ジョウト地方、コガネシティのあるオフィスの一角で書類を抱えた男が自らの相棒に向かって呼びかけた。
「うーっし、チェルノ、お仕事来たぞー。」
サトシのいる、あの明るい世界だけがポケモンの世界ではない。
ポケモンという生物が生きる以上、そこには生態系があり、環境がある。そこには熾烈な生存競争が繰り広げられているのだが、そういったことを無視して特定の種のポケモンのみが大量発生することが確認されている。
原因は未だに不明であるが、いわゆる厳選という行為のために生まれたポケモンの、目的の合わない未熟な個体を放逐する、ということが過去にあり、人為的に発生することがある。
それはあくまで一つの側面に過ぎず、ゴーストポケモンがハロウィンやお盆という行事に近づくに連れて活性化、大量発生というように文化的な点が見られたり、と根本的な原因が種類ごとに異なるため、現状不明となっている。
比較的無害な種であれば初心者トレーナーの手持ちとして、捕獲した後に保管されることだろう。
しかし、ゴーストタイプ、ドラゴンタイプ、毒タイプのようなポケモンに関しては人の命に関わる上に、人の味を覚える可能性の強い種は、どうしても命を奪う必要があるのだ。
そういったことを行うのに、ポケモンレンジャーなどを使うわけには行かない。彼らはむしろ保護する立場であり、目的が真逆であり良心の呵責に耐えきれずに見逃してしまったことが多かった。
ならば、そういったことを専門に行う業者がいたら良い、ということで公的に、しかし秘密裏に組まれた組織が結成された。
Harvester、と呼ばれる公的駆除専門チーム。
その中の一人、ブラックシティ出身の男、コクダンのお話だ。
専門チームは不人気である。当然のことだ、誰も好き好んで命を奪う仕事なんてしたくはない。しかしこの男、別にどうでもいいと思っている。強ければ生きるし、弱ければ死ぬのだ。生存競争の代理人をしているだけなら、何もそんなに忌避感を覚える必要はないだろうに。という思考回路のせいで大概の仕事が彼に押し付けられている。いつか上に訴えてやる気でいるそうな。
今回駆除する対象はフワンテ。風船のように膨れて可愛い見た目であるが、人やポケモンを問わず、非常に被害の大きいポケモンに該当する。
小さい子供やポケモンをさらい、魂を食らう、という習性を持つ上に宙を飛ぶために取り返すこともなかなかに厳しい。
被害例として、一人遊びをしていた子供が一緒に遊びたいのだと勘違いしてフワンテの触腕に接触したところ、そのままふわりと持ち上げられ、後日遠く離れた地で遺体が見つかった、という事例や、好奇心旺盛な手持ちポケモンがうっかり触ってしまい攫われたというものがあり、初心者トレーナーの心にひどいトラウマを残してしまった。なにせ初めてもらった相棒だそうで。
そんなポケモンの大量発生であるならばやはり駆除せねばならない。
「現在フワンテの群れを発見、まず撃ち落としにかかりまぁす。」
「チェルノボグ、対象の存在する区画に重力」
黒き神の名を与えられた碧きヨノワールのアンテナからみょわん、と力場の波が生まれ、すべての上空にいたフワンテを地面に釘付けにする。
「ごめんねぇ、君たちも生きてるだけなんだろうけど、みんなが迷惑してるからね。」
ぺこり、と頭を下げるともう一つのボールを投擲する。モンスターボールより現れたのは悪・炎タイプのヘルガー。
「恨むなら、好き放題やるといい。僕らは君たちの命を食って生きるからさ。」
「チェルノは怪しい風、ラガイは片っ端から悪の波動。辛いこと頼んでごめんなぁ。」
命令と同時に、自らはシャベルを取り出す。酷く鋭く研がれたそのシャベルを一匹のフワンテめがけて突き落とす。とっさのシャドーボールも形成が間に合わず、そのまま頭部の風船を貫き、パァンと大きな破裂音を立てる。風船の成れの果てをシャベルから取り除くと、手持ちの鞄に突っ込み直し次の哀れな犠牲者に襲いかかる。
しかしフワンテも黙って殺されるわけにはいかぬ、と群れの至るところからやたらめったらとシャドーボールを撒き散らす。
その勢いと来たら、並大抵の人間であれば、全身撃ち抜かれて死に至るレベルの弾幕具合である。
ただし、こちらはその並大抵には該当しない。長年野生のポケモンたちと殺し合い、喰らいあった彼からしたらヤケクソの弾幕程度シャベルで撃ち返しながら突き進む程度へっちゃらである。
ただのシャベルではひしゃげ、壊れて埒が明かぬだろうが、生憎これは特別性。数百年物のハガネールの一部を削り出したとても希少な一品であり、そこらのポケモンでは傷一つつかぬのだ。撃ち返すように振るいつつ、一匹、また一匹と割れる音が辺りに響く。
一方ヨノワールは辺り一帯を怪しい風で弱らせたあと、一匹一匹掴み上げ、魂をその腹の大きな口に飲み込んでゆく。断末魔の悲鳴すら挙げられずに儚く命が吸い取られ、骸をそこいらに放り捨ててゆく。逃げようとするも本来彼らは風に乗る種族。風のないその場所で上から押しつぶされているならば、それは袋小路と変わりないのだ。
悪の波動をまといつつ縦横無尽に走り回るはヘルガーのラガイ。あまりのレベル差に、波動の残滓ですらフワンテたちに重傷を与えてゆく。地面に転がるフワンテたちをしっぽでチェルノに送り込んでゆく。ここは既に、彼らの間合い。逃げることすら許されぬ、死の間合いなのだ。
重力が消え、自由になったフワンテたちが逃げ出そう、とするも、ラガイとチェルノのくろいまなざしで身動きを封じ込まれた。かと思えば白い線がフワンテの群れの上に2、3本浮かび上がる。
「〆を頼むよー、フラガラック。」
ひらり、と彼のグローブの上で舞う紙片が一つ。しかしよくよく見れば繊細な折り紙であるように見えるが、ギラリギラリと抜き身の刃のごとく輝いて見える。
いや、抜身の刃であった。
ゆるゆると振るわれる片手が、白い線を、斬撃へと塗り替える。
つばめがえし、と呼ばれるその技はカミツルギのフラガラックにより確殺の一撃へと切り替わり、無残にもフワンテは灰塵へと成り果てた。
「あっちゃ~、フラガラック。そろそろ手加減覚えてほしいんだけどなぁ…。」
フワンテが盾にしようと考えていたであろう大木は、その斬撃だけでバラバラの木片へと成り果てた。厳密には十メートル以上離れているにも関わらず、巨木一本丸ごとを根こそぎバラバラにしていたのだ。
また叱られるなぁ、とため息をついたものの、今回の仕事を終えたことには変わりない。大量のフワンテの残骸をかき集め、持ち込んでいたリュックに丁寧にしまい込み帰路へとつくのであった。
ハガネールのシャベル:長い時を生きたハガネールの亡骸の一部をシャベルとして削り出したもの。ハガネールの死因は老衰であり、違法性はない。しかしダイヤのごとく極めて硬い上に、実は磨くとクリスタルのような輝きを持つ、という使い方を明らかに間違えた逸品である。
これから書いてほしい話を募集します。
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カミツルギ捕獲作戦
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Harvesterの他メンバーの話
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コクダンvsタクト
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