かわいい女の子がかわいいお花でかわいいお料理する百合小説です♡

1 / 1
 
 (人の企画とオリジナルは)初投稿です。



彼岸花の食べ方

 

 擦り下ろして、絞った汁の上澄みを捨て、水を足してまた上澄みを捨てること七回。残ったものを乾かせば、毒抜き彼岸花粉の出来上がり。

 

「思ってたより少ないわね、袋いっぱいの花から茶碗の半分もできないなんて」

「使ったのは球根だけだからねぇ、素人の手作業ならこんなもんでしょ……ほとんど華ちゃんがやったけど」

 五月蝿い虫の鳴き声も減ってきた九月の初め、安アパートの小さな台所にうら若き女が二人。しかし二人の前には女らしさからは程遠い、怪しげな白い粉が盛られていた。

「で? どうすんの理子、こんなんじゃ碌な料理作れないよ」

「うーん、ちょっとだけ粉は足すとして……」

 『彼岸花は毒を抜けば食べられるらしい』、そうインターネットで調べた二人は()()()()処理に困っていたそれを使って料理しようとしていたのだった。出来上がった粉はほんのり青臭く、触れればさらさらと崩れる片栗粉に似ている。

 しかしその粉で何を作るかはノープラン。思っていたほど量はなく、苦労して作ったものを混ぜ物にしてしまうのは何となく嫌だが、このまま思いつかずに粉薬が如く飲むよりはいいはずと考えている。

「丸めてお団子にしよう。ふたつくらいはできると思う」

「それだ」

 結局、理子による単純かつ適当な案によって粉薬は回避された。そうと決まれば早速華が湯を沸かし、理子が団子を丸める。

「もうすぐ沸くよ。団子はできた?」

「なんとか、手袋つけると丸めづらいや」

「そのままあちこち触んないでよ……はい、後は私が見とくから」

「うん、お願い」

 歪な団子が熱湯の中で揺れる。どろどろに溶けてしまうのではという心配もあったが、形は保たれたままだ。よく見れば外側が半透明になっており、火の通った部分だとわかる。

「そろそろいいんじゃない?」

「……いやもう少し。それより氷水とお皿用意して」

「はーい」

 ちゃんと処理したつもりでも元は毒草、用心するに越したことはない。しっかりと中まで火が通ったように見えるまで茹で、それから氷水にとる。真っ白だった団子は中まで半透明に変わり、何となく清涼感が出てきている。

「団子というよりわらび餅みたい……そうだ、黒蜜で食べよう」

「黒蜜なんてあるの?」

「前に買ったけど一回しか使ってないのが……あったあった」

「期限大丈夫なんでしょうね」

「セーフセーフ」

 そして本当にセーフなのか怪しい黒蜜がかけられ、団子改め彼岸花餅が完成。見た目は少々不恰好だが、これが毒草から作られたと思う人はいないだろう。

 さて実食。

「……華ちゃんからどーぞ」

「毒見をさせるな、せーのでいいでしょう」

「う……せーのっ」

「「いただきます」」

 まずひんやりとした温度と黒蜜の甘みが、そして咀嚼する度にねっちりとした食感と、薄っすら残っていた青臭さが広がる。不味くはない、けれども特別美味しいわけでもない。ちょっと変なわらび餅。

「「ごちそうさまでした」」

 採取から丸二日。内実食時間、約十秒。こうして二人の彼岸花食体験は呆気なく終わった。

 

 三十分後。体調に問題がなかったことに安堵しつつ洗い物を終え、華は半ばダイブするかのようにソファに身を預ける。それから理子も続いて腰掛けるのを確認して口を開いた。

「それで、()()()()()()()()()()の感想は?」

「……」

 華の問いかけに理子は答えない。答えに詰まったと言うよりは、少し考え込むような様子で口に手を当てる。

 事の発端は三ヶ月前。彼氏から日常的に振るわれていた暴力に耐えかねた理子は人殺しになった。そして錯乱した理子からそれを知らされた華は、通報者ではなく共犯者になることを決めた。

 夜の闇に乗じて死体を車に積み込み、遠くの山へ埋め、『どうか見つかりませんように』と祈り続けて三ヶ月。大雨が降り、『死体が出てきてしまうのでは』と確認しに行ったのが三日前。埋めた場所には、満開の彼岸花が人型に咲いていた。

「不思議なこともあるもんだ。『そういう噂』とかあるのかな」

「……わかんない」

「ま、全部抜いたけどね」

 どういう理屈かはわからないが、人型に咲く彼岸花なんて怪しさ満点だ。慌てて引っこ抜いたはいいものの、その辺に捨てるわけにもいかず、焼却処分も難しいと気づいたところで何とかならないかと処理方法をインターネットに頼り──今に至る。

「結局花が残ってるから解決してないんだけどね……少しずつ他のゴミに混ぜればいっか」

「そうだね、二人で分ければすぐだよ」

「なーんであの時気づかなかったんだろ……」

 動揺している時の思考は当てにならない。きっと三ヶ月前の自分たちもそんな調子だったのだろうと華は思った。

「ありがとうね、華ちゃん」

「いいよ。私たちの仲でしょう」

 結局理子の感想を聞くことは有耶無耶になった。三ヶ月前のあの日もそうだった。きっとこれからも聞き出せないだろう。

 しかし華はそれでもよかった。たった一人の親友が、幼馴染が、愛する人が幸せになれるのなら。そのためならどれだけの罪を犯しても構わなかった。間違いを続けることに決めたのだ。

「ねぇ、また生えてたらどうする?」

「うーん……竜田揚げにでも使ってみる?」

「いいね」

 何も解決しない罪深き二人の料理は、その罪が暴かれるまで続くのだろう。あるいは、死体の養分が枯れるまで。

「ずっと一緒だよ、理子」

 それまでは、思いやりという名の毒に侵されよう。




 
 素人調理で彼岸花を食べるのはやめましょう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。