ちょっと黒いこの世界で。   作:ばリオンズ

7 / 15
第7話

強いポケモントレーナーには異名があることが多い。

カスミであれば『お転婆人魚』

ワタルであれば『無敵のドラゴン使い』

シロナであれば『美しき戦いの女神』

ダンデであれば『無敵のダンデ』

 

ジムリーダーやチャンピオンには当たり前にある、その異名。ならばコクダンにもあるのか、と言えばいくつかある。

 

『自動追尾式ナパーム弾』

『スコップマン』

『ピッチングマシン』

など、変な異名があったりするが最も有名なものは『絶対強者』。

 

彼の本気のバトルは、血飛沫と絶叫のその中にある。手加減も手抜きもいらないそのさなか、全力で命賭けて行うバトルこそが彼の本領。

 

殺すか、殺されるか。

食うか、食われるか。

 

すべてのポケモンの、生物としての本能をむき出しにする、むき出しにさせるトレーナーである。相手がどれだけ強くとも、強制的に本能的な殺し合いとしての戦いに引きずり込む。技とも言えない暴力を、ただひたすらに雨霰と降り注がせる。無敵も、戦女神も、相手がなんだろうが殺し抜く、そんな荒れ狂い方をするトレーナーである。

 

彼の相棒のヨノワールはその暴力の最たるもの、と呼ぶべきであろう。

清めの御札と呼ばれるアイテムを仕事以外では3枚貼り付けられているが、それはポケモン避けではなくただの封印である。

 

仕事中ですら2枚貼り付けられた状態で戦っているが、その理由は至極単純なものである。

 

強すぎる。

ただ、それに尽きるのだ。

カロスに眠っている古代兵器は、数百というポケモンの生命力と命を吸って放たれるものである。

 

 なら、それを余裕で超える、総量にしてざっと8000以上の魂を喰らい、飲み込み、力にしたそのポケモンのその力は、古代兵器数台分に至るほどの力を持ち合わせていることになるだろう。そんなもの、普通のバトルでも、仕事でも全力で振るわせるわけには行かないのだ。ポケモンだけで済むならまだマシだが、下手したら地図を大きく書き換える羽目になるのだから。

 

だが、本当に強いのは何よりも、勝つことを、生き抜くことを諦めなかった、トレーナーとお揃いのその精神である。

 

 彼の生まれたその場所は、いわゆる大都市だ。住む場所といえば天を衝く摩天楼のもとのネオン輝く街と、薄暗い路地裏の2つだけであった。

当然彼は、薄暗い方だ。ただしここでは金があるやつが偉いやつではない。強いやつが、偉いのだ。

 

だからこそ金任せに強くなろうとするやつなどはいい餌だ。貴重なアイテムを買わせ、金を吸い上げ、挙げ句最後にはボロ負けして野垂れ死ぬ。彼の相棒のヨマワルはそういったやつが邪魔になっておいていった卵の一つであった。

 

見事に色違いであった。

が、ここではそれも意味がない。

高く売れる?

その前に強さがあることのほうが大事だろう。

ここは暴力が支配する街、ブラックシティ。美しさも、たくましさも、かっこよさも、力がなくてはゴミクズと何が違う?見せかけだけのそれに、価値などない。戦ってこそ、それらは際立ち、真の美しさを見せるのだから。

 

 ヨマワルは決して初めてのポケモンとしては悪くないほうだろう。しかしながら、レベル1ではどうあがいても周りの大人には勝つことはできない。親すらいない、庇護するものもいないコクダンにとっては、冬の寒さすら、死にかねないものだった。

 

だから、幼いコクダンと、その相棒は、自殺行為を繰り返した。生きる為に。

 

割れた瓶や、曲がった鉄パイプでバスラオやコアルヒーを襲い、ヨマワルの技も合わせて倒し、喰らったのだ。決して褒められたことじゃない。けれど、彼らは生き足掻いたのだ。

ポケモンの技がコクダンに当たれば、致命傷になることだってあり得る。ヨマワルだって、まだ生まれたてだ。死ぬことなんて、ほぼ当たり前だ。

 

けれども、彼らは生きている。

 

生きているから、なんとでもなるはずなのだ。

だから、やってみせた。

 

生まれてはじめて、バスラオを仕留め、ヨマワルの鬼火で火を起こし、焼いたそれの、なんと美味しかったことか。味付けなんてものは何もない。けれど二人はそれを、本当に美味しいものだと思った。命の味を。

 

その地獄の底で、血まみれの栄光の道は、ゆっくりと歩まれ始めた。

 決して恥ずべきそれではなく、誇るべき覇道への、第一歩だ。

 

それから、段々と二人は数をこなすことになる。途中、タイプ相性を思い出したコクダンがハーデリアを狙って腕を噛み砕かれかけたり、迷いに迷った挙げ句、滝に足を滑らせて、豊饒の社に流れ着いたり、タマゲタケに噛み付いて毒を浴びたりと様々なことがあった。

 

そうして、16歳になったころ、コクダンは路地裏の主となることとなった。歯向かう相手も何もかも、進化した相棒の赤いサマヨールとともに、殴り、蹴散らし、なぎ払う。

 

圧倒的な強者へと生まれ変わった彼らに慢心という概念はない。

いつだって、彼らにとっての戦いは殺し合いであり、喰らい合うことなのだから。気を抜けば死ぬだろう、食われてなくなるだろう。だから強者であれども、情けも容赦も持ち合わせてはいない。

 

また、強き存在代名詞とも言えるドラゴンを使っていない理由は、その異名に恥じない強さが問題である。ヨノワールだけが強いように思われるが、彼自体も悍ましいほど強いのだ。

 

人間にしては経験値を蓄えすぎているのだ。

手持ちのポケモンと同じように殺し、喰らい、何度も死にかけた。ポケモンには瀕死という状態があって、逃げることもできただろうが、彼は人間だ。

 

地べたを這いずり、必死に逃げたあの屈辱と幸運を、彼は忘れることがない。骨が折れ、這々の体で洞窟に逃げ込んだ。

あの死の淵の日々が、彼を絶対へと進ませた。

 

その絶対の強さこそが、ドラゴン使いに不適格である。生態系の頂点たる彼らのプライドを無自覚なまま、残酷なほどに踏み潰し服従させてしまう。

彼らの強さはその状態では発揮されない。心の折れたドラゴンはそれほど強くはなれない。

 

多くのドラゴン使いを見ればわかるように、彼らは寄り添い、互いを尊重し合うのだ。聖なる存在と呼ばれる彼らはそもそも捕まえにくく、なおかつ育てるのにも時間がかかるため、その長い長い期間でトレーナーと心を通い合わせ、信頼関係を築き上げることとなる。最強のプライドを持ち、トレーナーのためにも、その最強を貫き通す存在、それがドラゴンタイプのポケモンである。

 

それすら無慈悲に踏み躙り、喰い潰す生態系の頂点であるから、『絶対強者』なのだ。




コクダンは自分のバトルスタイルが極端に制限されると途端に弱くなります。
コンテストバトルとか言われると頭がフリーズして機能停止します。

これから書いてほしい話を募集します。

  • カミツルギ捕獲作戦
  • コクダンの日常
  • Harvesterの他メンバーの話
  • コクダンvsタクト
  • コクダンの設定
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。