ちょっと黒いこの世界で。   作:ばリオンズ

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音楽だけで別地方のポケモンが現れるのはどういうことだ。


第2話

巨木切断より二日後のこと。

Harvesterの事務所に一軒の依頼メールが届く。

 

ウバメの森の大量発生である。

ミュージックチャンネルという画期的なシステムがポケギアに追加された一方で、これもまた生態系を揺るがす大量発生を招きつつある。

 

今回の大量発生の対象はマスキッパ。人に対する人的被害はそれほど大きくはないが、稀に人が噛みつかれる程度のことだ。よくロケット団の一人も手持ちのマスキッパに噛まれていたようだから、さほど危険性はない模様。

 

しかしながら、ウバメの森はキャタピーやビードル、パラスといった虫ポケモンが多くを占める環境である。

それらに対する捕食者はホーホー、ヨルノズク、ポッポという鳥ポケモンがいるため、極端な片方の発生が見られることはない。

 

しかし、シンオウサウンドの影響によりその場にほとんど生息していないはずのマスキッパやスボミーが多々見られるようになった。まだそれだけなら良いのだが、野生のマスキッパがトレーナーに勝利してしまうことで、レベルが高くなったマスキッパが増え、あたりの虫ポケモンの個体数が明らかに低下した、という報告が見受けられるのだ。

 

マスキッパは虫とりポケモン。食虫植物がモチーフであり、モチーフどおりに甘い香りで虫ポケモンを誘い食べるポケモンである。一日一匹でいいとはいえ、数が増えたらそれはまた別の話になってしまうのだ。

 

捕獲しておけばいいじゃないか、と言われると同様にシンオウサウンドで現れるようになるスボミーよりも進化せず、個体値も低め、という点が初心者向けでなく、蜜を回収できるわけでもないため、如何せん利用価値が低いのが難点である。あと、モジャンボに完全に上位互換を取られてしまっているため、トレーナー人気が無いのもこれまた困ったところである。

 

 とりあえずラジオ塔にクレームを入れておくことにしたコクダンはいつもどおり相棒のヨノワールのチェルノボグとともに現地に向かうことになる。

 

「いやいや、少し酷くないか?ちょっと初期対応してくれてもいいんじゃないだろうか…?」

 

そうぼやいた彼の目線の先にいるのは、近所のコガネジムを超える大きさにまで育った特大のマスキッパ。

 

耐久が低いことで知られるマスキッパも、こうも大きくなればその欠点など屁でもない。

それだけではない。マスキッパは駆除がかなり厄介な部類に入るポケモンである。図鑑説明にもあるとおり、木の枝に巻き付いた状態であればただの植物に見える、とよく言われているのだ。大きい個体を駆除したところで通常サイズの個体は木々の中に隠れ、判別が付かないのだ。

 

でも彼的にはあんなでっかい口のせいで丸わかりなんだが、とのこと。

ただ、木に巻き付いているせいで炎タイプのヘルガーも、高火力広範囲型のカミツルギも環境破壊につながるために使用不可になる。

 

「んじゃあ、故郷だしやってくるかい、ブリッツ。」

ブリッツと呼ばれ、懐から取り出されたハイパーボールより飛び出たのは稲妻の如き黄色の、紅い瞳のスピアー。故郷と同胞に危害を加える外敵に憤りを隠せぬ彼に、キーストーンが埋め込まれたグローブが翳される。

 

メガシンカの光に包まれ、新たなる姿を得たブリッツはその名通りの超加速とともに大型個体の腹部に針を突きたてようとするが、そこでコクダンは一つの命令を下す。

 

「ブリッツ、そいつはあとにして弱い個体にとどめばり。PP切れるまでやり続けていいよ。」

 

とどめばり、というのはどういう技か、ご存知だろうか。

 

とどめばりは、とどめを刺す対象の生命力を吸い上げる技なのだ。それを回復に使うのではなく、攻撃に回すことにより、自らの攻撃力を高めることにつながるのだ。

 

つまり、ゲーム内では限度があるが、現実の限度はその程度では止まらない。数をこなせばこなすほど、吸い上げた命の数だけその一撃は、鋭く重いものへと組み変わる。

 

木にへばりつき、驚異から必死に隠れて難を逃れようとするマスキッパたちに、命を刈り取る毒針が突き立てられる。一匹、また一匹と顔面や腹部に大穴を開けられ、地に沈む。

段々と威力の増す針は、貫くだけにとどまらず、粉砕するほどの威力へ昇華される。PPを使い切ったあとは、もはや技ですらない突進ですらマスキッパの命を抹消する破壊力を生み出した。

 

それを黙ってみている大型ではない。パワーウィップをコクダン目掛けて叩きつけたのだ。トレーナーとの戦いを経験した個体であるらしく、トレーナーこそが弱点であることを認識しているようだ。

 

「こいつだけ捕獲しておいたほうが研究機関とかに喜ばれそうだね。チェルノ、冷凍パンチ。次のウィップが来たタイミングで地面に釘付けにしてあげな」

 

デカいだけでは当てることなど難しい。速度の足りぬその鞭を、ひらりひらりと躱しつつ相棒に技のオーダーを飛ばす。

 

大地を揺らすその一撃も、当たらなければただの的。ヨノワールの拳が地面を打ち付けた蔓を氷漬けにし、両腕を封じ込める。

 

ちょうどその時、全身をマスキッパの返り血(?)で濡らしたブリッツが帰還した。森全体のマスキッパを片っ端から狩り尽くしたらしく、目の前の巨体に目を向けた。

 

「はい、ブリッツ。これは捕獲して帰るから峰打ち使ってね?後でお願い聞くからさ。」

 

ブンブン、と不満そうな羽音を立てたものの、トレーナーの言う事に逆らうほどに聞き分けが悪い子ではないのだ。しぶしぶ放ったみねうちを一発当てただけで、マスキッパの巨体は地面に沈み込んだ。

 

「こんなにでっかいとなー……、このボールじゃないと入らないけどこれ最後の一個じゃん…。またガンテツさんに頼みに行かないといけないかな。くろぼんぐり集めるのめんどくさいのになぁ…。」

 

気だるげな表情を隠しもせず、ヘビーボールをマスキッパの左目目掛けて投げつける。

 

ポコン、と軽やかな音を立てたそれは、巨体を内部に吸い込みゆっくり3度揺れた後に、カチッと良い音を立てて捕獲された。

 

「んじゃチェルノ、いつもどおりに魂の回収を頼んでいいかい?」

 

なぜ魂の回収を行うのか。実はこれも大量発生を防ぐために必要なことの一つである。

恨みを抱く魂がゴーストポケモンになることがあり、生態系を脅かす事例が多数存在しているのだ。そのため、ゴーストポケモンに魂を回収してもらう、という行為は駆除後の大量発生を防ぐために、必要不可欠なものである。駆除の歴史、というものは意外に深いものがあるのであった。

 

チェルノがその腹部の巨大な口を開け、魂を吸い込む一方でコクダンは無数のマスキッパの残骸をかき集め、大きなケースにしまっていった。

 

「臨時ボーナスもほぼ確定だから、たまには贅沢なご飯が食べたいなぁ。コガネシティに確かローリングドリーマーが新店舗オープンしてたんだっけなぁ…。」

 

そんなことをつぶやきつつ、今日の仕事を終えた一行はオフィスへと帰社するのであった。




とどめばりの説明は自己解釈です。

用語解説

ローリングドリーマー:カロス地方、アローラ地方に店を構えている回転SUSHI屋。カロス地方ではスタイリッシュ度を90以上、なおかつ殿堂入りを果たしたプレイヤーしか入れない、まさに高級料理店。
でもアローラだと4000円で懐石料理が食べられる模様。お安い。

シンオウサウンド:HGSSでのポケギアに拡張カードというアイテムを使用することで聞けるようになる曲の一つ。ホウエンサウンドもある。曲に合わせた地方のポケモンが出てくることがある。

これから書いてほしい話を募集します。

  • カミツルギ捕獲作戦
  • コクダンの日常
  • Harvesterの他メンバーの話
  • コクダンvsタクト
  • コクダンの設定
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