ〜オペラオーさ〜ん! へぶぅっ!?」
「おっと、すまないねドト──大丈夫かい!?」
テイエムオペラオーと、メイショウドトウ。トゥインクルシリーズにてアグネスデジタルと競い合った事もある、ライバルとも呼べる存在だ。
本人に話せば、ライバルなんて畏れ多い、と即刻否定するであろうが。
「テイエムオペラオーちゃんとメイショウドトウちゃんですか……これまたレベルの高いカップリングですね」
「どうしますか、師匠」
「無論──突撃、です!」
シュバッ、と一眼レフカメラをターゲットたちに向ける。
そのまま音速でシャッターを切り、二人の尊い姿をカメラに収めていく。
「大丈夫かい、ドトウ!? 顔面から床に突っ込んだように見えたが!?」
「ふぐぅ〜……だ、大丈夫ですぅ〜……!」
おそらく、テイエムオペラオーにビート板を渡すため、濡れているプールサイドで走った事が原因であろう。
トゥインクルシリーズでデビューして、立派な走りをするようになったとはいえ、こういう部分は変わっていないメイショウドトウなのであった。
「あぁ、鼻血が出ているじゃないか! 誰か、救急車を呼んでくれたまえ!」
「そ、そんな大袈裟にしなくて大丈夫ですよぉ。しばらくすれば止まりますからぁ」
メイショウドトウの身体を抱き寄せ、仰向けにしながら救急車を手配するテイエムオペラオー。
本人が言うように、流石に救急車は大袈裟である。ウマ娘は頑丈なのだ。
だが幸いと言うべきか、近くに居たウマ娘がティッシュを持ってきてくれたのだった。
「ありがとう、感謝するよ──さぁ、ドトウ。これを」
「あ、ありがとうございますぅ──ふぐぉっ」
優雅な動きでティッシュを受け取り、優雅な動きでティッシュを抜き取り、優雅な動きでそれをメイショウドトウの鼻に突っ込むテイエムオペラオー。
割と容赦がない。結構深い所までブッ刺していた。
「しばらくこうしていれば、じきに止まるだろう。それまで、ボクの美しい膝枕を思う存分堪能してくれたまえよ! ハーッハッハッハ!!」
「ひざまくら……? はぅあっ!?」
言われてようやく気づいたのか、メイショウドトウは今の自分の体勢を理解して赤面する。
憧れの人の膝に頭を乗せて、膝枕。
そんなの、よく考えなくても最高すぎるだろう。しかも、相手はあのテイエムオペラオーだ。そのふとももにどれだけの価値があるかなど、考えるだけでも畏れ多い。
「ごっ、ごめんなさいオペラオーさん! すぐどきますのでぇ〜!」
「おっと、何をしているんだい、ドトウ。安静にしていないと駄目じゃないか」
起き上がろうとしたメイショウドトウの体を押さえつけ、再び寝かせるテイエムオペラオー。
柔道しかり、レスリングしかり。起きている方が強く、寝ている方が弱いというのは、人体の基本構造の宿命であった。
要するに、メイショウドトウは起き上がるのを阻止された、という事である。
「落ち着いて、気分を楽にするんだ。なんなら、ボクが子守唄でも歌ってあげようか! あぁ、ではどの曲が良いかな! リクエストしてくれたまえ、ドトウ!」
「ふぇっ!? え、えーとえーとぉ……! お、オペラオーさんの応援歌でお願いしますぅ!」
「良いとも! 全力で歌い尽くそう!!」
キミ、最初に子守唄って言ってたよね? なんでそんな全力全開で歌ってるのかな?
「あっ、もうむり、まじむりです」
「とうとい……とうといがすぎる……」
マイペースで優雅なテイエムオペラオーと、それに振り回されつつも付いていくメイショウドトウ。
そんな二人の尊みパワーを受けて、それを見ていた変態二人はサラサラと砂になって消えていくのだった。
なお、この後屋上に登っていたのがバレてゴドルフィンアラビアンにお説教される羽目になるのだが、それはまた別のお話。
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