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超越者達との邂逅

 ■王都アルテア 〈天上三ツ星亭〉 レイ・スターリング

 

 

 俺とネメシスは兄貴に呼び出され、昨晩宴会が開かれた〈天上三ツ星亭〉を訪れた。兄が企画した食事会は店全体を巻き込んだ宴会となったのだが、そもそも兄が料理を準備しすぎたせいで自分達で消費しきれなかったのを居合わせた〈マスター〉ティアンの客に振る舞い、結果的に宴会になってしまったのだ。

 そして現在、俺は兄貴から相棒の〈エンブリオ〉ネメシスと共に〈Infinite Dendrogram〉の世界で過ごすうえでの注意事項を聞いていた。

 

『取り敢えずこの国で敵対しちゃいけないのはクラン〈月世の会〉だな。これは現実(リアル)でも聞いたことあるだろ?』

「確か『枷に囚われた肉体より離れ、真なる魂の世界に赴く』っていう教義の宗教団体だよな?」

『そうそう。まぁクラン自体はそんなに脅威じゃないが、そのオーナーがめんどくさい奴でな…。そいつについては追々教えるクマ。次もクランなんだが、こっちは世界規模で暗躍する犯罪者の集団〈IF(イリーガル・フロンティア)〉」

「犯罪者クランとは、穏やかではないの…」

 

 いつの間に頼んだのか、ネメシスの前には山積みの料理が並んでいた。お前そんなに食えんのかよ…今日も兄貴が奢ってくれるからいいものを…。みるみる減っていく料理の山を尻目に、兄貴の話の続きを聞いた。

 

『〈IF〉のクランオーナーは今監獄に収監中だから大規模な事件は起こさない筈クマ。他にもクラン単位や個人で脅威なのは要るんだが…そいつらはちょっかいかけなければ基本的に無害だ。一部を除いてだが』

「不安になるようなこと言わないでくれよ…」

『ただ一つ、『こいつ等』だけは別だ』

 

 徐に俺へ顔を向け、人差し指を立てながらグイっと顔を寄せて来る。クマの着ぐるみの状態だから凄味が凄い。

 こいつ等という複数形からさっき教えられた〈月世の会〉や〈IF〉と同じようなクランと思われるが、兄貴の様子が先程よりも深刻さが増しているように感じた。

 

『そいつ等も普通に過ごすだけなら無害なんだが、一度敵対すれば容赦なく殲滅されるクマ。個人の能力は勿論の事、一番の脅威は組織力だな。あいつ等と敵対して五体満足でいられた〈マスター〉は皆無だ。普通に付き合うだけなら気のいい奴らばかりなんだがな』

「さっきの〈IF〉と比べるとどっちが面倒なんだ?」

『断然そいつ等だ。まっ、たまたまそいつ等の纏め役と知己だからお前の顔合わせも兼ねて手を出さないように話を通しておくクマ』

「顔合わせって…まさかそのクランの人達がここに来るのか!?」

「それでクマニーサン、そいつ等の名前は?」

『おっと、そうだったな』

 

 もったいぶるように溜める兄貴に若干苛立ちつつ、兄貴が最大限の警戒を向ける集団の名前を聞く。

 

『奴等の名は…「おっ、いたいた。おーいシュウ!」

「待たせてしまったかな?申し訳ない」

「全く、たっちさんが途中で寄り道しなければ遅れなかったものを」

「まぁまぁ二人共、もう過ぎた事ですから…。それで、そっちにいるのが俺達に紹介したいっていう噂の弟君かな?」

 

 兄貴がそいつ等の名前を言う直前、店に入ってきた三人の人達によって中断された。いや、『人』達かどうかよく分からなかった。

 一人は白銀の全身鎧と風もないのに何故か靡く赤マントを着こんでおり、フルフェイスの兜も被っているせいでその下の表情を伺うことが出来ない。

 もう一人は貴族の様に煌びやかな衣装とシルクハットにペストマスクを被っているが、シルクハットからは何故か山羊の様な角が飛び出ていた。

 そして最後の一人。闇色の絹から織り出されたかのような漆黒のローブを羽織り、一国の王族が着る様な豪奢な衣装を着こみ、泣いている様な怒っている様な仮面を被っている。

 全員が顔と肌を一切出していない怪しい格好なので、本当に人かどうか分からないのだ。

 

『おーっす、丁度お前達の話をしていたところクマ』

「えっ、じゃあ兄貴が言ってたのって…」

「初めましてだなシュウの弟君。クラン<アインズ・ウール・ゴウン>オーナーの『モモンガ』だ」

「同じく、アインズ・ウール・ゴウンの『たっち・みー』。たっちと呼んでくれ」

「<アインズ・ウール・ゴウン>所属”大災厄(ディザスター)”『ウルベルト・アレイン・オードル』である」

 

 店に入ってきた三人組は兄貴が教えようとしてくれた危険人物の集まるクランのメンバー、しかも一人はその親玉と来た。しかし言うほど危険人物だとは思えない。

 クランマスターを名乗ったモモンガさんは物腰の柔らかな人だし、たっちさんは礼儀正しい印象を受ける。ウルベルトさんは…言動から察するに中二病を拗らせた人なのかな?

 

「あんまり俺達の事を悪く教えないでくれよ?只でさえ誇張された噂のせいで周りから誤解されがちなんだからな」

『いや、相当悪いことしてるだろ…』

「私達は私達の信念に従って行動しているだけなのだがね」

『新しく発見された墓地型ダンジョン占有とか、悪評聞いて組織された正義(笑)の討伐隊マスター1500人を壊滅させたりとかのことがか?』

「最初は兎も角、後ろのは正当防衛だと主張させてもらおう」

「1500人を壊滅…!?」

 

 1500人のプレイヤーを動員しての討伐など、他のオンラインゲームでもイベントクエストのエネミー討伐でくらいでしか聞いたことが無い。インフィニット・デンドログラムの仕様はまだよく知らないが、<アインズ・ウール・ゴウン>が成し遂げたことは異常としか思えなかった。

 ちらりと兄貴と話すモモンガさんを見てみるが、仮面のせいで表情を伺えないけれど声色や態度からはそん恐ろしいことが出来るような人には思えなかった。ジロジロ見過ぎたせいか、モモンガさんと視線があってしまった。

 

「何か質問かなレイ君?」

「あっ、いえ。そういう訳では…」

『やっぱその怪しい仮面が気になるんだよなクマ。いい加減外したらどうだ?』

「今日は人も少ないしそうするかな」

「レイ、こいつの顔見ても驚くなよ』

「それってどういう…?」

 

 そう言うとモモンガさんは泣き笑いの仮面を外した。仮面の下から現れたのは大理石のような白磁の貌。その眼光は怨嗟蠢く幽鬼の如く赫い。それは人間の物とは違う白骨化した異形種、不死者(アンデッド)の姿だった。

 

「驚かせてしまったかな?デンドロ特有のキャラメイクとジョブによる特殊効果によってこういった姿をすることが出来るんだ。因みに彼らも異形種アバターだ」

「たっちさんとウルベルトさんも?」

「異形種アバターである事がクランの加入条件の一つだからね、他のメンバーも全員そうだよ」

「メンバー全員が異形種アバターなのは数あるクランでも我々だけでしょうね」

 

 聞くとことによると異業種アバターは決して珍しいものでもないらしい。無限の可能性を謳うデンドロが誇る自由度の高いキャラメイクを駆使すれば獣人アバターや巨人アバター、その逆の小人アバター等も作ることが可能らしい。ケモ耳、ケモ尻尾等の部位のみも可能らしいが、モモンガさん達は全員が全身メイキングで異業種アバターらしい。

 俺はリアルの自分をベースにアバター作成をしたが、モモンガさんも同様に自分の骨格をベースにしたらしい。その元データーをどうやって入手したかは謎だけど…。

 

「顔合わせも済んだことだし、俺達はそろそろ失礼するよ。これから大事な『話し合い』があるんだ」

『…それは大丈夫なやつなんだろうな?』

「安心して下さいシュウ、不本意ながらたっちさんが同行する話し合いですから酷いものではありませんよ…多分ですが…」

「ウルベルトさん?私の目が黒い内は変な事はさせませんからね」

「まぁまぁお二人共、今回のはちょっとしたイベント事なんですから、そんな深読みさせるような言動しないで下さいよ」

 

 そう言ってモモンガさん達は俺達に別れの挨拶をすると店を出て行った。その後ろ姿を心配そうに見詰める兄貴に聞いてみた。

 

「なぁ、モモンガさん達ってそんなに悪い人達なのか?見た感じそんな風には見えなかったんだけど」

『…アイツらに対して変な先入観持たせたくなかったから詳しい事は言わなかったが、アイツらが所属するクラン<アインズ・ウール・ゴウン>はデンドロの攻略wikiに対策が掲載される程有名だクマ。それもクランの名前で項目がわざわざ作られる程のな』

「そんな事あるのか!?」

『アイツらは『DQNクラン』『極悪PK集団』『非公式魔王』なんて呼ばれてる。アイツらの行ってきた悪行を詳しく知りたきゃ帰ってからwikiを見てみろ。根は悪い奴らじゃないから紹介したが、赤の他人になら絶対に付き合わないように忠告する程の奴らだ』

 

 ほんの少し話しただけの付き合いだが、モモンガさん達がそんな風に言われる程の人達とは思えなかった。兄貴は詳しく話すつもりはないようなので、今度時間が出来たら自分なりにモモンガさん達について調べてみようと思う。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

「シュウの弟君、なかなかいい面構えをしていましたね?いきなり上級職の【聖騎士(パラディン)】になるなんて、先達としてこれからどう成長していくか楽しみですよ」

「下級職を経ずに上級職に至る異端プレイ…レアですね。うちの参謀陣が聞いたら興味を持って拉致誘拐くらいしそうです」

「そうならぬよう祈りますよ。それより早く仕事を済ませませんか?それが終わったらすぐに例の盗賊団のアジトに行きましょうよ」

「モモンガさん昨日からそればかりですね~。ま、新しい【超級職】の足掛かりですから分からなくはないですが」

 

 王都の大通りを歩く三人組。認識阻害が掛かっているのか目立つ風貌にも拘らず、道行く人々の視線は全く集まらない。

 ここにいる三人だけで王都を掌握することが出来る、世界で100に満たない<超級エンブリオ>へ至った正しく『最強』の三人なのだ。

 

絶対王者(チャンピオン)”【剣神(ザ・ブレイド)】たっち・みー

「間違っても一人で突っ走らないで下さいよウルベルトさん?貴方の尻拭いをするのはもうこりごりですからね」

 

大災厄(ディザスター)”【大魔導師(ギガ・マジックキャスター)】ウルベルト・アレイン・オードル

「何言ってるんですかたっちさん、それはこちらのセリフですよ?」

 

超越者(オーバーロード)”【死王(キング・オブ・ノーライフ)】モモンガ

「お二人ともお静かに…。では、仕事に取り掛かりましょう」

 

 



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