ちょっと黒いこの世界で。   作:ばリオンズ

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あけおめです。
今作はロストシルバーというクリーピーパスタからアイデアをいただきました。
以前アンケートで頂いたものは鋭意制作中ですので、気長にお待ち下さい。


第13話

さくさく、じゅわじゅわ。

一人の足音が、高き霊峰に響く。

ときおりずぼっ、と落ちかけるような音と、慌てたようなポケモンの鳴き声が何度かその後を追って響き渡る。

 

ここは、シロガネ山。

8つのバッジを得てポケモンリーグへと挑める権利を得たもの、つまりチャンピオンロードを踏破したものだけが入れる、禁足地とも言えるような場所である。

 

一度足を踏み入れば、屈強な野生ポケモンたちと断崖絶壁や吹雪、滝壺などの天然の障壁が道を阻む。そもそも道と呼べるものは何一つないこの山奥に、人は何を求めるのだろうか。強者と呼ばれるポケモントレーナーたちが、一人、また一人とこの試練に挑み、帰ってくるものはほとんどいない。

 

その、帰ってくる人がいないのが、おかしいのだ。トレーナーがシロガネ山に踏み入る際、係員のチェックがある。このチェックは入山者がいつに踏み入ったかを記載するもので、持ち込んでいる装備、服装などを事細かに確認した上で通している。軽装の場合、1日以内にトレーナーが戻ってこなければ捜索隊が出動する。

 

黙々と、コクダンは足を進めている。今回のコクダンの業務は、駆除でも捕獲でも蹂躙でもない。トレーナーの遺体の回収である。もう一つ仕事があるが、それはまた後で。いくら重装備をしていても、何故か凍死するトレーナーが後をたたない。おまけにいずれの事例においても、手持ちのポケモンを逃した形跡があるのだ。そのポケモンに関してはトレーナーの近くで凍死していることや、逆に山の麓まで降りてきたこともあり、その点に関しては一貫性が見られていない。

 

ただ、数件だけ、異様な事例がある。逃したポケモンが、全て色違いのアンノーンであり、何らかの単語になっている上に、そもそも入山時のチェックを受けていないのだ。更にその事例のうち、一件だけことさらに奇っ怪な事例がある。なんとそのトレーナー、遺体が発見される前まで、マダツボミの塔にいたらしいのだ。

 なぜそんなことがわかるかというと、実はマダツボミの塔やスズの塔には内観を損なわない程度に監視カメラが設置されているのである。焼けた塔の出火原因が不明なため、誰かに放火された可能性も考えられるので、スプリンクラーと監視カメラが設置されるようになったのだ。そのため、そのトレーナーがはしごを登ったところまでは確認できたものの、何故か梯子の上の監視カメラには映らなかった。その上、対戦した修行僧いわくアンノーンなんて一匹も持ってなかったとのこと。

 

それ故に、マダツボミの塔が一時的に立ち入り不可になったが未だ原因は不明のままである。霊能力者やマツバによる調査が行われたが、おぞましい気配のすること以外全くわからないままであった。

 

今回のコクダンの手持ちにはウルガモスがいる。貴重なポケモンと思われがちだが、あいにくこの世界にはBキャン野郎がいる。つまり、メラルバの大量発生もあったのでウルガモスの市場価値は低下傾向にある。雪を溶かしたり、先程雪で隠れた穴にうっかり落ちかけたコクダンを引っ張り出しつつ慌てた声を上げたのは、この子である。

 

わざわざヘルガーではなくウルガモスを連れてきたのはコクダンが寒がりだから、というだけではない。凍死したトレーナーが雪に埋もれて発見できない事例が多発しており、広範囲を技を使わずに溶かせる太陽の神と呼ばれるウルガモスのほうが便利だからである。

 

あと、ちゃんとチェルノボグもいる。この事例において、死亡したトレーナーの霊を見た、レッドと呼ばれるトレーナーの霊を見たという報告が後をたたない。生存者からの報告だけなら、寒さによる幻覚という説とも思われるが、入山管理の係員からも山から降りてくる霊をみたという報告を多々受けている。

 

ただの浮遊霊ならまだマシだろうが、この事例の原因がもし悪霊などであるならば、殺された彼らの霊まで悪霊になる可能性が極めて高い。

 

原因が全く不明であるこの事例においては対策をいくらしたとて足りるわけもない。コクダンにできることをやるだけやって、あとは死なぬように誰かに祈ってもらうだけだ。

 

ロッククライムや滝登りをたまたまいたビーダル先輩に任せ、さくさくと雪を踏みしめつつ前に進む。自分の縄張りに踏み入られたリングマやムウマ、ゴローンやイワークが彼らに襲いかかってくるものの、チェルノボグの前では鎧袖一触、山から殴り落とされて転がっていったり、お昼ごはんにされたりと躊躇いなく薙ぎ払われてしまったが、ここではあまり問題はない。

 

シロガネ山に住むポケモンに希少種に該当するポケモンはおらず、入山許可を得られるトレーナー自体も極めて少ない。不法入山するトレーナーもちらほらいるが、この事例のせいで凍りつくのであまり環境破壊が起こることはない。大量発生の原因の一つ、シンオウサウンドやホウエンサウンドもあまり強いポケモンが出ないため、この土地ではそこまで問題にはならない。

 

先程出てきたビーダルは、そんなシンオウサウンドで出てきたビッパが運良く生き残った歴戦の個体である。ひでんマシンを持たない捜索班に可愛がられており、シンオウサウンドを流すトレーナーの前にすぐ出てきて秘伝技をしてくれる、変わったポケモンなのだ。

 

それはさておき、山の中腹あたりでコクダンは数人分の左手を発見することになった。グロテスクな現場を引き起こすこともある本人だが、こんな現場を見てはしかめっ面を隠せない。左手をよく見ると凍りついてもげたにしては断面が壊死とも言えない。なにか強力な力で引きちぎられたように見える。しかしシロガネ山でそんなことができるのはリングマくらいだが、食われたあともない。

 

となると悪霊説が濃厚になる。ポケモンでも人でもない、天候でもない、となればまぁ、そのどれでもないものを原因にするしかない。とりあえずその左手をまとめて縛り、黒いビニールに詰め込んだ。

 

発見した左手につけられたポケッチや握られたままのポケギアは電池切れや破損しており、とりあえず背中に背負ったリュック内に用意した防水ケースにしまい込み、更に歩みを進めた。これらの端末にも情報が残っていることもあり、原因解明のためにはなくてはならないものの一つである。

 

「なんか聞こえるらしいのよね。幻聴なのかは分からないが、歌のようなリズム感のあるなにかなんだけども、なんなのかね?聞いててだんだん不安になるメロディなんだとかいってたけども、シオンタウンに流れてるのとはまた別らしいし。」

 

そうこぼしつつ、さくさくと足音を立てながら雪を踏んでゆく。寒い寒いと普段は言うだろう彼が全くそんなことを言わないのは、言えば言うほど寒く思ってしまうってのもあるが、軽装で登山した彼らから聞いたものもあるのである。寒いとつぶやくたびに、体が重く、体温を奪われることがじわりじわりと増しているのに、足が前に進むのをやめなくなってしまう、ということがあるらしい。なので今回は寒いのをぐっとこらえ、黙々と歩いているのである。

 

「なんか聞こえるな、たしかに。」

 

山頂に近づくに連れ、バラバラになった遺体を拾い集めつつ、急にふぶき出した天候に戸惑う中、それは聞こえた。寒さの中聞こえたそれは、寒さに震える人の吐息のようであり、しかし怨念のこもった歌にも聞こえなくもない。

 

「へい、めーちゃん。にほんばれと熱風やっちゃって」

 

山の頂上付近だから吹いていたはずの吹雪はカンカン照りの太陽にかき消され、頂上に降り積もった雪は日本晴れにより威力の上がった熱風でみるみる溶けた。洞窟の中から指示を出したため、溶けた雪の影響をコクダンは受けなかったものの、シロガネ山の頂上の万年雪がドロっと溶け落ちたのだからそりゃもう大惨事である。麓まで雪崩が発生し、無数の死体とともにゴロゴロと転がり落ちていった。探す手間が省けてよかったね!では無いがな。

 

歌っていただろう何者かの吐息が、あまりの光景に硬直したのか止まった。死者をあの世に連れて行く使命のあるヨノワールのチェルノボグはあたりをキョロキョロ見回しているが、どうやら悪霊がそもそも見当たらなかったらしい。霊の仕業でもないとなると、また何が原因なのだろうか、と悩まねばならなくなるだろう。そんなことはコクダンにとってはどうでも良い。

 

頂上に登り、先程の日本晴れによって登った太陽を眺めつつ、手持ちの水筒に入れたホットコーヒーを取り出し、一口。

 

「あっつ、舌火傷した。」

 

そうぼやくコクダンの手を引くものが。

 

「…」

「レッドさん、また幽霊呼ばわりされてますよ。今度という今度は家に帰ってもらいますからね?」

 

その手を引いたのはLiving Legendことレッド。このシロガネ山は彼女の修行場兼引きこもるための場所だが、定期的に誰かを派遣してレッドを連れ帰る必要があるのだ。死亡説がしょっちゅう湧くし、不健康な生活をしていることもあったり、ポケ検の定期更新をさせに連れ帰ったりせねばならないことがあるので、嫌がる彼女をとっ捕まえねばならぬのだ。

 

彼女といったが、この世界のレッドさん。なんと女性である。…が、まぁ、こんなところで住んでいる以上どこぞの女性チャンピオン並に女子力がない。

 

定期的にご飯を食べさせたりせねばならんのでコクダンやグリーンなどのトップトレーナーが連れ戻しに行くのだが、最近コクダンにばっかり押し付けられている。正直寒いから嫌なのに、こんな迷惑な怪奇現象まで増えても困るのである。

 

さっさと解決してほしい、と思いつつレッドの手持ちのフシギバナに捕まってジタバタしてるレッドを眺めるコクダンであった。寒いのに強いのはわからんでもないが、いい年した方がそんな薄着でバトルを挑まないでほしい、と思うのだ。

 

雪崩を起こしたことは後で叱られたが、聞こえてきた歌の原因が吹雪にあると思った為試したことを報告すると渋い顔とともに無罪放免になった。




レッドさん:あのピカ様のトレーナー。二つ名は【Living Legend】。公式から死んでないよ、と言われるあたりがもう、あれである。ちなみに今作ではシロナさんと同年代。

これから書いてほしい話を募集します。

  • カミツルギ捕獲作戦
  • コクダンの日常
  • Harvesterの他メンバーの話
  • コクダンvsタクト
  • コクダンの設定
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