お花の妖精って何???


※カクヨム様とのマルチ投稿となっております。

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お花の茶話会作品です。多分みんなTwitterで投稿している。


自殺ミスったら女の子の幻が見えるようになった。

「お花の妖精ちゃんです☆ 気軽に妖精ちゃんって呼んでくださいね」

 

 ダイナミック飛び降り自殺に失敗した翌日に現れた幻覚が、エヘ顔ダブルピースでそう言った。

 このタイミングで幻覚が見え始めるのは流石にヤバすぎると思った俺はしめやかに二度寝した──のだが。

 

「ちょっとこのステーキ半生じゃないですか!? この私に何食べさせる気ですか!?」

「それはレアっつーんだよアホガキが」

「アホでもガキでもないですけど!!?」

 

 まさか、実体のあるガチ妖精だとは誰も思わないだろ。

 

 

 

 

 俺はしがない男子高校生だった。顔も並、偏差値も並、身長も並という、特筆すべき点はゼロな高校生。

 ここまで平凡を極めていると、逆に珍しいのではないかと思うくらいの没個性。

 とは言え、そこに大した不満があったわけではなく、このままで良いとすら思って生きてきたのだが、ちょっとした事情によって自殺することになってしまった。

 いや、まあ、失敗したんだけど……。

 学校の屋上から思い切ってダイブしてみたのだが、何か気付いたら病院のベッドだった。

 しかも身体はほぼ無傷。即日退院だった。

 ハゲのおじいちゃん先生なんかは

 

「いやぁ……きみ、本当に人間?」

「逆に人間じゃ無かったら何だと思います?」

「妖怪とか? ほら、きみ髪とか長いし」

「あっはっは、先生の方が河童っぽくて妖怪じみてますよ」

「死ねッ!」

 

 などという、誉め言葉と罵倒のラインをギリ行ったり来たりしてそうな言葉と共に俺を見送ってくれたものだ。

 正直この時点で「車道に飛び込めば死ねるかな……」と考え込んではいたのだが、退院したその日の内に死体として病院に戻るのも忍びない。

 せめて一日……いや二日くらいは待つか、と渋々帰宅した次第である。

 で、その晩。

 ぐっすりと熟睡していた俺は突然側頭部に激痛を感じて目を覚ました。

 

「え、なに?」

 

 超痛いんだけど。頭を抑えて上半身を起こせば足を全力で振り切ったらしい女が俺を見つめていた。

 その格好で街中を歩くのは流石に厳しそう、という感想が出てくるファンタジックな白のドレス。

 陶器のように白い肌。赤色の瞳。

 カーテンを閉め忘れていたのか、窓から差し込んでくる月光が女の長い、薄桃色の髪をキラキラと弾いている。

 端的に言って、ものすげぇ堂々とした不審者だった。

 

「はーい、初めまして。私はお花の妖精ちゃんです☆ 貴方に幸せをお届けに来ました☆ 気軽に妖精ちゃんって呼んでくださいね」

「??? 何? 誰? 怖い」

「怖くないですよ~☆ 妖精ちゃんは愛と恋と優しさと、それからちょっぴりのスパイスで出来ていますから」

「スパイスって何???」

 

 この不審者、押しが強すぎる。

 ドシンプルに恐怖だった。

 

「あ、もしかして貴方、信じていませんね? やれやれ、これだから人類ってのはヤなんですよ。す~ぐ妖精ちゃんを不審者扱いするんですから」

「どこから目線なん?」

 

 人類って括り方は妖精っぽいって思った。

 

「お花の妖精ちゃんは病める貴方に幸福を与え、代わりに生活の面倒を見てもらう存在です」

「ふうん……うん? なんて?」

「という訳で今日からお世話になりますね! あ、私朝ご飯はお米派なのでよろしくお願いします!」

「なになになに?」

 

 宗教の勧誘よりやばい女に会うの初めてなんだけど。

 流石にここまで来たら幻覚だと思う方が容易かった。

 未だにギャーギャー、ごちゃごちゃ言葉を並べ立てる妖精ちゃん(笑)をシャットダウンして、俺はすやりと眠りに落ちた。

 

 

 

 翌朝。

 目を覚ましたら居間で正座していた女がキッと俺を睨みつけた。

 

「お腹空きました!!!」

 

 俺は菓子パンを女の顔面に投げつけた。

 

 

 

 

 一週間が経って、流石に妖精ちゃんは幻覚ではないということを受け止めた。

 だってこの女、俺がいない間にゲームするわ冷蔵庫漁るわで好き放題するんだもん……。

 一度受け容れてしまえば意外と違和感も感じないもので、なあなあの経緯だが二人(妖精の数え方は「人」で良いのかは分からないが)暮らしが始まったのであった。

 

「ねぇねぇ、小宮さん小宮さん。晩御飯は何ですか? もしかしてカレーですか? カレーですよね!?」

「何その謎のカレー押しは……うどんだけど」

「ガーン! 昨日もうどんだったじゃないですか!?」

「良いだろ、美味しいし」

 

 もう素うどんはヤダー! と駄々をこね始めた妖精ちゃんの口をむんずと掴んで抑える。

 やめてよね、ここ壁薄いんだから……。

 暴れ始めた妖精ちゃんをベッドへ投げ飛ばしてからキッチンへ。

 それから冷凍庫を開けようとすれば、ニュッと伸びてきた手に阻まれた。

 

「小宮さん……今時料理できない系男子は流行りませんよ?」

「は???」

 

 カッチーン。

 俺は料理できるけどするのが面倒系男子なんだよ!

 くそっ。

 普通に情けない言い訳にしか聞こえなかった俺はうどんを諦めスーパーへと走った。

 

 

 

 二週間も経てば慣れるというもので、学校から帰ってきたら視界に飛び込んでくるのが、居間で寝転びながらテレビを見ている妖精ちゃんであることも日常と化した。

 パリポリと俺のおやつになるはずであったポテチを貪る妖精ちゃん。

 ……俺、なんでこいつを居候させてんだ?

 突然蘇った知性に従い、俺は妖精ちゃんを家から蹴り出すことにした。

 扉の向こうから痛烈な悲鳴が届いてくる。

 

「ちょっと小宮さん!? こんなに可愛い妖精ちゃんを追い出すとか神をも恐れぬ所業ですよ!? 絶対後悔することになるので開けてください!」

「むしろお前を家に置いてたことに絶賛後悔中なんだよ」

 

 お前、常に二人前食うのに一日三食+夜食までいくじゃん……。

 このままだと家計がやばやばのやばなんだよ。

 ただでさえ、ここのところは毎日妖精ちゃんに乗せられて料理しまくっていたのだ。

 

「もう……良いんですか? 本当に後悔しますからね?」

「なに? そこまで言われるとさすがに怖くなってきたんだけど……」

 

 天罰とか落ちたりするんだろうか。

 まあだとしたらサクッと逝けて意外と好都合かもしれない。

 

「じゃあいきますよ~、さーん、にーぃ、いーちっ」

「あっ、カウントダウン制なの? 待って待ってまだ心の準備ができてないから」

「ゼロー☆」

 

 言葉と共に俺は目を瞑り、ガチャリと音を立てて扉が開いた。

 ……は?

 ご丁寧にドアガードまで外された扉は開け放たれて、春風がひゅーんと肌をなでる。

 

「妖精ちゃんマジックです☆」

「???」

「妖精ちゃんの前では扉は障害になり得ない……つまりはそういうことなのです」

「???」

 

 意味不明過ぎて俺は思わずその場に崩れ落ちた。

 取り敢えず理解できたことは、初日の晩、こいつは窓から不法侵入してきたということだけだった。

 

「お前、コソ泥の妖精だったのか……」

「妖精ちゃんはお花の妖精ちゃんですけどー!?」

 

 

 

 三週間が経過し、そろそろ四月が終わる頃合い。

 妖精ちゃんには、とある変化が生じた。

 

「じゃーん! 見てください見てください! 美しくないですか? 美しくないですか!?」

「くそほど目に痛い」

「うわぁ、これ以上ないくらいつまらない感想」

 

 淡青色の、やたらと上品そうになったドレスを纏った妖精ちゃんは上機嫌にくるくる回る。

 朝起きたらいきなりこうだったから、最初こそドキドキしたが

 

「どうですかどうですか? ねぇねぇ小宮さん」

 

 と、五分おきくらいに聞いてくるので余裕でうざさが勝った。

 ああもうさっきから視界に入ってくるんじゃない!

 かわいい。かわいいから!

 

「うふふ、肌つやとかもよくなってるんですよ!」

「いや知らんが……」

 

 まあ、嬉しそうならそれで良いか、と思った。

 不機嫌なよりはマシだしな。

 

 

 

 

 早いもので一か月が過ぎた。暦は五月。皐月というやつだ。

 心なしか、妖精ちゃんは日に日にアグレッシブになっているようだったが、そこでふと疑問を覚えた。

 

「妖精ちゃんって外に遊びに行かないよね。なんで?」

「何言ってるんですか小宮さん。こーんなに可愛い可愛い女の子が一人で外に出たら、誘拐されちゃうかもしれないじゃないですか。自己防衛ですよ。じこぼーえー」

「日本はそこまで治安悪くねぇよ……。てか、それなら今度一緒に買い物とか行く?」

「良いんですか!?」

 

 やったー! と言わんばかりに満面の笑みを見せる妖精ちゃん。

 まあ、見た目だけなら普通の人間だからな……。

 髪色は若干珍しいが、悪目立ちするほどでもない。

 

「では行きましょう! 早速行きましょう!」

「いや今度ね、また今度の話だから」

「ほらほらほら!」

「こいつマジで人の話聞かねぇな……」

 

 結局この後妖精ちゃんに引きずり回され、道行く人に奇怪な目で見られながらお菓子を買いまくる羽目になった。

 妖精ちゃん、あれだけ飯食っておいて間食までしまくるの、マジでなに?

 

 

 

 驚いたことに一か月半が経過した。今更ながら妖精ちゃんは何なのだろう、と思ったが

 

「妖精ちゃんは妖精ちゃんですよ?」

 

 としか返ってこないような気がしたので考えるのを諦めた。

 せっかくの休日を妖精ちゃんについて考えることで潰すことほど、時間の無駄ってない気がするし。

 

「むっ、今とてもひどい侮辱を受けた気がしました!」

「気のせいだろ、それよりよそ見して良かったの?」

「きゃー! 私のピカチュウが!」

 

 ドーン! と画面内でピカチュウが吹き飛び消えていく。

 妖精ちゃんはコントローラーをベッドへとぶん投げ、俺の方へと飛びかかってきた。

 

「お返しです!」

「ぐぉぁ!? 場外乱闘は俺に勝ち目がないからやめろ!」

「問答無用ーっ!」

 

 妖精ちゃんと言えども女性である。

 手出しできなかった俺はしばらくタコ殴りにされた。

 

「ふぅ……スッキリしました」

「お前マジ少しは容赦しろ」

 

 

 

 

 二か月経つのはあっという間だった。どれくらいあっという間かと言えば、六月に入って一週間が経過してようやく「ハッ」と気づいたレベル。

 春とは呼べない暑さだ。もう夏である。

 先月までと比べれば、妖精ちゃんもそこはかとなくぐったりとしていた。

 

「あれぇ? 小宮さん、どこ行くんですかぁ?」

「うわっ、ねっとりした声出すのやめろ、気色悪い……。病院だよ」

「怪我とかしてましたっけ?」

「いや、そういうのじゃなくて……カウンセリング? みたいな」

 

 てか毎週行ってるのに忘れちゃったのかしら、この子……。

 脳内お花畑なのかな……花の妖精とか言ってたし、意外とあり得るかもしれない。

 

「あり得ませんからね!?」

「当然みたいに人の心読み取るのやめろ」

 

 マジでビビるから。

 えっちなこと考えてる時に読まれたらガチで自殺ものだからね?

 

「自殺と言えばですけど、小宮さんってなんで飛び降りたんですか?」

「急カーブで話題変えた上にズカズカ踏み込んでくるじゃん……」

 

 まあ別に良いんだけど。もう知らない仲じゃないし。

 妖精ちゃん友達いないから誰かに話すこともないだろうし。

 

「二か月前に親が蒸発して、まあ……メンタルがヘラった」

「うわ軽い口調なのにおっも。でもその割には元気ですよね。もう平気なんですか?」

「まあ今は妖精ちゃんいるからな」

 

 ヘラってる余裕消し飛ばされたところある。

 ファーストコンタクトがあれだったからな……。

 それに、何だかんだと言って「おかえりなさい」を言ってくれる存在は貴重だった。

 

「ふ、ふうぅーん?」

「ストレートに褒められたら露骨に照れるよね、妖精ちゃん」

「~~っ! うっさいですよ! 照れてませんし! ほら出かけるんでしょ、さっさと行ってきてください! 今日のお夕飯はハンバーグですから寄り道しないで帰ってきてくださいね!」

 

 顔を真っ赤にした妖精ちゃんに追い出されるように家を出る。

 なんとなく、帰りはアイスでも買って帰ってやろうかな、と思った。

 

 

 

 

 二か月半が過ぎた。妖精ちゃんが、倒れた。 

 最近はずっと体調を悪そうにしていたのだが、ついに話している最中にぶっ倒れ、以来起き上がることはなくなった。

 今は俺のベッドを我が物顔で独占している。

 

「まあ私、お花の妖精ちゃんですからねぇ」

「それ、今なんか関係あんの?」

「ありありに決まってるじゃないですかあ。私、春のお花ですので。そりゃ時期が過ぎたら散りますよ」

 

 屈託のない笑顔を見せて、妖精ちゃんはそう言った。

 だから俺もつられて笑う。

 

「なのでこれが最後の会話になります」

「思ってた数倍は急展開だったな」

「私だってそう思ってるんですから言葉にするのやめてもらえます!?」

 

 半透明になった手を振り上げて、妖精ちゃんが言う。

 何か雰囲気とか、そういったものが完全にいつも通りだった。

 コホン、と妖精ちゃんが息を吐く。

 

「──出会いがあれば、別れがあります。その逆も、また然り。ねぇ小宮さん。私と出会って、貴方は幸せになれましたか?」

「お前、恥ずかしいこと聞くな……」

「良いじゃないですか、最期ですよ? 最期」

 

 ふむ、と少し考える。

 

「……まあ、差し引き考えて、ギリギリプラスだったんじゃない?」

「ギリギリ!? この美少女妖精ちゃんを侍らせておいてギリギリ!?」

「うわうるさっ、最期ならもっとちゃんとしおらしくしろ」

 

 滅茶苦茶詰め寄ってくるじゃん。

 

「……ま、幸せだったよ。お陰でな」

「ふふん、まったく、最初から素直にそう言えば良いんです」

「これからもいてくれれば、文句は無かったんだけどな」

 

 これから帰ってきても、誰も帰りを迎えてくれなくなるのかと思うと、少しだけ寂しいと思った。

 

「そうですか? 私はちょっぴり楽しみなんですけどね」

「は? そりゃまたなんで」

「私、春にはまた戻ってきますから──そしたら今度は、小宮さんが私に、お帰りなさいって言ってくれるでしょう?」

「いやお前戻ってくるのかよ」

 

 それを先に言え。

 馬鹿かお前は?

 

「ま、その時はおかえりくらい、幾らでも言ってやるよ」

「本当ですか? 約束しましたからね?」

 

 言って、妖精ちゃんは笑った。

 にっこりと満面の笑みで。

 

「それではしばしのお別れです──またいつか、どこかで、会えた時は貴方を支えましょう。さようなら」

「ああ、またな」

 

 そうしてふわりと妖精ちゃんはいなくなった。

 まるで元々誰もいなかったかのように。

 何の痕跡も残すことは無く、あっさりと。

 

 

 

 

 

 

 あれから夏が来て、秋が過ぎ去り、冬が終わって。

 そしてまた、春が来たけれど、結局妖精ちゃんが帰ってくることは無かった。

 ──ただ、ある日帰って来てみれば、居間のテーブルの上に見知らぬ花瓶が置いてあることに気付いた。

 そこに生けられていたのは鮮やかな紫の、一輪の花だった。

 花屋さんに聞いたところ、これはミヤコワスレという花らしい。

 花言葉は、しばしの憩い。しばしの別れ。そして──また会う日まで。

 まあ何とも、彼女に似つかわしくない繊細な言葉で。

 俺と彼女にはピッタリな言葉だなと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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